便利屋68と初詣を迎えてから数日後、先生はハルカの様子を伺いにハルカと先生の秘密の場所である廃墟に向かうと……

※自作の挿絵が載っています。
※pixivとのマルチ投稿を行っています。

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“おはよう、ハルカ”

 

「…………え?」

 

「あ!お、おおおおはようございます!先生!……えっと、え?あの…どうしてここに…?」

 

「あ、えっと、その……せ、先生に来てほしくなかったということではなくて!」

 

“ごめんね、急に。ちょっと近くまで用事があったから”

 

「そ、そうだったんですか……」

 

ゲヘナ郊外にある寂れた廃墟。風紀委員も不良生徒もまず寄り付かない私の秘密の場所は、つい最近ある方に知られることになりました。

 

シャーレの先生。私のミスによってこの場所の存在を知った先生は、いつしかこうやって時々様子を見に来てくださるようになっていました。

 

それにしても……

 

どうして、先生はわざわざ何度も足を運んでくださるのでしょうか……

 

決して先生を疑うわけではないけれど、ゲヘナ郊外のこんな辺鄙な場所まで、先生が出向くような用事が他にあるようには……

 

こんな薄暗くて、じめじめして、先生にとっては特に面白いものもないような場所なのに。

 

私のためではまず絶対にないとして……他に何か目的が……?

 

“今は植物のお世話をしてたの?”

 

「は、はいっ!」

 

「こ、この子たちは寒さには耐えられますけど……やはり植物なので、日差しとお水は必要不可欠なんです」

 

「なので、水やりをして……今日は1日快晴だそうなので、今からこの子たちを窓際に移動させようかと……」

 

“植木鉢を動かすの?”

 

「は、はい!その……日差しがみんなに当たるように配置したり、時間によって少しずつ移動させたり……」

 

「寒い日は鉢同士を近くに寄せたり、じめじめした日は、逆にそれぞれ離して置いてみたりしていて……その、そうしないと…カビが生えたり、病気になる子が出たりするかもしれないので……あっ、えっと……」

 

途中から、先生に聞かれてもいないことまで無駄に長々と話してしまったかもしれないと思い、私は恐る恐る先生の顔色を伺いました。

 

先生は、「そうなんだ。なるほどね」と納得がいったようにうんうんと頷かれていました。

 

“ハルカがこまめにこの子たちのお世話をしているから、みんな元気に育っているんだね”

 

“ハルカはすごいよ。本当に立派だね”

 

「……え、あ、いえっ、そんな……わ、私が好きでしていることなので……っ」

 

先生からお褒めの言葉をいただけるような、そんな人間ではありません……と言いたかったのですが、

 

先生はとてもまっすぐな瞳で私を見つめていらっしゃっていて。

 

お世辞や気を遣って出た言葉ではないことが伝わってきて……何も言えませんでした。

 

そんなただあわあわとすることしかできない私を見て、先生は優しく微笑みながら

「ハルカえらいえらい!ムツキのマネ」と頭を撫でてくださいました。

 

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「あっ、ああありがとうございます……う、うぅ……」

 

先生が、優しい言葉をかけてくださる時や、食べ物や飲み物を恵んでくださる時……そして、こんな風に頭を撫でてくださる時。

 

私は、どうすればいいのか分からず、ただ困ったような顔を浮かべてしまいます。

 

私のような人間にそんなことをしてくださる必要なんて何もないのに。

 

現に、私は今まで、先生から受けた恩を何一つ返すことが出来ていません。

 

それなら、せめて素直に感謝の気持ちを言葉にして伝えるべきなのに……私は………

 

“ハルカ、もしよかったらなんだけど”

 

“この子たちのお世話、私にも手伝わせてくれないかな?”

