鬼を斬る蝶と蝶を救う太陽   作:yuki_06090570

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帰省前の逢瀬

炭治郎の実家に帰る前日の早朝、

 

「一緒にお出掛けしませんか?」

 

炭治郎はしのぶを逢瀬に誘った。

竈門宅には禰豆子だけでなく、善逸と伊之助も一緒に帰ることになっているので、炭治郎は二人きりの時間が欲しかったのだ。

 

「いいですよ。少し買い物もしたかったですし、二人きりの時間もご無沙汰でしたからね。」

 

お互い自身の治療に手一杯でお出掛けどころか二人きりの時間すらまともに作れておらず、しのぶもその時間が欲しかったので、快く了承した。

 

「朝ご飯を食べてから行きましょうか。」

 

「はい!」

 

 

その後朝食を摂り、それぞれ外出の準備を始めた。

 

「お待たせしました。」

 

しのぶが屋敷の玄関に向かうと、炭治郎は既に待っていた。

 

「いえ、そこまで待ってないので大丈夫です。」

 

屋敷の外の方を向いていた炭治郎はしのぶの方へ振り向いた。

 

「しのぶさんの着物姿初めて見ました。」

 

炭治郎は初めて見るしのぶの着物姿を見て嬉しそうにする。

 

「思えば、炭治郎くんの前で着るのは初めてでしたね。」

 

しのぶが着物を着るのは生薬を買い付けに行くときくらいだったので、しのぶの着物姿を見た隊士はほとんどいない。

 

「どうですか?私の着物姿は。」

 

しのぶはくるっと一回転して全体を炭治郎に見せた。

 

「綺麗です…とても。」

 

「ふふっ、ありがとうございます。」

 

炭治郎はしのぶの仕草を目の保養にしながら褒める。

そして素直に褒められたしのぶは、ほんの少しの照れ隠しで笑った。

 

「では、行きましょうか。」

 

炭治郎はしのぶの照れ隠しには触れずに右手を出し、しのぶはその手を取る。

そして手を繋いだまま屋敷を出発し、近くの街に向かってゆっくりと歩く。

 

「こうしてのんびり歩くのはいつ振りでしょうか…」

 

しのぶは周囲の景色を見ながら昔を懐かしむ。

 

周囲には緑の山や木々があり、そして乾燥した田畑の間の畦道(あぜみち)を二人は歩く。

田んぼでは、農家の人々が田起こしをしている。

 

「鬼が居なくなったことで前より景色が綺麗に見える気がします。」

 

「俺も同じです。鮮やかというか…」

 

周囲の人々が炭治郎としのぶに手を振り、その人々に炭治郎は笑顔を返し、しのぶは手を振り返しながら感慨深そうに会話する。

 

「しのぶさんと同じ景色を見てるから綺麗に見えるのかもしれませんね。」

 

炭治郎がそう言うとしのぶは少し笑い、炭治郎との距離をほんの少し縮めた。

 

「君は本当に私が好きですねぇ。」

 

「しのぶさんだって同じでしょう?」

 

しのぶは答える必要すらないと思い、笑顔で炭治郎を見るだけで質問には答えなかった。

 

 

街に近づけば近づくほど、少しずつ舗装された道になっていき、人の数も増加していく。

 

「やっぱり、鬼が居ないって良いですね。周りの人達と同じ目線で歩けますから。」

 

周囲の人々は鬼のことなんて知らず、鬼の脅威に怯えることもないという雰囲気だ。

今まで彼らは守る対象だったが、これからは同じ足並みで生きていくことができるのだと思えて、自然と頬が持ち上がる。

 

「そうですね。普通の暮らし…私少し憧れだったんです。小さい頃に両親は喰われてしまいましたから。」

 

しのぶは青い空を見上げ、昔を色々と思い出していた。

目の前で両親が喰われ、姉の身体が冷たくなっていき、カナヲを含めた継子四人の内三人が殺される。

幸せというものが崩れていくあの感覚を思い出していた。

 

「しのぶさん…」

 

炭治郎が心配そうに声を掛けると、しのぶは見上げていた顔を炭治郎の方に向けて笑う。

 

「色々失いましたが漸く、普通の…普通以上の暮らしができるんですね。」

 

その笑顔からは少し泣きそうな悲しい匂いがしていた。

 

「必ず幸せにします。俺が居ないと駄目になるくらい幸せにしてみせますよ。」

 

「楽しみ…と言いたい所ですが、それなら既にできていますよ。」

 

しのぶは繋いでいた手の指を炭治郎の指と絡めた。

 

「ずっと前から…私にとって炭治郎くんは居なくてはならない存在なんです。」

 

「それなら…良かったです。ところでこの手は…」

 

