翌日、煉獄さんの訃報を知り、程なくして大泣きしている炭治郎くんたちが隠の方々に担がれて帰ってきた。恐らく目の前で煉獄さんが殺されたのだろう。
「大丈夫ですか?炭治郎くん…」
私は、療養中の炭治郎くんの所に来た。
善逸くんと伊之助くんは大きな傷もなかったが、炭治郎くんは腹部に深く刺されたような傷があったため、二人より少し長めに療養させていた。
「はい…煉獄さんのおかげで…下弦の壱を倒すことができました。でもそのあと、上弦の参が出てきて…」
「そう…ですか…でも、君が、君たちが生きていてくれてよかった。煉獄さんもそう思っていたはずです。」
あの人は鬼殺隊士の中でも特に、他人のために命を賭けられる人だ。炭治郎くんたちだけでなく、列車の乗客全員の命も救ったと聞いた。
「はい…それに、禰豆子のことも鬼殺隊として認めてくださって…」
「禰豆子さんのことは鴉からの伝手で聞きました。私も、鬼に対する考えを今一度改めようと思います。とは言っても、すぐにとはいきませんが…」
鴉が言うには、禰豆子さんは体から血を流しながらも列車の乗客を命懸けで守っていたそうだ。
鬼から人々を守り、その鬼を倒す。紛れもなく鬼殺隊士だ。
頭では分かっているが、鬼という要素が、私の心の底でそれを認めようとしない。
「いつか、皆に認めてもらえるように頑張ります。」
一番良いのは禰豆子を人間に戻すことなんですけどね、と苦笑いしながらそう続けた。
「禰豆子さんを人間に戻すための方法は何か見つかりましたか?」
「今のところはまだ…十二鬼月の血が採れれば良いんですけど…」
「血?」
口が滑ってしまった…という顔をしていた。
よくよく思い返すと、禰豆子さんを人間に戻す方法を私は探していない。その暇がないというのもあるけれど。
「おやおや、何か隠し事ですか?あまり隠し事をしていると信頼を勝ち取るのは難しいですよー?」
いつまでも辛気臭い雰囲気なのも良くないので、肩をツンツンしながら悪戯するように言った。
暫くして、くすぐったいから観念したのか、渋々話し始めた。
「できれば、他の柱の方々にはまだ言わないでいただけるとありがたいんですけど…」
「構いませんよ。他でもない炭治郎くんの頼みですし。」
炭治郎くんは、ありがとうございます、と言って続けた。
「鬼殺隊に入って二度目の任務の、浅草に行ったときに珠世さんという方に会ったんです。」
「珠世さん?確かお館様もその名前を仰ってましたね。」
「はい。それで、その人…実は鬼なんです。」
鬼…言いたいことはあったけど、ひとまず話し終えるまで聞くことにした。
「でも、珠世さんは鬼舞辻を倒したいと思ってて、鬼舞辻の呪いも自力で解いたみたいです。それで、鬼を人間に戻す方法を聞いたんです。その薬の研究のために、鬼の血を採取してきて欲しいと仰られたんです。」
「なるほど…鬼舞辻により近い血液が必要、だから十二鬼月の血液ですか。」
「はい、そういうことです。」
鬼舞辻の呪いを解いたというのは、恐らく自分の体のあちこちをいじって呪いを解いたのだろう。そして人間に戻す薬を作ろうとしているということは、
「珠世さんは医療や薬学の分野に精通しているのですね。」
「そうみたいです。家の中にはそういう本が大量にありましたから。」
呪いを解いたということは鬼舞辻に居場所は悟られない、鬼舞辻を倒したいという同じ志、薬学の知識も豊富…
「炭治郎くん。いつか珠世さんを紹介してくれませんか?
…と言っても、私の鬼に対する認識が変わってからになりますが…」
「えっと…理由を聞いてもいいですか?」
「一つ目は、鬼舞辻を倒すという同じ目的を持っているから、
二つ目は、薬学の知識が豊富だと思ったからです。
鬼舞辻は鬼の始祖です。頸というか、日輪刀で斬られることが弱点でない可能性があります。その場合、陽の光で焼き殺すしかない。しかし、陽の当たる場所に留めておくには柱全員の力を以てしても厳しいでしょう。そのための薬を作っておきたいんです。例えば動きを鈍らせるとかですね。」
「理由は分かりました。でも、俺が言うのも変ですけど…そんな簡単に信用して良いんですか?」
炭治郎くんはかなり心配しているらしい。それは私に対する意味と珠世さんの身の危険に対する心配だろう。
私に対しては、話でしか聞いていない鬼を信用してもいいのか。珠世さんの方は、私含めた鬼殺隊に斬られないかという心配。
「私は炭治郎くんを信用しています。その炭治郎くんが信用してる方なら問題ないでしょう?
