死亡(あぼーん)
仏「貴殿ほど素晴らしい魂は見たことない」俺「サンクス」
仏「なんでも叶えてやろう」俺「異種族ハーレムきぼんぬ」
仏「了解(チート付き)」
俺「現代やんけ」←イマココ

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異種族ハーレムを望んで転生したら現代に産まれたんだが!

 

 

 恥ずかしい死に方と言えば何があるだろうか。

 テクノブレイク?

 肛門にウォッカを挿入?

 気張りすぎによる脳出血?

 人は死因を調べるために人体を解剖するわけで、死に方というのはダーウィン賞が作られるくらいに人の気を引くものだ。

 

 因みになんで俺がこんな話をしているのかというと、死んだからである。

 死因は子供の救出。

 道路で轢かれそうな子供を間一髪で助けたが、俺は助からなかったらしい。

 きっと向こうで一両日は俺をヒーローと称える声が止むことはないだろう。

 罷り間違っても、ダーウィン賞になどなるはずがない。

 

 え、最初の話はなんだったかって?

 そりゃ、俺より惨めな死に様を思い出して自分を慰めていたんだよ。

 ま、死因がなんであれ死んだって事実は変わらないけどな。

 

 で、ここどこだろ。

 なんて考えた目の前に、後光と共に一人の仏っぽい人が現れた。

 

「おお。なんたる高潔な魂か。これほどに輝かしい魂が現世に産まれるとは、なんたる奇跡」

「もう死にましたけどね」

「おお。なんたる悲劇か。これほどの者の生が儚くも尽きてしまうとは」

「はぁ」

 

 やばい人だわこの人。

 いや、人? 状況からして神っぽいな。

 言ってることも神っぽく聞こえてきた。

 

「だが悲観することはない。私は仏である。貴殿に第二の生を与えよう」

「マジっすか! 最高じゃないっすか! サンキュー仏!」

 

 仏だったか!

 ご無礼を考えて申し訳ない! 如何せん死のショックで混乱してたもので。

 

「うむ。然し、天界の規則故地球には転生させることはできん。だが、望みを言えば、似た世界に送ってやろう」

「まじか、産まれる世界選べるのかよ! 因みにチートは?」

「当然付けよう、高潔な魂よ」

「話が解る仏すぎる」

 

 え、これ夢? ってくらい都合のいい話だな。

 頬をつねろうとしたが精神体みたいな状態だったようで、手足がなかった。

 

「えーと、転生先の世界は、異種族ハーレムが築ける世界がいいです仏様!」

「望みは聞き入れた。では征くがよい」

 

 うお、なんか引っ張られる。

 仏の姿がぎゅんぎゅん遠ざかっていく。

 これはきっと新しい世界に飛ばされているんだろうな。

 よっしゃ待ってろハーレムライフ。

 

 ◻︎

 

 そして転生した。

 うん、転生したんだよ。

 赤子の身体に大人の頭脳。まだ確認できてはいないが恐らく備わっているチート能力。

 予想外なことが一つあるとすれば、産まれ変わった世界が現代日本だったことだ。

 

 おいちょっと待て仏! 天界の規則とやらで地球には転生させられないんじゃなかったのかよ。

 あれは夢だったのか? 俺が見ただけの都合のいい夢?

 いやでも転生してるしなぁ。

 あれか、仏が間違ったのか? はよクーリングオフしてくれ仏様。

 まあ現代日本でもいい暮らしが出来そうだからいいけどさ、そこそこ育ってから異世界へと送り込まれても困る。

 

 なんて思っているうちに、十年が経ちました。

 はい俺十歳。

 

「ハッピバースデーツーユー、ケイオス」

「いやあ、時が経つのは早いねえ。ケイオスももう十歳か」

「ほっほっ、おめでたきことよのぉ」

「ん、これプレゼント」

「欲しいものがあったらなんでも言ってよね。なんでもあげるわ」

 

