マルシルがとある姿になってカーカブルードに店を開いたチルチャックの元を訪ねるお話です。

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ダンジョン飯の二次創作です。
アニメのハーフフットマルシルがかわいすぎたので、チルチャックとねんごろな仲にしたいと書き始めましたが途中で力尽きたのでチラシの裏に投稿させてもらいます。

以下の注意点があります。

・原作完結後の内容
・ワールドガイドを未読だと分かりにくいネタあり
・台本書き(のようなもの)なので読みにくい
・原作にはない独自設定多め
・未完

SSというよりは会話劇のようなものと思ってもらえれば幸いです。


第1話

 からーん

 

いらっしゃい。

おや、こりゃまた珍しい。ご同族か。

さて、そんな同族のお客人に第一声でこんなことを言うのはちと心苦しいが、

悪いがその頭に被ったフードをちょいと脱いでくれないかい。

あ、頼むからこれで気分を悪くしないでくれよ。

これは別にあんたがハーフフットだからってワケじゃあなく、

うちの客はどの種族に限らず皆平等に、店の中じゃ顔を隠すような被り物は全部脱いでもらっているからよ

 

ふう。言われなくたってもう脱ぐってば

 

 ぱさっ

 

おや、金髪のお嬢さんとはこりゃまたさらに珍しい。

さてそこの可愛いらしいお嬢さん、見ての通りうちはしがない鍵屋だが、いったいどのようなご用件で?

 

もう。いつまで店長の真似事なんかやってんのよ、チルチャック。

私だってば!

 

ん? 私だと言われても、あいにくあんたみたいなうら若い同族の女性の知り合いをもった記憶は無いんだがな。

……あ、俺の名前を知ってるって事は、ひょっとして俺の三人の娘の誰かの知り合いかい?

ただもしそうでも、仮にも友人の父親を店長の真似事扱いした上、呼び捨てで呼ぶのはあまり感心しないね

 

ちょっとー! それ本気で言ってんの!

私達それなりに長い付き合いなんだから、いい加減そろそろ気がつきなさいよ。

私よ私、マルシルだってば!

 

は? ま、マルシルって、ええーっ!?

 

ふん! ようやく私だって分かったみたいね

 

い、いやでも、どーみてもその姿、ハーフフットじゃねーか!

 

ま、おいおいその辺りの理由もちゃんとこれから話すから、とりあえずお茶を一杯ちょうだい。暖かいやつ。

あ、それと店に入る時に店の入口に立っていた看板をくるっとひっくり返して現在閉店中にしといたから

 

はあ! 何勝手なことしてんだよ、おい!

 

 にっ

 

ああ、その辺の事は心配しなくてもいいわよ。

急遽、閉店することで発生したお店の損失は、あのバカにでも請求しとけばいいから

 

ん? お前の言うあのバカって、ひょっとしてライオスの事か?

 

もちろんそうよ。

そもそも私が今ここに居る理由の大半もライオスのせいなんだもん。

なんで安心してメリニのバカ王宛に請求書送っといて

 

 はあっ

 

あのな。

お前は商売なんてやったことないから知らないんだろうけど、商売ってのは損失が補てんできるからなんも問題が無いってワケじゃないんだ。

例えば、もしマルシルがある店に買い物に向かったが、定休日でもないのにお店に貼られている営業時間に閉まってたらお前はどう思うよ

 

あー、確かにもしそんなことがあったら嫌な気持ちになるというか、そのお店に対する信頼度がすごくなくなっちゃうかも

 

そうだろうが。

ったく、お前はちょっと客商売を舐めすぎだ。

とりあえず、もう二度と同じ過ちをしないように心の中でちゃんと反省しとけ

 

 しょぼん

 

ごめん。しっかり反省しとく

 

わかればいい。

……ま、そうはいってもここは開店したばっかでまだ鍵屋としての知名度が全然無いから、そうそう客なんてこねえんだけどな

 

 むかっ

 

な、なによ! なら結局、閉店の看板を出しても何も問題なかったんじゃない!

 

こりゃ、俺の店を預かる店長としての気構えの問題だ。

それに今日、もし俺が甘い顔をしてしまえば、それに味を占めたお前に今後、何度も迷惑かけられそうだしな

 

べ、別に私、チルチャックに何度も迷惑かける気なんてまったくないし!

 

ならいいんだけどな。

で、先に聞いとくけど、わざわざ閉店中にしたってことは、今日のお前の用事は長くなりそうなのか?

 

あー、うん。

正確な時間は流石にわかんないけど、それなりに長くかかりそうだとは思う

 

 はあーっ

 

あのなあ。

最初からそんだけ長時間、誰かを拘束するつもりだったんなら、せめて手紙なり使いを寄越すなりしてこっちに前もって一報入れておけよ。

じゃないとこっちもロクに準備ができないだろ。食事の問題だってあるし

 

い、言われてみればそうだよね。

ほんとごめん!

 

 にっ

 

ま、素直に反省してるみたいだからこれ以上、お前を責めたてるのはもうやめといてやるよ。

さてと、俺はちょっくら部屋を片付けてくるから、お前はここでそれが済むまで待っといてくれよ。

あ、多分無いとは思うけど、もしお客が店に入って来たらそいつに、悪いけど急遽、店を休みにしたので次きた時に二割引きで仕事を承るからまた後日に顔を出してほしいって伝えておいてくれ。

それと、そいつの名前も控えとくように頼むな

 

わかった!

