力なら負けません。それだけです。   作:中棚彼方

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やる事終わった!! これで勝つる!!


という訳でやっと、ホントにやっとの久々投稿です。やべ、4ヶ月ぶりだ、泣きそう。

今なら言える、あの一言。


も う 何 も 怖 く な い


はい、前書きはここまでにしといて、5話目です。どうぞ。


苛む違和感

 ――――脆弱よ

 

 

 なんと鈍磨し錆びれた鉄崩れの諸刃の剣 聞いているか? まごう事なき、お前だ

 

 人の身にして人の間隙を爪弾きにされた、溺れ、藻掻き、抗う弱小の最たる者

 

 情けない 全く、情けない

 

 軌条は既に道程を定めた 後は辿るだけであろうに

 

 路傍を彷徨うなど許さない 断じて、許しはしない

 

 そも、お前が下した必然であろう? 流された? 否、これは選定したのだ 他でもない、お前自身が

 

 だのに、自身が程度の知れた辛苦に囚われのた打つとは何事か

 

 

 ――――弱小よ

 

 

 お前は柔く、度し難く、しかし何者よりも太く、折れない そうだろう?

 

 阻める者など無し あるとすれば、それはお前の怠惰と(ごう)のみだ

 

 いいか、留まるな 闊歩するのだ 淘汰し、踏破するのだ

 

 お前を蝕み這い回る蟲達は、糜爛(びらん)した外皮をものともせず肥大し、膿み、視界を覆うだろう

 

 だから進め 能動に、忠実に 時には躊躇なく踏み躙れ

 

 皆、それを渇望している 『彼女達』は、今も尚待ち望んでいる

 

 

 分かったなら目覚めろ、人まがい(宍戸相馬) 『彼女達』を待たせるな――――――――――――――――

 

 

 

 

 

       ▼       ▼       ▼

 

 

 

 

 

 現状把握。

 

 

 目を開けたら知らない天井が(ry

 どう見てもテンプレです本当(ry

 

 

(何だ、今のは…………、……夢?)

 

 

 不思議な事に、嫌悪感と親近感が同時に沸いた声だった。意味分からん。つーか謎の天の声さんに一方的に罵詈雑言を並べられた挙句勝手に人間やめてる発言されたワタクシめはこの行き場のない憤りをどこにぶつければいいのか誰かぷりーずてーるみぃ。

 

 いやね? 夢にドーコー言ってもそれだけなんだけど、にしても随分とまたリアリティーのある夢で、にしては言ってることが思春期真っ最中の夢見る中学生さんが持つ暗黒ノートに綴られてそうな、全身がくまなくむず痒くなるようなアイタタタな妄言だったなーって。

 

 二、三度瞬きをして感覚を確かめる。目がしょぼしょぼして鬱陶しい。寝てたんだろうか? 夢見たってのはつまりそういうことなんだろうけど。

 微妙に後頭部が痛い、首も鞭打ちしたときみたいに回らないし。想像以上に長い間寝てたのかもしれない。

 倦怠感もそこそこに、それでも何とか身体を起こす。

 で、気づいた。と言うより観点を戻した。

 

 

「何処、だ? ここ?」

 

 

 機械がごった返す空間。

 邪魔な肉削ぎとってよりスマートに説明すれば。

 機器がごちゃごちゃした部屋のど真ん中にコードやら何やら収束したゴツいベッドの上で俺ちょこん。

 …………おいこら、誰だ匙投げた奴。俺も混ぜろ。

 

 

「俺は…………俺、は――――――?」

 

 

 ようやっと理解したが、俺は俺が思っている以上に状況が掴めず混乱しているみたいで、落ち着いたとは頭の表面上では言ってても、その根底はグワングワンと揺さぶられていて立つ事もままならないらしい。割と比喩は用いてないと思う。揺れない震源地とはこの事か。

 とりあえず深呼吸をして落ち着く事にした。

 こういうときは考える事をやめ、交感神経の働きを休めるに限る。詳しい事は特段興味を持てなかったため覚えてないが、深呼吸にはそういう効果があるらしい。

 副交感神経の働きを強め、頭を寝ている時と似たような状態にする事で、気休め程度だろうと心の安定が取れるんだとさ。つまりはリラックスできる。まぁ、さっきまで寝ていたから副交感神経さんには二度手間となってしまうわけだが。