 どうして名付けたか分からないケイオスっていうキラキラネームが俺の名前です。

 そして集まってきた親戚家族の前で愛想笑いしているのが俺です。

 今日は俺の十歳の誕生日であり、親戚一同集まって大規模な誕生日会を開いていた。

 全員俺の誕生日を祝うために集まっており、この宴とも形容しうる様相は毎年の恒例だった。

 誕生日を祝ってくれるのは嬉しいが、結婚式みたいな披露宴を毎回されては気が滅入る。

 主役の俺は高座に乗せられ、周囲の声に相槌を打つ。

 根が小市民の俺には中々に堪える時間だ。

 毎年パーティーを行うのは、転生した先は金持ちではあったが、些か過剰な催しだ。

 原因は分かっている。

 俺が神童(笑)だからだろう。

 転生した俺はコ◯ンくん状態を活かし、運動勉学素行と凡ゆる分野で無双し、俺を叱る大人など一人もいない理想の子供となった。

 そのせいか両親から親戚縁戚に至って俺に過剰な愛を注いでいる。

 そりゃもう目に入れても痛くないほどですわ。俺が行きたいと言った場所には即日連れてってくれるし、食べたいと言ったものは何でも食わせてくれるし、ゲーセンなんかは一日中いても何も言われない。それどころか隣で遊ぶ始末。

 前世の記憶が無ければダメ人間になっていたこと間違いない。

 そんな感じに前世知識で期待に応え続けていれば、俺を溺愛する両親と褒めちぎる親戚たちが出来上がったというわけだ。

 最初のうちはちやほやされて嬉しかったけど、うん。今となっては期待が重石のように辛い。

 今も高座で誕生日を祝われているが、本音はとんずらこいて家出したい気分だ。

 

「兄さんこちらはどうですか。兄さんの好きなお寿司ですよ」

「ケイオス、これは僕が作った五目ご飯だ。是非感想を聞かせて欲しい」

 

 隣に寄ってきた妹と兄が手に皿を持って俺へと突き出した。

 俺は箸で取って味わうと、「美味しいよ」と返す。

 それに妹と兄が安堵して吐息を漏らした。

 それを俺は複雑な心境で見つめる。

 兄妹すらも俺を特別扱いしていた。

 両親も子供にかける愛情には差があり、俺を一番とおいていた。

 俺と他の兄妹で扱いに大きな差があるわけだが、彼らは嫉妬することも無ければ僻むこともない。このように俺が喜ぶと我が事のように喜び、召使のように自我を出さす我儘を言わない。よくも俺への敵愾心を持たずに入れるものだ。

 俺が逆の立場なら間違いなく嫉妬して関わり合いを絶っただろう。

 よく出来た兄妹というべきか、不気味な兄妹というべきか未だに解らない。

 なんとまあ俺に都合のいい家庭だ。

 

「ケイオス、誕生日プレゼントじゃよ」

 

 叔母が前に来て俺に装飾された小さな小箱を手渡した。

 礼とともに受け取り、中身を改めると、薄い円盤状の黄緑色に輝く鱗のようなものがネックレスとなっていた。

 

「これは……綺麗ですね」

 

 思わず感嘆が漏れる。

 本心からのものだ。前世を見返してみてもこれほどの輝きを持つ物質は見たことがない。例えるなら、エメラルド? 然し、宝石とは自ずと発光するものだったか。

 

「くふふふふ。儂の一番の宝物じゃ。ケイオス、主にこそ持っていて欲しい」

 

 ……重い。

 口振りで喜んでいるのはわかるが、そんな重い物をポンと12歳の餓鬼にあげないで欲しい。

 正直受け取りたくはなかったが、意識して笑顔を作って返す。

 

「必ず大切にします。素敵なプレゼントありがとうございます」

 

 はぁ。

 過去でもう少し自重して普通の赤子のふりをしていればこんなことにはならなかったんだろうか。

 神童と呼ばれ浮かれていた過去の自分を殴りたい気分だ。

 ネックレスを首にかけると、叔母の喜びが増した。気まずい。

 何故か見つめ合う形になっていると、間に母が割って入った。

 

「おばあちゃん、ほらケイオスが困っているからあっちいきましょうね〜」

「何を言うか! 儂の心よりのプレゼントに喜んでいるであろう」

「はいはい、あっちで話しましょうね〜」

「くっ、離せ!」

 

 母に枯れ木のような腕を掴まれ、引きずられるように退場する叔母だった。

 歳はいっているのに元気な婆さんである。

 

「ケイオス、楽しいか」

 

 背後から声を掛けたのは父だった。

 振り返れば俺を見下ろしていた。

 

「まあね。毎年こんな盛大に祝って貰って嬉しいよ」

 

 自重して欲しいと言うのが本音だが。

 

「ふふ、ケイオスが楽しむことが一番大切だ。そうだ、この後私の部屋に来て鑑賞会をしないか? コレクションがまた一段と集まってな」

 

 コレクションとは俺のこれまでの人生の軌跡を写真や動画で保存した物である。

 それは日付ごとで分けられており、俺の成長記録と称して写真を撮らない日はない。いつも気づかない時に撮られているため確証はないが、今日も恐らくはどこかで誕生日会の写真を撮ったことだろう。