ええと、もしお客さんがやっって来たら、

後日でいいなら二割増しで仕事を受けるってその人に伝えて、それで納得してもらったらその人の名前をメモしとけばいいのね!

 

 あせあせ

 

いやいや、そこで二割増すな! 引きだ引き!

わざわざ営業日に店に足を運んでくれた客に、今日は休むからまた後日来てくれって追い返した挙句、後日やった仕事に対しては二割増しで請求って、どんだけ悪質な店なんだよ!

マルシルお前、うちを潰す気か!

 

あ、ごめんごめん! つい間違えちゃった

 

 てへっ

 

ったく、宮廷魔術師になってから少しはしっかりしたかと思えば、相も変わらずどんくさなところはなんも変わってねーな。

いやむしろ、以前よりもどんくさに強い磨きがかかってんだろ

 

う、うるさいわねー。

ちょーっと間違えただけじゃないの!

 

ほー、なら聞いとくが、もし入ったお店で二割ほど水増しされてたらどうするよ。

お前の立場なら、ついうっかりなりしょうがないよねーって笑って許すのか?

 

う……さ、流石にそれは少し怒る

 

少しじゃなくて、ものすごく怒るの間違いだろうが。

もしそれが未遂で終わったとても、ついうっかりで料金を二割増しで請求されてみろ。

俺なら絶対にもう二度と、その店に足を向けることはないね

 

わ、私もそこは同じかな

 

んじゃ、次からちゃんと己の言動を気を付けとけよ。

それこそお前は臨時で鍵屋に雇われたけど、呆れた店主に一分で首にされたダメダメどんくさ店員なだけじゃなく、

メリニの宮廷魔術師というムダに立派な肩書があるんだからよ

 

ちょ、ちょっと!

流石に、呆れた店主に一分で首にされたダメダメどんくさ店員扱いは酷くない!

 

 にっ

 

未遂だったとはいえ、たった一分で俺の店を潰しかねないどんさくを披露したやつに文句を言う資格なんてねーよ。

ま、次に合う時は、ちゃんと生まれ変わってどんくさ扱いを撤回されるぐらい立派なとこを見せてくれや。

まあそれでも、もう二度とうちの店番を任せる気はねーけどな

 

 むかっ

 

うー、覚えときなさいよ、チルチャックー。

ぜーったいにいつか、マルシル様あの時は馬鹿にしてごめんなさいって土下座させて、

その後に私が上から目線で許すってしてやるんだからー!

 

へっ、せーぜーそれは、俺の寿命が尽きる前までに頼むぜ。

百年後に俺の墓前で少しばかりシャキッした姿を見せたところで、俺はもちろんお前のことを知ってたやつ皆、お前の印象はメリニ始まって以来のどんくさハーフエルフのままになっちまうんだからよ

 

 ぷちっ

 

……言っとくけど、それ以上その減らず口を止める気がないのなら、こっちも遠慮なく店内で魔法を使わせてもらうわよ。

それもアンタの大好物な黒魔術よ

 

うわっ! た、頼む、それだけはやめてくれ!

まだ、この店の支払いが残ってんだから!

 

 にたぁ

 

ふううん。つまり私がここで一発、魔法をついうっかりブチかましちゃったら、チルチャックは破産して路頭に迷っちゃうって事なのねぇ。

ああっ、どうしたのかしら私ったら。何故だか今、ものすっごく猛烈に爆裂魔法を使いたくなったんだけど

 

わ、悪かったって!

ほれこの通り、マルシルの事どんくさ扱いしたのをちゃんと謝るから、もう勘弁してくれよ!

 

じゃあ、ちゃんと反省した?

 

したした!

そりゃもう、穴蔵が大好きなドワーフの連中も目ン玉飛び出すぐらい、地中の奥深くまで潜って反省しましたって!

 

わかればよし!

それじゃあ反省の証として、この店のお客さまである私に美味しいお茶を作ってちゃっちゃと持って来て頂戴

 

へいへい、わかりましたよ、マルシルさま

 

 がたっ

 

あ、ついでにお茶菓子の方もお願いねー

 

ちっ。

お茶だけならまだしも、冷やかしの客に付ける茶菓子なんてうちにはねーよ

 

ぶー、チルチャックのけちんぼー

 

ケチで結構。

お前をもてなしたところで店になんも利益ねーのに、んな贅沢できるワケねーだろ

……ん? いや待てよ。なあ、マルシル

 

なによ?

 

 にやっ

 

お前の水増し請求じゃねーけど、あのバカに送る請求者は迷惑料込みで三割増しにさせてもらって送りつけるつもりだけど、別に構わねーよな?

 

 くすっ 

 

うん。たっぷりと請求してやって!

 

よし! じゃあここは一つ、水増しされた請求分の対価になるように普段は上客にしか出さねえ高級茶葉でお茶を入れてきてやるか。

あ、もちろん茶菓子も横に付けてな

 

わーい! チルチャックありがとー!

 

 

 一服後

 

 

ふう。正直あんまり期待してなかったけど、高級茶葉っていうだけあって美味しいね、このお茶!

 

へっ、そうだろうが

 

ただこう言っちゃあなんだけど、普段お金にうるさいチルチャックがいくらお客さんの為とはいえ、こんないいお茶を出すのは意外よねー。

だって、こういうのにお金をかけてたら経費だって馬鹿にならないでしょ?