炭治郎は、先刻よりもしのぶを身近に感じられて嬉しい反面、恥ずかしくて顔を赤らめていた。

 

「恋人繋ぎというらしいです。普通に手を繋ぐより身近に感じられて良いでしょう?」

 

強気に言っているが、内心しのぶもかなり緊張しており、炭治郎には匂いでそれが伝わっていた。

とはいえ炭治郎の方が数倍緊張していてそれどころではなかったし、しのぶはそんな炭治郎を見て緊張がほぐれた。

 

「そうですね…少し緊張して手が震えちゃって…すみません。」

 

「炭治郎くんはかわいいですね。普段はかっこいいのですが。」

 

微笑するしのぶに炭治郎はほんの少し機嫌が斜めになり、頬を膨らませる。

そんな表情もかわいいと思えて、また笑みが零れる。

 

「…たまにしのぶさんから男として見られてないのではと思うことがあるんですけど…」

 

「そうですか?かわいい所も含めて異性と見てるつもりですよ。」

 

炭治郎は『かわいい』という部分に若干不服そうにしている。しのぶはそれを知ってか知らずか話を進める。

 

「かっこいいだけの男性は世の中に幾らでも居ます。私の好みかどうかは別として。」

 

しのぶは例として天元、杏寿郎の名前を挙げる。

 

「ですが炭治郎くんは私好みのかっこいいを持ちつつ、かわいい部分があるのですよ。」

 

「それなら…いいんですが…」

 

そんな他愛のない話をしながら街中を歩く。

 

 

「しのぶさんの買い物って何ですか?」

 

「医療用品を少し。在庫の大半が無くなりましたからね。」

 

最後の戦いで負傷した隊士の数が今までの比ではなかったため、予備として準備していた薬や包帯といった物はほぼ全て使い果たしてしまった。

 

「しのぶさんは医者を続けるんですか?」

 

薬屋に向かい、しのぶはいくつか目当ての生薬を探す。

 

「はい。元々薬学には興味がありましたから。炭治郎くんは以前言っていた炭焼きですか?」

 

しのぶは、残りの人生をゆっくり過ごしてほしいと思っているが、炭治郎がそういう人ではないと理解しているので言わなかった。

 

「そのつもりです。他にすることとかありませんし。

まあ、ガスの普及で炭の需要は下がっていきそうですけど。」

 

「ガスは使い方を間違えなければ便利ですからねぇ。」

 

生薬を買い終わり、薬屋を出て周囲の店や人々を見渡す。周囲は商店街となっていて様々な店が並んでいる。

 

「少し早いですが、お昼を食べていきませんか?」

 

しのぶは炭治郎の手を取り、目に留まった蕎麦屋を指差す。

 

「良いですね、行きましょうか。」

 

炭治郎がそう言うと、しのぶは『善は急げ』といった感じで炭治郎の手を持ったまま足早に向かう。

そんなしのぶを見て『普通の女性になることができたんだ』と思い、自然と炭治郎も笑顔になった。

 

 

「蕎麦…義勇さんと競争したとき以来です。」

 

「あのときですか…」

 

しのぶは柱稽古のときを思い出して呆れていた。

 

「私も以前、任務先で偶然会ったときに冨岡さんと蕎麦を食べましたね。」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。あのとき冨岡さんは鮭大根を…」

 

しのぶは鮭大根を口に入れた瞬間の義勇の顔を思い出して少し()せた。

鮭大根と聞いて炭治郎も義勇の顔を思い出し、しのぶが咽せた理由が分かった。

 

「義勇さんにしては珍しい笑顔でしたね…」

 

「…ええ。柱として長い付き合いでしたが、あんな顔は初めて見ましたよ。

好きなんでしょうね…鮭大根。」

 

そんな話をしていると蕎麦が二人の前に出された。

 

「そのときの冨岡さん、警察のお縄になっていたんですよ。」

 

「ええっ!?何があったんですかっ!」

 

しのぶは蕎麦を食べながら、当時の話をし始めた。

 

「帯刀してて…ですか。なんというか、義勇さんらしいですね…」

 

「全くです。会話も成立していませんでしたからね…

もっと喋ればいいのにって思いますよ。」

 

その後も結局、蕎麦を食べている間は義勇の話ばかりしていた。

 

 

「さて、用事もお昼も済ませましたし、炭治郎くんは何処か行きたい場所はありますか?」

 

蕎麦を食べ終わり、店を出てから聞く。

 

「ん~…正直しのぶさんとなら何処でも構わないんですけど…」

 

特にこれといって思い浮かばないようで、炭治郎は暫く悩んでいた。

 

「…一つあるんですけど、実家からの方が近いのでそのときでも良いですか?」

 

「構いませんよ。それで、何処に?」

 

