鬼を斬る蝶と蝶を救う太陽   作:yuki_06090570

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【まえがき】

禰豆子の『お義姉さん』呼びはやっぱり違和感があるので、『お義姉ちゃん』か『しのぶお義姉ちゃん』にしようと思っています。前回の部分も修正しておきます。
『ちゃん』呼びで敬語は違和感ありますが、徐々に敬語が外れるということで…


帰省最後の日と翌朝

胡蝶宅から帰宅した日の夕方頃、しのぶと禰豆子は親睦を深めるため、縁側で夕日を見ながら茶を飲み、雑談をしていた。

 

「鬼だった頃の記憶って残っていたりするんですか?」

 

「う〜ん…残ってはいるんですけど、鮮明には覚えてないです。」

 

禰豆子は腕を組んで頭を傾けながら、鬼だった頃のことを思い出そうする。

鬼だった頃の記憶に障害があるというよりかは、単純に鬼であった期間が長かったというのが思い出せない理由である。鬼になってから人間に戻るまで三年間もあったのだから、思い出せないのは仕方がない。二年間は眠っていたが…

 

「でも、しっかり覚えてることもあります。例えば、刀鍛冶の里に居たときとか…

あのとき頭撫でられて心地良かったことは鮮明に覚えてます!」

 

しのぶは刀鍛冶の里で炭治郎に膝枕をして、そのときに片方の手は炭治郎の頭を、もう片方の手は禰豆子の頭を優しく撫でていた。

それが随分心地良かったようで、禰豆子は思い出して頬が緩んでいた。

 

「あのときと違って此処も空いてますけど、どうします?」

 

しのぶは微笑みながら自分の(もも)を軽く叩く。その動きで禰豆子はしのぶの腿へと視線が動く。

 

「…其処は今お兄ちゃん専用の場所なので、遠慮しときます…」

 

左右の蟀谷(こめかみ)に人差し指を当てて考え悩んでいたが、しのぶの誘いを断る。しかし本心では甘えてしまおうかと思っていたので、惜しいことをしたかな…と思っていた。しのぶはそれに気付き、禰豆子の頭を優しく撫でる。

 

「これくらいなら問題ないでしょう?」

 

「は、はい…えへへ…」

 

撫でられたときは驚いていたが、次第に顔が綻び始める。そして、長女ということもあって炭治郎以外への甘え方があまり分かっていないのか、落ち着きがなくモジモジしていた。

そんな禰豆子の姿を見て、しのぶは自然と口角が上がる。

 

「しっかり者の禰豆子さんにもこんな一面があるんですね。」

 

「あはは…こういうのは慣れてなくて…」

 

禰豆子は照れ笑いを浮かべる。

直近で頭を撫でられたのは蝶屋敷で実弥と話をしたときなのだが、あのときと違って同性という理由なのか、動けなくなることはなかった。

 

「慣れなくて良いんですよ。撫でてる側からすると、もっと撫でたいと思えますから。」

 

「そういうもの…なんですね。」

 

しのぶは満足気に禰豆子の頭を撫で続け、禰豆子も満更でもないようで、頭に触れている手の柔らかさを味わっていた。

 

 

「しのぶさん、禰豆子、もう少しで晩ご飯できますよ。」

 

暫くしのぶが禰豆子の頭を撫でていると、炭治郎が呼びに来た。

 

「えっ、あ、うん!わかった!」

 

禰豆子は一瞬で炭治郎の方に振り向き、顔を真っ赤にしながら大慌てで立ち上がる。甘えているところを炭治郎に見られて恥ずかしかったのだろう。台所まで小走り気味に戻っていった。

そんな禰豆子を見て炭治郎としのぶは、顔を合わせて笑いを零した。

 

「禰豆子さんは可愛いですね。」

 

「ここ最近特に変わってきましたよね。善逸と話してるときとか特に。」

 

