力なら負けません。それだけです。   作:中棚彼方

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どうも、亀投稿に定評のある中棚彼方です。


今回は戦闘もあるんですが……描写きっつい。皆さんの想像力が私の糧です。


伏線だって入れないと……小説を書くときってのは小説家さん達の能力の高さに毎回脱帽する瞬間ですね、いやホントに。


飛び込み禁止、屍山血河

現状把握。

 

 

体は光で出来ている、以上。

 

 

……あん?真面目に現状言え?面倒くさいじゃんそんな――あ、すんません冗談ですはい悪気は無いんですよって痛い痛い叩かないで暴力反対!

 

 

(……ん、音が大きくなってる……、近いか?)

 

 

闇夜を引き裂くように駆け抜ける。時には跳び、或いは飛びながら。

最初の超絶大音量のアラーム(体感型のおまけ機能つき)から、爆音は不規則且つ断続的に俺の鼓膜に刺激を伝達してくる。着実に近づいてはいるのか、轟音が大気を劈く度に足裏から伝わる地鳴りの間隔がどんどん短くなっていくのが分かる。

 

てかうるせぇ。

 

元々聴覚は良い方だから、最初のあれほどじゃないにしても音が聞こえるたびに足が竦んでめっちゃびびるんだけど。それにどんどん音大きくなってきてるし。八雲紫に会う前に感覚器官ショートして死ぬんじゃねぇの俺?

 

多分、元々そんな遠くはなかったのかもしれないな。今もまだ走り出して数分ってとこだし。

 

……でも、

 

 

(速く着きたいってのに走りづらい!月明かりが雲で隠れちまってただでさえ何も見えないってのに!)

 

 

その数分の刹那の内に月が隠れてしまったのはホントいい迷惑だ。おかげで前以上に視界が狭まってるような気がする。進みづらいったらありゃしない。

時折枝葉が顔や身体に当たり、土中から隆起した根っこが足を縺れさせる。地味にうざったくて煩わしい。

ま、別に?一々文句言ったってキリがない事は大人な俺が知らないわけないから(やめて、石投げないでっ)、邪魔な枝とかは手の届く範囲に入った瞬間叩き落とし、根っこは問答無用で蹴り飛ばす、または飛び越える事で突破していく。環境破壊?美味であった。アッパレアッパレ。

 

 

ツーか此処に来た瞬間から思ってたけど、ここってホント霊妙というかスピリチュアルというか、独自の雰囲気醸し出している空間だよな?植物は本で見たような奴――本の題名が『古植物学教本』というもので、全部何故か古代にあったとされる物ばかりだったのが引っかかる――がちらほらあるだけで、後は全然知らないような奇妙な形した草花や木ばかりだし、何よりでかい。根っこも幹も葉っぱも花も全て、だ。ファンタジー極まりないね。

俺が住んでいた街の近郊にあった山も充分幻想的で俗世間離れしてると思っていたが、これはその比じゃないぞ?

此処が本当にあいつの言う『幻想郷』なのだとしたら、その名前にまさしくぴったりじゃないか。名前負けしてない、寧ろ名前勝ちしてるな。ちょっと見直したぞ八雲紫。

……まぁ、気色悪い生き物が生息している点に限っては、相互で似通っているのだが……。そんなとこは似なくても良かったと俺は切実に思う。ちょっと見損なったぞ八雲紫。

 

 

――そういや、今までこうやって走っているのにあのキショイ生物が襲ってこないのはおろか、鼠一匹会っていないってのは一体どういうことだ?

いや、会わないに越した事はないんだけどさ?なんせ森の探索の際には不意打ちに突貫、急襲にごり押し、仕舞いにゃ飛来なんてのが四方八方から飛んできたんだ。だから今は飛来を警戒して高い位置を避けるようにわざわざ走りづらい下を選んでんだぞ?何かあんじゃないかって警戒するのは仕方ないことだろう?

しかも、この件に八雲紫が関与してるかもしれないってなったら、それこそ神経質にもなる。あれはもはや俺の中のトラウマだ。PTSDだ。一生の傷だ。もうお婿にいけない!