 

「……………え、えっ?」

 

先生からの突然の申し出に思わず反応が遅れてしまいました。

 

「そ、そんなそんなそんな!先生のお手を煩わせるわけにはいきません!」

 

「私一人で十分です!わざわざ手伝っていただなくても……!」

 

「あ、いえっ、先生に手伝ってほしくないというわけではなくて!その……」

 

あまりの恐れ多さから必死で断ろうとしたものの、途中でふと思いました。

 

先生はこの子たちのお世話を手伝うことで、園芸や植物に対する知識を深めようとしていらっしゃるのでは……?

 

思えば、先生は私がシャーレのカフェを訪れる度に食虫植物の植木鉢や楓の盆栽といった園芸植物を贈ってくださいました。

そのような決して安価ではないと思われる贈り物を、私なんかにおすそ分けするくらいに沢山お持ちでいらっしゃる先生が植物に関心がないわけがありません。

 

どうして今まで思い至らなかったんだろう。先生がこんな所にわざわざいらっしゃる理由なんて他にないのに。

 

それを私は、まさか自分の為に先生が手伝わせてほしいとおっしゃられたのだと勘違いして。

 

ああ……なんておこがましい。恥ずかしい。穴があったら入りたい。出来ることなら身体に穴を開けてでもお詫びしたい。

 

………でも、反省よりも先にすることがあります。

 

“………えっと、ハルカ?ごめんね、嫌だったら……”

 

「い、いえいえいえいえ!その、お申し出ありがとうございます!」

 

「わ、私が先生にお教えすることなんて何一つないとは思いますが……よ……よろしくお願いします!」

 

“うん、よろしくね。まずどうすればいいかな”

 

「えっと……隅に置いてある子たちを、窓際に運んでいただけると助かります……そうしていただけたら、その子たちは私が並べていきますので」

 

“今ハルカがいる所まで運べばいいんだね?わかった!”

 

「お、お願いします!」

 

先生に植木鉢を運んでいただいて、私はその子たちに日差しが満遍なく当たるように配置を行うことにしました。

 

先生が手際よく運んでくださるおかげで、作業はとてもスムーズに進んでいきました。

 

でも、多分それだけではなく……。

 

まさか、先生と一緒に私の好きな雑草たちのお世話を行う日が来るとは思っていなかったから。

 

だから、でしょうか……名残惜しく感じるくらい、あっという間に時間が過ぎていくようで。

 

先生が手伝ってくださっているから作業が効率よく進んでいるというのに、私はそれを残念に思っている……そのことに気が付いてしまって。

 

私は……なんて自分勝手で、恩知らずな人間なんでしょう。

 

(先生、すみません……すみませんすみませんすみませんすみませんすみません………)

 

“ハルカ、これで最後だよ”

 

「は、はい!」

 

せめて少しでも早く終わらせて、先生の貴重なお時間をこれ以上奪わないようにしないと。

 

と、気が急いていたからでしょうか。

 

それとも、先ほどから抱いていた邪な気持ちが行動に出てしまったのでしょうか。

 

先生の方を振り向いて植木鉢を受け取った……つもりが、

 

「…………?」

 

両手には、暖かくて、柔らかくも少しだけごつごつした部分もある……一言では言い表せない、そんな不思議な感触。

 

素焼きや陶器、もちろん金属製のバケツとも違う、

 

まるで、生き物のような…………

 

“……えっと……ハルカ?”

 

「…………え?」

 

先生が、少し困ったような、くすぐったがっていらっしゃるような、恥ずかしがっていらっしゃるような……そんな、今までに見たことがない表情をされていることによって

 

私はようやく……植木鉢を持った先生の手を覆うように、私の手が触れていることに気が付きました。

 

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「!!?&%$!$%!?!!!?!?」

 

“ハルカ!?”

 

勢いよく後ろに体をのけぞったあまり、バランスを崩して尻もちをついてしまいました。

 

幸い、後ろに並べてあった雑草たちも、先生が持っていらっしゃった植木鉢も無事のようでした。

 

“ハルカ、大丈夫!?痛いところはない!?”

