TCGアニメの世界で硬派なドラゴン使いになりたいのに、美少女カードにしか縁がない 作:織葉 黎旺
『遂にこの時が訪れました────ッッッ!!
「…………」
目の前には、目出し帽を被った巨漢が立ち塞がっている。手には斧、その剝き出しの目は血走り、まばたきなんかは一度も行われていない。
「うおー、殺せーっ!」
「血を見せろォォ!」
「勝て強欲龍! お前にいくら賭けたと思っているんだ!」
「……俺、いままでで一番命の危険を感じてるかも……」
「え~~~、このくらいなんてことないでしょ~~~?」
経験による慣れか、はたまた生来の気質か、ふに子はどこ吹く風でのほほんと観客席を見ている。
どこを見ているのかとその視線を追ってみれば。
「龍くん、ふにふに、がんばえ~」
「……なんだアイツ」
気怠そうな顔をした皇凪が、こちらに巨大な団扇を振って声援を送っていた。
「てかなんだよあの団扇。ふに子の顔描いてあるけど」
「推し活団扇だよ~~~。なんか流行ってるんだって~~~」
「剣闘士に使うもんじゃないだろ」
アイドルか何かだと思ってる? 下手すると振ってるソレが遺影になっちゃうけど。
まあ、皇凪からの激励だと思おう。十中八九ふに子への煽りだけど。
「まあ、煽りだろうがなんだろうが、あたしたちは勝つけどね──でしょ? ますたー」
「ああ──勿論」
『今回の処刑に用いられるのは、短剣ではなく盤面! 見せるのは剛腕ではなく手腕! 神でなく紙に祈る準備はできたか~~~ッ!? それではみんな、コール行くぞ!!』
『レッツ・ストラグル!』
会場全体をびりびりと震わすようなコールが聞こえた。微かにしていた緊張が、その言葉でほどけた。
「俺のターン、ドロー! アップ、エナチャージして、俺は手札から《トラベル・ドラコキッド》を中央右に召喚!」
『ぎゃうっ』
俺の場に、重そうな旅行鞄を抱えた竜の仔が出現し、それから盛大に転けて鞄の中身をぶちまけた。
「《トラベル・ドラコキッド》が出た時、山札の上から1枚をエナチャージする! 俺はこれでターンエンドだ」
「……オ……の番…………」
対面の大男、
「……ふ」
「どうしたの、ますたー?」
「いや、あんまりよくないんだけど、少しだけ安心したからさ」
カードゲームにおいて、所作というのは割と実力が出やすい。
各処理での宣言がハッキリしているかどうか。一つ一つの動作に無駄がないか、など。
武術の達人が構えや型で実力を図るように、カードを繰る仕草は重要なファクターの一つである。上級者ほどシャッフルやカードの移動は素早く、澱みない。
別にそれがすべてではないが、所作から読める物はある、というだけの話である。逆もまた然りだし、アテにはならないけど(いくらシャカパチが上手かろうが、下手な人は下手)
「勿論だからといって慢心はしないし、全力で戦うつもりではあるけど」
「へ~~~、まあこの距離なら見えなくてもしょうがないか~~~」
「……何の話?」
「や、いまますたーが言ってた特徴の話~~~」
言われて、改めて対面を見る。未だエナ置きにすら悩んでいる様子の大男だが、見えないっていうのは一体──
「声が小さいのは喉が潰されてるからで、動作がのんびりなのは指の数が足らなくてカードが上手く繰れないからだね~~~」
「……あー、なるほどね…………」
いやこっっっっっっっわ!!!!!!!
手慣れてない初心者かな? (笑)みたいな想像を張り巡らせていた自分が愚かすぎる!! 手慣れてないってか指がないし、なんだったらかなり歴戦の猛者!!!
「ま~~~腕っぷしと頭脳は比例しないし、案外ますたーの考えも外れてはないんじゃない? 少なくとも、
「…………お………………い」
処刑人は、自身の体を指さして言った。
「すぐ…………こう………………なる」
いやいやこっっっっっっっっっっわ!!!!!!!!!
目が血走ってるし笑顔が獰猛で恐ろしすぎる!! 本当に絶対負けられない試合になってきた!!