 因みに交感神経ってのは、身体が起きている、もしくは身体が動いている際の心身が活発になる状態に強まる神経を言い、副交感神経はその逆……だったか? 例えばさっき言ったみたいな寝てる時とかに強くなる神経がこれに当てはまる。

 生命の神秘、ここに極まれり。

 

 

「ハー、…………フゥ」

 

 

 幾分か――今度は奥の方の()()()()()も和らいだようだ。生命の神秘すげぇ。今日から先輩って呼ぼう。ごめんなさい嘘です。

 

 周囲をもう一度良く見渡す。

 

 何らかの用途があって使われてるのであろう大量に設置された機器の山々。その向こう側に白い壁があるのを辛うじて見る事ができる。

 下は色や太さのバラバラなコードが大量に張り巡らされ、足の踏み場もない。天井に目を向けることでどうにかここが白を基調としている部屋なのだと分かる。非常に雑多で狭苦しい印象を受けるが、その割りには埃臭くなく、清潔感を感じるあたり、この部屋の持ち主は特別物が片付けれないってのはないようだ。ただ単に置く物が多いだけなのだろうか。

 ……良く言えば集中治療室(ICU)をこれでもかってくらい豪勢にした印象。悪く言えばでかい悪趣味なおもちゃ箱って感じだ。

 

 

(窓一つない部屋、か。左側に外へ繋がってそうなドアがあるけど……)

 

 

 随分堅牢なデフォだことで。俺を外に出す気ねーだろ絶対。今のところ出る気は無いが。

 ……つーか少しずつ思い出してきたぞ。確か俺、『なんだったか』をして気絶したんだよそういえば。その一番重要な『なんだったか』がなんだったかはいまいち記憶がぼんやりしててしっちゃかめっちゃかだけども。

 

 

(どうする………………、……や、まず最初にどうするかは決まってるけども……)

 

 

 チラッ、と目を向ける。

 最初にする事。

 実に悩みどころだ。

 

 

 

「…………ん……ぅ」

 

 

 

「あらかわいい」

 

 

 俺が寝ていたベッドにもたれ掛かるようにして絶賛お休み中の永林を起こすか起こすまいか、そこが問題だ。

 因みに起きたときにいる事気づいてたけど気づいたら負けな気がした。あれなんかすごい矛盾した事言ってまあいっか別に。

 とりあえずほっぺ触ってやろうか。頭撫でてやるのもいいかもしれない。何時も被ってる――というより頭上に置いてるようにしか見えないナースキャップもなし。いっそそのたわわに実った胸を鷲掴みにしてやっても――――いかん涎が。

 時折頭を乗せる腕を動かしたり、寝言なのか声を漏らしたりしてる。そして彼女が動くたびに一緒に乗せる胸がいろんな形に歪んで――いかん鼻血が鼻腔をダイレクトに。

 いやー、いいわー。ええわー、これ。目の保養だわー眼福だわー生きてるって素晴らしー。てかその寝方って逆に窮屈じゃない? 主におっぱいがデュフフ(ゲス顔)。

 ――よし、決めた。

 

 

「おっぱい最高」

 

 

 右手を伸ばす。どこにって? 言わせんな恥ずかしいって思いっきり口頭で言ってたねごめんごめん。

 わきゃわきゃわきゃわきゃ。肉薄する。肉に向けて。

 わきゃわきゃわきゃわきゃ。ゴクリと唾を飲む。たまらん!

 わきゃわきゃわきゃわきゃああああああああ後数センチぃいいいいいいいいいいいいいい――――――、

 

 

 

 

 

 

 

 い?

 

 

(あれ――――ぇ……?)

 

 

 ちょっと待て。今更ながら頗るおかしいぞ?

 俺、こんな真似できる()()だっけ? 事故で胸掴んでただけのラッキースケベで顔赤らめてたんだぞ、俺? いや、違うそこじゃない。頭からおっぱい離せ馬鹿。

 

 ……そうだ、そうだよ思い出してきた。彼女に自己紹介はした。でも、彼女は? 何で彼女の名前知ってんだ? いやいや待てよ、なんで永琳ってのがこいつの名前だと前提にしてものを考えられるんだ? 何で目の前の少女を『当然のように知り合いだと位置づけれた?』

 ――――違うか。知り合いなのは間違いない。

 俺は……そう。俺と彼女は、あの群がる『妖怪』から逃げ切った。人生初のお姫様抱っこで。

 でも、それだけだろ?