 父はそれらを俺を一緒に見ることを好んでいた。

 正直自分の成長記録を見て何が楽しいのかと言う気持ちだ。成長記録なんぞ毎日つけていたらその歩みも牛歩だろう。

 なのに父は飽きることなく毎日のように鑑賞会をやっているのだから恐ろしい。

 兄妹もいるが、父がそのような鑑賞会をやっているのは俺だけである。少しは父の偏執的な愛を他の兄妹に向けて欲しい物だ。

 

「別に自分の成長なんて見ても楽しくないからやめとく」

「そうか、残念だ」

 

 名残惜しそうな父から視線を外して部屋を見渡す。

 相変わらずとんでもない人口密度だ。

 っていうか、あの人隣人のお姉ちゃんじゃん。なんで親戚の催しに隣人のお姉ちゃんが誘われてんだよ。

 視線が合い手を振られたので返しておく。

 代わる替わる声をかけてくるので退屈はしないが、息が詰まるな。

 口に運んでいた焼き魚を飲み込むと、立ち上がる。

 

「あら、どうしたのケイオス」

「トイレ」

 

 そろそろ排出したくなったのも事実。

 気晴らしに済ませてくるとしよう。

 トイレの中に入ると、男子の小便用の小便器が列をなして並び、洋式トイレが奥に備わっているのがわかる。

 公共の場でも無ければこんなトイレは滅多にないだろう。

 これも我が家の豪邸の一部だった。

 更にトイレは使われたことがないかのようにつるつるに輝いている。

 毎日使用人によって掃除されている成果だろう。

 立って放尿する。

 終わったら子供ちんこをぶるぶる震わす。

 このまま部屋に帰ると言うのも、気が重い。

 そうだな、風呂でも入るか。

 我が家の風呂は大浴場であり、訪れたことのあるどの温泉宿よりもでかい。

 更には細密な湯分調整やら源泉調達やらしているらしく、どろどろと滑りのある白濁湯が楽しめる。

 滋養強壮肌質改善その他もろもろの効果があるのだとか。

 俺のつるつるお肌は家の湯由来だ。

 風呂に向かって歩いてみれば、誰かが使用中の立て札があった。

 うーん、残念。

 戻ると、襖の先に人影が見える。

 

「ケイオスくん、一人抜け出してどうしたの」

 

 そこにいたのは隣人のお姉さんだった。

 軽くトイレにいっただけで詰問されるとは。

 

「トイレに行ってきただけだよ。そういえばお姉ちゃんは親戚だったりするの?」

「え、違うけど、なんで?」

「いやこの誕生日会は親戚が呼ばれてるんだと思ってたからさ。お姉ちゃんは隣に住んでるけどあまり話したことなかったし、呼ばれたってことはそう言うことなのかと」

「ええっと、それは違くて。私は……あっ、ごめん、荷物受け取りに行く途中だった。また後で話そうね」

 

 慌てた様子の彼女は玄関へと向かって小走りで駆けていった。

 それを芒と見送る。

 正直、親戚の集まりといっても多いいせいで半分程度しか名前を覚えておらず、あまり関わりが少ない彼女の名前も覚えていないので長話することにならなくて助かった。

 お姉さんが駆けていった玄関を見遣る。

 ふむ。

 長いこと置物やっていたので少し運動したい気分だ。

 軽く息抜きに散歩するか。

 俺も男だし12歳だ。精神年齢に至っては三十近いし、別に一人で散歩しても問題ないだろう。

 勿論家族には内緒だ。知らせてしまっては、付いてきたがるからな。

 靴を履いて外に出ると、日光が頭上を照らす。

 舗装された道路と並木道を歩く。

 周囲には人気がなく、木陰を目的地もなく彷徨う。

 軽くゲーセンでも行ってみるか。

 あんまりやる気はないが、案外見学するだけでも楽しめるものだ。

 途中、公園を寄りかかる。

 昼間だと言うのに、公園は閑散としていた。

 公園の遊具も最近はあんまり遊んでないが、少し前まで精神年齢に似合わず楽しんだ記憶がある。

 公園の遊具で体を動かすのもありだな。

 なんて思いながら公園の中に入ると、俺は信じられないものを見つけた。 

 それは、見るものに不快感を抱かせる、蠢く屍肉が人の身を纏ったような容貌だった。更に、所々溶け出しており、酸で溶かされた粘液のようなものが垂れていた。

 これまでの人生では一度も見たことがなく、現代日本という現実では遭遇するはずもない化け物がそこにいた。

 え、ここ日本だよね。

 いつファンタジー世界がインしたんですか?