 

「だ、大丈夫です!す、すすすみません!」

 

私が勝手に驚いて、勝手に転んでしまっただけなのに。先生は本気で私のことを心配して下さっていて。

 

その優しさに申し訳なく思ってしまい……そんな身勝手な自分に嫌悪感を抱いてしまいます。

 

「どこも痛いところはありませんし………あ、あれ?」

 

せめてこれ以上ご心配をおかけしないよう、すぐに立ち上がって無事であることを証明しようとしたのですが……

 

“ハルカ、それ……”

 

転んだ拍子に、以前カヨコ課長に直していただいた草履の鼻緒が再び切れてしまっていたようでした。

 

「え、あ……そんな……」

 

どうしよう……どうすれば。

 

あの時はその場ですぐに裁縫道具を使って直していただきましたが、私にはそんな技術はありませんし……そもそも道具が……

 

きっと……これも全て私のせいに違いありません。

 

皆さんから受けたご恩を、私はいつもこうやって台無しにして……

 

“ハルカ”

 

「……え?」

 

顔を上げると、先生が私に背中を向けてしゃがんでいました。

 

顔をこちらに向けて、両手を広げて……

 

“乗って。おぶってくから”

 

“今日はもう帰ろう?それじゃ歩けないだろうし”

 

“今日の植物のお世話はこれで終わったんでしょ?だから……”

 

「…………」

 

乗って。おぶってくから……

 

それはつまり……先生の、背中……に……

 

………………………

 

え。

 

「い、いえいえいえいえいえいえ!?!?」

 

そんな、そんなそんなそんな。

 

「い、いいいいけません!そんな、私が先生の背中に乗るなんて!そんなこと!!」

 

そんなこと、絶対にあってはならない。

 

“でも、それじゃあ歩けないよ?”

 

「だ、大丈夫です!怪我をしたわけではないので、問題ありません!そ、そそそれに、外を靴無しで歩くのは慣れてますので!なんてことありません!」

 

それこそ、アル様に助けていただく前までは毎日のように……

 

“……そんなの、慣れちゃいけないよ”

 

「…………あ、え?」

 

先生は少し俯きながら何か小声で呟かれていたけど、私には聞き取れませんでした。

 

でも、なぜだかとても悲しそうなお顔をされていて……

 

多分……いや、絶対に私のせいで先生を困らせてしまったのでしょう。

 

でも理由が分からない。どうして。間違いなく私が悪いのに。

 

このままだと私は……いつまでも先生に迷惑をかけ続けてしまうことに……

 

あぁ死にたい……死にたい死にたい死にたい……死なないと……

 

“ハルカ”

 

「………え?」

 

突然、ふわっと体が浮き上がるような感覚。

 

気付いたら、目の前に先生の顔が。

 

それに先生の腕が私の背中と膝の裏に……

 

えっと……今、私…、持ち上げられて……?

 

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“おんぶが嫌って言うなら、こうやって運んでくよ?”

 

…………………

 

「え、えええええ!?!?」

 

「だ、だだだだめです!!こ、こんな、先生にご迷惑が……!!」

 

“私のことは気にしなくて大丈夫だから”

 

「で、でもっ、その……こんな……っ」

 

“うーん……じゃあ、おんぶされるのとお姫様だっこ、どっちがいい?”

 

「え?あ、えっと……あ、……うぅ……」

 

おんぶとお姫様抱っこ……

 

そのどちらかを選ばなければならないのなら、私は……

 

私は………………!

 

 

………………

 

 

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“ハルカ、しっかりつかまっててね”

 

「……あ、は、はいっ!」

 

………本当に、これで良かったのでしょうか………

 

私なんかが先生の、先生の背中に……!