 それなりのイベントだったけど、吊り橋効果にしたって知り得ない事を知りすぎだろ?

 自己紹介はした記憶はあっても、された記憶はない筈だろ?

 

 

(何してんだ、俺は?)

 

 

 てかいつまで手を淫猥な動きさせてんだおい。こんな真っ先に誤解生む光景この女の子に万が一見られてしまったら――――あかんこれフラグだええいこのノータリンがこういうときこそ頭を回らせロッテのお菓子っつーかやっぱ可愛い触れたい愛でたいおいこら何青臭いジャリボーイが塵芥如きの勇気すり減らしてナニやろうとがががががががががががががががががががががががががががががが

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアア静まれ俺のリビドォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「…………ぁ、う? ……あれ、寝ちゃってたのかな私?」

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 結果オーライだと思いたい。予期せぬ事態に気が動転して俺がベッドの上でやったこともないブレイクダンスを披露しかけ頭から落ちるという奇行に至ったのも、彼女から汚物を見るような殺人的視線を向けられたのも、彼女を起こす為に必要な犠牲だったのだと思いたい。

 ……ていうか、本格的にどうしたんだ、俺よ。

 

 

 

 

 

       *       *       *

 

 

 

 

 

「『八意永琳』よ」

 

「いきなりどうした」

 

「私のことはそう呼べって言う事。要は私の名前よ」

 

「うん、知ってた」

 

「何だって?」

 

「うん、初耳です」

 

 

 あれから数刻。

 両手をグーパーしながらこちらを探るように見てくる八意永琳。頼むから目覚ましとかO☆HA☆NA☆SIとか称してビンタしてくんのはマジでもうこれっきりにしてください。もうあれはごめんです。等身のバランスが明らかに悪いだろってくらい腫れ上がった顔がそれを物語ってるよ。おかげで狂気に触れずに済んだけど。

 にしても往復ビンタは死ぬかと思った。

 

 んで、聞くところによれば、俺はそれはそれは長い間寝ていたらしい。何でも、太陽が二、三度回ってきたところで眼が覚めたんだとか。

 ……それってつまり、二、三日寝てたってことかね? どうりで気分が(ハイ)になったわけだ。

 

 

「そして顔が近いですぜ、お嬢様」

 

「嘗めないで。外見は確かにあなたの年齢と相違無いように見えなくもないかもしれないけど、これでも私はあなたより限りなく年上なんだから。もっと敬意を表しなさい」

 

「そうか、それは誠にすまなかった。そして顔が息かかるくらい近いですぜ、永琳様」

 

「それと、約束して。私の事はいつ如何なるどんな状況に置いても、絶対に八意永琳として接して(・・・・・・・・・・・・・)。いいわね?」

 

「ああ、分かった。そしてさっきから心臓めっちゃ踊り狂っててヤバイから察してくれや偉大なる我らが永琳様?」

 

「それと、あなたにはこれからいくつか聴取すべき事項がある。あなたの今後に関わる大事な質問よ。包み隠さず、ありのままを話して頂戴」

 

「会話がしたいです……、安西先生……」

 

 

 諦めたらそこで試合終了ですよ――――て聞こえた気がした。いや俺は試合じゃなくて会話のキャッチボールがしたくてだな……。

 と、ようやく意図を察してくれたのか、永琳が顔を離してくれた。最初からそうしろっての。

 

 

「ごめんなさい。あなた、ちょくちょく表情変えるからおもしろくて。今は顔パンパンでそれだけで抱腹絶倒ものだけど」

 

 

 前言撤回! コイツ策士かッ! ぬかったわ!

 クスッと、永琳が小さく笑った。

 可愛いじゃないか畜生め。狙ってやってんならこの上なくあざといぞコラ。

 

 

(……質問、ね。こっちも聞きたい事が山ほどあるわけなんだが)

 

 

 笑顔を向けてくれたあたり、それ程警戒してるわけでもないのかもしれない。……少なくとも、初対面のときよりは。今だって俺がごついベッドの上に座り、その隣に彼女が座っているのだから。距離感的に……ほら、なんか、ね?

