なぜか
「左手薬指」に指輪がないことがわからないトレーナーと
それを利用しようとするドリームジャーニーの話。

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ジャーニーの左手薬指だけ指輪が無いことを尋ねる朴念仁トレーナーとそれを利用するドリームジャーニーの図

 レース前、それぞれのウマ娘とトレーナーには控室が与えられる。レース前に勝負服に着替えたり、精神統一をしたり、ウマ娘によって色々であるが、ドリームジャーニーとそのトレーナーはいつもレースの作戦について確認を取っている。

「というわけで、序盤はこっちのウマ娘と、あと念の為このウマ娘に警戒しようか」

 木製の机に、向かい合うようにして二人が座っている。

「分かりました。仕掛け時については?」

「そうだな……多分ハロン棒の3、つまり残り600メートルになった当たりから隙を伺ってくれ。君ならそこから仕掛けても多分問題ないと思うよ」

「分かりました」

「……」

 トレーナーは急に黙り込み、ジャーニーの手元をじっと見つめる。視線は、彼女の小さい左手に吸い寄せられている。

「? なにか気になることでも?」

「え?ああ、いや……なんでもない」

 無意識だったようで、曖昧な返事をするトレーナー。

「歯切れが悪いですね。何か言いたいことでもあるのでは?遠慮なく言ってもらって構いませんよ。トレーナーさんと私の関係なのですから」

ジャーニーはじっとトレーナーの目を見る。

「そ、そうか……じゃあ質問させてもらうけど」

「はい」

 ジャーニーは眼鏡を外し、布でレンズを磨く。

「なんで、勝負服の時、左手薬指だけ指輪してないの?」

 部屋に一瞬の静寂が訪れる。

 ジャーニーはハァー……と息を吹きかけ、レンズを拭く。

「……それを聞きますか」

 メガネを掛け直し、一拍置いてから、ジャーニーは云う。

「……気になったからね」

 キョトンとするトレーナー。決して悪意などがあるわけではない。

「トレーナーさんは察しの良い方だと思っていたのですが」

「え?もしかしてとんでもない質問しちゃってた?ごめん!」

「いえ、そういうわけではないですから」

「そうなのか?……よかった」

 ホッと胸を撫で下ろす。

「それで、本当にその理由がわからないのですね?」

「うん。衣装を設計するときのミス?」

「少なくともそれではないですね」

 スッとツッコミを入れる。

「そうか……」

「なぜ、そうしているか、気になりますか?」

「すごく、気になる」

 トレーナーは、まるで子どものような目で、ジャーニーを見る。

「……分かりました」

ジャーニーはおもむろに席を立つ

「ではこのレースで、私が一着を取ったら、ここに指輪を嵌めてください」

 ジャーニーはそう、トレーナーの耳元で囁き、右手で左薬指を抑える。

「そうしたら、教えてくれるのか?」

「ええ、後でちゃんと教えて差し上げますよ。タイミングは、そうですね……取材を受けている時にお願いします」

「そうか、わかった。レース頑張ってな!!」

素直に飲み込むトレーナー。

「ええ、では行って参ります」

そう云うと、ジャーニーは一瞬だけ、ほんの一瞬だけ不敵な笑みを浮かべて扉を出ていった。

──外伝──

「タキオンさん、ありがとうございました」

「おやあ、あの薬の効き目はちゃんと出たかい?」

「ええ、『特定の物に対して常識が消える薬』、ちゃんと使えました。副作用などもありません」

「それは良かった」

「また、何かあったらお願いします」

「こちらこそ」


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