 

 ちっちっちっ

 

甘いな。

いい商売っていうのは実際の鍵師としての仕事ぶりだけじゃなく、接客のとこも含めていい商売っていうんだ。

例え最初の来店の時に仕事に縁が無くとも美味しいものを出して気持ちよく帰ってもらえば、次もあそこに行ってみようって気になるだろうが

 

はあー。なるほどー

 

まあこれも一種の先行投資みたいなもんだ

 

それにしてもチルチャックってば、私が思った以上にしっかり店長やってんのねー。

正直、感心しちゃった

 

ま、褒めてもらったところ恐縮だが、

お前が感心してくれた先行投資ってやつも、今んトコあんま大した効果がでてないのが実情なんだけどな

 

 がらーん

 

あ、ならここは一つ私に任せといて!

あそこの店で出されるお茶は、ものすっごく美味しいってメリニの人にしっかり宣伝しとくから!

 

 がくっ

 

宣伝ってお茶の方かよ!

本業の鍵師の方もってか、お茶の方はどーでもいいから鍵師の腕前の方を宣伝してくれよ!

 

 にやっ

 

ざーんねーんでした。

鍵師の宣伝の方は、別料金にて承っておりまーす!

 

ふざけんな!

それならさっきお前にちょいと奮発して出してやったお茶と菓子、耳揃えて全部返しやがれ!

 

それじゃあ直ぐに返してあげよっか。げろげろげろーって

 

うわっ! や、やめろ!

まだ真新しい机を、汚そうとするんじゃねえよ!

 

やだよーだ!

机どころか店中、汚してやるんだから。げろげろばあ!

 

おい。

もしそんなことしやがったらライオスじゃなくてお前宛に、

城から溢れるほどの請求書を送りつけてやるから覚悟しとけよ

 

じゃあこっちはそれに対抗して、今のうちにかわいい黒ヤギさんを農場からかき集めてお城の入り口の前に隙間なくいっぱい立たせておくことにするわ。

それでチルチャックがせっせと送ってきた請求書はぜーんぶ綺麗さっぱり、ヤギさん達の胃の中で証拠隠滅してもらうんだから。

むしゃむしゃむしゃ。これおいしい! って

 

なにー!

そっちがその気なら、こっちは請求書と一緒に飢えた狼共を一緒に送りつけて、

ヤギ共は一匹残らずそいつらの腹の中に納めてやるからな。

バクバク、新鮮な獲物うまうま! ってよ

 

ちょっとー!

そんな極悪非道な事をして、なんの罪のないヤギさん達がかわいそうだって思わないの!

 

ぜっんぜん、思わないね。

ま、せいぜい狼の犠牲になるかわいそうなヤギさんは、どんくさファームに雇われた己の身の不幸さを泣いて呪うことにするんだな。

めぇーめぇー。どんくさファームめぇー! ってよ

 

私がどんくさ農場の代表なら、今私の目の前にいるのは、ケチな噂がずっと絶えないセコセコ鍵師じゃないの!

この守銭ドロボーチルチャック!

 

はあ!? ざけんな、俺がケチで守銭奴なのは事実だから別にいいとして、いつ泥棒なんてしたんだよ!

 

なに言ってんの、いつも私からいっぱい盗んでるじゃないの!

 

だから何をだよ?

 

私の人としての尊厳!

いつもいつも私の事、どんくさどんくさってバカにして!

 

それは俺が盗んでいるんじゃなくて、お前が勝手にぽとぽと人としての尊厳を落としてるだけだろーが!

だからお前は人を泥棒呼ばわりする前に、自分のオツムが大丈夫かどうかの点検をしっかりしとけ!

 

なっ、なんですってえええ!!

 

あー、やんのかこら!!

 

やらいでかあ!!

 

がるるるるる!!×2

 

るるるる!×2

 

るる……ぷっ×2

 

ぷくくっ! あーっはっはっ!

……あー、おっかしい!

チルチャックとこういうことするの久々だから、すっごく楽しいわー

 

ったく、マルシル。

お前ほんと、迷宮探索してた頃からぜんっぜん成長してねえなあ。

いい加減、もうちょい大人らしくなれよ。いつまでも子供じゃねんだからさ

 

うるさいわね。

ていうか、そういうチルチャックの方だって、さっきは普通に楽しそうにしてたじゃない

 

ま、楽しくねえといったらウソになるかもな。

こっちで店開いてからは、こういうバカ騒ぎはとんとご無沙汰だったしよ

 

じゃあ、丁度いい息抜きになったでしょ

 

へっ、まーな。正直なとこ、いい気分転換にはなったよ

 

ほんと! よかったー!

 

けどマルシル、お前はこんなバカ話するためにわざわざここに来たわけじゃあねーんだろ?

いったい何の用事できたんだよ? しかも、わざわざそんな格好に化けてまで

 

あ、うん、その事なんだけど。

……ええっと、これどこから話せばいいのかな?

 

おいおい、その辺ぐらいは店に来る前に考えとけっての

 

ごめんごめん。

ただ今回の件は、ちょっと色々と面倒というか、話のとっかかりになりそうなとこがパッと浮かばないような内容なのよ

 

わーったよ。

じゃあ、しっかり時間をかけて考えてから、その面倒なやつの内容とやらを俺にも分かるように語ってくれ。

幸い今日は、こっちも時間はたっぷりあるんだしよ

 

ふふっ。今日はじゃなくて、今日もの間違いなんじゃないの?

 

うっせえな!

言っとくけど、忙しい時はちゃんと忙しいんだからなこっちは!

