Arcadiaに投稿したSSの加筆修正版です。


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 かなり昔に書いた話です。10年ぐらい前。


ザ・ガチタンな話(AC3SL)

「はあ……」

 グローバル・コーテックスが管理するガレージの一画、機体へのキャットウォークで、男は嘆息していた。その傍らには、ブロンドのロングヘアーにスーツ姿の女性。

 女性は、男にしか聞き取れない声でナニカを囁く。それを聞いた男は更に嘆息し、がっくりと肩を降ろしていた。

「報酬無しかよ……畜生」

「仕方ありませんね、レイヴン」

 女性は、男の事を“レイヴン”と呼ぶ。

 レイヴンとは、史上最強の陸戦機動兵器──アーマード・コア、通称ACを駆る傭兵であり、屍の肉を喰らって己が糧とし、その反り血を啜っては喉の渇きを潤す“ワタリガラス”である。

「畜生が。あん時護衛対象が出しゃばらなきゃ、俺は今頃こんな所で溜め息吐かねえで済んだのによ」

「ですが、それでは貴方がやられてたと思いますが?」

 男──レイヴンは、数時間前に依頼から帰還したばかりであった。

 その依頼とは、クレスト・インダストリアルが所有する輸送部隊の護衛であった。依頼を引き受け、作戦領域の中程までは順調に進んでいた。

 しかし、途中から乱入者──ミラージュのマッスルトレーサー──通称MTで構成された大部隊の襲撃を受けた。

 それをレイヴンは必死に迎撃したが、むなしくも護衛目標の全滅と、己が半身たる機体の中破と言う結果に終わった。

 そして、今に至る訳である。

 

 女性はやれやれですね、と肩を竦めて立ち去ってゆく。レイヴンは、仕方無しに小型の端末を取出し、慣れた手つきで操作する。

 端末の画面には、今の愛機の状態が表示されていた。修理が終わった様だった。レイヴンは端末をポケットにしまうと、近くの自動販売機にカードをかざし、炭酸飲料のボタンを乱暴に叩く。

 がこん。と言う動作音と共に炭酸飲料の缶が落ちてきた。レイヴンはそれを手に取り、キャットウォークを歩いていく。

 やがて、一つの機体の後ろで止まると、キャットウォークからコアの背面へと飛び移る。コアの背面に着地したレイヴンは、コアの正面へと歩き、缶のプルタプを手前に引く。

 ぷしゅっ、と言う炭酸飲料独特の乾いた音が聞こえ、泡を立てて缶から中身が吹きこぼれる。しかし彼はそれを気にせず、缶を呷る。

(さてと、埋め合わせにアリーナの手続きでもしちまうかね)

 レイヴンは炭酸飲料を飲み干すと、コア背面へと戻り、足元にある小さなハッチを開ける。

 ハッチを開けると、そこにはテンキーとハンドルがあった。レイヴンはテンキーを「3322」と入力し、ハンドルを引く。すると、コアの後部が動きだし、コックピットへの入り口が現れた。

 座り慣れたバケットシートに身を預け、レイヴンはサイドコンソールのキーボードを打鍵し始める。ナニをしているかと言えば、アリーナのランクマッチの申し込みであった。

 ランクマッチ。それは、レイヴン達が競い合い、人々の欲望が渦巻く所である。コーテックスの興行活動の一つであるそれは、人々の娯楽となっていた。

 因みに、ランクマッチそのものはACのコックピットからで無くても、コーテックスの端末であるならば何処からでも申し込みが出来る。

 しかし、レイヴンは敢えてACのコックピットから申し込みを行っていた。これは彼のこだわりで、こうしないと気が乗らないと言うのだ。

 無事ランクマッチの申し込みを終えた彼は、再び端末を取出し、ケーブルでコンソールにある端子と接続する。

 そして、正面のメインスクリーンに投影された成人向けの娯楽映像に、にやりと表情を歪めた。

 

 数日後。レイヴンは、ランクマッチの会場にいた。その控え室にて、彼は椅子に腰掛けていた。

「どうしたよ? んな膨れっ面しちまって」

 パイロットスーツに着替えたレイヴンが、ロングスカートの女性の方を振り向く。その膝元にはラップトップ型の端末、髪型はいつものポニーテールだが、顔には赤いフレームの眼鏡をかけていた。 

「いえ、膨れてなどいません」

 レイヴンの言葉を女性は否定していたが、その表情は不機嫌そうであった。もっとも彼には、彼女の胸の豊かさもあってかとても魅力的な仕草に見えたが。

 それを聞いたレイヴンはどうなんだか、と笑い、ヘルメットを手に取って機体があるエプロンへと歩いていく。その一方で女性は溜め息を吐き、端末を操作し始めた。恐らく、収支の計算だろう。

 