 少なからず、彼女を助けるという行動は今後の動きにプラスへと働いたようだ。

 ……安心するのはまだ早いかな。

 

 

「ところで、ここはどこだ?」

 

「研究所。仕事場であって、我が家よ」

 

「研究……仕事場……科学者? それに、我が家ってのは?」

 

「……カガク? ……ふぅん……」

 

「何その某ちびっこ探偵さんばりのしたり顔は」

 

「気にしないで。それとさっきも言ったとおり、ここは私の家。とは言っても、ここは元々あった家の地下に併設させた後付に過ぎないんだけど」

 

 

 ニッと、彼女が口角を吊り上げる。先程見せた笑みとは異なる、黒いとまではいかなくとも、グレー位は妥当に見える、裏がありそうな嗤い。ちょっとゾクッていやなんでもない。

 つか、今彼女地下に併設って言ったか? だから窓が無いのね。

 それに併設ってつまり、一から穴掘り進めて部屋造ったって事だよな? 資金とか掘削にかかる費用とか半端なくない?

 

 

「あんた、どこぞの権力振り翳す誰かさんとか金持ちのボンボンだったりすんの?」

 

「さあ? もしかすればそうかも知れないし、それとはまた逆かもしれないし。あなたの言うどこぞの権力振り翳す誰かさんだとか、お金持ちのボンボンかも」

 

「そこではぐらかしますかい。……少なくともただの全うなお金持ちしてる奴が地下をわざわざ掘って怪しい機材を詰め込むような真似はしないと思う俺の知識は疎いのだろうか?」

 

「問答に応じてくれるならその疎い知識を使うまでもなく円滑に話は進む訳なんだけどね」

 

「……そうかい」

 

 

 喉まで込み上げたため息を、再び身体の中に押し込んだ。

 結局、彼女に応じる他に打開策はないらしい。多少暴力的な交渉も視野にはあったが、後がめんどくさいから却下。丸めてポイしよう。

 考えてみれば自分には隠すべき事情も匿うべき罪も何も無いのだから、そもそも問題などない。寧ろ、そこから協力を仰げるかもしれない。

 今、最も有効な情報源は彼女だ。

 虚偽を捨てて真摯に対応しようじゃないか。いつもの後先を全く考えない刹那主義をモットーにする俺らしく。

 

 

「分かった。従おう」

 

「……そう、後悔しないでね?」

 

「一気に後悔した」

 

「あら残念、後戻りは禁止なの」

 

「駄目だこりゃ」

 

 

 クスリと、笑う。

 今更ながら、彼女と会話する際は頭で考えて物言うよりも、インスピレーションで口に出す方が効果的なんだって気づいた。

 

 

「それじゃあ……そうね、まずは」

 

 

 さてさて、どんな質問が飛んでくることやら?

 

 

 

「率直に言って、私はあなたがこの世界の人間だとは思えない」

 

 

 

 …………………………………。

 

 

 うん。

 

 

「知ってる」

 

 

 

 

 

       ▼       ▼       ▼

 

 

 

 

 機械的な音を出し、銀色の扉が開閉する。

 その先の部屋――自室に、八意永琳は足を踏み入れた。次いで、近くに置いてあったアームチェア型の椅子に腰掛ける。

 そうして、浅く息を吐いた。周囲に露見する事はまずない、疲弊した表情。疲労と気だるさを綯い交ぜに、負の塊は淡く広がり、空気に溶けた。

 それらの大元の原因は今頃、地下の治療部屋でやっと解放されただの暇だ退屈だ早く外出たいなどと延々ブー垂れている頃だろう。

 それを想像し、身体が上からの圧に屈しそうになった為、早々に頭の中を振り払った。

 

 

(まさか、質問するだけでこんな疲れるとは思ってなかった……。何なのかしら、彼は?)

