キヴォトス大陸召喚 作:召喚人
――――ミレニアムタワー・エントランスロビー
会談の翌日の朝、ミレニアムタワーのエントランスロビーでは、日米の関係者と恐らく次の会談相手になるであろう、連邦生徒会の人物との間で簡単な打ち合わせが行われていた。
「それではこちら側でも政府と協議の上、日程を決めさせて頂きますが、恐らく最低でも一ヶ月は掛かる見込みです」
「了解致しました。こちら側としても各学園への説明や人員収集のために時間を要しますので、丁度良い時期かと」
「では準備ができ次第、会談の要請を行わせて頂きます。それでは今度はキヴォトスの中心地でお会いしましょう」
そう言って日本全権大使の田上と米国全権大使のブレンドンは交代交代にリンやその他連邦生徒会関係者と握手を交わした。
「先生殿も良ければ握手を」
「私みたいな者でもよろしければ……」
「いえいえ、貴方はどうやらキヴォトスの中でも有数の権力を持つ、特別な方と伺いました。我が日本国として、先生殿とは良好な関係を築いていきたいと思っております」
「我がアメリカ合衆国も同意見ですよ。Mr.ティーチャー」
田上とブレンドンはお互いに先生との良好な関係構築を目指すと公言し、それぞれ硬い握手を交わした。
「では私どもはそろそろ時間ですので、ここら辺りで失礼致します。お顔合わせができただけでも、有意義な時間でした」
そう言い残すと、リンと先生ら連邦生徒会の関係者らは外に停められた車に乗り込むと、空港の方角へ走り去って行った。
「……ブレンドンさん、"先生"についてはどう思われますか? 」
「周囲の反応を見る限り、恐らく悪人では無さそうですが……。まぁ流石にいろいろと不自然過ぎますね。少なくともCIAの調査リスト入りは免れないでしょう」
「確かに、手放しで信頼出来る人物ではないでしょうな……。なによりも権力の規模の大きさが不自然すぎる気がしてなりません」
田上とブレンドンがそんな物騒な話をしていると、すぐ後ろから短いベル音が鳴る。
どうやらエレベーターがエントランスロビーに到着したようだ。
「おはようございます。連邦生徒会の皆様とのお話は終わりましたでしょうか? 」
ベルの音と共に、ドアが開いたエレベーターの中から出てきたノアがそう聞いてきた。すぐ後ろにはユウカの姿も見える。
「ノアさんとユウカさん、おはようございます。この度は大変お世話になりました」
「いえいえ、頭を上げてください。私たちはただ前に立って話しただけですので」
お互いに会釈しながら挨拶を済ませると、互いに今日のスケジュールの確認を行う。
「それでは、今日のご予定は該当機の搭乗員の皆さんとの面会と、該当機の現物確認となっておりますが、お間違いないでしょうか? 」
「ええ。こちら側のスケジュールでも概ねそうなっております。大きなズレはないでしょう」
「それでは、そろそろお時間なりますので移動しましょうか。表に車をご用意しております」
「何から何までそちら側でご用意させて貰って、大人として面目ない……」
「大切な、それも外の世界からのお客様ですのでこのぐらいはさせて頂かないと。さぁ、それでは参りましょうか。ユウカちゃんはお留守番、よろしく頼みますね」
どうやらユウカは他の仕事があるようで、あくまで見送りだけのようだ。
貴重な時間を縫ってまで見送りの挨拶をしに来てくれたユウカに感謝の気持ちを伝えた一行は、エントランスロビーを後にする。
外に出ると、すぐ目の前には黒色の2台のSUVと、それに挟まるようにセダンが2台、計4台による車列が待ち構えていた。
日本の某高級自動車ブランドのデザインと酷似したそれは、特徴的な銀メッキのスピンドルグリルを太陽光に反射させ、威圧的な雰囲気を放っていた。
「田上さんとブレンドンさんは車列2台目のセダンにお乗りください。他の方々はその後ろのセダンにお願いします。先頭と最後尾のSUVはセミナーから派遣した護衛の保安部員が乗車します」
そうノアに案内され、それぞれが指定された車に乗り込む。
車内は特段変わったところはなく、政府関係者である彼らにとっては幾分か馴染みのある空間であった。
五人乗りのセダンの車内には後部座席に田上とブレンドンとそのSPの3人が、助手席に案内役のノア、運転席には人型のロボットが座っていた。
昨日の会談でも軽く説明されたが、どうやらキヴォトスにはヘイローを浮かべた少女の他にも、前でハンドルを握っているような人型のロボットや、二足歩行する犬や猫のような種族、いわゆるところの獣人などが主に生息しているようである。彼らは普通の人間のように自我を持ち、種族間を越えた会話も普通にできるそう。
