しのぶ視点で書いていたつもりでしたが、どう考えても三人称視点の方が都合が良いというか、既にそうなっているような状態なので、今回から明確に三人称に変更します。
実弥と小芭内が帰り、炭治郎、しのぶ、カナヲは自室に戻って床に就く。
しかししのぶは、もうすぐやってくるであろう総力戦のことを考えてしまい、中々眠れなかった。姉を殺した鬼は上弦の弐。その鬼を倒しつつ生き残るためにあらゆる策を考えているが、成功する策は中々浮かばない。刀に溜められる程度の少量の毒では効果が現れた瞬間に分析・分解されてしまう。複数の毒を同時に打ち込むか、一度に致死量以上の毒を打ち込んで、分解の暇を与えないようにするしかない。
一つの策を思いついたしのぶは一度起き上がり、手紙を書いた。
「朝早くからごめんなさい。
しのぶの鎹鴉である艶は眠そうにしながらも、しのぶが真剣なのを察して届けに行ってくれた。
手紙の内容は、
刀の内部に可能な限り多くの毒を保持させたい。また、状況に応じて毒の量を調節できるような構造は可能か。
この二点だ。
艶が返事を持って帰ってくるのを待ち、一時間ほどで返事の手紙を持って帰ってきた。
「ありがとう。ゆっくり休んでください。」
艶を労い、その後手紙を読む。
不可能ではないが、使用感が変わる可能性があるとのこと。また、手紙でのやり取りでは不十分なので、本日中に荷物をまとめて蝶屋敷へと伺うとのことだった。
「私のためにここまで…ありがとうございます…鉄原さん…」
不可能ではないという字を読んで、光明がほんの少し見え、安心からか眠気がやってきたので、しのぶは鉄原が来るまでの間に睡眠を取っておくことにした。
同日、十三時頃、
「邪魔しますでー、胡蝶さん、鉄原ですぅー。」
「こんにちは、鉄原さん。想像以上に早いお越しなので驚きました。」
「鬼狩りの皆さんがもうすぐ最後の戦いなら、私等は今がそれやねん。一瞬でも無駄にはできん。で、刀の件やけど…」
鉄原は、『刀を打ち直す必要はない。毒を保持する仕組みは既に刀身にあるので、柄に毒を溜め込む機構を付けてしまえば直ぐにでも実用可能』だと言った。
「毒の量の調節の方やけど、柄を握る力の強さで変わるようにしようかと。」
強く握れば握るほど、柄内部に溜めた毒を刀に通す仕組みということだ。
「扱いにくいかもしれんけど、これが一番現実的な方法やから堪忍な。」
「いえ、十分です。本当にありがとうございます。」
その後、しのぶの現在の握力を測り、鉄原はそれを基準に柄を作成し始めた。
「では、よろしくお願いします。」
「了解!胡蝶さんも頑張ってな。」
鉄原の邪魔にならないように離れ、中庭の方へ向かうと、
「ゴオオォォォ…」
炭治郎が日の呼吸を使っていた。的などは使わすに素振りで
円舞
碧羅の天
烈日紅鏡
灼骨炎陽
陽華突
日暈の龍・頭舞い
斜陽転身
飛輪陽炎
輝輝恩光
火車
幻日虹
炎舞
日の呼吸十二個の型を全て繋げきった。
「ゴオオォォォ…」
さらに続けて、
円舞
碧羅の天
烈日紅鏡
陽華突
日暈の龍・頭舞い
斜陽転身
と続けたところで、
「ぐっ…はぁ…はぁ…」
限界を迎えたようで、仰向けで寝転がった。しのぶの居ない間も自ら鍛練していたようだ。
「大丈夫ですか?」
しのぶは炭治郎に近づき、労わりながら声をかける。
「…しのぶさん……見てくれてましたか…」
「はい。見ていましたよ。十二個の型に加えて六個繋げられていましたね。」
一旦炭治郎を縁側に移動させて、落ち着かせた。
「よく頑張りました。」
炭治郎を横に座らせ、腿の上に頭を乗せるように寝転ばせた。床に当たる腰の部分には座布団を敷いて痛くないように。
「お疲れ様です…炭治郎くん。」
手が暇だったしのぶは、炭治郎の頭を撫でる。すると炭治郎は嬉しそうに、恥ずかしそうにはにかんだ。
「貴方は努力家で素敵ですけど、あまり根を詰めすぎて体を壊さないで下さいよ。貴方が無理しすぎないか心配です。」
「…心配はさせたくないですけど、しのぶさんを守れるくらい強くなりたいんです。しのぶさんが守られる必要が無いくらい強いことは分かってますが、それでも貴女を守りたい。」
しのぶの身を案じている炭治郎は、膝枕されながらも真面目な声と表情で言う。
「…ではこうしましょう。私は炭治郎くんを守りますから、炭治郎くんは私を守ってください。そうすれば問題無いでしょう?