まあ、実際に会うときは改めて信用できるか見極めるつもりですが。
それにしても…私と姉の夢、鬼と仲良くすることは既に出来ていたんですね。」
嬉しいと思いつつ、少し羨ましいとも思った。
いつか私も鬼と仲良くできたら、姉の夢を叶えられたら…と。
匂いで私の考えていることが分かったのか、炭治郎くんは、
「…しのぶさんが良ければですけど、いつか禰豆子と遊んであげてください。最近は任務で力を使ってるから、ずっと眠ってるんですけど。」
「そうですね。いつか…」
炭治郎くんのおかげで、姉の夢見た光景が現実になってきている。最近は日々の疲れも減って、以前より気分が良くなっている。もう炭治郎くんには足を向けて寝られない。
翌日、任務から帰ってきたとき、炭治郎くんが居なくなっていた。禰豆子さんも連れて何処かへ行ってしまった。
「いったい、何処へ行ったんですか…怪我も治っていないし、熱も下がっていないのに…」
心配半分、呆れ半分の状態だったが、炭治郎君は現在刀を持ち合わせていないため、鬼狩りに行ったわけでは無いだろう。
探したい気持ちはあったけど、今日は任務があるので探すのを諦めざるを得なかった。
任務が終わり、屋敷に帰ってきたときには炭治郎くんも帰ってきていた。かなり疲れており、無くなったはずの刀を持っていた。また鋼鐵塚さんに追いかけ回されたのだろう。
「炭治郎くん?」
「は…はい…すみません…」
当然ながら、勝手に外出した炭治郎くんに怒りを露わにした。
匂いで相手の感情が分かる炭治郎くんには、私の今の感情がしっかり読めているようで、まだ何も話していないのに謝るほどとても怯えている。
「君は今、療養中のはずなのですが、昨日はいったい何処へ行っていたんですか?」
「あの…煉獄さんのご家族に話をしに…」
それを聞いて、私は少し怒りを抑えた。余程大事な話だったのだろう。
「次こんなことをしたら寝台に括りつけますからね。はぁ…
それで、何の話を?」
怒りの匂いが少し引いたのが分かったのか、落ち着いた状態で話し始めた。
「煉獄さんから、愼寿郎さんへの遺言と、あと日の呼吸に関する話です。」
「そうですか。それで、愼寿郎さんに遺言は伝えられましたか?」
「それが…会って早々掴み合いになってしまって…」
愼寿郎さんは炭治郎くんが日の呼吸の使い手という理由で、何か気に障ったのか攻撃してきたとのことらしい。遺言は煉獄さんの弟、千寿郎さんに伝えたそうだ。
「愼寿郎さんは、『日の呼吸は一番最初に生まれた呼吸で、そこから炎、水、風、雷、岩に派生した』みたいなことを言ってましたね。」
「なるほど…あれから私も少し考えてみたんですよ。」
日輪刀の色、鬼舞辻が炭治郎くんに向けて鬼を放っている理由、黒刀の剣士が出世できないと言われている理由などを話した。
「あくまで私の推測ですが、これが本当の場合、上弦の鬼と遭遇する可能性が高い…
だから炭治郎くん、君は死なないためにも柱と同等かそれ以上の力を身につけなければなりません。」
「…そうですね。今のままではいけないことは分かっているつもりです。
…今のままでは他人の命どころか、自分の命すらも守れないですから…」
俯いて呟くように言った。
無限列車での戦いで随分思い知らされたようだ。
「そこで、提案です。私の継子になる気はありませんか。」
「え?俺がですか?」
予想外の提案だったのか、目を丸くしていた。
「はい。君のひたむきに努力する所に興味を持ち、可能性を感じました。それに、鬼舞辻を倒すという明確な目的を持っていますよね。そこに向かっていく意思も十分にある。育手がいれば、柱と同等以上になれると思いました。理由はそんな感じです。」
「お気持ちは嬉しいですが…しのぶさんの時間的に問題ないんでしょうか。柱の方は多忙だって聞いたんですけど…カナヲにも稽古つけてますよね?」
「私は他の方々と違って、負傷した隊士の治療を優先していますから、時間はとれる方かと。カナヲも最近は自分で鍛練することも多くなりましたし、任務で忙しかったりで稽古の頻度はそこまで多くないのですよ。」
軽い怪我であれば他の柱や一般隊士でも治療できるだろうけど、大きな怪我の治療や鬼の毒を分解する薬などは私にしかできない。だから前線に出向くより隊士の治療を優先することになっている。
