鬼を斬る蝶と蝶を救う太陽   作:yuki_06090570

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鬼の居なくなった世界
これからのこと


千年の夜明けから一ヶ月と少し経った頃、炭治郎は蝶屋敷で治療を受けていた。意識は戻ったのだが、まだ歩けるほどには回復しておらず、病室で療養していた。

ちなみに、あまりにも重体だったために病室は個室となっている。

 

「片目はなんとかなるけど…やっぱり片腕が使えないと不便だなぁ…」

 

炭治郎は鬼舞辻無惨との戦いで右目と左腕を失った。一時的に鬼になったことで見掛け上は存在しているが、機能自体はしていない。

 

「安心してください。その分私が支えてあげますから。」

 

「しのぶさん!もう動いて大丈夫なんですか?」

 

不便になった体に一人で愚痴を零していると、病室にしのぶが入ってきて微笑みながら炭治郎に近づく。

 

「ええ、傷もほとんど塞がりました。」

 

二人ともかなりの重体だったため、最後の戦いから顔を合わせることができておらず、アオイたちからの伝手でしかお互いの状態を知らなかったのだ。

 

「良かったです…一時はどうなることかと…」

 

しのぶが元気なところを見て炭治郎は安心したように涙を流す。

 

童磨との戦いの後、胸を裂かれたしのぶは出血による貧血で意識を失った。意識を失う前は睡眠のような状態で呼吸を使っていたので、止血できる負傷部分は無意識に止血していたのだが、傷が大きすぎて暫く出血し続けていた。

炭治郎ができる限りの応急処置をおこなったことで出血は止まって一命を取り留めたのだ。

 

「貴方のお陰で仇が討てましたし、生き残ることができました。」

 

しのぶは炭治郎の背中に手を回して、

 

「本当に…ありがとう…」

 

怪我が悪化しない程度に抱きしめる。

 

「…俺も、貴女が作ってくれた『鬼を人間に戻す薬』のお陰で…人間に戻ることができました。ありがとうございます…!」

 

炭治郎は辛うじて動く右腕でしのぶを抱きしめ返し、お互いに生き残ったことを改めて実感する。

 

「漸く…終わりましたね。私たちの、鬼殺隊の戦いが。」

 

炭治郎以外の隊士や隠たち、そして善逸、伊之助、カナヲは概ね傷も回復し、後は最前線で戦った柱たちだけという状況だ。

治療という意味でも鬼殺隊の戦いは終わりに近い。

 

「…そうですね。

亡くなった方々には申し訳ないですけど、これからの人生が楽しみです。」

 

「私も楽しみです。ですから、早く身体を治してくださいね。」

 

しのぶは炭治郎から身体を離して立ち上がり、笑みをこぼす。一ヶ月振りにその笑顔を見た炭治郎はほんの少し顔が赤くなった。

 

「さて、元気そうなのでお昼にしましょうか。準備して持ってきますね。」

 

「はい。お願いします。」

 

しのぶは病室から出て、炭治郎の昼ご飯を用意しに行った。

 

 

しのぶが病室から出た少し後、

 

「よォ、竈門。元気そうかァ。」

 

実弥が手を軽く振りながら病室に入ってきた。

 

「はい。実弥さんもお元気そうで何よりです。」

 

「おう。まだ完治って訳にもいかねぇけどな。」

 

実弥は右手の人差指と中指を失い、腹部にも大きな傷を負うこととなった。しかしそれでも生き残った他の柱に比べれば軽症なのだ。

 

実弥と炭治郎が話をしていると、

 

「炭治郎、あっ、兄貴も来てたんだ。具合はどうだ?」

 

「おう。大分マシになったぞ。」

 

「同じく、良くなってきてるよ。実弥さんほどではないけど。」

 

玄弥が病室に入ってきた。玄弥は一時的に鬼化していたということもあって、ほとんどの怪我は戦いの後既に完治していた。

 

「そっか、元気そうで良かったぜ。」

 

「…というか、ぼろぼろの俺が言うのもなんだけど、玄弥が無事で良かったよ…」

 

「全くだァ…俺は上弦の壱と戦ってた時に意識失ったみてぇだから、何があったのか知らねぇけどよォ。」

 

実弥が上弦の壱との戦いの後に目を覚ましたとき、玄弥は意識こそなかったが、辛うじて命を繋いでいたのだ。切断されたはずの胴体は治癒し、鬼化の兆候もみられなかった。

 

「悲鳴嶼さんとは話す暇もなかったからなァ…何があったんだ?」

 

炭治郎と実弥が、一体何があったのかを聞きたそうにしていたので、玄弥は話し始めた。

 


 

行冥、実弥、無一郎、玄弥が力を合わせて上弦の壱を倒した後、

 