 一瞬思考が宇宙に飛んだが、現実に直面して恐怖が湧き上がってくる。

 妖怪? 宇宙人? なんにせよ二度目の死は勘弁だ。

 もう遅いかもしれないが視線を逸らす。ほら、視線が合ったら襲われるって話あるだろ。

 そのまま刺激しないように踵を返し、慎重に離れる。

 もしかしたら俺にしか見えてないのかもしれないし、気づかないふりをすれば、何とかなるかもしれないという思考からだ。

 そんな俺の背後へと異形が蠢く気配を感じた。本能が警鐘を鳴らす。

 

「あ、あなた、もしかして、人間の男の子、だよね」

 

 目を疑う。明らかな異形が言葉を発していた。

 化け物のような外見から思いもよらず人のような自然な声が聞こえたことに驚く。

 過呼吸のように口を開け閉めしかできない俺の前で、異形は更に述べた。

 

「やっぱりそうだ、間違いない。人間の男の子だ。一体、なんでこんなところに男の子がいるのよ。この空間もおかしいし、探知魔法を潜り抜けるのがどれほど大変だったか。なんでここら一体にこんな大掛かりな幻術魔法を使ってるのかと疑問だったけど、重要な施設を保護するためとかじゃなくてこの子を閉じ込めるため? ありえるわね、男は奴らにとっての最重要だもの。だとすると私がすべきことは彼を救出することかしら。でも、私にできるの? この幾重にも潜り抜けられた罠を人一人を抱えて潜り抜けるなんて。ここまで潜り込むのにどれほどの犠牲を出したことか、この情報だけでも持ち帰った方がいいのかもしれないわ。だとすると、彼を見捨てることになるけど」

 

 ぶつぶつと独り言を言っている姿が怖くてしょうがない。

 話している内容も電波じみているし、家を抜け出して散歩する判断をしたことをもう後悔していた。

 とりあえず、この異形の気が逸れているうちに逃げ出さないと。

 逃げ出そうとしたところで異形と目が合った。

 

「出来るかは分からないけどやってみるしかないわね。さあ、付いてきて。助けてあげるわ」

「うわあ!」

 

 異形の触手がこちらへと向かって飛んできた。

 思わず悲鳴を上げて目を瞑る。

 だが、来るはずの衝撃がいつまで経っても到達しなかった。

 それどころか、異形の声も聞こえない。

 薄ら薄ら瞼を開くと、そこには見覚えのある人影があった。

 

「大丈夫? ケイオスくん」

「お、お姉ちゃん……」

 

 そこにいたのは、近所のお姉ちゃんだった。

 こちらを心配そうに見遣っているが、そんな場合ではない。

 あの異形はどうなった?

 然し見渡すも、どこにも異形の姿はなかった。

 いつものような普通の公園があるだけだった。

 呆然と呟く。

 

「え、あの化け物は……?」

「どうしたのケイオスくん。そんなもの、私は見てないよ。ケイオスくんの勘違いだったんじゃないの?」

 

 お姉ちゃんはまるで何も見ていないようだった。その姿に動揺はなく、嘘を言っているようには見えない。

 では勘違い? 否、そんなはずはない。

 先ほど直面した恐怖は実感を持って残っているし、鳥肌がまだ収まっていない。

 

「そんなことない、さっき化け物が公園にいたんだ。どろどろで、肉の塊で触手みたいなものを持ってる化け物がさ」

 

 恐怖のままに訴えると、お姉ちゃんが俺を抱きしめた。

 ふわりと花の香りがし、恐怖が薄まり安堵が産まれる。

 

「幻だったんだよ、きっと。だから、そんな怯えなくても大丈夫だよ」

 

 幻だったのか? あの化け物が?

 何が現実で何が幻か区別がつかない。

 そもそもこれは現実なのか? 全部夢? 胡蝶の夢?