だから、無理はしすぎないでください。」
それを聞いた炭治郎は真剣な顔が和らぎ、嬉しそうに微笑んだ。
「少し休憩がてら、この間の話の続きしましょうか。」
「最近色々話してますからどの話か…」
「
「め…夫婦…」
炭治郎は少しビクッと震えて起き上がった。想像していた話とは違ったようで、少し恥ずかしそうにしていた。
「あら、また手が暇になってしまいました。其方の手もお暇そうですね。」
炭治郎の頭を撫でていた手が暇になってしまったが、炭治郎の手が空いていたので、今度はそこに自分の手を重ねた。炭治郎の手は暖かく、重ねた時に緊張したのか少しずつ暖かさが増した。
しのぶは未来を想像して空を見上げる。空は雲一つ無い快晴。風は少し冷たく、少し肌寒いが体を動かすには丁度いいくらいだ。
「…今日も良い天気ですよねぇ。例えば、今日みたいな天気で息子や娘が一緒に遊んでいたり、私たちはそれを眺めながらお茶を飲んで…なんて、どうですか?」
「…良いですね、凄く…自分の子どもかぁ…」
二人はまだ見ぬ自分たちの子どもが、目線の先にある中庭で遊んでいるのを想像する。
「子どもは何人くらいですかね…」
「…想像もつかないです…自分が親になることなんて考えたことありませんでしたから。しのぶさんの希望は何人くらいですか?」
「そうですね…少なくとも二人、男の子と女の子が一人ずつです。私は何人でも良いですけど、お互い長くは育てられませんからね…難しいところです。」
痣を出した以上、二十五で命が終わることは確定してしまっている。あまり多いと周りの者が育てることになるし、子どもたち自身にも苦労をかけさせてしまう。
「…しのぶさんは六年、俺は九年くらいですか…長いようで短いですね…」
「その分愛情を深く持って育てれば子どもたちも納得してくれる筈ですよ。…まだ居ませんけどね。」
少し苦笑すると、炭治郎もつられて少し笑った。
「さて、未来の私たちのために、今の私たちは力をつけないと、ですね。」
しのぶは立ち上がって木刀を二本取り、片方を炭治郎に渡す。
「はい。そういえばカナヲは何処に行ったんでしょうか?」
「カナヲは柱の方々と実戦稽古をしに行きましたよ。『私はまだ痣が出ていないから』と。できれば出して欲しくないんですけどね…」
まだ痣が出ていない人たちには鬼のいなくなった世界で平和に長生きしてほしい。そう思っているのは炭治郎も同じのようで、静かに頷いていた。
「さあ、痣を持つもの同士、一時的ですが『透き通る世界』を会得したもの同士で稽古をしましょう!」
「はい!」
それから、『透き通る世界』を完全に会得するために、痣を出した状態で実戦稽古をおこなった。
暫く続けていると、少しずつ要領を掴むことができ、しのぶは『透き通る世界』に入りたいときに入ることができるようになってきた。しかしほんの一瞬集中が切れるだけで途切れてしまうので、常時入ることはできなかった。
「炭治郎くんは『透き通る世界』、どうですか?」
「まだ安定はしないですね…それなりには入れるんですが…」
炭治郎も同様で、まだ完全には使いこなせてはいないようだ。
しかし不安定ながらも『透き通る世界』に入っているので、二人とも持続力は以前よりも格段に底上げされた。現に実戦稽古を開始して、数刻経っているのに、ほとんど疲れを感じていない。
体力はまだまだ有り余っているが、時間も遅くなってきたので稽古は終了することにした。
「それにしても…父が病弱だったのにあんなに動けた理由がやっと分かりましたよ。ここまで長時間動けるようになるとは思いませんでしたが。」
「ええ、今までとは比にならないくらいです。これを会得できるかどうかで実力にかなりの差がでますね。」
「しかし…痣と違って明確な方法が分からないのが難点ですね…」
あれから稽古を続けているが、会得するのに痣の発現が前提なのかどうかも未だ不明なままなのだ。
「総力戦になる前に分かると良いんですけど…」