「玄弥!!」

 

行冥が左半身だけになった玄弥の元へ駆け寄る。

 

「悲鳴…嶼さん…兄貴は…時透さん…は…」

 

「私たちは生きている、大丈夫だ!…時透は…すまない…既に息を引き取っている…!」

 

行冥は時透の方に意識を向け、心臓が止まっていることを確認した。

 

「そっか……悲鳴嶼さん…貴方が…許してくれるなら…」

 

玄弥は何とか左腕を動かし、衣類の中に仕舞っていた『珠世と愈史郎の血肉』と『鬼を人間に戻す薬』を取り出した。

 

「この血肉を…俺に喰わせて…一度鬼に…

…再生したら…この…『鬼を人間に戻す薬』を…」

 

玄弥は最後の定期健診の時に、しのぶから『珠世と愈史郎の血肉』と『鬼を人間に戻す薬』を受け取っていたのだ。

 

もう一度鬼の体質となって身体を再生させ、その後に人間に戻る。しかし、これで生き延びられるかどうか、人間に戻ることができるかどうかは分からない。

 

行冥は、兄を悲しませたくない、つらい思いをさせたくないという玄弥の想いを感じ取った。

 

「…承知した…しかし、もしものことがあった場合は…覚悟してくれ…」

 

「…はい…」

 

もし身体が再生できなければ死ぬ。仮に再生したとしても人間に戻ることができなければ、行冥の手で玄弥の頸を落とさなければならない。

もしものときは覚悟しろ、と言ったのは玄弥に対してだけではなく行冥自身にもだ。

 

行冥は意を決し、分断された玄弥の右半身を持ってきて、胃の位置に『珠世と愈史郎の血肉』を入れる。

 

「…う…ぐっ…!!」

 

消化し始めた途端に、玄弥は呻き、身体が震え始める。

 

「う…ウガ…」

 

次第に毛先は黄色くなり、牙が生える。そして左半身と右半身の切断された部分が少しずつ少しずつ再生してくっついていく。

 

そして、身体が完全に元に戻った。

 

「悲鳴…嶼…さん……頼む…!」

 

玄弥は鬼化の進行に震えながら言うと、行冥は素早く玄弥に薬を打ち込む。

 

「うぐっ…があああ!!」

 

人間から鬼に、鬼から人間に、短時間で変化しているため、身体には過剰な負荷が掛かる。

玄弥は身体の変貌による激痛で、雄叫びのような声を出し続けている。

 

その間行冥は玄弥を心配そうに見守るしかなかった。

 

 

やがてその変化は終わり、玄弥は人間に戻ることができたのを自分自身で理解した。

 

「うぅ…はあ…はあ…戻れ…た…」

 

しかし戦闘の後の激痛で、この言葉を最後に気を失った。

 

「…よく…戻ってきた…」

 

行冥は無事に人間に戻った玄弥に、涙を流す。

 

 

その後玄弥が目を覚ましたのは、無惨討伐と炭治郎の鬼化解除を終えた頃だった。

 


 

「…ってことなんだけど…

…まあ、鴉から聞いたことだからさ。俺ほとんど覚えてねぇんだよな。」

 

玄弥は頬を掻きながら少し苦笑する。

話を聞いた実弥と炭治郎は暫く呆然とするしかなかった。

 

「…身体の方に異常とかは?」

 

「特になんとも。陽の光に当たっても問題ねぇ。それに、飯だって今はしっかり食ってるよ。」

 

『鬼を人間に戻す薬』を投与したことが要因なのか、今の玄弥は本当にただの人間に戻った。鬼喰いの能力が消えたかどうかは定かではないが、それを確かめるための鬼も、確かめる必要もなくなった。

 

「そっか。それなら良かった!」

 

「…上手くいったんだな…」

 

「兄ちゃん知ってたの?」

 

玄弥は実弥の優しい顔を見て、呼び方が『兄貴』から『兄ちゃん』に変わっていた。

 

「ああ、胡蝶から聞いてたぜ。それを聞いてなかったら鬼喰いなんか力尽くで辞めさせてたからなァ」

 

玄弥が実弥の稽古に来る少し前に、実弥はしのぶから『鬼を人間に戻す薬』のことを聞いていた。鬼喰いの玄弥に効果があるのかどうかは不明なままだったが、それでも玄弥の覚悟や意志を尊重してあげてほしいと、しのぶは実弥に頼んでいたのだ。

 

「しのぶさんも妹だったから、似た境遇の玄弥の気持ちが分かってたんだろうなぁ。」

 

「…兄としては、やっぱり危ないことはしてほしくねぇんだがな…」

 