 

 

 何なのか、というのは別に彼の人間性云々に限っての事ではない。だからといってそれが当てはまらないのかと問われれば彼女は首を横に振る。

 まず結果として、彼は異世界の住人、もしくは違う星、或いは未来から来た所謂未来人辺り――現状に於いて考慮した上での可能性に過ぎるが――で、相違はないようだ。彼自身も異論はないようで、胸中を吐露している。まさか一言問いただした直後に満面の笑みで知ってると言われるとは彼女もさすがに予想やその他がぶっ飛んだ。

 

 聞けば、自分の住まう世界では他の星に移動する技術は既に賄われているらしい。しかし、その方法は関係なく、別の手段でやってきた(落とされた)と言っていた。そもそも来る気も無かったと後に付け足していたのには悪気はないと判っていたが貶された気がしてとりあえず()っておいた。

 ならばその手段を聴取した所、彼は永久(とこしえ)の憤怒に身を任せた悪鬼羅刹も泣いて黙るような怒りの表情でこう答えた。

 

 『八雲紫にしてやられた』

 

 スキマ妖怪と呼ばれるその大妖怪が突然目の前に現れたかと思えば、間髪入れずに急襲してきた挙句に『幻想郷』なる場所に連れ去らんとしたらしい。それで、実際に連れてかれてしまったものの、辿りついた先は森ばかりの辺境の地で、後に原住民(八意永琳)に話を聞いてみれば、ここは幻想郷でもなければ、八雲紫の所有地でもなかった。彼曰く、何らかのアクシデントがあって失敗したのでは……、とのこと。

 彼女にしてみれば、ただただ頭の痛い話でしかない。

 

 

(『言語を話し、理解する妖怪』なんてのは長い時間の中で一つとして事例はなかった。彼の言う彼女が単なる誇張ではなく、ありのまま伝えているのなら、それは『私たちにも似た類の妖怪』ということになってしまう。……そんな規格外が私や月夜見の眼に留まらない筈がない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 だからそれを見た場所にいた彼はこの世界の出身ではない、異邦人だ――――という正統とは言い難い結論が出来たのはいいが、しかしこれも都合の良いハリボテ――こじ付けに過ぎない。机上の空論を結果だけ言葉で彩ろうが、結局決め付けるには強引で、いまいち信憑性が欠如していて容易く首肯するには至れない。

 己が眼で直視せずに全てを語るのはおこがましい行為ともとれる。故に迂闊に信じれないのもある。こればっかりは件の『八雲紫』を直に見ない事にはウンともスンとも語れない。

 それに何より、根本的な問題は何も解決していない。

 

 

(彼がこちらに来た手段とかはいい。重要なのは『彼自身』がここで何を齎し、『彼等』にどのような影響を伝播したかに集約される)

 

 

 宍戸にはその後――『八雲紫』の襲来から八意永琳の景色を塗り替えるまで――についても細部に渡り漏らさず聞いた。

 その上で、彼女は――

 

 

(――彼は謎だ)

 

 

 そればっかりが湧いては消えず、溜まり、望まず反芻し、飲み込めずに喉元を縮める。それが不快で、不解で疲労に変わる。

 それだけの存在だった。宍戸相馬は。

 そしてそれは同時に、自分の気のせいは気のせいではなかったのだと教える要因ともなった。

 

 

『彼は自分の異常を自覚していない』

 

 

 途方もない高度から落ちる衝撃を「痛かった」 だけで片付け。

 

 声帯から発する音の波のみで森の一部を放射状に凪ぎ飛ばした事実を 「腹が立って鬱憤を晴らす為に叫んだ」 だけで片付け。

 

 光源が空から降り注ぐ月光だけの、遠近も視野もままならない世界――それも、周囲を木が覆う障害ばかりの道無き凹凸(おうとつ)の中を、たったの数分に満たない間で目的地にたどり着き 「走り辛かった」 だけで片付け。

 

その短時間でたどり着いた距離の(・・・・・・・・・・・・・・・)恐らくスタート位置であろう場所が(・・・・・・・・・・・・・・・・)山を二つ超えた(・・・・・・・)向こう側にある事も後の調べで分かっている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 それを彼は 「でっかい音が聞こえたからそう遠くはないと思った」 と、何でもないように答えていた。

 

 

(彼が意識を手放した後日に万全の状態で再度調査に向かってみれば、あんなに溢れていた妖怪の群れは姿を消し、結局出所は掴めずじまい。そこから離れた所にはこちらに向かってくるように一直線に削られた山肌が見つかった。途切れ途切れだったけど、何かが意図的に切断したりねじ切ったり折れてたりえぐれてる痕跡があって……、それらは不規則に見えて、直線状に続いていた。それこそ、大きなものが通り過ぎたように。

……それが相馬だと思う私の知識は疎いのかしら? それとも聡い?)

