続きです。
炎柱稽古は、鬼殺隊試験を受けるために積んできた稽古とは比べ物にならない長く苦しい
目隠しをした状態で地面に波紋を走らせ、相手の動きを事前に感知して避ける。始まった初日の午前中はゆっくりと行われた稽古だが、午後からは槇寿郎さんが木刀で炎の呼吸を使いながらの連打。体外に波紋を常に流していることから、必然的に体に使える波紋の量は半分、普段のパフォーマンスの半分以下の状態で、一時間槇寿郎さんの攻撃を避けたらクリアという鬼畜難易度。
感覚を掴むまで一ヶ月は掛かったかもしれない。
次に槇寿郎さんに用意してもらったハチミツを波紋によって形を変えて武器や拘束具、瞬間的な防御に使う稽古を、
無論回数を重ねるごとに、槇寿郎さんが波紋のコツを掴んでいき、炎の呼吸と併用して波紋を体に作ることも出来てしまい、一向に波紋が切れないことから半年以上経った後は、三時間逃げ切る内容に変わった。
というか今の槇寿郎さんは緑壱殿や悲鳴嶼さんがどれほど強いか分からないが、歴代最強を名乗ってもいい気がしてくる。実際に見ていないから二人の強さは分からないけどね…。まぁしかし槇寿郎は真正面からだけど、超新星を全て切り払えるほどだからね…。あの動き、明らかに原作より強くなってるよ。
そして何より、地獄だと感じた稽古よりもっと体感したくない瞬間は槇寿郎さんと任務に行って、俺が片腕を無くして帰ってきた夜だった………。
◆◆◆
「おーい、帰ったぞー」
「ただいま戻りましたー」
玄関の扉をガラガラと音を立てて何事もなさそうに元気よく帰ってきた二人を出迎える。
「ッ………」
私は思わず息を呑んだ。夫の方はほとんど無傷だが、問題は最近家で面倒を見ている夫の友人。
人懐っこく、歳がほとんど離れていない事から私も夫も歳の近い弟みたいに接していた八城條景くん、その彼の左腕が無くなっていた。
「…どうしたの、その傷」
「はは、お恥ずかしいながら鬼の攻撃で失ってしまいまして、この通りに…あ、でも利き手じゃないだけ良かったのかも_」
夫から「馬鹿、お前…」とも聞こえた気がするが、親からもらった大切な体が欠損したというのに、悲しむこともなく、あまつさえ"良かった"と口にした彼に、最初に感じたのは心配だった。
彼は現在天涯孤独という…今の彼を心配してあげられる人は、肉親に居ないのだという。その事実から、一気に彼の立場が悲しくなった。
一人で強がるしかない彼は、内面的支えでは家族の誰からも助けてもらえない。その事実を想像して、私は不意に目から頬にかけて涙が伝った。
二人がオロオロとするが、彼は強がってから「俺は大丈夫ですから」というが、大丈夫なわけないじゃない。
「今、貴方と親との繋がりはその身体だけなのよ…それを失って、辛くないわけないじゃない」
肩に手を置き、條景くんを正面から見ると、私の思いにハッとさせられたのか條景くんは、顔を歪めて、大粒の涙を流した。
片手で顔を隠していたが、鼻を啜る音と嗚咽が漏れる事から、やっぱり彼も苦しかったのだろう。
「今はいっぱいお泣き…私たちが貴方を支えてあげるから」
夫も彼に寄り添い、その行動と言葉にホッとした様で、彼は小さく頷いた。
◆◆◆
あの夜は、自己犠牲の精神は身を滅ぼす事を優しく諭されて、キツく怒ることや、無理やり正座させることよりもよほど強く応えた…。
成人男性は怒鳴られるより、優しく諭される方がよほど応える…それに良かれと思った自分の行いで相手を悲しませちゃうのは、避けなくてはと思い知らされた。
この事実はどんな身体的苦痛を伴う鍛錬より重くのしかかったね…。
そして片腕を失った事は私生活、戦闘面を考えるとやはり今まで使えていたものが使えなくなっていることは不便となり、どうにかできないものかと考えたところ、そういえば刀鍛冶の里に緑壱殿のカラクリがあった事を思い出し、人の腕の形を正確に模倣できるなら、血管に似たチューブを通して、波紋の呼吸によってなんちゃって
「はるばる来たぜ、刀鍛冶の里〜。」
原作から二十年近く前のはずなのに、めちゃくちゃ栄えている。一定周期で里の位置が変わるらしいが、変わることが前提だとしてもかなり栄えている。そしてみんなひょっとこの面を被っている。本当に誰一人欠けることなく。うーん、捉えようによってはホラーにも感じてきたな…。
しかし俺なんかが、産屋敷邸の次くらいに重要そうな刀鍛冶の里に足を踏み入れてもよかったのだろうか…鬼の討伐数に比べて対応がすこぶる良さそうだし…槇寿郎さんからは、「休息だと思ってゆっくりしてこい」…なんて言われているが、きっと槇寿郎さんの言伝もあったのだろうな。
お土産があるなら槇寿郎さんと瑠火さんと、結構大きくなってきた杏寿郎くんにも饅頭とか買って帰りたいな。
「やや、ようこそお越しいただきました。お話は伺っております八城條景さん。私は貴方の案内役を務めさせていただきます
か…鉄穴森さん…声が若い。普通に少年じゃん…。こんな若い時からあの落ち着いた喋り方なのか…大人だなぁ。
おっといかん、面を食らった。俺は面をつけていないけどね。
「おお、これはご丁寧に、お話の通り俺は八城條景です。この度はよろしくお願いします。」
「早速ご用件ですが、お話の通りでは鉄鋼で出来た義手、しかも精巧な物を…という事でしたが、わたくしどもからしても少し専門外なところもあってかなりの時間を必要とします」
「ええ、それは承知の通りです」
最初に里長との挨拶も済ませた後、里の大通りを歩きながら担当鍛治職人を紹介してくれるという。鉄穴森さんじゃないのか、てっきり彼がやってくれるものかと。
「こちらが、今回担当を名乗り上げた刀鍛治です」
「俺は八城條景です。この度はよろしくお願いします!」
一礼して顔を上げると、そこには仁王立ちで待ち構えていたひょっと面な人がいた…いや全員ひょっとこ面だったな。
「…俺は
おぉ…鋼鐵塚さんだ…やっぱり若い。
「鋼鐵塚さんは若いですが、腕は確かです」
「早速だが、腕の長さを測る。それと義手に対して何か要望があるか?」
「そうですね………色はともかく、見た目は腕をひと回り大きくても全く同じ機能で、前もってお伝えした通り、中に水を血管の様に…とは行かなくとも張り巡らせられる機構と、手のひらから水筒一つ分の水が出てくるカラクリ、水の総量は重さを気にせず、できるだけ多く貯蔵できる様に…あ、それとハチミツの瓶が入れられる収納もあれば外付けで欲しい…ってところですかね」
自分で言っててもかなり無理難題な気がしてきたな…。
あ、やっぱり鋼鐵塚さん怒ってるのか肩を震わせてる。そうだよな…現代で考えてもかなり無理難題だよな………。
「ぬぬぬぬぬ…うぉぉぉぉ!!滾ってきた!やったるわ!!」
「彼…腕は確かなんですよ…」
やる気に満ちた鋼鐵塚さんが、スクワットしながら雄叫びを上げているが…………うん大丈夫そうだ!
…そして、俺は考える事をやめた。
お疲れ様でした。
次回から『鋼の鬼殺隊士』が始まりそう…。しかも作劇的に機械鎧壊れるだろうから…。