数日間、炭治郎としのぶは共に稽古をおこない、他の柱と時間が合うときは柱同士で稽古をするというのを繰り返していた。柄も完成し、問題なく機能することも確認した。
そして、その日は突然来た。
「緊急招集ーッ!緊急招集ーッ!産屋敷邸襲撃ィ!産屋敷邸襲撃ィ!」
誰の鴉かは分からないが、大急ぎ且つ大声で知らせに来た。
「炭治郎くん!今すぐ産屋敷邸に向かいます!私に付いてきてください!」
「はい!」
場所を知っているしのぶは炭治郎を連れて、早急に産屋敷邸へと向かう。今出せる最大の速度で走り、屋敷へと急ぐ…
暫く走り続け、産屋敷邸が見えてきた。
しかし到着する直前で、とてつもない轟音とともに産屋敷邸が爆発した。
「屋敷が……!!」
しのぶは吹き飛ぶ瓦たちを見上げ、炭治郎は火薬の中に混ざる血と骨の焼き付く匂いを感じ取る。
「お館様…まさか自らを囮に珠世さんに繋いだの…!?」
「…急ぎましょう、しのぶさん!もしそうなら必ず無惨が居る!」
産屋敷邸の敷地に入った時、そいつは居た。珠世が吸収されかけているとはいえ、今が好機という状況にある。
「無惨だ!鬼舞辻無惨だ!奴は頸を斬っても死なない!」
行冥の声と同時に此処に居る者全員が一斉に斬りかかる。
しかし何処からともなく琵琶の音がした瞬間、足元から扉のようなものが突然現れ、奇妙な空間へと落とされる。
落ちていく最中、
「これで私を追い詰めたつもりか?貴様らがこれから行くのは地獄だ!!目障りな鬼狩り共、今宵皆殺しにしてやろう!!」
鬼舞辻無惨が嬉々として叫んでいた。
かなり下層の方へと落とされ、何とか上手く着地する。
「ここは…何処でしょうか…」
「恐らく…伊黒さんと不死川さんが言っていた、鬼どもの隠れ家でしょうね…」
他の者とははぐれてしまったが、幸い炭治郎としのぶは同じ場所に落ちた。
奇妙な空間、無限城は上下左右の概念が無いかのように、床や壁、天井が入り乱れている。
「嫌な匂いが…血の匂いがします…あの戸の向こうから…」
少し道なりに歩いていると、血の匂いが強まってくる。
「ええ…とんでもなく気持ちの悪い気配がしますね…」
もしかすると姉の仇かもしれないと、しのぶは意を決して戸を開ける…
「ん?あれぇ来たの?わあ女の子だね!もう一人は男の子だね!若くて美味しそうだなあ。後で鳴女ちゃんにありがとうって言わなくちゃ。」
その鬼は、血を被ったように赤い頭をしている。
「やあやあ初めまして。俺の名前は童磨。いい夜だねえ。」
にこにこと屈託なく笑い、穏やかに優しく喋る。そして手には鋭い対の扇。そして右の眼球に『上弦』、左の眼球に『弐』と刻まれている。
「…しのぶさん、あいつがもしかして…」
「…炭治郎くん…一つ言い忘れていました。私の姉は死んだとき、体の一部が、肺胞が壊死していました…凍らされたように。恐らく奴の血鬼術は私たちの天敵です。呼吸するのも十分注意してください。」
「…分かりました。」
上弦の弐、童磨に聞かれないように、しのぶと炭治郎は小声でやり取りする。
「何話してるのー?俺も混ぜてくれないかなあ」
童磨は会話に加わりたいのか、それとも情報を抜き取るためなのか、しのぶと炭治郎、特にしのぶの方に話しかける。
「…吐き気がする。彼との会話に割って入ってくるな。」
しのぶは額に血管が浮き出る程に怒り、不快と言わんばかりに声色を落とす。
炭治郎は周囲に転がっている死体を見て怒りを覚えつつも反復動作をおこない、童磨の出方を静かに伺う。
「ん?その羽織…もしかしてあの女の子の妹なのかな?あの
-雪の呼吸 弐ノ型
しのぶは童磨が話し終わる前に風の刃を飛ばし、
-雪の呼吸 壱ノ型
風の刃と同時に、童磨の眼球を突き刺しにかかる。童磨はその突きと止めようと手を伸ばすが、風の刃で手が弾かれて眼球に刀が貫通する。
「おっと。凄い風と突きだね。手が弾かれたし、目で追えなかったよ。」
-鬼血術
童磨はお返しと言わんばかりに、扇を振りかぶる。