「ええ、恋は人を変えるものですねぇ…」

 

しのぶと炭治郎は互いに意識し始めた頃を思い出して、禰豆子との違いを強く感じていた。

 

「…炭治郎くん、隣に来てもらえますか?」

 

不意にしのぶに呼ばれ、炭治郎は禰豆子が座っていた場所に座る。

そしてしのぶは炭治郎の腿の上に頭を乗せる形で横になった。

 

「あの…しのぶさん…?」

 

「何でしょうか?」

 

「えっと…ご飯は…」

 

不意にしのぶが頭を乗せてきたことに驚き、少し慌てた様子で名前を呼ぶが、しのぶは何事もないかのように普段通り返事する。

そして呼ぶだけ呼んで言うことが思い当たらず、炭治郎は当たり障りのないことを口にする。

 

「もう少しでできるのでしょう?その間だけこのままで。」

 

「まあ、後は煮詰めるだけですし……分かりました。」

 

炭治郎は納得し、暇だった右手でしのぶの頭を髪が崩れない程度に撫でる。

頭を撫でられ、先刻の禰豆子のように顔が綻ぶ。ただし、しのぶは次女ということもあって甘え方は多少知っているので、禰豆子と違って慌てたりはしなかった。

 

「禰豆子さんに膝枕を提案したら『其処はお兄ちゃん専用の場所だから』と言って、渋々諦めてましたよ。」

 

「そう…ですか。」

 

炭治郎は嬉しい反面、妹に気を遣われた様で複雑な気持ちになり、苦笑いしていた。

 

「ちなみに、炭治郎くんの膝枕は…?」

 

「勿論しのぶさん専用ですよ。少し硬いかもしれませんが。」

 

「いいえ、十分柔らかいですよ。」

 

苦笑いで言う炭治郎に、しのぶは横向きから仰向けになって炭治郎の顔を見ながら満足気に答える。

 

「私専用…というか、膝枕をするのは初めてという感じですね。」

 

炭治郎は慣れた手つきで頭を撫でているが、ほんの少しの拙さがあった。しのぶはそれに気付き、『炭治郎の初めての膝枕は自分なんだ』と嬉しくなった。

 

「思い返すと…してもらうことは多かったですけど、するのは初めてですね。」

 

される側もする側も気分が良いのか、炭治郎は父である炭十郎のように柔らかな笑顔になった。

 

「…ここ最近、炭治郎くんの新しい表情をよく見る気がします。」

 

しのぶは今まで以上の穏やかな表情を見て少し驚き、鼓動が速まる。さらには頬がほんのり赤みを帯びていた。

 

「しのぶさんも新しい…というより俺が見たことない、でしょうか。今の表情も可愛らしくて好きですよ。」

 

「またそういうことを平然と…」

 

しのぶが恥ずかしさを誤魔化すように機嫌を損ねたように見せる。

照れ隠しから来るほんの少しの怒りの匂いを嗅ぎつつも、炭治郎は変わらず穏やかな表情でしのぶを見続けていた。

 

「…分かってて言いましたよね、今回は…」

 

無自覚の天然誑しではなく、分かった上で可愛らしいと言ったというのを、しのぶは炭治郎の表情と雰囲気から感じ取った。

 

「バレましたか。」

 

見破られるだろうことを予想していた炭治郎は慌てることなく笑う。

 

(したた)かになりましたね…」

 

しのぶは目を細めて炭治郎を少し睨むが、炭治郎は変わらず微笑み続けていた。

 

「しのぶさんとのお付き合いも結構経ちますから。あとは最近、物事の視え方が少しだけ変わりまして。」

 

以前までの炭治郎であれば、自覚はなかっただろう。しかし、しのぶと恋仲になってから半年以上経っているので、ある程度自覚できるようになっていた。裏を返せば、今後は自覚したまま平然と先刻の言葉を言うことができるのだ。

 

「そう…」

 