……まさかだとは思うが、さっきからあいつらに遭遇してないのとかドゴンバゴンうるさいこの爆発とか、このちょいとした二つの異変ってあの生物云々なんかが全て関係しちゃってんじゃねぇのかおい?うわ、すっごい有り得るわ。と言うより、もうそれしか考えられなくなったんだけど――――――――――――単に皆さん寝床でぐっすりご就寝中で俺なんて眼中無しって可能性も無くは無いが。それはそれで何か腹立つな、主に叩き起こされた身として。てかこんな中で寝れるモンなのか?寝れる奴は相当図太いな、将来は大物だ。

 

 

……はー、どちらにしてもまずは用心に越した事はない、か……。それが賢明だろう。特にこんな、『大昔にタイムスリップした時に最初に着く場所を思い浮かべてくださいと問われたら、恐らく過半数がこんな世界観をイメージするんじゃね?』てなっちゃうような空間ならば、尚の事だろうし…………て、あれ?俺もしかして今要らないフラグ立てちゃった?いや何のだよって?俺が聞きたいけどさ。

よし、念の為、一応(ここ大事)万が一のことを備えて、そんでもって自分の身の安全も考慮して必要ないとはいいつつもフラグを排除しとこう。生き残る上で最も大切なのは状況が変わる前での事前の危機回避だといつも相場は決まっているもんだ。

 

よーし、声に出してー。

 

せー

 

のー

 

 

で。

 

 

「だがしかし、そんなことは一切無か

 

『ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッ!!!』

 

くぁwせdrftgyふじこlpいひゃいいひゃいいひゃいいひゃいいひゃい!!!?」

 

 

イテェええええええちっくしょうが舌噛んだじゃねぇかよバーロー!!もうちょっと空気読んで爆発しろってんだよなんでよりによって一際でかいのが今来るんだよバーカバーカお前の母ちゃんビッ《ピー!!(自主規制)》こんなの美味しくもなんもねーよ寧ろ血の味だよ鉄分豊富だなって何言わせてんだ土に還れ!!

 

 

ハァッ、ハァ―――――――――――――――て、ん?……今………何か………………?

 

 

 

(……?爆発以外に、何か聞こえる…………?)

 

 

これは――、

 

 

「――キヒョイ奴の……声と……………………人の声……?」

 

 

間違いない。五感がさっきから麻痺しかけてるし、一縷の水を掬うような微かな声量だったけど、確かに聞こえた。てかまだ舌痛いんだけど?いやいやそんなことよりも。

 

 

 

人だ。人がいる。

 

 

 

足を止め、目を閉じる。思考に不備が無いようにするためだ。

 

ゆっくりと、ゆっくりと、不純物を抜き去るように。熱湯が冷えていく光景をイメージしながら、神経を研ぎ澄ます。

 

 

そこからは速かった。

 

 

見知らぬ土地に拉致されてから初めて人間に会えるかもしれない事実に期待で胸を躍らせること、およそ一秒弱。

 

しかしもしかしたら八雲紫かもしれないという危惧に一瞬で萎えて恐れ慄くこと、およそ半秒。

 

それでも彼女に会う覚悟を決めようとして、しかし人の声と一緒に聞こえたあの獣の声が多数あるように聞こえた事に違和感を抱くまで、きっかり一秒。

 

そして。

 

 

爆音、汚物を撒き散らすような多数の咆哮、恐らくすぐそこにあるであろう音源、そして、『妙に緊迫し、切羽詰ったようなわずかな人の声』という幾つかの不確定要素から、一つの答えをはじき出すまで、約二秒足らず。

 

 

結論、人が襲われている。それも、一対多数で。

 

 

あくまで仮定。確定はできない。だから、後はこの眼で視認するのみだ。

 

 

(……上からの方が、状況の判別は効率がいい、か)

 

 

幽暗でほの暗い視界に、少量の白が混じる。目を開けて空を見上げると、満月が顔を覗かせていた。雲が空気を読んで退いてくれたようだ、助かる。

 

 

「…………あーもう……たく、ままならないなぁホンット!!」

 

 

ガシガシと頭を掻き毟る。

 

はー、そんな気はしてたんだよなぁ。こういうの何て言うんだっけ?王道?

とにかく、これで警戒って訳にもいかなくなっちまったようだ。ま、仕方ないか。俺が渇望した超展開なんだ、大目に見ようじゃねぇか。

多少明るくなった視界に映った、程好い高さの樹枝へ飛び移っておく。ふぅ、さっきまで空からの奇襲に備える的な発言してた数刻前の俺に謝りやがれ。

 

 

はぁ、もうどうにでもなればいいさ。

 

 

 

(人命救助、行って来ます………てかっ?)