 

はいはい。そういう事にしといてあげる

 

おい。……まあいい。さっさと説明の方をはじめろ

 

わかった。

……えっと、うん。やっぱりここから話した方がいいよね。

ねえチルチャック、私達の国であるメリニは一応、千年間地中にあった分、

歴史だけはあるけど実質的にできたてほやほやの新興国歌もいいところじゃない

 

メリニは俺の国じゃねえけど、まあそうだな

 

で、海に沈んでいた領地の大部分が浮上したのはいいのだけど、元は海底だったから当然、

そこには誰も住んでいないから浮上した後のメリニは、人口比率的にスカスカで国の体裁を成してないってことになるわよね

 

ああ

 

で、そのスカスカなメリニが国としての体裁を成すには広い領土に応じた多くの国民が必要って事になるんだけど、

じゃあどうやってその国民を集めるのかってのをみんなで話し合った結果、

他所の土地から、つまり他国の住民からメリニの国民になってくれる人を広く募集しようってことになったの

 

まあ人なんて急に降って沸くもんじゃねーから、現実的に考えたらその方法しかねーよな

 

それで募集に応じてメリニに到着した入国希望者は、まず元住んでいた国の身分証明となるものを種族ごとに分かれた窓口にて提示してもらって、

それで身分がちゃんと確認された人から順次、管理局の中にある宿舎で一時的に過ごしてもらうことになるの

 

ん? 自分の身分をちゃんと証明できた時点で、国の中、好きに動き回れるわけじゃないのか?

普通は大体、そんな感じだろ?

 

 ふりふり

 

ううん。うちでそれをしちゃうと色々と困ったことなっちゃうから、もう何日かは管理局に留め置かれるの

 

色々と困ること?

 

だって、メリニは色々と他の国と勝手が違うところがあるんだもん。

その辺りの事、管理局にいる間にしっかり説明しとかないといろんなトラブルが発生しちゃうし

 

なあ。そのマルシルの言う他国との違いって、いったいどういうところなんだ? 

 

そうね。

細かいとこもちょくちょくあるけど、一番他国との大きな違いはやっぱり、オークが普通に国民として暮らしている事じゃないかしら

 

 ぽん!

 

あー、そっか。

言われてみりゃ確かに、オークが普通に街ん中歩いてる光景なんて、メリニでしかありえねーことだもんな

 

で、困ったことにもうどれだけちゃんと前もって管理局で説明しといても、

皆が皆、実際に初めて目にしちゃうと半ばパニック状態になっちゃうのよねー。

う、うわあ! オ、オークが広場を練り歩いてる! って

 

まあ、それも無理ねーだろ。

そいつらにとってこれまで生きてきた中での常識が、ぐるっと百八十度ひっくり返っちまうようなもんなんだしよ

 

けど、その常識が変わったことをしっかり受け入れてもらえないと、メリニの国民には絶対になれないわ。

オーク達はもう、完全にメリニの国民として普通に馴染んでいるんだもの

 

なあ。

メリニに実際住んでない俺には、そのマルシルの言うオークが馴染んでいるって言葉がイマイチ信じられないんだけど、

本当にあいつらなんもトラブルを起こすことなく大人しく暮らしてんのかよ?

 

もちろんよ。

それこそそれまで私達がオークに対して抱いてたイメージが一変するぐらい、彼らはすっごく大人しくしてるわ。

あとそれに種族別の犯罪率でも、オークはかなり低い方なんだよ

 

へー、意外だなー

 

彼らの犯罪率が低いことの秘訣は、オークが厳格な序列社会だからなんでしょうね。

一族の頂点に立つ族長がそれはやるなといえば、その一族に連なるものはその禁を絶対に破ろうとしない。

だってもしそれを破ろうものなら、破ったものは問答無用で一族から追放されちゃうんだもん。

それにもし追放されたものに家族がいたのなら、その人たちも連座で周りからの扱いが悪くなっちゃうだろうし

 

けどそれって逆にいえば、族長が一度でもやれっていったら奴らはどんな命令でも従うって事になるんじゃないのか?

 

もちろん、なるでしょうね。

彼らにとって族長の言葉は絶対なんだし

 

じゃあ、やっぱりマズいだろ!

 

なにが?

 

いや、なんでも何も、そりゃあ今はあいつらもメリニから追い出されたら行くとこねえから連中大人しくしてるだろうけど、

絶対にいつか奴らは人間を裏切って寝首をかいてくるに決まってるぞ

 

 くすっ

 

は? なんでそこで笑うんだよ?

 

だってぇ、チルチャックってば、昔の私とまったく同じ勘違いをしちゃったんだもん。

それで私、おかしくてつい笑っちゃったの

 

俺が、昔のマルシルとまったく同じ勘違い?

そりゃいったい、どういうことだよ

 

ねえ。

チルチャック的には、彼らオークが今大人しくしているのは私たち人間を油断させるための擬態で、

やがていつの日かこっちが油断しきっている時に、族長の号令で一斉に私達に襲い掛かってくるんじゃないかって恐れているんだよね?

 

まあ、確かにそんな感じだな

 

言っとくけどチルチャック。

それ完全に的外れな心配もいいところだからね

 

はあ? な、なんでその心配が的外れになるんだよ!

どー考えたってあの狂暴なオーク連中なら、いつの日か俺たち人間に襲いかかってくるに決まってんだろ!

あいつらにとって本来はそれが当たり前の事なんだからよ!

 

チルチャックは、彼等オークは人間を襲う事が当たり前のことだから、

その当たり前のことがいつかメリニでも起こるっていいたいわけね

 

ああ、そーだよ!

 

なら大丈夫よ。

絶対にそんなことにはならないから

 

マルシル、お前がそう自信たっぷりに断言する根拠はなんだよ?