また、これらのロボットや獣人は、ヘイローを持った少女ほどでは無いが、それでも地球人とは比べ物にならないほどには頑丈だという。
これは暫くの間、地球の生物学者は大忙しだな、などと考えている内に、いつの間にか車は発進していたようだ。
「とても静かですね。電気自動車ですか? 」
「はい。自動車メーカーとミレニアムの部活が提携して開発した新型のモーターを採用しているんですよ」
「ほぉー。それは凄い。地球でもこれほどの代物は中々ありませんね」
今となっては世界的に普及している電気自動車だが、それでもここまでの静音性と乗り心地を両立できているメーカーは少ない。
ましてやそれを少女たちが開発したというのだから、質問をしたブレンドンのみならず、隣で話を聞いていた田上までもが、思わず感心の言葉を自然と口にする。
暫く雑談をしながら市街地を走行していると、右側に一際目立つ高層ビルが現れた。
ビルの高さこそミレニアムタワーの半分程度だが、それでも100mは優に超えており、なによりも目を引いたのが、ビルにもう一つのビルが横倒しになったような形で突き刺さったかのような、独特な形状だった。
「凄いデザインのビルですね……。あれはどのような建物なのですか? 」
「このビルはデータセンターですね。ミレニアムの重要なデータ等は全てここに保管されています。その他にもスパコンなどもここに保管されていますね」
「なるほど。いやー、面白い。まさかいきなり現れた大陸にこんな場所があるとは……」
データセンターの他にも、大型のショッピングモール程はあるだろう売店や、東京ドーム数百個分の規模を誇る発電所など、外の世界の彼らにとっては、新しい発見の連続であった。
***
――――ミレニアム・郊外
出発から約一時間弱。
一行らの車列は、本来乗るはずだった高速道路が事故により封鎖されてしまっていため、ミレニアムの中心地から外れた、郊外にある道路の使用を余儀なくされていた。
「それにしても、このタイミングで高速道路が大規模な事故で封鎖されるとは……」
「申し訳ありません。本来ならばこのような、あまり整備されていない郊外道路を使用するのは本望では無かったのですが……」
「いえいえ、お気になさらず。むしろ素早い対応に感謝しております」
郊外ともなれば特に見所も無く、ノアの解説も殆ど無くなってしまった。
民家や飲食店、無駄に広い駐車場を持つコンビニが途切れ途切れに建っている風景は、地球上のありとあらゆる"郊外"と何ら変わりは無かった。
性別も、人種も、所属もそれぞれ違う人物同士が集まった車内はやがて無口になっていき、各々がノートPCやらメモ帳やらを取り出して、各自の仕事を進めようとした時だった。
――――ヒュオッ
何かが高速で発射されたような、風切り音が小さくだが、確かに聞こえた。
下がり始めていたそれぞれの頭が反射的に上がり、前を向いた頃には、もう既に前方のSUVが爆発していた。
もはや原型を留めていないそれは、少なくとも自然によって発生した事故では無い、意図的な、何者かによる大掛かりな攻撃が行われた事を暗示していた。
「伏せてください!!」
ノアが今まで聞いたことないような声量でそう叫ぶ。
田上は鞄を、ブレンドンはノートPCを頭に抑えつけ、シートの後ろに体が収まるように体を丸め込む。すぐ隣のSPは何やら無線で話ながら腰のホルスターから9mm拳銃を抜き出した。
「なにしてるんですか!! 早くバックを!!」
非常事態にも関わらず、いつまで経っても車を動かそうとしないドライバーをノアが怒鳴りつける。
しかし、それでもドライバーは小さく呻き声を上げ、シフトレバーを震える手で撫でるだけで、何も行動を起こさない。明らかにパニックを起こしているその様子は、何かに酷く脅えているようだった。
「お、おい待ってくれ! この音は……」
いきなり後部座席で臨戦態勢を取っていたSPが声を上げる。
そしてそれとほぼ同時にノアも何かを察知したのか、段々と、いつもの冷静沈着な余裕そうな表情が、まるで嘘かのように青ざめていく。
地面が僅かに振動するのが車内越しにも伝わってくる。
そして車のエンジンにしては、明らかに不自然な、低くうねるような音が段々とこちらに近付いてくる。
「嘘……」
ノアがそうポツリと呟いたのと、SUVの残骸を押しつぶしながら戦車が目の前に現れたのは、ほぼ同時であった。
セミナーオオフトモモが空気ですね……。次回では頑張って沢山喋らせます。