しのぶは今後の炭治郎からの攻撃に頭を悩ます。逆に此方から攻撃ができるのかどうかを確認するため、しのぶは起き上がって炭治郎の方に向く。そして、初めて二人きりで話したときのように顔を至近距離まで近づける。

少しすると、炭治郎は居た堪れなくなり、頬が赤くなる。

 

「おや?こういうところは初心(うぶ)なままなんですね。」

 

しのぶは満足気に微笑む。炭治郎は図星を突かれて何も言えなくなる。

 

「さて、ご飯をいただきに行きましょうかね。」

 

「あ、俺が持っていきますよ。」

 

しのぶは立ち上がり、食器を洗いに台所へと向かう。炭治郎もそれに合わせて立ち上がり、食器を受け取ろうとする。

 

「あら、ありがとうございます。」

 

炭治郎はしのぶに近寄り、食器を受け取る。それと同時に顔を近づけ、唇を一瞬重ねた。

 

「っ…!」

 

途端にしのぶは頬だけでなく耳まで真っ赤になり、身体が少し震える。

 

「しのぶさんは不意打ちに弱いですよね。」

 

震えるしのぶを見て炭治郎は満面の笑みを浮かべ、そのまま食器を台所まで持っていった。

 

「…私の方が年上なのに…」

 

しのぶは小声で愚痴を零しながら、炭治郎の背中を追った。

 


 

夕食を摂り、風呂を済ませた後、

 

「毎度言ってるような気がしますが、月が綺麗ですね。」

 

「そうですねぇ…それに、今日は星もよく見えます。」

 

しのぶと炭治郎は月と星を見ながら酒…ではなく茶を飲んでいた。とはいえ、気分は酒を飲んでいるときと同じだ。

 

「雰囲気で酔うというのはこういうことなんでしょうか。」

 

酒は入っていないが、しのぶは酒が回っているときのように顔がほのかに赤くなり、熱を帯びていた。

 

「しのぶさんは、お酒は強い方ですか?」

 

「いえ、恐ろしいくらい弱いですね。猪口(ちょく)一杯で顔が真っ赤になります。」

 

鬼殺隊であった頃、柱同士で親睦を深めるためという名目で何度か酒の席を設けることがあった。そのときにしのぶも酒を飲んだのだが、猪口一杯を飲んだだけで酔ってしまった。記憶がなくなるということはなかったが、他の柱が言うには二杯目を飲んだ時点で眠ってしまったとのこと。

 

「しのぶさんの酔う姿は簡単に想像できますね。」

 

「でしょう?」

 

炭治郎はしのぶの酔う姿を想像して笑う。しのぶもつられて笑う。

 

「炭治郎くんはどうですか?…というより、飲んだことはあります?」

 

「いえ、ありません。そこまで興味もないんですよね。今みたいな雰囲気だけで十分というか。」

 

「…まあ、お酒は身体に悪いですからね。」

 

しのぶは嬉しそうに笑う。飲んでみたいと言われても構わなかったが、当のしのぶは一杯しか飲めないのだから一緒に飲み交わすことができない。なので炭治郎が酒に興味がないと知って安心した。

 

「お酒を飲むよりもご飯を一緒に食べる方が俺は好きです。しのぶさんと一緒に居るだけで幸せなんですけどね。」

 

自分で言ってて少し恥ずかしそうに、頬を掻きながら照れ笑いする。

 

「嬉しいことを言ってくれますよね、炭治郎くんは…

いつだって欲しい言葉を欲しい時にくれるんですから。」

 

しのぶは幸せを噛みしめるように目を瞑る。

本当は炭治郎を抱きしめたかったが、家の中には禰豆子たちがいる。雰囲気だけでも酔っている今抱きついたら、羽目を外してしまいかねない。

それは炭治郎も理解しているようで、指先が触れる程度に済ませる。

 