 

 

 言うまでもないか、と永琳は呟く。

 そして、再度思う。

 

 

 『彼は自分の異常を自覚していない』

 

 

 彼は自分が異常である事が当たり前と思っている。

 彼は自分がその異常を持っている事が当然だと思っている。

 彼は自分の異常は他人にもある異常だと思っている。

 彼は自分と自分以外が皆同じ異常だと思っている。

 

 故に自分は正常だと思い込んでいる節がある。同じ場所に立っていると考えている節がある。

 前述した彼の言動が何よりの証拠だ。

 そして、彼は矛盾している。何せ、彼は自分以外の他人も同じ異常なんだと考えていながら、自分以外にも自分と同じことが出来るとは思っていない。

 山を蹴りだけで叩き割って 「ね、簡単でしょ?」 などとは言わない。他人の可能不可能を予測できる、本来人間の持つ常識を彼は持っているのだ。

 だからこそ、彼は矛盾していた。破綻している、といっても差し支えはないのかもしれない。

 

 要するに宍戸相馬は、自分の常識と一般的な常識が混濁していた。そして、彼自身が持つ常識は、酷く壊れている。

 それは彼がそもそもおかしいのか、違うとすれば彼のいた環境が狂っているのか、どちらかに尽きるが、どちらとも言えない。

 

 

(……でも、これもあくまで相馬の言動を一つ一つばらばらにして組み立てて導いた模倣の心象に過ぎない。それは最早相馬本人の性質ではなく、私が作り上げた理想論――願望にも似た形のない何かになってしまう)

 

 

 宍戸が自身を語る際、あまりにも自然に、且つ当然のように異常を常人の普遍の一端として認識し話すため、逆に彼の違和感が浮き彫りになっていた。そのバラバラのピースを紡ぎ合わせた一枚が、八意永琳の結論となったのだ。

 それに、と彼女は自ら考えを払拭し、

 

 

「彼は多分……いいえ。絶対、それだけじゃない(・・・・・・・・)

 

 

 声に出し、再認識する。

 本人は気づいていないが、今回の妖怪の活性には九分九厘彼の存在が関与しているだろう。能力なのか体質なのか、パーソナリティの特異な変質なのか、現時点では不明のままではあるが、いずれは解き明かせねばならない。

 そして、それだけじゃない(・・・・・・・・)

 

 思い出すのは、宍戸が自分を救い出した直後のこと。あの時放った言葉を、彼女は忘れていない。

 

 

《オマエは――――

 

 

 

 

   ――――『八意**』……か?》

 

 

 それは名前。

 『八意永琳の名前』

 知っているものは本人と、ある程度の信頼を向けている『月夜見』に、『綿月』の一部とその他少数のみ。それ以外の者には教えていない。たとえ教えたところで意味を成さないのも、彼女は知っていた。

 何故ならこの名は、一般では発音できないのだから。言葉云々ではなく、神格的な意味合いが含まれたそれは、簡単だとか困難だとか以前に、語れないのだから。実際、その事実はこの幾星霜に連ねる螺旋の如く流れ行く年月が証明している。

 それを、語った。この地ではない、異界の地から来たやも知れない唯一が。出会う事のなかった男が。

 

 説明だけでは説明しきれない。理屈だけでは心許ない。偶然だけで賄うにはそれこそ都合が良すぎる。

 当の本人は頭から抜け落ちているようではあったが、そんな事は今更もう遅い。

 知らなくてはいけない、彼を。宍戸相馬を。

 不可解な点も矛盾も違和感も、これから彼に話を今以上に聞く事でさらに知り得るだろう。身体を調べてみるのもいいかもしれない。

 心が躍る。研究意欲が駆り立てられる分、自分は生粋の研究者――彼の言葉を使えば、『カガク者』なのだろう。

 

 