藤襲山(ふじかさねやま)です。ある意味始まりの場所ですから。」

 

鬼殺の剣士が生まれる場所であり、剣士になるはずだった者の墓場。良くも悪くも鬼殺隊にとって重要な場所である。

 

「鬼殺隊を締めくくるのに一番良い場所ですね。分かりました。

それで、今行きたい場所は…ないようですから、もう少し散策してから帰りましょうか。」

 

「はい。」

 

それからあてもなく散策し、途中で甘味も食べたりしながら時間をつぶした。

そして夕刻頃に行きと同じ道を、行きと同じように手を繋いで、行きと同じようにゆっくりと歩いて帰路に就く。

 

「時間帯というのもあるかもしれませんが、景色が変わって見えますね。」

 

行きとは変わって、炭治郎が先に言葉を発する。

落ちかける太陽は橙色で、空は赤く染まっており、緑色の木々は影で黒く見える。

 

「朝昼とはまた違った(おもむき)があって良いですね。何度も見た景色のはずですが、こうして違いを見るのは初めてのような気がします。」

 

しのぶは本日何度目か分からない、新しいものを見るような輝いた瞳で景色を見ていた。

 

「これから沢山、色んな景色を見ていきましょう。二人で。」

 

「…もしかすると、三人か、四人になっているかもしれませんね。」

 

しのぶはからかうように、目を薄めて笑った。炭治郎はその言葉と表情で少し面映(おもば)ゆくなった。

 

「…ここで言うのも違うかもしれませんが、しのぶさんは子どもを…どうしたいですか?」

 

帰路の途中で立ち止まり、二人以外居ないこの状況で炭治郎は聞いた。

二十五歳までしか生きられないと決まっている中で、子どもを産んで育てるか否か。もし産むとしても、炭治郎は現在十六歳、しのぶは十九歳。子にとって大事な母親が長くとも六年で居なくなってしまい、九年で両親が居なくなる。二人にとっても、子どもにとっても重要なことだ。

 

「…今は、どう考えてますか?」

 

「できることなら産んで育てたいと思っていますよ。女性としては、そういう本能というかが不意に来るのですよ。男性も同じと聞きますが。」

 

「俺も…できることなら育てたいです。漸く鬼の居ない世界という幸せを手にした訳ですから、少し欲張りたいと思ってしまいます。」

 

二人ともあのときと同じ考えであったので、顔を合わせてお互い微笑んだ。

また歩き始め、やがてしのぶの方から口を開いた。

 

「炭治郎くん。子どもを育てるとなると、定住する場所を考えないといけないのですが、今後何処で暮らしていくかは決まってますか?」

 

「うーん…どうしましょうか…」

 

炭治郎は少し上を向いて悩んでいた。

竈門宅は禰豆子、善逸、伊之助が暮らす予定だ。竈門宅は他の家より広いとはいえ、蝶屋敷ほど広くはない。住むとなると、二人の時間は無いに等しいだろうし、皆に気を遣わせてしまうだろう。

 

「もし炭焼きに拘らないのであれば、蝶屋敷はどうですか?」

 

現状、炭治郎たちは蝶屋敷に住んでいるも同然の状態だ。拠点にし始めて一年以上経つので、生活に苦労するということもないだろう。

 

「…良いかもしれません。炭焼きに拘る理由もありませんし。」

 

本来であれば長男が家を継ぐべきだ。しかし、そうなると禰豆子が結婚したときに新しく住む場所を探さねばならなくなる。善逸と伊之助も今現在家は持っていない。であれば、禰豆子に家を継いでもらえば良い。それに炭治郎は痣の代償を払わなければならないので、家を継ぐのは困難になる。

 

「でも、屋敷の皆に気を遣わせてしまいませんか?」

 

「問題ないかと。屋敷は広いですし、なにより私たちは痣者ですから、近くに居ない方が心配されてしまいます。」

 

炭治郎は痣者のなかでも長く痣を発現させていた。身体的にどう影響するのか不明なのだ。そしてしのぶは痣の発現に加えて、一時期毒の摂取もおこなっていた。だからお互いいつ倒れて、いつ事切れるか分からない。

そういう状況なのだから気を遣うどころか、むしろ近くに居た方が安心してもらえるのだ。少なくとも、彼女らと長い付き合いのしのぶはそう思っている。

 

「それなら…よろしくお願いします。」

 

 

それから程なくして、蝶屋敷へと戻ってきた。

 

「もう着いてしまいましたね…。炭治郎くんとの時間は短く感じます。」

 

「そうですね…。同じ屋根の下とはいえ、その少しが離れ難いです。」

 

しのぶは寂しそうに苦笑いする。その顔を見て、炭治郎も同じく苦笑いする。

 

「炭治郎くん。もしよければ、今日は一緒に寝ませんか?」

 