「手…………使用…………召喚…………右…………」
俺が覚悟を決めなおすと同時に、処刑人は3コスト支払って《振り子の大鎌》をプレイした。
処刑器具じみたビジュアルに、かなり嫌な予感を覚えた。
「……効果………………」
「うおっ!?」
名前通りの振り子運動でこちらに向かってきた《大鎌》が、紙一重で俺の手札1枚を掠めていく。
「デス…………終了……………………」
「……俺のターン!」
見た目に反して、かなり理性的な動きだ。
《トラベル》のBPは2000、対する《大鎌》のBPは3000。攻撃を宣言すれば概ねライフかスピリットを削れる、にも関わらず安易に攻撃を宣言せず、敢えてスピリットを残した。
前言撤回だ。舐めてかかって勝てる相手ではない。
「エナをチャージして、5コストで中央左に《龍の舞巫女》を召喚! 効果で自分の場の龍の数、つまり2枚を山札からエナチャージ! このままアタックフェイズだ、《舞巫女》でプレイヤーに攻撃!」
「……受………………」
《舞巫女》の放った数枚のお札が、処刑人を襲った。
「続けて《トラベル》で攻撃!」
「……守………………反……起動…………」
「なっ!?」
ブロックし、破壊された《大鎌》が吹き飛び、俺の手札を掠めとっていく。処刑人が使用したのは《報復絶倒》。コスト4以下のスピリットが破壊された時、その召喚時効果を発揮するカウンタースペルだ。これによって俺の手札は残り1枚まで削られる。さっき動かなかったのは、このコンボを狙っていたからか。
「く……ターンエンドだ」
「オ……の番…………」
処刑人は、また緩慢な動作でフェイズの処理を進めていく。先程までは侮っていたソレが、今では丁寧に思考を進めながら、相手を処刑台へと運ぶための準備なのだとわかる。
「黒1……《闇取引》……デス…………黒2……《両成敗》、破壊…………」
「く……」
《闇取引》の効果でお互いに手札を捨て、《両成敗》の効果でお互いにクリーチャーを破壊することになる。が、スピリットがいるのはこちらのみであるため、俺のみが一方的に《トラベル》を破壊されて終わった。
「……軽減…………4…………」
場に、嫌なオーラが充満する。どこか重くなる空気に耐えながら、処刑人が動かしたエナの行方を追えば、盤面の端に黒い影が顕現する。
「来…………《咎人を喰らう闇》………………ッ…………!!」
『ヴオオオオオオッ!!!』
禍々しい咆哮とともに、盤面に人型の黒い影が出現する。影が放つプレッシャーに、会場からは悲鳴すら上がった。
「《咎》って、いくらなんでもそれは濡れ衣過ぎるだろ…………!」
《咎人を喰らう闇》は、お互いの手札が少なければ少ないほど召喚コストが減少する。自分の動きを通すためには仕方がなかったとはいえ、結果的には対面の利に繋がってしまった。
「時効果…………山墓地………………出………………!」
「なっ!?」
《闇》は、処刑人のデッキ上5枚を墓地へ送ると、墓地にいたスピリットの中から1体を選んで『特殊召喚』する。これによって追加で《咎人を喰らう闇》が現れた。
幸い、そのまま連鎖しての大量展開とはいかなかった。しかし《咎人を喰らう闇》のスタッツは、BP8300/3の『2回攻撃』持ちと、そのままでも十分強力なファッティだ。
「……攻…………《闇》、《巫女》………………!」
暗き闇が巫女の身体を覆い包み、それが離れる頃には彼女の姿は消えていた。
「《闇》…………人…………!」
「く……うわあああ!?」
手札も盤面もない状況では何の抵抗も叶わず、一気に9点分の攻撃が俺を襲った。
ダークデッキケースやマッドデッキケースを用いない、普通のストラグルであっても、強大な力を持つスピリットの攻撃は、プレイヤーの肉体や精神に限りなくリアルに近い衝撃を与える。
それを
「…………俺のターン」
それでも、ここで負けるわけにはいかない。
震える指をデッキにかけて、勢いよくカードを引く。
「ドロー! 《ドラゴン》3エナ含む8コスト、俺は手札から《
「お仕事の時間だね~~~」
『ワァ────────!!』
現れたのは、フードを被ってどこか陰を帯びた表情のふに子。
大人気剣闘士の登場に、会場のボルテージが上がっていくのを感じる。だけどまだまだここからだぜ。
「《強欲龍》の召喚時効果! 相手のスピリット1体を選んでエナに送る!」
「簒奪の時間だよ~~~ん」
「…………ア……………………!」
ふに子が軽く腕を振り上げると、地面から生えた苗木が《闇》1体を巻き込みながら成長し、そのまま巨木ごとエナへと変換された。
「更にこの時、選んだスピリットの召喚時に発揮される効果を、そのまま使用することができる! 山札の上から5枚を墓地に送り、俺は墓地から《
『FRUAAAAA!!!』
神々しい雄たけびを上げながら、荒らされし泉の主が出現する。
「お前に捨てさせられた手札から、出させてもらったぜ。《大蛟》は場に出るときに俺のライフが相手よりも少ない場合1枚引き、3点以上少ない場合『ドレイン』、5点以上少ない場合『3回攻撃』を得る!」
《大蛟》の纏うオーラが、より澄んだ神々しいものへと変わっていく。そしてそのまま、その気は口内へと収束されていく…………!
「アタックフェイズだ! 《大蛟》で
「……グ…………!」
《大蛟》のクオリアは2。処刑人のライフを削りきるには至らないが、それでもまだこちらには相棒がいる。
「《強緑龍》で、攻撃!!」
「じゃあね、狭い世界! あたしは自由だよ~~~!」
ふに子の飛び蹴りが、箱庭の中の門番を破った。