実弥の口から漏れた言葉に炭治郎は激しく頷く。長男という同じ立ち位置である炭治郎と実弥は、器用さ以外はとても似ている。

聞いていた玄弥は、弟として気にかけてもらえて嬉しいような、兄にも危ないことをしてほしくないという寂しさのような、何とも言えない表情をしていた。

 

「…と、そろそろ胡蝶が戻って来る頃か。一ヶ月以上振りの二人きりだ。邪魔しねぇように退散してやるぜ。」

 

実弥は気を利かせ、玄弥も一緒に病室から出ていった。

 

「あ…ありがとうございます…」

 

炭治郎は少し照れながら、部屋を出ていった実弥と玄弥にお礼を言った。

 

 

不死川兄弟が話をしながら病室を出ていったほんの少し後、

 

「お待たせしました。折角なので、私も一緒に食べますね。」

 

しのぶが二人分の食事を持って戻ってきた。

 

「しのぶさんとご飯食べるのは久し振りな気がします。」

 

「お互い意識失ってましたからね。」

 

しのぶはご飯を机に置いて炭治郎の寝台の隣に座る。

そして二人は両手を合わせて、

 

「「いただきます。」」

 

……………

 

「「ごちそうさまでした。」」

 

昼ご飯を食べ終わり、しのぶは食器を片付けた後に再度病室に戻ってきた。

 

「さて、炭治郎くん。これからのことを話しませんか?」

 

「これからのこと…」

 

「柱稽古期間中のときに縁側で話したことですよ。」

 

「…結婚したらって話でしたよね。

…しのぶさんと結婚かあ…」

 

炭治郎はそのとき話したことを思い出し、あの時より現実になりつつある未来を想像して無意識に口角が上がっていた。

 

「正直恋仲らしいことをあまりしていないので、三ヶ月くらいは二人きりで居たいと私は思っているのですが…」

 

炭治郎としのぶがした恋仲らしいことは、抱擁と膝枕くらいしかない。

 

「そうですね…旅行とかしますか?今なら鬼の心配もありませんし。」

 

「旅行、いいですね!」

 

炭治郎が旅行を提案すると、しのぶは目を輝かせて炭治郎の方を見る。

任務として様々な所へ出向くことが多々あるが、娯楽的な意味では遠出することはないという隊士がほとんどだ。しのぶもその一人だった。

 

「何処に行きましょうか…都会も良いですけど、田舎も良いですよね…」

 

しのぶは楽しみで気持ちが踊り、ニコニコしながら目線が色々な方向に移動していた。炭治郎はそんなしのぶを優しい目で見ていた。

少しして、しのぶは炭治郎の視線に気がついた。

 

「…どうかしましたか?」

 

「いえ、しのぶさん変わったなぁ、と思っただけです。前はずっと怒ってる匂いがしてましたけど、今はしてないので。」

 

「…今の匂いはどんな感じですか?」

 

「えっと…幸せな感じの匂いですね。」

 

炭治郎は自分で言ってて恥ずかしくなり、頬を少し掻く。

 

「そう、今とても幸せなんですよ。憎んでいた鬼はもう居ませんから。それに、炭治郎くんと一緒に居るだけで幸せなんですよ。」

 

しのぶは満面の笑みを浮かべる。その顔は、鬼殺隊に入る前でしかしたことが無いような、少女の笑顔だった。

 

「…!か…かわ…」

 

当然炭治郎は見たことがなかったので、思わず『可愛い』と口走りそうになり、自身の口を手で押さえて塞いだ。

 

「ん〜?炭治郎くん?今、何て言おうとしましたかぁ?」

 

しのぶは、炭治郎が言おうとしていたことに予想がついており、揶揄うように突いて問い質す。

 

「か…かわいい…って…思いました…

あの…さっきの笑顔は今まで見たことなかったので!

いや、普段からかわいいとは思ってるんですけど、いつもは綺麗というか美人というか、そういう雰囲気なんです。でもさっきのは…」

 

「も…もう言わなくて大丈夫です!」

 

炭治郎は弁明のために慌てて早口で話す。そこまで言われると思っていなかったしのぶも慌て始め、今度はしのぶが炭治郎の口を手で塞ぐ。

 

「んぐっ…」

 

かなりの勢いで塞いだので炭治郎は少し仰け反った。

 

「あっ…すいません…炭治郎くんにかわいいとか言われると…嬉しいんですけど、恥ずかしくて…」

 

少し落ち着いたしのぶは、赤くなった頬に手を当てて俯いた。

 

「そういうのがかわいいんですよねぇ…」

 

「もう!言わないでください!」

 

「ご…ごめんなさい…

あっ今は少し怒ってるけど、凄く嬉しそうな匂いがしますね。」

 

「それも言わなくていいんですよ!!」

 

しのぶは、これ以上言わせないように炭治郎の頬を少し引っ張った。

 

「いてて…すいません。」

 

「はあ…話を戻しましょう。炭治郎くんは何処かに行きたかったりしますか?

