私が、先生を、殺したから。
「ふあ……」
目が覚めた。……よし。
周囲に人はいない。
「……バレてない、よね?」
昨日は、担当が珍しく早く帰宅してくれたし、シッテムの箱も早々に手放して別の場所に向かってくれていた。
私としては……そうだね、とても仕事がしやすくて助かったよ。
「……おわ、モモトークすごいことになってる」
不審がられるかな? いや、返信が遅くて起床が遅いのはいつものこと、だ。それ以上何か詮索されることはない。
……というか、私だとバレない為にあらゆる手をちょっとずつ、ちょっとずつ仕込んでいってたんだ、バレたら困る。
「ど、う、し、た、の……っと、これでよし」
平静を装え。
内容はわかりきっている。けど、私は聞かなきゃいけない。
向き合わなきゃならない。
後悔し続ける必要がある。
バレないでいないといけない。
「……先生は、私が殺したんだ」
そう。
あの人を殺した罪を。
「はぁっ、はぁっ……!」
彼女に呼ばれた場所まで走って行く。
場所はキヴォトスでも1、2を争う程大きな病院だ。
最初に見つけたのは……セリナだろうか? 彼女やヴェリタス、七囚人……彼女達をすり抜けるのは至難の業だったね。
……怖い。
「せん、せい……!」
もしも、先生が生きていたら。
私に優しく声を掛けてくれた、あの人が。
銃口を突き付けられても、最後まで笑っていたあの人が。
ああ、どうか
私が願うべきではないのだろうけど。
「っ! つい、た……はぁ」
起き抜けに走るもんじゃない、普段ならなんともない程度の距離の走行で身体が悲鳴をあげている。
……人が、多いな。
「! カインさん!」
「うぐっ」
私に飛び込んで来た影が、一つ。
「フウ、カ……ちゃん?」
「先生が、先生がぁ……!」
「……おち、ついて……ちょっ、と……まだ、息が……げほっ!」
「!? ご、ごめんなさい!」
……なん、だ?
予想以上に、消耗が激しい。
「はぁ、はぁ……ふう。……ごめん、待たせた」
「カインさん……!」
「……一旦、病室に入る為に手続きをしよう。……大丈夫、あの先生だから、ね?」
心にもない言葉を、彼女にかける。
手が、震えている。
……ああ、怖いなぁ。
「……セナちゃん」
「カインさんですか」
「先生に会いたいんだけど、いい?」
「ええ……とは言え、他にも希望者が大勢いらっしゃいますので、かなり後のことになりますが」
「構わない。……頑張って」
「ええ、言われずとも」
……生きて、いる?
怖い、聞けない、どうしよう。
「……」
「カインさん……」
「……大丈夫。私も、あの人も……」
心臓を撃ったから、ちゃんと、死んだ、筈。
時間が経っていく、いつの間にかフウカちゃんが、手を握ってくれていた。
人が集まってくる、段々と、怒鳴り声までするように。
「カインさん、フウカさん」
「……貴女達の番です」
「っ」
「……行こう」
案内された、病室の前に立つ。
後は、この扉を開けるだけ
「っ!」
やあ、カイン。どうしたの? そんなに慌てて。
ああ。
「そんな……せん、せぇ……!」
中に入り、扉を閉めた、その先で。
フウカちゃんが、その場に泣き崩れてしまった。
「……」
あの優しい手が、力なく横たえられていて。
私にさえ、微笑んでくれていた顔は、白い布に隠されていて。
「……先生……」
私が犯した罪は、本物で。
ギリギリ生きていた、なんて幻想は打ち砕かれて。
そんな状況にホッとして。
自分を殺したくなって。
でも、それは逃げることになってしまうと。
そんな考えが浮かぶことが、生き汚い己の醜さだと嫌悪して。
「ああ……」
「ああ、ああああぁ……!」
ごめんなさい、ごめんなさい。
私の所為なんだ。私があんなものを、振り切ることができなかったから。
この日、私が先生を殺したんだ。
思いつき。
先生がいない以上、この世界は滅びます。バットエンドです。