「~♪」

 レイヴンは古いロックバンドの歌を口ずさみながら、歩いていた。

「ようレイヴン、おめーまたその歌かー?」

 大柄でスキンヘッドの男が、レイヴンに話し掛けてきた。

「何だイクスプロード、暇なのか?」

 男──アリーナ・ランクD-3のレイヴン、イクスプロードの言葉にレイヴンは反応する。

「ああ、暇だぜ。それよかよう、おめーアイアンマンとやり合うんだって?」

 そうだが。と返し去って行くレイヴンの背中にイクスプロードは頑張れよ、とエールを送った。

 無論、レイヴンは野郎にエールなんか送られても気持ち悪い、と嫌悪感を覚えていた。そんなことは梅雨知らずのイクスプロードであった。

 

「…………」

 パイロットスーツ姿の男は、ただ無言でナニカを押していた。ナニを押しているかと言えば、円柱状の物体──ドラム缶を押していた。

 男の周りでは、整備員達が男の機体の装備を点検していた。誰一人男の方を向かずに作業をしていた。

「レイヴン、こっちは注文通り作業完了だ」

 整備員の一人が、男に声を掛けた。

 男はそのまま動きをぴたり、と止めると、ヘルメットを被って戦車型の機体──<ハイパーアロイ>に乗り込み、センターコンソールに付いているミサイル・スイッチを一つずつはね上げた。

 コンソールに取り付けられた計器類が息を吹き返すかの様に動き始め、正常に動作している事を男──アイアンマンは確認する。

「計器チェック、オールグリーン。ハイパーアロイ、発進するぞ、準備は良いか?」

『こちら整備班、大丈夫だ。若造をぶちのめしてこい』

「ふん……、よく言うわ」

 馴染みの整備士の言葉に吐き捨てる様に呟くと、アイアンマンは<ハイパーアロイ>の操縦桿を掴み、ペダルを踏み込んだ。

 

『本日のランクマッチの会場は──パーキングロットだ!』

 どこかハイテンションな男の声が観客席にこだまする。

 観客席は既に超満員であり、観客達は男の声と共に喚声を上げた。その観客席の列の中に、イクスプロードはいた。

(ひゃあ、何時もアリーナは一杯だぜ!)

 イクスプロードは喚声に揉まれつつも、興奮していた。何分派手な事が好きなこの男の事だ、当然の事といえた。

『おうおう皆ノッてるなぁ、んじゃ、今日の対戦者を紹介するぜ、まずは──アイアンマン!』

『アイアンマン! アイアンマン! アイアンマン!』

 向かいの席でアイアンマンの名を上げる連中は、恐らく彼のファンクラブのメンバー達なのだろう。イクスプロードは、事前に買ったポップコーンをぽりぽりと食べながら思う。

『そして──レイヴンだ!』

『BU─────!』

 そしてレイヴンの名が出た途端、連中はブーイングを上げていた。予想通りだ。もしも今賭けてたら、これでカネが俺の懐に入るところだね。とイクスプロードは独り呟く。

 その後男がブーイングを止める様に言い、彼らはそれに従った。流石にコーテックスを敵に回すのは宜しくない。彼らはただ、賭け事を楽しみに来たのだから。

(おっ、そろそろ始まるぞ……)

 イクスプロードは、アリーナ中央に設置された超巨大モニターを観て、これから始まる試合に心を踊らせた。

 

 天井が低い駐車場に、その機体はいた。

 直線的な形状の頭部と脚部。頭部に相反する形状の胴体と両腕。その機体は紅く塗装され、右腕には機体と同じ紅色の銃。左腕には金色の機械。

 そしてその背中には巨大な砲身。

「~♪」

 その機体の中でレイヴンは、歌いながら機体<Merkava>の操縦桿を強く握り締めた。兵装チェックは既に三回目、機体チェックは六回目と念の入り様だ。

 と言うのも、勝ったら酒を呑みに行こうと決めたのだ。勝負の後は美酒に酔い痴れたいのが彼のこだわりだった。

「とっとと勝って、カネを手に入れるぜ」

『そうだと、良いんだがな』

 相手からの通信、それと同時に流れる試合開始の合図と共に、レイヴンは<Merkava>を右に動かす。すると、相手である<ハイパーアロイ>が、右肩の三連装ミサイル──「CWM-TR90-1」をこちらに向けている。

 しかしレイヴンはそれに動じない。何故ならそれは──戦車だからだ。そう、<Merkava>は戦車型の機体なのだ。それも、重装甲・重装備の機体なのだ。

 故に、彼は愛機の装甲を信じ、飛来してきた三発のミサイルに正面から両肩“に”ぶち当てた。当然、腕部パーツ──のその強固にして堅牢な装甲の前にはへこむ程度にしかならなかった。

 その反撃にと<Merkava>は右腕に持つマシンガン「MWG-MG/1000」を乱射する。しかし、<ハイパーアロイ>は柱の影に隠れ弾幕を避ける。

「野郎、柱に隠れたか」

 反撃を避けられ、苛立ち紛れにレイヴンが呟いた直後であった。

『その程度の腕で、このアイアンマンが倒せると思ったか!』

 柱の影から出てきた<ハイパーアロイ>。レイヴンは<Merkava>の右腕を動かすも、異変に気付いた。

 ──“音”が聞こえてくる。その“音”の発信源は──<ハイパーアロイ>の背中からだ。

「──くそっ!」

 レイヴンが悪態を吐き、異変の正体に気付いた時には、既に遅かった。

 ──オーバード・ブースト、通称OB。コア背面に内蔵された緊急加速用大型ブースターで、音の正体は吸気音だったのだ。

<ハイパーアロイ>は、オーバード・ブーストによる急加速で突貫してくる。レイヴンは咄嗟にマシンガンを乱射するも、<ハイパーアロイ>の強靭な装甲の前には無力であった。