 

でも、先生が提案されたことなのだから、きっと先生の考えが正しいはず……いやそうに違いない……のですが……

 

“よいしょっと……”

 

私の体が先生によって持ち上げられる。

 

ということは、私の体重を先生が支えていらっしゃるということで、それはつまり……

 

……私が先生の負担になってしまっている……

 

「う、うぅ……」

 

せめてこうなることを予期して3日くらい前から何も食べなければ、少しでも先生の負担を和らげることが出来たのに……

 

“…………………”

 

「………………」

 

“ハルカ”

 

「は、はい!重いですよねすみませんすみませんすみません!!」

 

“最近、便利屋68の活動はどう?”

 

「え、……え?」

 

“最近みんなの様子を見れてなかったから。ご飯とか、ちゃんと食べてる?”

 

「ご、ご飯……ですか?」

 

先生からの突然の質問によって、初詣の時に私のお腹が鳴ってしまったせいで、先生にご飯を奢っていただいたことを思い出しました。

 

万が一私たちの食生活を先生に心配されたら、さらに先生のご負担が……

 

「あ、あの……えっと……だ、大丈夫です!最近は毎日三食食べられていますので!」

 

と言っても、一食分を三回に分けて食べていることもありますけど……

 

……嘘はついていません。

 

“……ん、そっか”

 

「………?えっと……」

 

先生は、どうして急に、そのようなことをお聞きに……

 

いえ、先生のことですから……きっと私には分からないような高尚なお考えが……?

 

“ところでハルカ、足の方は本当に大丈夫?”

 

“さっきは平気だったけど、今になって痛くなってきたとか……どこか切ってたりとか……”

 

“もしどこか痛むのなら、このまま病院に行って診てもらおうか?”

 

「い、いえいえいえ!大丈夫です!本当に!」

 

「どこも痛くありませんし、怪我も全く……!」

 

だからこそ、申し訳なく思ってしまいます。

 

体はどこも無事で、痛い所なんて何一つないのに。

 

先生に、こんなことをさせてしまっていることに。

 

“そっか……良かった。本当に”

 

“ハルカが育ててきた植物たちも無事だったし、草履だって、直せば済むことだし”

 

“何より、ハルカに怪我が無くて良かった”

 

「で、でも……私は…先生に、多大なご迷惑を……」

 

“ハルカ”

 

“私は、今までにハルカのことを迷惑だなんて思ったことは一度だって無いよ”

 

“それよりも私は、私の目の届かない所でハルカが1人で頑張りすぎてたり、無理してないかどうかの方が心配かな”

 

「え、えっと………?」

 

“この前の初詣で会った時、いつもよりハルカの顔色が悪いなって思ってたから”

 

「……あ!え、えっと、それは……!」

 

初詣の直前まで、私は工事現場のアルバイトで毎日早朝まで働いていました。

 

確かにいつもより大変なこともあったし、特に朝は眠くて仕方がなかったけれど……無理というほどではなかった……と、思います。

 

「あ、その……アルバイトの方はもう辞めたので、大丈夫です!」

 

でも、先生にご心配をおかけしてしまうなら。

 

私の方が間違っているに違いありません。

 

“そっか、良かった。健康が一番だからね”

 

“働くことはとても立派だし、お金ももちろん大切なものだけど、くれぐれも無理は禁物だよ。せめて今くらいはゆっくり休んで”

 

「…ぅ、……あ、あの……」

 

「ど、どうして先生はそんな、そんなに……私に…」

 

優しくしてくださるのでしょうか。

 

何度お聞きしたか分からない質問。

 

その度に先生はお答えしてくださるものの、私は未だにその意味を理解できていません。

 

“ハルカは、私の大切な生徒だから”

 

大切な、生徒………

 

先生は、そうおっしゃってくださるけれど……

 

本当に、そうなんでしょうか……私なんかが……

 

“それに……”

 

“ハルカとは前に約束したからね”

 

約束……

 

「あ……」

 

───その着物を着るときは、あまり無理をしないで。

 

───風邪を引きそうになったら、暖かい場所に行くこと。

 

前に、先生と交わした約束。

 

“私の方から言っておいて、反故にさせる訳にはいかないからね”

 

“ハルカは、みんなに迷惑をかけちゃいけないって思っているのかもしれないけど……”

 

“私は、もっとハルカに頼ってもらえたら嬉しいな”

 

“もちろん、何も用事がなくたって連絡してくれたら嬉しい”

 

“前にも同じことを言ったかもしれないけどね”

 

「で、でも………」

 

それでは私は、先生にご迷惑をおかけし続けることに……

 

“ハルカ”

 

“ハルカは、便利屋のみんなの力になれたら嬉しい?”