「そうなんですね…では、よろしくお願いします!」
「はい!でも、まずは怪我を治すことからですね。」
こうして、炭治郎くんは私の継子となった。ちなみに、善逸くんと伊之助くんは継子ではないけれど、時間が合ったときは稽古をつけてあげるようにしている。本人のやる気次第にはなってしまうけれど。
ちなみに、善逸くんと伊之助くんはひと足先に怪我が完治しており、二人で一緒に鍛練し始めている。
善逸くんは以前まで、あまり意欲的ではなかったけれど、無限列車の一件以降少し意識が変化したようだ。伊之助くんは前々から意欲的だったのが、より強くなった。…とはいえ、真剣を使った鍛練は少々度が過ぎているけれど…
「君の怪我が治るまでの間に、私は以前お聞きした刀を見るために刀鍛冶の里に行ってきます。もし動けるくらい治ったら、いつも通り機能回復訓練から始めてください。」
那田蜘蛛山で負傷した隊士たちも、ほとんど完治した。それにより時間が空いたので、新しい刀がどのようなものなのかを確認しに、刀鍛冶の里へ向かった。
「はじめまして。鉄原さんでしょうか。」
「…ん?貴女は…ああ!鉄穴森さんが言うてた人か。胡蝶さんやったかな。どうもどうも、はじめまして、鉄原と言います。」
刀鍛冶の方々は変わった人が多いけど、この方も別の意味で変わっている気がする。
「はい。胡蝶しのぶと申します。珍しい話し方ですね。」
「これね、大阪の方言なんですわ。なるべく気ぃ付けますけど分かりにくかったら遠慮なく言うてください。
ほんで、刀の件やね。試作品なんで適当に使ってええですよ。でも、鉄穴森さんから多少聞いてる思いますけど…」
そう言って鉄原さんは刀の注意事項を教えてくれた。
一、従来の刀と違って、包丁のような斬り方、押し引き斬りをする必要がある。
二、耐久性は可能な限り上げているが、従来の刀よりはほんの少し落ちてしまう。とは言っても、相当無茶な使い方をしなければ折れることはない。
三、『蟲の呼吸』との相性は保証できない。
とのことだった。
一と二の問題は技術次第でどうにかなるだろう。しかし、三に関してはどうにか考える必要がある。
「分かりました。少し試させてもらってもいいですか?」
「どうぞどうぞ。使い勝手違うでしょうから、ちょい控えめでやってください。」
鉄原さんはそう言って、試し斬り用の藁、木、石、鉄、鋼鉄を出してくれた。
渡された刀を見ると、少しの衝撃で破損してしまいそうな程薄かった。
「では、いきます。」
心配だったが、ひとまずそれぞれの素材に、言われた通りの斬り方をしてみた。するとどの素材も簡単に斬ることができた。そして極薄の刀は全く刃こぼれしていなかった。
「…凄い斬れ具合ですね。どうしてこんなに斬りやすいんでしょうか…」
「そら、胡蝶さんの努力の賜物ですよ。他の人らとは比べもんにならんくらい努力してきたんでしょう。私が使っても精々木を斬るんが限界ですよ。」
石とか鉄なんてムリムリ、と高笑いしながら手を横に振っていた。
ならどうして石や鉄を用意したのか疑問だけど、実際に斬れたのだし、純粋に努力を称賛してくれたのだから良しとしよう。
「刀に関してはね、薄くすることで摩擦抵抗を限界まで減らしてるんですよ。あとは、刀身見てもろたら分かるでしょうけど、表面を完全に滑らかにしとるんです。」
少し専門的な話をされた。
金属は視覚的に滑らかに見えても、細かく見ると凹凸になっていて、その凹凸が摩擦を生む原因になるそうだ。そして鉄原さんはその凹凸をなくし、表面を完全に滑らかにしているのだと。
「素晴らしい技術です…鉄原さんも凄い努力家なんですね。あなたの手を見るとよく分かります。」
他の刀鍛冶よりも、皮膚は分厚く、硬そうな手をしていた。それも、見るだけで分かるほどに。
「そう言うてもらえると嬉しいもんですね。おおきに。あっえっと、ありがとうの方が伝わりますか。」
鉄原さんは少しはにかんだ。
「使い勝手はどうですか。多少の要望なら問題ないですよ。」
そう言われて私は何かないか少し考えた。
頸を斬れるようになったとしても、これまでの戦闘技術を捨てるのはあまりにも勿体ない。
「突き技にも使えるようにできますか?