 

 

 

なんてな。

 

 

 

 

バギィイイイイッッ!!!という裂けるような音が『後ろ』から耳に入る。

枝が折れてしまったようだ、環境破壊は罪悪感が湧いて仕方ないな……………どの口が言うんだって突っ込んだ奴はノーパンでブレイクダンスして来いやコラ。勿論外で。

―――――――――やべ、シリアス通そうとしてんのについいつものノリで変な事言っちまった、失敬。

 

てか高いな此処…………いやまぁ跳躍したんだから当たり前なんだけどさ?何かこの高所から下を見下ろしたり、空を漂遊する感覚が随分久しく感じる。時間的にはまだ此処に来て一日も経っていない筈なんだけどな………なんでだろ?自由に飢えてたのか俺?

一応どんな状況下なのか言っとくと、『普通』に空飛んでる。すぐ落ちるけど。

 

まぁ、いいか。そんなことは後で。

 

 

(いたっ、あれか!!)

 

 

上から見れば、鬱蒼と茂る森の中にぽっかりと空いた広い更地があった。…………て、ここって俺が落ちてきたあの場所じゃね?わざわざ戻ってきちゃったのかよ!?だらしねぇ………。

 

そして、やっぱりというか、テンプレートというか。

 

奴らはそこにいた、

読みは当たっていた様だ。同時に、何で俺が出会いがしらに襲われなかったのかも理解できた。

 

 

 

ドゴォッッッ!!!

 

 

豪快な音を鳴らし、地上に降り立つ。足の裏が若干痺れるが気にしない気にしない。

 

 

次いで、奴らが一斉に俺に気づいた。

 

 

(なんて数だよ!?)

 

 

一………十………無理、数えるのも億劫になっちまう。

 

そりゃあ遭遇しないわけだ、何体いんだよこれ?少なくとも百以上は密集してんぞ?やべぇ、想像以上に気持ち悪い。

何でこんな何も無いところに集まる?此処には余程の人気者がいるって事か?

 

 

《グルルルルルゥゥゥ!!!》

 

 

狼のような唸り声を、容姿は狼に似ても似つかない異形の生物が発する。同時に、周囲の似たような何かが一斉に犬歯をむき出しにして威嚇し始める。おぉ怖い。

 

 

思わず舌打ちが漏れる。

くっそ、邪魔くせぇ……………こちとら人命救助が最優先だってのに…………!

 

――――――しゃーねぇ、状況が状況だ。

 

あんまこういう事はしたくなかったんだけど、これじゃあ追い払うとかなんて手加減も出来そうにないしな。俺は不器用なんだから。腹括るか。

 

奴らを見据え、大きく深呼吸をする。

 

 

(……さっき、降りる直前にこいつらが特に群がっている場所があったように見えた。そして、そいつらが放射状に吹き飛んでく姿と、でっかい爆発も。恐らくそこが俺のゴールだ。そこにあの声の主がいると考えていいだろう)

 

 

あっちも、俺の存在に気づいてくれればいいんだが。まぁそこは心配ないかな?なんせ、この数の敵を相手にしていまだ戦い続けられるような奴なんだから、な。

それなりの実力を持ってはいる筈だ。というかそうでなきゃ困る。俺が追いつくまで、耐えていてくれよ?

 

 

「さて、と」

 

 

構える。といっても、前傾になっていつでも走れるようにしただけだが。まあ、充分だ。

 

野郎共も何かしらを察知したのか、姿勢を低く落とし、臨戦態勢に入る。

 

へっ、上等上等。威勢が良いのは嫌いじゃないぞ?

 

 

まとめて全部――、

 

 

 

「相手してやるよ」

 

 

 

瞬間

 

 

俺は銃弾と化した。

 

 

 

 

 

       ▼       ▼       ▼

 

 

 

 

(……迂闊だった……私としたことが………………っ!)