 

私の自信の根拠はね。

ゾンのおかげなの

 

ゾン?

 

ほら。チルチャックも覚えているでしょ。

オークの族長のことよ

 

え? オークの族長って、ひょっとしてあいつのことか!

迷宮で俺たちが奴らに捕まった時、偉そうに皆に指示してたやつ!

 

そうだよ。

あれがオークの族長で、名前はゾン

 

いやいや! あいつこそ、それこそ一番ヤベーだろ!

ヤツの指示の下、商人が営業してる休憩所に押し入って、そこにいた連中一人残らず皆殺しにしたんだぞ!

俺らはたまたまセンシの仲間だったからなんとかその場は殺されずにすんだが、

その後もセンシのバカたれのせいでやつらの野営地に連行された結果、

下手すりゃセンシの知り合い関係なく普通に全員殺されてたんだぞ!

 

そりゃあ、あの時の私達は彼らからしてみれば、センシの顔見知りの冒険者にすぎないんだもの。

段々と冒険者に縄張りを浸食されてた彼らからすれば、ある意味、私達を殺そうとしたのは正しい行為といえるでしょ

 

いやマルシル、オークに捕まっていた時はむしろお前が一番あいつに噛みついてたのに、えらく贔屓目に見てるっつーか、あいつらの肩を持つじゃねえか?

 

まっ。

確かにメリニに住んでないチルチャックからすれば、

私が彼らの肩を持っているように見えてもしょうがないだろうけど、

けど私は別に彼らを肩を持つ、ましてや彼らの事を贔屓してるつもりなんてまったくないよ。

だって実際に彼らの集落に何度も足を運んでいたら、

私が以前まで持っていたチルチャックが彼らに抱いてるのと似たような偏見なんて、

今じゃもうすっかり無くなったんだもん

 

は!? お、お前、オークの集落に何度も足を運んでんのかよ!

 

うん。そうだけど

 

い、いや、それはもう今度から絶対にやめとけって!

 

やめとけって、なんで?

 

い、いやだって 奴らオークからすればいけすかない長命種の代表みたいなエルフなんて憎しみの対象でしかないからに決まってんだろ!

下手すりゃお前、奴らに取って喰われちまうぞ!

 

別に、彼らに食人の文化なんてないわよ。

普段、私達人間と争う理由も食べるためじゃなくて、あくまで食料の略奪かなわばりを守るためのものでしかないし

 

例え喰わなくても結局、あいつらになぶり殺しにされるのは同じことだろ!

 

だから殺されないってば。

今の彼らがそんなことする理由もないんだし

 

 ふーーっ

 

悪いけど遊び半分にやつらに魔狼(ワーグ)をけしかけられそうになった俺としては、

お前のいう事がまったく信用できねえよ

 

ま、その辺りは実際、自分で体験してみないと分からないかもね

 

ていうかマルシル、なんでそもそもお前がオークの集落に足を運ぶようなことになったんだよ?

 

そうなったきっかけはねー。

今のメリニは毎日のようにヤアド達の話し合いで法案作りがされてて、

本決まりになったものから順次、各種族ごとに通達してるんだけど、

それでオークに報告するのを命じられた役人が私に泣き付いてきたの。

私のようなただの人間が、オークの巣窟なんて行ったら絶対に生きて帰れるはずもない!

どうかお願いですから、彼らと面識のあるマルシルさんが自分の代わりに彼らに報告をしてはいただけないでしょうか? って

 

いや、なんでそいつはマルシルに頼んだんだよ?

オークに渡りを付けたいのなら、あいつらとの付き合いの長いセンシの方がよっぽど適任だろ

 

確かに彼らと長年の付き合いのあるセンシの方が適してるのはチルチャックの言う通りなんだけど、

センシはせっかくライオスから城の中に個室をもらったのに、あまりそこで寝泊まりしないっていうか、

気が付けば一月二月は平気で城に戻らないこともザラだからねー

 

あー、まあ確かにセンシのあの性格じゃあ、城暮らしなんて窮屈にしか感じねーだろうしなあ

 

で、その適任者であるセンシが帰ってくるのを待ってたらそれこそ彼らへの報告がいつになるかわからないから、

仕方なく私が彼らの集落に足を運んでみることにしたのよ

 

それにしたってお前、よくそいつの頼みを聞いてやる気になったな。

もし頼まれたのが俺だったら、頼んできたそいつに塩思いっきりぶっかけて、ふざけんな! って追い返したぞ

 

ま、私もあの時点だとチルチャックと同じようにまだオークに偏見を持ってたから、正直あまり気が進まなかったんだけど、

さっきのチルチャックの言葉じゃないけど、流石に王宮からの使者を取って喰うこともないだろうって半ば開き直って彼らの集落に向かうことにしたの

 

で、実際にやつらの集落に行ってみて、どうだったんだ?

 

そりゃあ最初に行った時は、まったくむこうからは歓迎されなかったわね。

男連中からはともかく、女連中の方は迷宮でオークに捕まってた時とおんなじように、

こっちを覗き見てヒソヒソと話したり、時にはハッキリこっちに聞こえるように醜いだのと罵声を浴びせてきたりとか

 

ちっ、言わんこっちゃない

あいつらがエルフのお前、正しくはハーフエルフだけど、どのみちエルフ族を歓迎してくれるはずがねーだろ。

それでその後、どーしたんだ? さすがにさっさとその場を後にしたんだよな?