 

「は、はい!もちろんです!」

 

“それと同じことだよ”

 

“ハルカが自分の大切な人たちのために頑張ることが全く苦にならないのと同じように”

 

“私も、ハルカの助けになりたいし、頼ってもらえたら嬉しい”

 

“だから、全然迷惑だなんて考えなくていいんだよ?”

 

「……あ………」

 

大切な、人……

 

「せ、先生も……そう、なんですか……?」

 

“うん、もちろん”

 

そんな……そんな風に、言ってくださるなんて。

 

先生は……キヴォトス中の色んな問題を解決してきて……

 

いつも忙しそうにされているのに、私みたいな出来損ないにも優しくて……

 

「先生は……神様なんですか?」

 

“そんな有難がられるような存在じゃないよ。私は”

 

“もちろん万能の超人でもないから、一人じゃ何も出来ない”

 

“だから、いつも皆に助けてもらってるんだ”

 

“ハルカにもこれまでに沢山助けられてきたしね”

 

「……え?いえ、そ、そんな……」

 

私が、先生の助けにだなんて……

 

“本当だよ”

 

“だからこそ、ハルカにはむしろわがままになってくれた方が安心できるかな”

 

「わ、わがままに……?」

 

“もちろん、無理にとは言わないけどね”

 

“ハルカが自分にとって大切な人たちのために頑張れるのはとても素敵なことだと思うけど、それと同じくらいに、自分を大切にしてほしい”

 

“ハルカが、誰かのためだけじゃなくて、もっと自分の幸せのために生きてくれるようになったらいいなって”

 

“あはは、ちょっと大げさな言い方だったかも”

 

私の、幸せ……

 

もし、そんな分不相応なことが許されるなら、それを願うことで、先生が安心してくださるなら、私は……

 

「せ、先生!」

 

「そ、その、……お、お願いしたいことが!」

 

「あ……いえその、す、すすすみません何でも……」

 

“ハルカ”

 

「は、はいっ!」

 

“ハルカは、どうしたい?”

 

「あ………」

 

「そ、その……」

 

“うん”

 

「い、今の私のままでは……一生をかけても、たとえ来世になっても、今までに受けたご恩を全てお返しすることは出来ないかもしれません……」

 

───ハルカはまだ、たくさん失敗して良いんだよ。

 

前に、先生がかけてくださったお言葉。

 

あの時、私はその意味がよく分からなかったけれど……

 

今なら……少しだけ、分かったような気がします。

 

「もっと、努力して……少しでも先生の力になれるよう、頑張ります……!」

 

「で、ですから……」

 

「もし……もし、先生がよろしければ……」

 

「その……これからも、先生のお側にいさせていただいても………よろしいでしょうか……?」

 

“うん、もちろん。これからもよろしくね、ハルカ”

 

「は、はい!よ、よろしく……お願いします!」

 

とても恐れ多くて、図々しくて、大胆で、わがままで……本来私なんかには絶対に許されないような、過ぎたお願い。

 

でも、この時はどうしてなのか……ためらいも無く、口にしていました。

 

「先生……本当に、ありがとうございます……」

 

「……へへ、……えへへ………」

 

………………

 

………………

 

………………

 

“ハルカが言ってたように、今日は暖かいね”

 

“風もほとんど吹いてないし、なんだか春みたい”

 

「はい………」

 

先生の背中……広くて、とても暖かくて……

 