 

 

 

迫り来る『妖怪』の内の一体を、敵の密集した地点へ向けて右足を振り抜き、蹴り飛ばす。

 

 

《ブビャアッ!!!??》

 

 

加速した右足が相手の下顎に必中。形容の困難な忌避感をもたらす奇声を上げた。顎骨、顎下線がイカれたのか、粉砕された顎から溢れる唾液が血と混濁して飛沫となり、周囲へと撒き散らす。一撃で絶命した妖怪は肉の塊となって滑空していく。

 

悠長に手を下ろしてはいられない。それで動きを止めている場合ではない事は『彼女』が一番よく分かっている。

四面楚歌、止まれば死ぬ。それだけは絶対の事実だから。

 

 

弓に矢を番え、吹き飛ぶ異形に照準を合わせる。それが敵の溜り場へ突っ込んだことを確認し。

 

 

「はぁっっ!!」

 

 

射出。矢は霊力を上乗せした事で一条の光芒へと昇華し、吹き飛ぶ敵の倍の速度で音も無く頭部をもぎ取った。

 

そのまま矢の勢いは衰えを知らず、直線状にいた敵の体躯を次々に根こそぎ、抉り取る。敵は断末魔すら上げる猶予も与えられず、消滅の一途を辿る事となる。

 

そして、地表に着弾。

 

瞬間

 

 

 

 

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンッッッッ!!!!!

 

 

 

 

瞬く閃光が周囲にあるものを巻き込み、轟音と共に爆ぜた。妖怪も、地面も、あらゆる有形全てを塵芥に変えて。

 

圧巻。しかし、それでも。

 

 

(何体、倒したのかしら……?キリがないわね………………いったい、どれだけ………くっ!)

 

 

 

倒した余韻に浸る間も無く横から飛び掛ってきた敵を、バックステップの要領で後方に飛び回避する。そのまま着地し、もう二三度後ろへ飛んでおく。すぐに詰められるだろうが、今は少しでも思考する時間が欲しい。

 

ある程度距離を離した位置で止まる。そして相手も警戒して必要以上に接近していないのを見計らい、呼吸を整える。もちろん背後の気配にも警戒は怠らない。

次いで、思考を巡らす。

 

 

(………空がいきなり強い明度を有した光を放射したと思ったら、今度は「光の中から『何か』が落ちたのを視た」と『月夜見』が言い出して、状況を掴めないでいたら次は『人為的に作り出したとしか思えない暴風』が街まで飛んできた、と。『月夜見』が言うにはその風―――――――どことなく『叫び声』のように聞こえたのは私の気のせいかしら―――――――も、落ちてきた『何か』が起因しているらしいから、調査の為にそれの落下した座標に来てみれば…………この有様。

…………これだけ展開が飛躍してしまうと、もはや清々しいわね?)

 

 

軽い鬱をない混ぜにした嘆息が、空気を揺らす。

 

多くの不確定事項が答えを求めて錯綜している。どこからどう問題を解き明かせばいいのか分からない。まるで、絡まる糸を元に戻そうとしてさらに縺れてしまう時の、あの感覚だ。

何故森のど真ん中にこのような更地が出来たのか、そしてそこに異形の群集が形成されていたのか。仮にも自分は民衆からは天才等と崇められる様な存在だ。故に、こうも分からないことばかりだと多少なりともプライドは傷つくし、悔しくもある。

 

加えて、眼前に広がるのは全て、妖怪、妖怪、妖怪、妖怪。後ろを振り向いても十中八九視界に映るのは、捕食を待ち侘び、血肉にしゃぶりつかんとする者達の吹き溜まりに違いない。現に背中に感じるぴりぴりとした数多の圧力は、距離があろうが明確に一つ一つ位置を特定できるほどだ。

 

活路を自ら造り出し逃走を図ることも考えた。だが、残党が都市まで追ってくる可能性も視野に入れると、即断で行動するには軽率に思えなくない。今奴等を都市に近づけるのはあまりに危険だ。隙を突けば撒く事は可能だろうが、今はまず無理だ。チャンスが来るまで待つしかない。

 

やはり一人で来るべきではなかったか?そんな思案が一瞬、頭をよぎる―――――が、それをすぐに隅へと追いやった。

 

例え最新鋭の武器を持たせ、訓練された選りすぐりの強者を何人同行させようが、今この場に人間がいれば間違いなく彼等は良くて五体不満足、悪くて死、最悪の場合は生きたまま五臓六腑をバラされ、そのまま糧にされてしまうだろう。

そうでなくても妖怪達の様子が今までのそれと決定的に違う。これまでに無いほどに高揚し、身体能力は著しく上昇している。加えて襲う相手にも見境が無くなっている。わずかにあった理性が喪失して活性化した、そう表現すべきなのかもしれない。

実際、本来であればこの程度の有象無象に彼女は苦戦することはない。彼女自身それは既知であるし、その上で自負もしている。

 

 

その彼女が苦戦を強いられている今、人類に入り込む余地など毛頭無く、有ってはならない。

 

 

(………やっぱり、空から落ちた何かが関係しているのは間違いない。妖怪達の活性も、以前は無かったこの不自然に空いた地形も…………いや、それはあの暴風が原因?どちらにしても外的要因からなる結果なのは確か。問題はその何かが何なのか、正体が分かっていない事、ね。

まさか、星でも落ちた?…………………いや、それでは奴等の力の増強が説明できない、か……。

まったく、私に分からない事があるなんて、腹立たしい――――――――っ!?)