「いいですよ。というか、俺からもお願いします。」

 

今日が物足りなかったしのぶは、屋敷に入った直後に炭治郎に聞く。とはいえ、一緒に寝るだけでそれ以上のことをするつもりはないということは、炭治郎は匂いで理解していた。そして炭治郎も物足りないと思っていたので了承した。

 

 

その日の夜、

晩ご飯を済ませ、湯浴みも終わらせた炭治郎はしのぶの私室に来た。

 

「お待ちしてましたよ、炭治郎くん。」

 

しのぶは布団を敷いて、寝巻き姿で炭治郎を待っていた。

 

「お待たせしました。禰豆子達から質問攻めに遭いまして…」

 

炭治郎は少し疲れた様子で、苦笑いしていた。

炭治郎は今日のしのぶとの逢瀬について、質問攻めに遭っていた。

朝ご飯の後、いつの間にか炭治郎としのぶが居なくなっており、日が落ちる頃に二人で帰宅したのが見つかったのだ。当然皆気になって二人に聞きたかったが、気づいたらしのぶは私室に戻っていたので炭治郎に詰め寄り、結局一時間近く拘束していた。ちなみに、炭治郎はしのぶと一緒に寝るということは皆に言っていない。

 

「別に何もしてないのに「嘘だ!」って言われて…あはは…」

 

接吻(くちづけ)すらしてませんからね。私たちは。」

 

しのぶは布団の方に移動し、自身の隣をポンポンと叩いて炭治郎を呼ぶ。炭治郎はしのぶの動作を見て、しのぶの隣に移動した。

 

「こうして一緒に寝るのは刀鍛冶の里以来でしたっけ。」

 

布団に入り込み、当時を思い出す。

 

「そうですね。あのときの炭治郎くんはかなり緊張していましたが、今はどうでしょうか。」

 

「今はそこまで緊張してないですね。全くしてないと言えば嘘になりますが…」

 

しのぶは炭治郎の胸に触れて、心臓の鼓動を確認する。

 

「確かに、少し緊張してますね。これくらいなら、良いですかね。」

 

「何がですか?」

 

「…こういうことです…!」

 

しのぶは炭治郎に体を近づけて抱きついた。抱きついた途端に炭治郎の鼓動が速まった。

 

「流石に緊張しました?」

 

「はい…でも、しのぶさんからも緊張してる匂いがしてきます…」

 

「…バレバレですね。私も炭治郎くんと同じくらい緊張してますよ。表情には出さないように頑張ってるだけで。」

 

と言いつつも、しのぶは身体を離したりはしない。少しして炭治郎もしのぶに触れたくなり、抱きしめ返す。

 

「…毎度言ってるような気がしますが、炭治郎くんはあったかいですね。今日はこのまま寝させてもらって良いですか?」

 

「勿論です。俺もこのまま寝させてもらいますね。」

 

お互いに温もりを感じつつ、今日のことを思い返していた。

 

「今日は久しぶりに何の心配もなく、心の底から楽しめました。誘っていただいて、ありがとうございます。」

 

「こちらこそありがとうございます。今日はしのぶさんが心からの笑顔でいてくれて嬉しかったです。」

 

心からの笑顔、そう言われてしのぶは姉であるカナエの言った言葉を思い出した。

 

「もう…張り付けたような笑顔はしなくて良くなったんですよね…本当の意味で、姉が好きと言ってくれた笑顔ができていたんですね…」

 

少し涙を見せながらも、しのぶからする匂いは嬉しい、幸せ、などの前向きなものばかりだった。

 

「さあ、そろそろ寝ましょう。いよいよ明日は炭治郎くんの実家に帰る日ですからね。長旅になりますよ。」

 

「そうですね。それじゃあ…おやすみなさい。」

 

「はい。おやすみなさい。」

 

二人は抱きしめ合ったまま、眠りに落ちた。




【あとがき】

こんな感じの日常炭しのを書いていきます。無計画なので何処まで続くか分かりませんが、最終があるとしたら痣の代償を払うところ辺りになります。


蝶屋敷や藤襲山のような場所は、モデルになったと言われている場所にしています。
しのぶの着物は原作外伝で描かれていた柄です。勿論羽織も着ています。着物の色は各々の想像で。投稿主的には薄めの藤色のイメージです。桃色も合うかも。


かっこいい人の例で出なかった柱

 実弥…趣味と好物が見た目に反していた。
 義勇…鮭大根食べてる時の顔を見て、かっこいいイメージは無かった。
小芭内…蜜璃に一緒に居るときの話を聞いた。
無一郎…弟みたいな感覚。
 行冥…恩人で尊敬している。かっこいいだけの人ではない。
(蜜璃…可愛らしい人)
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