 安寧の平穏から突然の非日常に直面し、俺は恐怖でお姉ちゃんに抱きつくことしかできなかった。

 

 ◻︎

 

 とあるマンション。

 会議室にて、円卓に十人の人間が腰掛けていた。

 彼らの間には重苦しい空気が漂っていた。

 それも当然である。彼らにとっての異常事態が先ほど起こったからだ。

 スクリーンにはケイオスの対面した異形が映し出されていた。

 異形が消えて映像が終了すると、一人が舌打ちした。

 

「ちっ、責任問題だぞこれは。しかも逃げられやがって。誰だ結界の維持担当は」

「私ですね」

 

 応えたのは、ケイオスが先ほど助けられた隣人だった。

 

「お前の仕事が杜撰だから、ここまで侵入されたんだろ。なんか申し開きはないのか」

「そうですね。私の責任ということは認めますが、それには理由があります。それを説明させて頂いても?」

「あぁ? なんでお前の言い訳を聞かなきゃいけないんだよ」

「まあ待ちたまえ。ではクゥリィ、その理由教えてもらえないかな」

 

 割り込んだのはケイオスの父だった。

 その頼みに応えて、

 

「では見せましょう。【◾️◾️◾️、◾️◾️(幻術解除)】」

 

 その口述と共に、スクリーン上の異形の姿に変化が生じた。

 即ち、奇奇怪怪な異形の姿が、一人の女の姿へと。

 その顔を確認し、誰かが息を呑む。

 

「こいつは……」

「ええ、そうです。人類の英雄、コニア・セルジュです。結界に関しては私も最大の努力をしましたが、広域に掛けているという都合上、これほどの化け物ともなると私の結界も力技で突破されますね」

「これは面倒だな。人間どもに嗅ぎつけられたということか」

 

 映像を見つめながら、一人が呟く。

 

「だとすると、最悪の展開は人間どもが討伐隊を率いてここへと向かってくることですね。コニアから情報は漏れるでしょうし、可能性は拭えません」

「そ、そうなったら……わ、私たちケイオスを奪われちゃう」

「……それを避けるためにも、まずは結界の見直しからですね」

 

 現状の整理と共に、暗い雰囲気がたち込める。

 

「ふん、何を怯えておる貴様ら」

 

 そう鼻を鳴らしたのは、ケイオスの叔母だった。

 叔母は自信満々に胸を張る。

 

「安心するがよい。儂がおる限り侵入者は皆燃え尽きてもらうことになる」

 

 注目が集まるも、これ見よがしなため息が会議室に響いた。

 

「はぁ、頭お花畑ですね、この変態蜥蜴が」

「あん? なんか言ったかの、淫魔」

「侵入者を殺せばいいという単純な話では無いと言っているんですよ。こちらの戦力を把握されたら真っ向勝負も避けられるでしょうし、私たちの目を盗んでケイオスが攫われるような事態になったらどうするんです?」

「はっ、そんなもの、儂の目を掻い潜れる人間などおらぬ。そしてもう一つ、変態蜥蜴とはどういう意味じゃ? 儂に喧嘩売っておるのか?」

「はい? 何か文句ありますか? 自分の逆鱗を誕生日プレゼントと称して送るような変態は蜥蜴呼ばわりで十分だと思いますが」

「くく、龍人に蜥蜴とな? その言葉を言った奴は焼いて喰らうと掟で決まっておるのを知っておるか?」

 

 二人の睨み合いに、部屋に緊張が張り詰めた。

 部屋の温度が見る見る内に上昇していく。

 熱の放出源は火を見るより明らかだ。叔母の口から黒煙が漏れ始めていた。煙に周囲の人影が距離を取る。

 一触即発の空気で、パン、と。一人が手を叩いた。

 

「止めな二人とも。今は君たちの喧嘩をする時間じゃない」

「……はっ、今は見逃してやろう」

「負け蜥蜴の遠吠えですね」

「おい、煽るなと言ったことが分からなかったのか」

「はい、すいません」

 

 素直に謝罪すると、場の空気が元に戻る。

 

「で、実際に討伐隊が送り込まれることはあり得るのか? あり得るとすればどの程度の戦力だ?」

「そうですね……恐らくは百程度の討伐隊が送り込まれることは想定しておいた方がいいです。多くても二百程度かと」

「ふむ。一領主レベルだな。千二千とはならないのか」

「まあ、別にここに魔石工房や食糧庫といった軍事物は設置されていないので、そこまで本腰を入れることはないと思います。討伐隊が来たとしても追い返せばリスクが高いと見て手を引く可能性が高いです」

「男が希少とはいっても、男を取り戻すために固執することはないと?」

「はい、まあ奴らは奴らで守っている男がいますし、その男も多岐に渡る敵に狙われています。一人の男に固執して戦力を失い、元々保持していた男を奪われるなんてことになったら愚の骨頂ですしね」

「それもそうだな」

 