 

 

迫る気配。

 

 

「後ろ!」

 

 

一度思考を打ち切り、後方へと意識を向ける。

振り向きざま。遠心力をフルに活用して回し蹴りを放つ。

 

グシャッ

 

肉を磨り潰す音。踵に浸透する感触。五感が告げる敵の絶命も、もう何度目か分からない。

 

 

《グヴァッッ!!!》

 

 

だが彼女は止まらない。止まれない。一つの化生が動いたのを皮切りに、再び彼女へと押し寄せる百の魑魅魍魎を目の前に、止まる選択肢は無きに等しい。

 

吹き飛ぶ妖怪と入れ替わりに、人の形をした巨躯がその爛れた脂肪を揺らしながら肉薄する。右手には棍棒。直撃すれば被害は免れない。さすがにやばいと天才の頭脳が警報を発すと同時に、舌打ちを交えながら彼女は動き出す。

 

巨人が棍棒を振り下ろす。それを視認しつつ人のボーダーラインを超克した身体能力と直感を生かし、横に跳躍してかわす。三つ編みに纏めた銀髪が月光を反射する姿は、闇夜の戦いの最中だろうと光り煌く。

 

破壊する筈の標的を見失った棍棒は空を切り、威力は変わらず地面へと叩き付ける。強烈なインパクトを受けた地面は粉砕。鈍い音が大気に弾けた。

後手後手に回っていては駄目だ、と彼女も動く。出来るだけ同じ場所に留まる事を控える為に。

カウンターとして弓に矢を番える。今度は四本。威力は落ちるが巨人の四肢を塞ぐには充分適してい――、

 

 

(――今のは……っ?)

 

 

ほんの一瞬、瞬きの間に捉えた気配。妖怪などの放つ禍々しい妖力や人間が持つ霊力とも違う、今にも消え入る灯のような、しかしそれと矛盾する毅然とした気配。

それが、徐々に近づいている感覚がして、そちらに意識が向かう――向かってしまった。

 

 

気づいたときには遅かった。反応も、判断も。

 

 

(ッ!?)

 

 

 

直後、空中から急降下した鳥型の化生が束となって、驟雨が如く降り注ぐ。

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!

 

 

 

(やばいっ!)

 

 

無差別爆撃のような轟音と衝撃が連続して、彼女の肉体及び感覚器官を蹂躙せんとして襲い掛かる。地面は瓦礫へ変異し、砂塵が視界を奪い去る。

気配を感知し、時には稲妻状に飛び、時には打ち落とすなどして何とか凌ごうとする。

 

 

(油断はしていなかったのに……いや、それよりも)

 

 

彼女は自分の視覚、聴覚を疑った。

 

驚くべきことに今、自分は確実に罠にはめられた。恐らく、あの巨人の妖怪は『囮』だった。

本命はこの鳥たち。鈍重で図体がでかく、力のみが取り柄の『恰好の的になりかねない仲間』をわざと単体で行かせ、狙いをその一極に向かわせる事で、上への意識が向かないようにしたのだ。

稚拙で未熟だが、単純な分成功しやすい。

そして問題は、本能の赴くままに動いていると思われた妖怪たちが『策を使った』。

 

力任せではない、頭を使った攻撃。前例など無い。ある訳が無い。

 

自分の考えすぎかもしれない。確かに今は状況の所為で冷静になれなくて、神経が過剰に反応してしまうのは仕方ない。――が、にしても巨人の一撃から空からの奇襲まで、タイミングが絶妙すぎる。他に気を取られていたとはいえ、だ。

背筋が凍る感覚を、かわしながら彼女は恐怖から来るのだとすぐに理解した。

 

 

敵の追撃が止まる。数分にも満たないが、その破壊の連鎖は地上を瞬く間に瓦礫の山へ変えた。

 