 

それがねー。

私もそうしたかったんだけど、タイミング悪く族長のゾンが不在だったのよ

 

いや、それなら他のオークに言伝をしときゃよかったんじゃねーのか?

族長が帰ってきたらこれ伝えといてくれって

 

私もそう思ったんだけど、伝言をお願いしようとしたオークから、

頼む! 俺は記憶力がものすごく悪いから、そんな大事そうな話はお前が直接、族長に伝えてくれえ! って鼻水をだらだらにした顔で泣きつかれてねー

 

なんかお前、男に泣き付かれてばっかだな。

ていうか、オークのオスもそんな風に泣きじゃくるもんなのかよ?

良くも悪くも勇気だけはありそうな連中なのに

 

私も正直、びっくりしちゃった。

けどまあ、さっきも言ったけど彼らって厳格な序列社会だから、基本上に対しては絶対服従な社会なわけで、

彼らが平穏に暮らせる居場所を手に入れれるかどうかの瀬戸際の今、

国からの報告をもし間違って族長に報告でもしたら! って恐怖におびえるのも半ば仕方ないと思うよ

 

あー、なるほどなー

 

で、その泣きべそをかいて私を引き留めようとしたオークなんだけど、

その子ってばさっきからずっと大きな身体を丸めてまるでヤモリのように私にぴたっと抱き付いてて、

その様子がなんかまるで母親に置いて行かれる子供のような感じに見えたから私、

オークに抱き付かれてる! って恐怖もどっかにふっとんで、その子の頭をよしよしって撫でながら、

そんなにも族長の事が怖いのなら、しょうがないから帰ってくるまでここにいるね、って言ってあげたの

 

それで、泣きべそかいてたオークはどうしたんだ?

 

そしたらその子ったら、泣いたオークがもう笑うってわけじゃあないけど、

ぱあーってものすごく明るくなった顔で私の方を見上げて、お前、耳長なのにすごくいいやつだな! って、おっきな身体をゆっさゆっさと揺らしながら私の目の前ですっごくはしゃいだのよ。

で、ようやくはしゃぎ終わったらそのままどすどすと天幕の中に入っていって、

一分もしないうちに両手に持ちきれないほど食べ物や飲み物を持って戻ってきてどんと私の前に並べてこう言ってきたの。

お前にやる。遠慮せず、どんどん喰え! って

 

はあー。

あいつらにも助けられたことに感謝する気持ちとか、他人をもてなすとかの概念があるんだなー。

意外意外

 

だからチルチャック、あんたは彼らに偏見を強く持ちすぎだってば。

確かに文化的には結構違いはあるけど、喜怒哀楽を司る部分においては、彼らも私達とあまり差はないんだって

 

へっ。

いくら奴らと大きな差が無かろうが、人間を平気で何人も殺してきた連中と同じ扱いをされるのはまっぴらごめんだね

 

だーかーらー、それは違うってば!

 

て、その辺についてはもういいだろ。

やつらの集落での話の方を先に進めてくれよ

 

あ、う、うん。わかった。

で、その泣き虫なその子から豪勢な歓待を受けた私は心の中でこう思ったの。

実は彼らオークは、自分たちが思っているほど野蛮な種族じゃないのかも、って

 

いや、流石にちょろすぎだろ。

なんでたまたまオークの一人が気のいいやつだっただけで、ヤツら全体への警戒を薄くしてるんだよ 

 

けどチルチャックだってまさか、あのオークがハーフエルフの私をもてなしてくれるなんて思わなかったでしょ

 

まあそりゃあな

 

それにしても、迷宮で捕まった時も思ったのだけど、

オークの食事ってすごく辛い味付けのものが多いけどけど味自体はすごくおいしいのよね。

むしろ、その辛さが病みつきになるっていうか

 

確かに味自体は悪くねーけど、それでも主食にするには辛すぎだろ、ありゃあ

 

 にまっ

 

ふふっ。残念だけど、お子様舌なチルチャックには大人の味すぎて合わなかったみたいでちゅねー

 

ああ! さっき言っただろうが!

しゅしょくにするには! からすぎてむいてねえって!

 

じゃあ何が合うっていうのよ、チルチャックは?

 

そりゃあもちろん、酒のつまみに決まってんだろ。

あの辛さは、ビールと組み合わせれば最高のつまみになるぞ。

ま、お子様舌でお酒の飲めないマルチルちゃんには、この美味さを理解するのはちと厳しいでちゅけどねえ

 

うー! ここぞとばかしにお返ししてー。

まあ確かにお酒はちょっと苦手だけど、別に飲めないってわけじゃあないんだからね!

 

へっ、でも迷宮で実際に酒を口にした時、私やっぱりジュースの方が好きー、って言ってたの俺は忘れてねーぞ

 

もっ、もう! そんな昔の事なんてさっさと忘れなさいよ!

 

やーなこった!

つーわけでマルシルさんよ、人の事をお子様舌ってバカにしたいのなら、

酒が美味しく感じる程度に大人の階段を昇ってからにするんだな

 

ぐぬぬぬー!

お、覚えておきなさいよー!

そのチルチャックのいう大人の階段ってやつを三段飛ばしでぴょんぴょん昇って、チルチャックなんて一気に抜き去ってやるんだから!

いい! 三段跳びで二メートル飛んで、その次の日はもっと高く飛ぶんだから!

 

へっ、忘れろって言ったり覚えてろって言ったり忙しいこった。

ま、それはいいとしてマルシル、その泣き虫なオークのおかげもあって、

その日は何事も無く集落に帰って来たゾンに報告をして終わったんだよな?