あとは…刀に藤の花の毒を含ませることもできますか?」
すると、鉄原さんは手を顎に当てて悩んでいた。
「突き技の方はすぐにでもいけると思います。毒の方はやってみやな分かりませんね。胡蝶さんの刀は長が作りはったんですか?」
「はい。鉄珍様が作ってくださってます。」
「分かりました。長と話し合って、いけるかどうか試してみます。刀が出来上がるのはしばらく先になるかもしれんので、試作品で色々試してみてください。持ち帰ってもらって構いませんから。あと…えーっとどれやったかいな…」
鉄原さんはそう言いながら戸棚の中の木刀を探していた。
「あったあったこれや、これもか。はいどうぞ。稽古用の木刀です。重さは全く同じにしてます。形状は危ないから全然違うけどね。」
「何から何までありがとうございます。」
「ええんですよ。私らの仕事なんですから。むしろこちらこそ感謝しなあきませんわ。鬼殺隊の人らのおかげで安心して刀を打てるんですから。」
互いに感謝をしあって、その日は終了した。そして翌日の昼前頃に、私は蝶屋敷へと帰り始めた。
到着したときには、日が傾き始めていた。
「あっおかえりなさい、しのぶさん。」
「はい。ただいま戻りました。お疲れさまです、炭治郎くん。」
帰ってきたとき、炭治郎くんは木刀を振っていた。機能回復訓練が一段落して、体力作りをしているようだ。
周りには別の方法で体力作りをしている善逸くんと伊之助くんがいた。
ちなみに、カナヲは私のことを師範と呼ぶが、炭治郎くんに師範と呼ばれると違和感があったので、しのぶさんと呼んでもらうようにした。
「どうでしたか?新しい刀は。」
随分と気になるようで、目を輝かせながら聞いてきた。
「かなり良かったです。この刀を使えば鬼の頸を斬ることができるかもしれません。ですが、呼吸が合うかどうかが難しいところですね。」
蟲の呼吸は突きに特化した呼吸法だ。斬撃との相性は正直期待できない。
「そうですか…」
少し残念そうに…というより、心配そうな目をしていた。
「とはいっても、刀の斬れ具合は素晴らしかったですよ。ですから、私はこの刀を使えるようにするための稽古です。炭治郎くんは強くなるために、ですね。」
「はい!」
「今日は遅くなりますから、稽古は明日からしましょうか。」
「分かりました。明日からよろしくお願いします!」
明日からの稽古で、強くなれると思うと楽しみでウキウキしていたら、何故か善逸から睨まれていた。伊之助は自分の鍛練に忙しそうだった。
「炭治郎…なんかお前…しのぶさんと距離近くねえかぁ?」
「そうかなあ…別に変わってないと思うけど。変わったって言っても、しのぶさんの継子に推薦されたくらいしか…」
「めちゃくちゃ変わってんじゃねぇかぁぁあ!」
善逸が血管が浮き出るほど血走った目で睨み、肩を掴んで頭が取れそうなほど揺らしてきた。
「禰豆子ちゃんとウキウキ旅したあとは、しのぶさんと楽しく稽古できるんだろぉぉお!ふざけやがってぇえええ!!どうして炭治郎だけなんだぁぁあ!ギイィィヤアァァア!」
発狂のような奇声を出しながら、地面を転がり始めた。
善逸…そういうところが推薦されない理由なんじゃないのか…と思ったが、言うと燃料を追加するだけなので言わなかった。
また、善逸が騒ぎ始めてから、周囲から軽蔑するような匂いがしてきた。恐らく、きよちゃん、すみちゃん、なほちゃん、アオイさんが善逸を冷ややかな目で見ているのだろう。
そんなこんなで翌日からしのぶさんからの稽古が始まった。
ということで、炭治郎がしのぶの継子になりました。
まあ原作でも蝶屋敷で鍛練してますし、ほとんど継子みたいな感じですけどね。師範役はきよ、すみ、なほの三人になってますが…
刀鍛冶は、何とか特徴を付けたかったので口調を関西、特に大阪の喋り方をさせることにしました。
まあ、今時こんな喋り方する人は見かけないんですけどね…
オリキャラですが、そこまで関わらせるつもりはありません。しのぶの新しい刀を打たせるためだけに生まれただけのオリキャラです。
原作と同じところはばっさりカットします。ご了承ください。