 

「終わっ、た……?――ぐぅっ!」

 

 

体中の痛覚に刺激が走る。敵が周りを囲んでいるのに、身を丸めてしまった。

避けきった――とは、とてもじゃないが言える風貌ではない。

服は原型を留めてはいるものの、所々瓦礫が跳ねた際、または攻撃を回避しきれず掠った際に破けてしまい、玉のような白い肌が露になっている。その肌にも、直撃は免れたが避けられなかった擦過傷がいたるところに血を滲ませている。たった一度の攻撃でこれだ、今度やられたらひとたまりもない。

体力の方も、予想以上に消耗が早い。視界がぼやける。体に鞭打てばまだ動くことはできるだろうが、このまま続けていてはジリ貧だ。いずれこちらが先に屈してしまうだろう。

そうなった後の末路はおぞましい。想像もしたくない。

 

対して妖怪たちは、留まることを知らない。まさに妖怪変化。

先程より多少、数は減退したかのように見える。しかし、その数は未だ百は有らんという文字通りの百鬼夜行。活性化も誘因し、一体一体の妖力が跳ね上がっている。

数の暴力だけでは済まされない、混沌とする飢えた髑髏の処刑、捕食はターゲットを喰らい尽くすまで止まらない。

 

 

(このままじゃ……さすが、に……やばい……かし、ら……?)

 

 

弓を支えにして体を起こす。ギッ……と軋む音が横から聞こえた。

 

休んでる暇など無い。だが、この状況を打破する術を模索することもできない。

 

前方から再び迫る異形。後方からも聞こえる咆哮と、地面を蹴る音。挟撃する魂胆か。

 

動かなくては。脳が弛緩した筋肉に信号を送る。しかし、体が思うように動かない。止まった事で疲労が間欠泉のように湧き出てくる。

 

あと数メートルのレッドゾーン。避けなければ更なる追撃が待っているはずなのに。

 

危機感こそあるが、焦燥を感じない。諦観はないが、気力はある。いよいよ馬鹿になったかと心中で自嘲する。

 

 

(……私らしく、ない……。落ちた何かに、影響されちゃった、のかな――私も)

 

 

腕を上げる。が、それだけ。気休めにもならない。

 

虎のような様相の異形が跳躍、鉤爪を振りかぶる。来る、と頭では分かっていても、体は反抗する。心も酷使したくないと首を振る。

 

 

(全く………………ね――――――)

 

 

そして―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

グシャッという、何度聞いたか分からない絶命を告げる音と、浮遊感を彼女は感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………………………………………………ぅん?」

 

 

奇妙な感覚だった。

 

確かに肉の潰れる音は聞こえたのに、体に現れる痛みが存在しない。あの爪で臓物をぶちまける筈だったのに、その兆候も無く、腹部の喪失感も無い。

 

痛覚が機能しない程の激痛?しかし、痛覚は感じないのに浮遊感を感じるのはおかしい。

 

 

(そういえば、何かに引き寄せられたような……)

 

 

徐々に意識が覚醒していくと、この状況に対して不信感が芽生える。

 

殴られた衝撃で?痛みも無いのに衝撃も何もないではないか。反射的に体が動いた?いや、疲労は続いている。それに眼を閉じてしまっていたから有り得ない。

 

 

それよりもさっきから胸に違和感を感じる。まるで何かに鷲掴みにされているかのような……。それに、暖かい何かが右半身に触れてる感覚が――

 

 

(――いや、そういえば私……………さっきから、『何に身を委ねているの』?)

 

 

閉じていた眼を開く。

 

 

そこははるか上空。霊力で飛ぶならともかく、単純な脚力だけでは到底到達できないような高み。地上より肌寒い風が髪をすくい上げる。

下を見下ろせば、まず自分の体が見える。特に異常は見られず、安堵した。次に見えたのは、先程の鳥妖怪。だがここからなら飛んでるそれらも見下ろせる。その下にはさらに小さくなった妖怪の大群が見えた。

 

左を見れば広がる山々に、永遠に続く森林、光り輝く満月。

 

つまり、右を見れば自分の居住地であり、人間の住処である都市が見えて――――

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――見えたのは、都市でもなければ森でもなく――――――

 

 

 

 

 

 

――それは。

 

 

 

 

 

 

瞳が印象的な、『何か異様な』少年の、横顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこか遠い所で、カチリと、何かがはまる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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