 

 ふりふり

 

そうだったらよかったんだけどねー。

実は、その後の方がよっぽど大変だったの

 

は? い、一体、何があったんだよ?

 

 ふぅ

 

さっきまでは遠巻きにして悪口を言ってた女オーク達が、いきなり私の周りを囲むように集まってきて、

その中でも一番身なりが高そうな鼻の高いオークが私の前に進んでこう言ってきたの。

おい耳長、誰の許可で私たちの大切な食糧に手を付けてる! って

 

いや許可も何も、マルシルに出された食い物は泣き虫の男オークが持ち出して、

マルシルに食べろって置いていったものじゃねーか

 

もちろん私もチルチャックと同じことを彼女たちに言ったのだけど、

それはエルフが得意としてる妖術でたぶらかしたに違いないって断言して、

全然こっちの言葉に聞く耳を持ってくれないのよ

 

うっわー。そりゃまた、色々と面倒な事になったな

 

ほんとにね。

それじゃあ食べた分は後で幾らか上乗せして返しに来るって言ったんだけど、

そうやって逃げる気だろうと取り付くしまもなく私の提案を却下してくるし

 

いやもう、そこまでくるともうただの難癖を付けたいだけじゃねーか。

ただ返すってんじゃなく、前よりも増やしてから返すっていってんのによ

 

実はそうなのよ

 

は? そうなのよって、何が?

 

さっきチルチャックはこう言ったよね。

単に難癖を付けたいだけって

 

ああ

 

つまり彼女たちは、私に年癖をつけてくること自体が目的だったのよ

 

はあ? なんでオークの女達は、そんなことしたんだよ?

 

ねえ。さっき私、彼らオークは厳格な序列社会って言ったじゃない

 

ああ、確かに言ってたな

 

で、それはなにも男だけに適用されるってわけじゃなくて、女の方にも男と同じように結婚した女のオークにもみな序列が与えられてるの。

ただ、それは女性単独の序列というわけではなく、その女性が嫁いだ先の夫の序列に付随する形で与えられるものなんだけどね

 

よーするにこういうことだろ。

旦那の序列、例えばだけどそれこそ一番偉い族長の妻はオークの女性陣の中で一番偉くて、

そいつ以外の女は絶対に逆らえないってやつ

 

うん、多分そんな感じ

 

けど、それとマルシルがあいつらにいじめられるのは、どーいう関係なんだ?

 

まずチルチャックに知って欲しいのは、オークは男尊の社会っていう事なの

 

だんそんの社会?

 

まあ簡単に言ったら女よりも男の方がえらい社会ってこと。

だって、当然でしょ。

彼らオークは生きていくために必要なものは全部、他所からの略奪で賄ってきた種族だから、

留守を守る女性より、実際に武器を持って血を流しながら戦闘に加わって略奪をする男たちの方が、

どうみたって重要度が上になっちゃうんだもん

 

まあ言われてみりゃその通りだけど、それがマルシルがあいつらにいじめられるのとどう繋がるんだよ?

 

つまりね。

オークの女性が夫の序列によって付随される序列は、一族全体の序列をさすのではなくて、

あくまでオークの女性の間でしか意味が無いものなの

 

それはやっぱ、オークの中じゃ男の方が価値が高いせいか?

 

そうよ。

武器を持って戦う男の方が敬われるオーク社会では、

女性のオークの序列がどれだけ上がってもそれは、より序列の高い男のオークに奉仕出来る権利を得るだけのものであって、

女のオークはどれだけ序列が上がろうと男のオークから奉仕される側にはなれない。

もちろん族長のお嫁さんぐらい上だったらまた話は違うのかもしれないし、

女だてらに武器を持って戦おうとするリドみたいな例外もいるから絶対ってわけじゃないだろうけどね

 

で、マルシルに難癖をつけてきた奴らは例外じゃない方だったんだな

 

うん。その通り。

だから例え私が国からの使者だろうがなんだろうが、

自分達の置かれた立場から鑑みて私の事が許せなかったんでしょうね。

オークの常識だと女は常に男に尽くす側であるはずなのに、この耳長は自分らの集落を土足で踏みにじり、

あまつさえ同族の男に奉仕までさせた。到底許せるものではないって

 

うわ。め、めんどくせえ

 

ほんとよね。理屈じゃなくて完全に感情の問題なんだもの

 

にしても、別にあいつらの事を褒める気なんざさらさら無いが、

なんかそいつらのしてることってすごくオークっぽくなく感じるな。

あいつらオークは、男も女も関係なく気に入らねえことがあれば全部暴力で後腐れなく綺麗さっぱり解決するもんだと思ってたのに、

マルシルに対してはものすげえネチネチした陰湿なやり方じゃねえか

 

それはやっぱり彼女らは、日頃から抑圧される側だからじゃないかしら?

 

抑圧される側?

 

ええ。例えばだけどチルチャック、

もしあなたの毎日が、一歩たりとも店の外に出ることが許されず、

自分が逆らえない者からの命令で、ただひたすら決まった時間まで仕事を黙々とやらなきゃいけないようなものだったらどう思う?

すっごく息が詰まらない?

 

オークの女たちは毎日、ほんとにそんな息が詰まるような生活してんのかよ?

 

まあ集落の中だとある程度は自由にうごけるだろうし、仕事以外の時は休んだり他の女性と談笑なんかも出来るだろうけど、

何かあったらすぐに男のオークに呼び出されて命令されたりするんじゃないかしら?