(……他にもやる事は山積している。まずは彼の処遇かしら? とりあえず野放しにしとくには色んな意味で危険が付きまとってくるから、当面は大人しくしてもらうしかない。加えて結界の防備の強化に外壁の増強、妖怪の消失や活性の原因究明、『内側』の情報操作に漏洩の防止。無駄だとは思うけど、兵士の育成も。せめて自分の身は自分で守れるくらいには強くしないと、ね。それから――)

 

 

 椅子から立ち上がり、傍にある窓へ向けて歩を進める。

 手を翳し窓を開けば、そこは地上から遥か遠のいた高層。そこから見下ろせば、粒程に小さくなった人々が地上を行き交う光景が視認できた。

 様々な感情が流れ、生まれ、消えるこの色とりどりの喧騒が、八意永琳は嫌いではない。むしろ好ましい。

 喜怒哀楽の喜と楽、それから哀が反発せず溶け合い、フッと、小さく笑みに帰結する。威厳や品格の保持の為、自分を慕う者にも見せない、表層を取り繕わない感情を込めた笑み。

 そして、少し強めの冷たい風が――空気が、室内に入り込む。

 彼女は顔を顰める。

 

 

(――この、結界でも取り除けない『穢れ』に対する検討と対処も、早急に決めなければ)

 

 

 窓を閉める。気分を入れ替えようとしたのだが、やはり逆効果だったようだ。空が眩しい程の青天なのが幸いか。曇天ならば尚の事気落ちしたに違いない。

 

 『穢れ』は今も漂う。それは寿命となり、有限を創造し、枷となる。

 逃れるか、抗うか。目前まで迫る不可視の異変に、気づき始める輩も現れるだろう。

 実質的な長として、役目を果たさねば。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 疲れに疲れを上乗せしたせいか、頭痛がする。少し仮眠を取るべきか。

 よし取ろう。彼女は即決した。思い切りの良さはトップに立ち、指揮する役には最適要素であると自分に言い聞かせて。

 近くのソファーに腰を下ろす。このまま寝ても良かったが、中途半端に寝るのは疲れが増すだけだと誰かが言っていたのを思い出し、横になる事に決めた。

 ゆっくりと、身を預ける。既に意識は虚ろだ。

 

 

(……そういえば、彼、最後まで自分の衣服が替わってることに気づいてなかったわね。調べたら色々あったから、質問をはぐらかした場合を考慮して、証拠品として付き付けるつもりだったけど。結局すぐ自分は違うとこから来たって認めたから、言えずじまいだったのよね……。まさか、気づいてて言わなかっ――――、ないか、相馬だし)

 

 

 気づいたら何て言うだろうか。勝手に脱がせただとか、許可なく解体したのかだとか、責任取れだとか言うのだろうか。

 その様を想像し、自然と頬が緩んだ。

 

 

(――それと、『罰』も……ね)

 

 

 それは二人の約束事。自分が抱えられていた時にした誓約。彼は破った。どうしてくれようかと思ったが、今は身体が睡眠欲に屈する寸前故に、考えるのをやめる。

 

 

「……ふふ」

 

 

 うとうとと、世界が優しく暗転する。

 そうして、八意永琳は静かに意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は見落としている事に気づかない

 彼の異常に没頭するあまりに視野が狭まり、自分にある異常に何一つ気づいていない

 自らの異変が、あって当たり前の『普通』として浸透しているから、気づけない。

 

 自分を慕う者にも見せない表情を、『彼』に見せていた事に『自覚していない』

 知らず知らずの内に、彼女が『彼』に近づこうとしてる事に『自覚していない』

 

 そして

 

 八意永琳は単なる興味だけではなく

 

 長の役目だけではなく

 

 彼女の胸中で不自然に発展し、熱を放つ何かが

 

 自分を少なからず突き動かしている事に対し、『自覚していない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかで、ポトリと何かが落ちる音がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 






上手く伝われば……とは言っても結構支離滅裂だな今回。
まぁ別に彼女の言う事が全てではないし。見当違いってわけでもないけど。とりあえず今回は彼女も彼も中々にって事が分かれば。

次回にはもうチョイ掘り下げれればいいなぁ……。

と思ってたら次回は…………。

大丈夫、キミワツヨイ。
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