 レイヴンの反応速度を凌駕するスピードで接近した<ハイパーアロイ>は、両腕の主兵装──「CAW-TITAN4」を<Merkava>のコアに向け──発射。

<ハイパーアロイ>の腕から発射された四発の大型ミサイル──MTや軽量級のACならスクラップに出来る威力だ──が<Merkava>のコアに突き刺さる直前、炸裂する。

 

「やったか……」

 コックピットの中で、アイアンマンは独り語ちた。

 大型ミサイルを至近距離でぶっ放した。相手は重装甲の機体だから、大事にはならないが、これで相手の敗北は間違いないだろう。

 しかし、自分の<ハイパーアロイ>もかなりの被害を被ってしまった。至近距離での爆発に、頭部カメラがイカレたらしく、モニターは砂嵐しか映さない。

 自分も慣れない機動で疲弊した。だが相手はそれ以上の筈だ。

 流石にもう、戦えまい。

 そう呟きながら、カメラの切り替えスイッチを操作する。砂嵐を映していたモニターは画質が悪いものの、無事映像を映し出した。

(やれやれだ──?!)

 爆発の際に電源パイプも吹っ飛ばした為か、薄暗く噴煙のみが見える視界。それにアイアンマンが溜め息を吐こうとした直前、<ハイパーアロイ>の右肩が爆ぜる。

 衝撃と共に表示された[右腕部破損]のメッセージに、アイアンマンは一瞬で意識を引き締めた。

 まだまだ出来る、と相手の機体──噴煙の中から右腕を失った<Merkava>が、左肩の砲身──「CWX-LIC-10」──を青白く光らせ、伝えてくる。

「やってくれるじゃないか、こいつめ!」

 アイアンマンは笑いながら操縦桿のボタンを親指で押し、左肩のチェーンガン「CWC-CNG-500」を展開させる。

 そしてそのトリガーを引こうとするも、視界に蒼い、まるで月の光の様な刃が視界に──次の瞬間、<ハイパーアロイ>は自身のコアを突かれ機能を停止した。

 

 三十分ぐらいの出来事だった。

 イクスプロードが目を覚ました時、勝負は既に終わっていた。

「全く、ついつい寝ちまったぜ……。おかげで勝つとこ見逃しちまった。カネを貰って呑むか」

 イクスプロードは欠伸をすると、ポリポリと頭を掻きながら外へと歩いていった。レイヴンにエールを送りながら、アイアンマンに賭けた彼には負けが待っていた。

 所謂騙して悪いが、と言う奴だった。それを知らされたのは何気なく電光掲示板を見た時だった。

 しかし失った金額はほんの僅かだったし、そのカネも元々はポーカーで稼いだあぶく銭だったからそれを知った後も彼は何も言わず、むしろ良い方だったのかもしれない、と思っていた。

 

「勝ちましたね、シトオナ」

 その日の晩。全てがうまく行き、酒場で独り呑んでいたレイヴン──シオトナに、ポニーテールにパンツスーツ姿の女性が声をかけた。

「頼むから本名で呼ばないでくれ、ジェニー」

 シオトナは、グラスに注がれたストレートのバーボンをぐいと呷り、ジェニーと呼んだ女性の顔を見た。

 彼女はにこやかに微笑み、隣の席に腰を下ろす。彼女の胸が大きく揺れた。

 たぷんと。

 彼女の「コア」はミラージュ製の重量コアと例えるにふさわしく、世の男達を悩殺しかねないものがあった。

 それだけ彼女の「コア」は豊かであり、そのプロポーションと服装から来る凛々しさからか同姓にも羨望の目線を浴びせられている様にも見えた。

「何か用かい」

 シオトナがぶっきらぼうに問うと、彼女は首をかしげた。

「あら、あなたが私を呼んだんじゃないですか」

「そうだったか……?」

 シオトナの問いにジェニーこと、ジェニファーはYシャツのボタンを開き、豊満な胸元を僅かに見せた。それは彼女がとても上機嫌であるサインだった。

 その仕草を見たシオトナは仕方ねえなあ。とマスターに声を掛ける。

「マスター」

「何でしょうか?」

「お代は俺が持つから、飛びっきりの奴を皆に振る舞ってくれ」

 そう言うとシオトナは、札束をカウンターにぽん、と乗せた。マスターはちらりと札束を見て、頭を下げた。

「……畏まりました」

 これで良かったんだろ? と呟くシトオナに、ジェニファーは頷く。マスターの声に、酒場はいっそう賑やかとなる。そんな中、シオトナは思った。

 カネがあって、旨い酒があって、隣には素敵な美人がいる。これだからレイヴン稼業は止めれないぜ、と。




 AC6ばかり人気ですが、旧作のデザインも好き。

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