アル様達と一緒の布団でお休みさせていただく時のような安心感と、

それとは真逆の、胸が高鳴るような感覚があって……それなのに、どうしてか不思議と心は落ち着いていて……

 

申し訳ない気持ちや、少し恥ずかしい気持ちもあったのに……今は、何も考えられないくらい気持ちよくて……

 

───でも、くれぐれも無理は禁物だよ。せめて今くらいはゆっくり休んで。

 

先生も……そう、おっしゃっていたのだから……

 

少しだけ……今だけなら、ほんの少しお休みしても…………

 

……………………

 

あ、……だめだ、いけない。このままだと………

 

先生の、ご迷惑に………

 

でも……暖かくて……心地よくて……

 

このまま…………ずっと…………

 

…………………

 

……………

 

………

 

 

 

“…………ハルカ?”

 

しばらくの間無言だったので、声をかけたが返事がない。

 

もしかして、やはりどこか痛めているのを我慢しているのかもしれない。

 

「…………」

 

ふと耳を澄ますと、首元から微かな寝息が聞こえてきた。

 

“…………おやすみ、ハルカ”

 

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背中の温もりを感じながら、彼女がこのまま穏やかな時を過ごせるよう、ゆっくりと便利屋68の事務所まで続く道を歩いていった。

 

…………………

 

…………

 

 

 

 

「ハルカちゃーん!おっかえりー!……あれ?」

 

「あら?先生……?」

 

“や、お邪魔するよ”

 

「ん……んぅ…………」

 

「あ、ハルカもいた」

 

「あはっ♪ハルカちゃん寝てるー!」

 

“あはは、疲れてるみたいだから、もうちょっと起こさないでいてもらえるかな?”

 

「……ふふっ、経営顧問である先生に運んでもらっておきながらこんなに幸せそうな寝顔を浮かべて……ハルカもアウトローというものの何たるかを理解してきたようね。」

 

「いや、全然そんなことはないと思うけど……」

 

“あ、カヨコ、ハルカをお願い”

 

「あ、うん……んしょっ……と」

 

“それとこれ、差し入れ。みんなで食べて”

 

「わ〜!ありがと〜先生!」

 

「えっ、こんなに……?」

 

“アル”

 

“どんな職業でも、一番大事なのは健康であることなんだ”

 

“体が資本って言うようにね”

 

“だから、何か困ったことがあったらいつでも言ってね”

 

“これは便利屋の経営顧問である前に……先生としての、お願い”

 

「先生……」

 

“じゃあ、私は仕事が残ってるから、またね”

 

「えーっ!先生もう帰っちゃうの~!?仕事なんか後回しにしちゃお?ダメ~?」

 

“あはは、ごめんね。また今度おじゃまするよ”

 

(ドアが閉まる音)

 

「あ~あ、先生本当に帰っちゃった~」

 

「……どうして気付かれたのかしら……」

 

「我が便利屋68が、日々の食事にも満足にありつけないレベルの、未曾有の経営危機に瀕していることに……っ!」

 

「……まあ、割といつものことじゃない?」

 

「アルちゃん……ひょっとして本気で言ってる~?」

 

「な、何よ!」

 

「大体、暖房費がもったいないからって、みんなで半纏を羽織って過ごしてるのを見られた時点で……」

 

「なんかアウトローっていうより〜、アットホームって感じ?それともアウトレット?くふふっ♪」

 

「ああもう、うるさいわよ!?」

 

「………ん、……うぅ……」

 

「ちょっと、社長」

 

「アルちゃ~ん?うるさいのはどっちかな~?」

 

「う……わ、悪かったわよ……ごめんなさい……」

 

「ハルカちゃん、アルちゃんがうるさくしちゃってごめんね~?よしよし♪」

 

「ん……?んぅ………」

 

「……なんだか、初めて見たかも。ハルカがこんなに幸せそうに寝てるの」

 

「本当ね……どんな夢を見てるのかしら……」

 

「ん………へへ……」

 

「………えへへ……ありがとう……ございます………」


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