武器召喚士   作:どこぞの委員長

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訓練の先に得たもの

 第六天(ゼブル)についてから既に9日が経過していた。今日は第六天(ゼブル)に来てから10日目だ。「これより太陽が十度天頂に達したとき」が、神に指定された儀式が行われる時。楽園(エデン)で神とその話をしたのが夕方でよかったと今になって思う。もう少し早ければ、儀式は1日早くなっていたのだから。神と会った日をカウントから外せるので、それを除いて10日目、つまり明日の正午丁度に俺たちは神と戦う。そのための訓練として守護天使たちから指定された、彼らに対して2対10で勝利するというものも、終盤となってくる。当日は移動もあるだろうから大したことはできないし、なにより万全の状態で行きたい。そうなると、必然的に訓練は今日が最後だ。

 この9日間の訓練は並大抵のものではなかった。そもそも天使たちは俺たちと同等かそれ以上の戦力を持っている。こちらが二人がかりなら、少し余裕をもって戦えるのは2人、多くても4人といったところが限界だろう。しかし、そう思って始めた訓練は俺たちに現実を突きつけてきた。天使相手なら、俺たちの全力を出し切っても下のほうで3人、上にいたっては2人でもぎりぎりの戦いを強いられるほどだったのだ。そんなところから始まって、この数日で俺たちは10人相手に立ち回れるようにはなってきていた。今日は模擬戦という形で最終訓練を行う手はずになっている。こちらにはいない回復役(ヒーラー)をいかに早く削るか、攻撃をいかに当たらないように避けるかがポイントとなってくるだろう。時間はもうすぐ、舞台は第六天(ゼブル)郊外の草原だ。すでに両陣とも配置にはついているので、あとは合図を待つのみだった。

「来たよ」

 雪穂が空の一点を示しながら声をかけてくる。雪穂の示すほうには、赤色の煙。戦闘開始の合図を示す狼煙(のろし)だ。瞬間、俺たちの目の前が白く染まった。一瞬で視界が奪われ、自分たちがどちらを向いているのかさえ分からなくなる。フラッシュバンの音なしのようなものだ。しかしフラッシュバンと違うのは、これほどの光をまき散らしておきながら目くらましのために放たれた一撃ではないということだ。それを証明するかのように直後、尋常ではない熱を感じた。鉄板の上に押し付けられたような温度をもって、俺たちを焼き殺しにかかってくる。しかし、それは前のほうのみ。そう、この攻撃は一方向にしか打てないのだ。つまり後ろへ逃げたらかわすことができる。いや、正確には後ろへしか撤退ができない、といったほうがいいのだろう。セオリー通りに後ろへ飛んだ俺たちだったが、やはり待ち伏せを食らっていた。その数4人+後方に2人、完全に予測していなければ割くことができないだろう人数だ。半数以上回してくるとは・・・。しかし、この程度なら・・・俺と雪穂はほぼ視線すら合わせずに、クロスで地面をけった。お互いの間合いは既に完璧に把握している。前衛部隊はスルー、これが鉄則なのだ。クロスしてとんだ俺たちは、そのまま前衛包囲網を抜け、後方部隊へと一瞬で迫った。今の俺たちはヴンダーで身体強化を効率よくかけ、もはや縮地のレベルで移動することができる。後方部隊はカマエルとザドキエル、ともに最高クラスに値する回復役(ヒーラー)だ。たいていの傷ならば一瞬で癒しを与えてくる。ちなみにたいていの傷とは、死なない程度である。つまり、一撃で倒さなければ永久に復活してくるということだ。しかし、そのレベルの回復役(ヒーラー)を二人並べて配置するなど、愚の骨頂と言わんばかりの布陣・・・まさかっ!

「雪穂、離脱だ!」

「えっ!?」

「急げ!追撃が来るぞ!」

 攻撃を仕掛けようと武器を構えた直後、罠だと気づいた俺は雪穂を掴んでもう一度跳んだ。刹那、カマエルとザドキエルが羽を広げて空中へと逃亡する。そして轟音が響いた。縮地を使って200メートル逃走した俺たちが背後を振り返ると、直径3メートル程のクレーターが、カマエルとザドキエルがいた部分を中心とした同心円状に150メートルの範囲を蹂躙していた。いつか見たサンダルフォンの攻撃である。あの時は力をセーブしていたらしい。ここまでほぼ同時に攻撃できるとは思わなかった・・・いや、違うな。これまでの訓練でも何度かこの攻撃は受けたが、ここまで多くはなかった。これは他の天使の支援が入っているのだろう。だから何だという話なのだが、手の内が一つ知れたのは大きい。といっても、2度通用するような罠は張ってこないだろうが。しかし、飛べるとは便利すぎる。今の一瞬でザドキエルが別動隊についてしまっていた。これで敵の部隊は2つ、しかも各々に回復役(ヒーラー)がついてしまっている。一番めんどくさいフォーメーションだ。

「雪穂、軽いほうの部隊を先にたたくぞ!」

 ザドキエルの移動でもう一つの部隊の一は既に把握済み。あちらは遠距離攻撃部隊といったところだろう。ザドキエルに加え、ほかの4人は全て飛び道具を持っている。弓だったり投擲槍だったり様々だが、近接戦に持ち込めば近接部隊に比べればさほど苦労はしない敵だ。