-日の呼吸 輝輝恩光-
炭治郎は思い切り前方に突進し、攻撃途中の童磨の腕を斬り落とす。
同時にしのぶを抱えて一旦少し距離を取る。
「しのぶさん、落ち着いて。仇を討つためにも。」
炭治郎は怒りで我を忘れそうなしのぶを諭す。
「う~ん、二人とも速いねえ。それに斬られた腕の再生が若干遅れるなあ。
それにしても、男の子は兎も角、君は不憫だなあ。突き技じゃあ鬼は殺せない。頸だよ。やっぱり頸を斬らなきゃ。」
「ふぅ…ふぅ…突きは駄目でも、毒ならどうでしょうかね…」
しのぶは少し落ち着き、ギリギリと音を立てながら刀を鞘に戻し、にこにこ笑う童磨に喋る。
「ぐっ…!!」
しのぶが言った直後、童磨の眼球から毒が巡り始め、童磨は膝を崩してうずくまる。
「累君の山で使った毒より、半天狗に使った毒より強力だね…!」
童磨がうずくまっている隙に、炭治郎としのぶは体温と心拍数を上げて痣を発現させる。
「あれぇ?毒、分解できちゃったみたいだなあ!」
少しすると毒の巡りが収まり、童磨は体を再生させていく。
「ごめんねえ、折角使ってくれたのに!でも毒を喰らうのって初めてで楽しいよ!次の調合なら聞くと思う?やってみようよ!」
本気で楽しんでいるかのように笑う。
「毒の耐性は想定内です。そもそも上弦の肆に破られた時点で分かっていましたしね。これはただの時間稼ぎです…」
しのぶは再度刀を抜き、炭治郎と共に構える。すると、童磨が発生させた鬼血術の氷が砕け、砕けた氷は霧状になる。
「…炭治郎くん、あの氷の霧は何か危険です…
君の呼吸に合わせてあの氷の霧を風で吹き飛ばしますが、吸わないように注意して…。」
「はい、十分注意します。」
先刻の攻撃からいくつかの情報を読み取り、しのぶは再度炭治郎に話す。
「作戦は決まったかな?じゃあ、君たちも僕が救ってあげるよ!」
【あとがき】
改めて、今回から三人称で進めていきます。
しのぶの心情の描写があまり無いし、脳内セリフも説明口調で違和感の塊なので、一人称にしている理由がありませんでした。
気が向いたら1話から三人称視点に書き直します。多分書き直しませんが…
新しい柄の話ですが、ペットボトルを握ったら中の飲み物が零れるような感じをイメージすると分かると思います。
童磨以外の戦闘シーンは書くかどうか分かりません。仮に書くとしたら、黒死牟と鳴女は原作と同じ面子、猗窩座は義勇、伊之助、カナヲになります。
雪の呼吸
水の呼吸が派生して、風の呼吸と合わさった。
壱ノ型 垂り雪(しずりゆき)
『蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ』のように高速で横切ると同時に攻撃する。
状況によって『突き』と『斬撃』を使い分ける。突きの方が速度は上。
弐ノ型 細吹雪(ささめふぶき)
刀を素早く振り上げ、続けて振り下ろす連撃技。一瞬で二度斬るため、反応が遅いと一度で二度斬られたように感じる。
振り上げで風を起こし、振り下げで『風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風』のように風の斬撃を複数飛ばすことができる。
参ノ型 風花(かざばな)
相手の隙を斬り込む連撃技。
隙が多ければ多いほど斬撃の数は多くなり、隙が大きければ大きい程強い斬撃になる。
肆ノ型 銀華白風(ぎんかしらかぜ)
『水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦』のように体を捻り、自身の周囲に強力な斬撃を放つ。
防御技としても使える。
伍ノ型 天華六角(てんげろっかく)
目にも止まらぬ速度で六連続の突き斬りをする。
『蟲の呼吸 蜻蛉の舞 複眼六角』 を雪の呼吸に合わせて作り変えた。
しのぶ本来の性格(少し短気な性格)が風の呼吸に合うと思ってこうなりました。
水の呼吸に関しては、蟲の呼吸の大元が水の呼吸だからという理由です。