 納得した様子で頷く。

 弛緩した空気が流れる。彼らにとって百程度なら問題なく処理できる数だ。

 その後、スクリーンでケイオスと異形との邂逅シーンを見直す。

 見落としているものがないか確かめているのだ。

 

「見た映像によるとケイオスとこいつは少しばかり会話しているようだ。万が一にもケイオスに疑心を持たれているようなことはないだろうな」

「そこは大丈夫かと。ケイオスには幻術によりコニアのことが異形のように見えていたはず。それは私も確認済みです。例えコニアの言葉を思い出したとしても、真に受けることはないでしょう」

「なるほど、保険が活きたか」

 

 外からの侵入者は幻覚で不快感を覚える何か置き換えられることになっている。

 これはケイオスに侵入者に不信感を抱かせ対話に応じないようにするためだった。

 

「今のケイオスの様子はどうだ?」

「大変動揺していたようですが、先ほど落ち着いて床に着いたとのことです」

「ふむ。ケアが必要かな」

「いえ、このまま関与しない方が良さそうかと。本人が奴のことを夢だと思い込んでいるようですので」

「了解だ。なら早日問題になるようなことはなさそうだな」

 

 そして、スクリーンにまた別の画像が映し出される。

 

「では次の議題であるが」

 

 最重要な議題を終えただけで、まだまだ議論すべきことは残っている。

 夜は始まったばかりである。

 この後も、方針に関する議論が続くこととなる。

 結界の修復、侵入経路の探索、次の移転地、密偵の派遣と話題は尽きることはなかった。

 それでもひと段落つかせ会議を済ませると、最後に高座に立った女が謳う。

 

「ケイオスは女どころか異種族にも嫌悪感を持たぬ奇跡のような存在。もう二度と侵入は許すな」

 

 パチリ、と。

 一人が指を鳴らすと、幻覚が解ける。

 

 叔母──老婆の枯れ木のような身体が霞のように消え去り、頭部に2本の角が生え、蜥蜴のような尻尾が伸び、幼い身体に冴え渡る美貌の美幼女が現れた。

 ──龍人族と呼ばれる種族である。

 

 母──女の理想のような肉体に、顔容貌は変わらなかったが、頭部に一本の角が現れた。

 ──鬼人族と呼ばれる種族である。

 

 父──男の顔立ちから一転、金髪碧眼に明るく悪戯を好みそうな女のあどけなさを大いに含んだ快活な美女が現れた。

 ──妖精族と呼ばれる種族である。

 

 兄──耳が鋭く尖り、黄金比のように整った顔立ちにシルクのような銀髪を肩まで伸ばした美少女が現れた。

 ──エルフと呼ばれる種族である。

 

 妹──黒髪が赤褐色に変貌し、怜悧な表情を浮かべた美幼女となった。

 ──ドワーフと呼ばれる種族である。

 

 他にも、獣人族、天使族、淫魔族などなどその正体を露わにしていく。

 これより、朝が来るまでに彼らは彼らの割り当てられた仕事を熟すのだ。

 そして朝が来れば、何食わぬ顔でこの世界の住人として過ごすことになる。

 ケイオスに外の世界を悟らせないために。

 彼らにとって、ケイオスと僅かでも接点を持つことこそが喜悦であり、この世界を存続させるために様々な種族が手を尽くしていた。

 

 ──この世界の名はリテイリア。

 男が少なく、異種族が人類の男を求める世界。

 男はその環境のせいか、女、特に異種族を忌み嫌うようになる。

 然し、ある男の赤子を攫った魔人がふと考えた。

 この赤子を、異種族の女への嫌悪が無くなるように育てることはできないかと。

 魔人は異世界を観測し、男が女に忌避感を持たない世界を知っていた。

 故に、その世界と擬態した環境で育てることができれば、理想の男が造れるのではないかと、そう考えた。

 

 ──ここは箱庭。

 たった一人の男を閉じ込めておくためだけに複数の異種族が手を合わせた、魑魅魍魎の魔境。

 そしてこの世界においては唯一の異種族の女に忌避感のない男がそこに住んでいる。

 嘗て一国を燃やし尽くした龍人も、種族随一の暴を持つ鬼人も、幾千の人間を誑かした妖精も、たった一人の男を中心にしたこの小さな箱庭に溺れていた。

 踏み入れば生還の保証はなく、立ち塞がるは異類異形の怪物揃い。

 箱庭においてその事実を知らぬはただの一人だけだった。

 

 





 チートは仏が気を利かして絶倫にしました。

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