部屋の隅に追い込み、噛みつく
らしいです。
それをそのまま文章にしました。
とある記者は、ドリームジャーニーについて、このように語っている。
「彼女は、まるで【部屋の隅に追い込んでから捕まえる】ような、とても計算高く、賢いウマ娘である」
彼女にとって、一人のトレーナーを追い込むことなど、朝飯前なのかもしれない。
例えばこうやって──
「トレーナーさん、少しよろしいですか?」
「ああ、構わないけど」
「実は……」
ジャーニーは精一杯背伸びをしながら、耳打ちし、トレーナーはかがみながら話を聞く。
「資料室の掃除を手伝って頂きたくて」
別に耳打ちする必要のない内容のようであるが、トレーナーは特に疑問に感じなかった。
「先ほど、棚の本を取ろうとしたら、本が崩れ落ちてきてしまいまして……お恥ずかしい話ですが」
「大丈夫?怪我はなかった?」
深刻な声でトレーナーが心配する。
「はい、そこは問題ありません。ご心配ありがとうございます」
「それで、話の続きですが、実はその資料室が、少し一人で片付けるのは大変でして……手伝っていただけると幸いなのですが」
「なるほど。わかった。一緒に片付けよう」
──
資料室は、学園の校舎の端に位置しており、過去の生徒のデータや学園の歴史など、特にトレセン学園についての資料が保管されている。特段一般生徒の立入禁止などの制限はなく、特定の資料以外は誰でも閲覧することができる。
それでも利用者は少ないので、学園内で知っている者も少ない。
「こちらです……」
「うわあ……」
部屋の中は、重そうな本や、桜の花びらのように散らばった紙の資料の束などで海ができており、床が見えないほどに散乱している。
「取り敢えず、戻せるものから戻していこう」
「はい」
カチャン、と扉の方で音が鳴るが、トレーナーは気にせず、資料を拾い始める。
「そういえば、君はなぜ資料室を利用してたんだ?」
「それは……海外遠征について、学園の過去の資料を調べたいと考えていまして」
「なるほど」
カチッと、まるで歯車が噛み合った時計が動きだすかのように、部屋の中の状況が変貌する。
流石に、何かがおかしいと感じたトレーナーは、ふと周囲の様子を見回す。
扉から最も離れたところで、片付けを行っている。そして、部屋の中心でジャーニーがぽつんと立っている。
資料室の、直射日光を避けるためのように作られた、小さな窓から差す光が、彼女だけを照らしており、それがまるで一つの絵画のようでトレーナーは見とれていた。
しかし、彼はこの部屋の不気味さが気になっていた。
「ねえ、これもっと人を呼んで、手伝ってもらったほうがいいんじゃないかな?」
「それをするのもアリだとおもいます。まあ【できるのであれば】の話ですが」
ここでトレーナーは察する。してやられた。もう手遅れだと。
「……それはどういう意味かな?」
少し強がりながら質問する。自分でもわかりきっていることをあえて聞くのは、変な気分がするが、そうするしかなかった、そうすることぐらいしか、抵抗はできなかった。
「本当はトレーナーさんもわかっているのでしょう?」
「……なんのことか」
「無理をしなくてもいいのですよ。すでに【チェックメイト】ですから」
「やはりか。…………君が俺に向ける【感情】はなんとなく理解していた」
「では、なぜ私から離れようとしなかったのですか?」
「離れられないと思っていたのもあるし、……もしかしたら俺はいつからかそれを受容していたのかもな」
「それはそれは、頑張った甲斐がありました」
ジリジリと、ジャーニーは近づいていく。
「トレーナーさん、覚悟はできていますか?」
「ああ、好きにすると良い。どうせここは助けも来ないのだろう?」
「ええ……それでは失礼して」
トレーナーは壁もたれかかるように座り、ジャーニーは彼に覆いかぶさるように、して、顔をトレーナーの首に近づける。
「いただきます」
一瞬、首に歯のような、硬い感触があったと思ったが、すぐに鈍い痛み、実際に見てはいないが、軽く出血しているような、温かさが首の神経を伝って、トレーナーの脳に伝わる。
「部屋の隅に追い込み、噛みつく」
それがドリームジャーニーを表す言葉。