現に私たちがオークに捕まって彼らの野営地にいた時も、ゾンの命令で私達の周りでてきぱき働いてたのはみんな女性のオークだったんだもん

 

へえ。流石にそれは気が付かなかったな

 

まあ彼女たちはずっとその暮らしをしてきたから、自分たちが抑制されているという認識はないだろうけど、

メリニに住ことで他種族の女性が一人で自由に歩いているのをもし目撃しちゃったら、

心の中で強いストレスを感じちゃうと思うのよ。

なんであいつらは一人で自由に動き回れるのだって

 

まあそういうことなら、女オークの連中もかわいそうな面もあるのかもしれねーな

 

ほんとにね。

ま、だからといって、その矛先がこっちに向けられるのは勘弁してほしんだけど

 

へっ、まったくだ

 

んー、彼女たちの矛先が、こっちに向かわないようにするいい方法って何かないかなー 

 

そりゃ、どう頑張っても無理ってもんだ。

女オークどものストレスが溜まる原因は、オークの社会構造に起因してんだからよ

 

んー、それはそうなんだけどー

……あ!

 

 ぴこん!

 

お? どうした?

なんかいい方法でも見つかったのか?

 

ねえ、チルチャック。

そういえばさっき、オークのあのピリ辛のご飯はお酒によく合うっていってたわよね

 

ん? ああ、確かに言ったけど、急にどうしたんだよ?

 

今、ちょっと思いついたんだけど、例えばだけどオークの女性たちだけで酒屋を営むってのはどうかしら?

 

 ごふっ

 

は!? み、店の従業員が女オークだけの酒屋をやらせてみないかっていいたいのか、マルシルは!?

 

だって、お酒が大好きなチルチャックのお墨付きが出るぐらい、彼らのあのピリ辛な料理はお酒に合うんでしょ?

で、どういう形であれオークの集落の外に出れるのであれば、彼女たちが感じてそうな抑圧から少しでも解放されると思うのよ。

そうすれば彼女たちだって、あんな風に私に意地悪をする理由もなくなるんじゃないかなって

 

なあマルシル。

これは恐らく、ものすごく料理が美味いっていう評判の店があったとして、

それが魔物がやっててもその店に食べに行けるのかって話なんだと思う。

で、聞くが、お前ならその店に何の抵抗も無く入ることができるか?

 

あー、それは流石に無理かも

 

もちろんオークは魔物じゃなくて亜人だが、

今メリニに住んでいる人間の大半が、ずっと人を殺して略奪をしてきたオークに対して忌避感を持っているはずだ

 

うーん。

私はすっかり彼らに対して抵抗なくなったけど、みんなまだそんななのかなあ

 

そういやお前は少し前に、オークはメリニにすっかり馴染んだって言ってたよな

 

あ、うん

 

それは恐らく、馴染んだというより慣れたってのが正しいんだと思う。

メリニ建国以前はオークは人間の敵で、出会った時点で互いに殺し合うような関係でしかなかったが、

ここに来たオークは大人しくしているからとりあえず今は殺し合う必要はない程度に受け入れることができただけだ。

だってお互いに、交流自体がまったくないんだろ?

 

一応、たまに彼らに話しかけている人もいるけど、確かに盛況といえるには程遠いわね

 

そんな状況だと残念だが、例え店を開いてもすぐに潰れるだけだ。

お前のアイデアは確かに面白いけど、それを実現させるにはもっと互いの相互理解が進まないと無理だろうな

 

あー、残念。いい考えだと思ったのにー

 

いや、さっきもいったけど面白い考えだとは思うぞ。

俺には正直、あいつらに商売をやらすだなんて発想、まったく想像すらしてなかったし、

そのアイデアの源流が、男のオークに抑圧されてそうな女オークを抑圧から解放してあげたいってとこからなのは、

実際にあいつらと交流した他人に優しいマルシルならではの良いアイデアだと思うし

 

もー、どうしたのよ急にチルチャックってば、普段は私に対しては悪口しか出てこないのに、

そんな風に私の事、褒めたたえてくれるなんてー。

ふふっ、こりゃ明日は、季節外れの雪が降っちゃいそうね。あーあ、農家さん達もかわいそうに

 

……ちっ。確かに俺はお前の事よくバカにはするけど、

それでも俺はお前の事、すごい魔法使いだって昔からずっと思ってるよ。

ファリンの救出なんてそれこそ、お前の魔法の力が無いとどうあっても不可能だったし

 

えー、じゃあなんでそれを私に言ってくれなかったのよ!

一度だって今みたいな事、口に出したことなんてなかったでしょー

 

あのな。

安心して仕事を任せられる仲間に、そんな当たり前の事をわざわざ口にするのはかえって水臭いって感じるだろ

 

ううん、全然水臭くなんてないよ!

だって私、チルチャックに褒められたらすごく嬉しいんだもん!

 

んじゃ、一度だけちゃんと褒めといてやるよ。

マルシル、お前は本当にすごい魔法使いだよ、マジで

 

 にこっ

 

どーいたしまして!

私の方だってチルチャックの事、カーカブルード一すごい腕前の鍵師だと思ってるよ!

あとそれ以外でも、パーティが迷っている時なんかにみんなをまとめてくれる、

ものすっごく頼れる大人の人って思っているもん!

 

はいはい、ありがとさん

 

あー、せっかく私が褒めたんだから、そんな投げやりな態度で返してこないでよー

 

うっせ、んなもん真面目に返せるか。

こっ恥ずかしい




読んでいただき、誠にありがとうございました。

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