「雪穂はザドキエルを頼む」

「分かった、おにいちゃんは前の方をお願い。同時にたたくよ!」

 後方から近付きつつある近接部隊との接触を気にしつつ、さらに遠距離部隊の攻撃をいなしながら最良の瞬間を待つ。ヴンダーを使用した精神強化をかけた俺たちの目には、世界はスローモーションに見えているのだ。そしてついに、その瞬間が来た。

「今だ!」

 誰に聞かせるでもない呟きのような声を拾った雪穂は、俺と同時に縮地を発動する。タイミングは敵の攻撃がぴったり被った瞬間。無駄弾となった武器群が先ほどまで俺たちがいたところに突き刺さる。そして再装填を行う天使たちの前に空間の揺らぎが発生した。その揺らぎは瞬時に人間一人へと変化する。その手には長剣が二振り、しかも後ろへ引き絞られている。天使たちが後方へ撤退しようと行動するがすでに遅い。振り抜かれた二本の剣、自由たる聖十字(フライハイトクロイツ)がその身をとらえた。もちろん攻撃に切断面は使用していない峰打ちだが、縮地の高速移動をそのまま乗せた剣速は音速を超える。打撃の方は何とか左右の槍使いの天使が防いだが、その後に生じたソニックブームが直撃し、4人は宙へと放り出された。それを見たザドキエルが、即座に回復をかけようとする。が、その回復が施されることはなかった。

「やらせない」

 という一言が耳に届いたかと思った直後、首筋が何者かに殴打されそのまま意識を失ってしまったからだ。言わずともがな雪穂の一撃である。そして、上空へと飛ばした4人にもさらに縮地を使って上をとり、追撃を加える。その攻撃を食らった4人はしたたか地面にたたきつけられ、ザドキエルと共に昏倒した。これで5人、地獄のような訓練は恐ろしいほどに俺たちを強化し、さらに人間から離していく。だが、後悔はない。雪穂と共にあるかぎり、俺の居場所は確立されているのだから。戦闘はまだ続いている。残り近接部隊の方へ振り返ると、先程と同様距離を詰め、今回は回復役(ヒーラー)であるカマエルを雪穂との連激で落とす。そして縮地を使って一人ずつ隊から分断させながら、天使たちを攻略していった。開始から一時間ともたたず、第六天(ゼブル)の草原に10人の天使たちを転がす。これはなんと言ったら良いのだろうか。いささかやり過ぎた気もするが、これが現実なのだ。ここまでの訓練で習得した最大の技術、それは今回の戦闘でもいかんなくその能力を見せつけた、縮地。敵の認識より速く動くことができれば、攻撃は当たらないし奇襲も容易となる。元々は天使たちが空を飛ぶというチートを使って戦ってくるので、それに対抗するために編み出した技だった。飛べないなら跳べば良いじゃないかと。これがことのほか上手くいき、これを極めればかなりのものになるのではと、技磨きをかけ続けたのだ。その結果が今の縮地である。もちろん天使たちについてもらって、その他の剣術訓練や回避訓練等も行い、これまでの我流を損なわない程度で無駄な動きが減っている。10倍とまではいかないが、5倍ほどの能力上昇はあったはずだ。これで神に対抗できるかは分からないが、出来るところまでやるしかない。天使たちが起きたら軽くこれまでの復習をして、明日に備えるとしよう。

「さて、雪穂」

「どうしたの?」

「カマエルとザドキエル・・・どっちがいい?」

「うーん、早く終わらせたいし・・・両方かな!」

 笑顔で答える雪穂。これはつまり、回復役(ヒーラー)さえ起こしてしまえば後は全員すぐに起こせるから、どっちを起こすか、という質問なわけである。それに両方と答えるとは、天使たちを一人でも少し長く休ませるという心意気は無いようだった。まあ、そこは俺も同感なのだが。なにせこれまでほぼ休憩なんか無く訓練を続行させられ続けてきたのだ。もちろん俺たちを強くするためだとは分かってはいるが、それでも俺たちも倒れたら回復で起こされ、疲れたら回復で癒され、肉体は限界を超えて消耗させられ続けてきた。今回は俺たちがそれをしても良いだろう。ただ、カマエルとザドキエルには強制的に起きてもらうが・・・

「顕現せよ、雷霆神(インドラ)の矢」

 右手をザドキエルに、左手をカマエルに向けて俺はポツリと呟いた。それと同時に上空一帯が雷雲で覆われる。その雲が光ったかと思うと、天から(いかづち)が降り注いだ。そう、倒れたザドキエルとカマエルの上に。その電撃は、かつて黄昏の聖十字(トワイライトロザリオ)電磁投射砲(レールガン)へと変遷(シフト)した際に、タンタル製の弾丸を飛ばすべく利用したものだ。そんな威力の電撃を食らった天使はというと、ビクンと一瞬体をはねさせた次の瞬間、しっかりと目を覚ましていた。蘇生するには電気ショックを与えるのがいいということだったので、試したのだがどうやら大成功のようだ。それでは回復をとお願いしようとしたところで、天使たちが全員目覚めていることに気づく。どうやら二人に向けて撃った雷霆神(インドラ)の矢が飛び火していたようだ。しかし、天使たちの目は虚ろで焦点が定まっていない。少々電撃が強すぎたようで、その後天使たちが全員立ち直るまでに1時間を要した。

 そこからは予定通りに戦闘面全体において復習を行い、俺たちは明日の儀式へと最終調整をしていくのだった。

 

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