計画無しの行き当たりばったりな旅行も良いですけど、やっぱり決めた方が楽しくなるでしょうから。」

 

「…うーん…思い付かないですね…」

 

炭治郎は鬼殺隊に入るまでは山で木を切って、それを炭にして売るという生活しかしてこなかった。裕福ではなかったし、末っ子はまだ旅行に行くには小さかったので、旅行というものをしたことがないのだ。

 

「まあ、ゆっくり決めていきましょうか。漸く時間が沢山できたんですから。」

 

その後炭治郎としのぶはこれからのことを話した。

 

 

 

 

炭治郎の傷が完治し、左腕を除いて今まで通りに動けるようになった頃、

 

「一度実家に帰る予定でしたよね。」

 

鬼狩りとしての最終診察が終わって、しのぶは炭治郎に聞く。

 

「はい。家族のお墓をちゃんとしたものにしたいので。」

 

「ご一緒してもいいですか?御両親に挨拶をしようかと。」

 

しのぶは炭治郎に聞くが、拒否されるとは思っていないので特に心配はしていない様子だった。

 

「構いませんよ。両親も喜んでくれると思います。」

 

「ありがとうございます。そうと決まれば、早速準備しないとですね。」

 

二人は診察室から出て、各々準備をしに部屋へと戻る。

 

「あっ、しのぶさん。今日の夜、時間ありますか?そのときに話したいことが…」

 

部屋に戻る前に、炭治郎はしのぶに聞く。

 

「分かりました。時間はありますから大丈夫ですよ。」

 

「ありがとうございます。じゃあ、あそこで待ってます。」

 

それだけ言って炭治郎は部屋に戻っていった。

 

 

その日の夜、

 

しのぶは炭治郎と初めて二人で話した場所へ向かった。

 

「今日は月が綺麗ですね」

 

炭治郎は匂いでしのぶが来たことに気づいて、月を見上げたまま話しかける。

 

「そうですねぇ。今まで以上に綺麗に見えます。」

 

今までの月は鬼が活動を始める合図だったのが、今はただの綺麗な景色に変わった。嫌いだった夜が明けたのだ。

 

「それで、話というのは?」

 

「…まず先に、これを贈らせてもらいますね。」

 

炭治郎は用意していた物をしのぶに渡した。

 

(くし)ですか…」

 

「はい。本当は(かんざし)にしたかったんですけど、しのぶさんにはその蝶の髪飾りが一番お似合いですから。」

 

「…ということは、そういう意味なんですよね…?」

 

しのぶは目線を櫛から炭治郎に移し、目を見つめていた。

 

櫛や簪を女性に贈ることは結婚を申し出るという意味が、昔から伝わっている。

 

「はい。それで…しのぶさん、全部終わったら言うつもりだったことを言います。」

 

炭治郎は改まってしのぶの方に身体を向ける。

 

「お互い二十五歳までという短い人生ですが、この鬼の居なくなった世界で俺に貴女を守らせてください。」

 

炭治郎は真剣な表情で、贈り物だけでなく言葉でしのぶに結婚を申し出る。

 

「…はい!改めて、これからもよろしくお願いします!」

 

しのぶは今までで一番幸せな表情で炭治郎に笑顔を向けた。




【あとがき】

実弥と玄弥の関係を修復したのに原作通りに死なせてしまうのも勿体なかったので、玄弥は生存させました。珠世と愈史郎の血肉に関しては、しのぶが二人に頼んでた描写が何処かの話に書いています。
しのぶと玄弥以外は原作通りです。
(※やっぱり勿体なかったので、小芭内と蜜璃は生存させることにしました。無一郎と行冥は生き残る展開が思い付かないので、原作通りです。)

本編的には今回で終わりです。

次回以降は炭治郎としのぶが鬼が居なくなった世界で色んな所に行ったり、何かしたりするだけになります。
番外編というやつです。いつまで続けるかは分かりません。気が向いたときに書いていくつもりです。




ちょっとした考察

原作で鬼化炭治郎が人間に戻れたのは、しのぶの薬に加えて、禰豆子を噛んだからということでしたが、珠世が作った薬であれば禰豆子を噛む必要はなかったのではと考えています。
というのも、珠世は禰豆子を含めた『鬼の血液』から鬼を人間に戻す薬を作りましたが、しのぶは『藤の花』から作っています。鬼の血液は使っていないので、抗体が入っていないのです。だから、人間禰豆子の血液が必要だったのではないでしょうか。

以上、投稿主の妄想考察でした。
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