「鼻が利きますからね。しのぶさんの欲しいと思っている言葉はある程度分かりますよ。

勿論、俺が言いたいから言ってるんですけど。」

 

「…今の言葉も鼻が利くからですか?」

 

「さあ、どうでしょうか。」

 

炭治郎は笑ってしのぶの質問への答えを濁した。今回ばかりは欲しい言葉ではなかったようで、しのぶは苦笑する。

 

「君は優しいですけど、同じくらい狡い人ですね。」

 

しのぶは苦笑いのまま、不公平だと言わんばかりに炭治郎の横腹を人差し指でツンツンと(つつ)く。

 

突かれ続けた炭治郎は擽ったさで笑いが溢れる。

 

「すみません。さっきの言葉は本心ですよ。嗅覚に頼った訳ではないです。」

 

観念して答えると、しのぶは突くのを止めた。しかし納得はしていないようで、下を向いて口を尖らせ、頬を膨らませていた。

 

「…炭治郎くんばかり狡いです…

私は炭治郎くんの考えていることが分からないときがあるのに、炭治郎くんは私の考えていることが全部分かるんですから…」

 

不満気なしのぶを横目に、炭治郎は困ったように笑う。

 

「でもしのぶさんは毎回俺の心を読んでますよね。」

 

「炭治郎くんは顔に出ますからね。なので夕方の時のような表情をされると何も読めないんですぅ。」

 

しのぶは両膝を手で抱えて丸くなり、わざとらしく不貞腐れる。

空酔いの効果は意外とあるようで、普段のしのぶに比べて幼さが言動に表れている。

 

「しのぶさん、それ本当にお酒じゃないんですよね…?」

 

普段見せない振る舞いをしていて、炭治郎は少し心配になる。

しのぶは炭治郎の言葉を聞いて空酔いから醒め、抱えていた膝を慌てて離した。

 

「…お酒じゃないことを一瞬忘れてました…」

 

自分の言動を振り返って恥ずかしくなって俯く。そして先刻とは違った理由で顔が赤く染まる。

 

「大丈夫ですか?」

 

先刻までの幼く見える言動、さらには今の年上らしからぬ反応。それらを見た炭治郎は、あまりの可愛さから笑いを堪えるのに必死だった。

 

「大丈夫です。…それよりも、言葉と動きが一致してませんが…」

 

しのぶは普段通りに戻り、笑う炭治郎に眉を(ひそ)める。

流石に申し訳ないと思い、炭治郎は笑うのを止める。しかし笑顔は崩さずにしのぶを見つめていた。

 

「どうせ『しのぶさんが想像以上に可愛くて』とか思っていたんでしょう?」

 

しのぶはため息混じりに、炭治郎の心を読む。

そして炭治郎は一言一句正確に読まれて驚愕した。

 

「やっぱり読めてるじゃないですか。しかも完璧に。ここまで正確に読まれると逆に怖いんですけど…」

 

「炭治郎くんがいつも私にしていることです。」

 

炭治郎の心を正確に読むことができて、しのぶは満足気だった。

 

「確かに嗅覚で感情は読み取れますけど、考えてることまでは匂いで分からないんですよね。だから心は読めないと思うんですけど…」

 

「…なら、試しに今私が何を考えているかを読んでみてください。」

 

しのぶに言われて、炭治郎はしのぶの匂いを嗅ぐ。

藤の香りがする石鹸の匂いに紛れて、幾つかの感情の匂いがしている。幸せや楽しい感情の中に何かを欲するような匂いを感じ取る。

そしてその匂いは数日前にも出していた覚えがあった。その匂いは蝶屋敷を出発する前日に匂ったものと同じだった。

 

「一緒に寝たい、でしょうか。」

 

「その通りです。なので…」

 

空酔いから素面に戻ったしのぶは炭治郎に身体を寄せる。

 

「…今夜は炭治郎くんを抱き枕にさせてください。

炭治郎くんは私を抱き枕にしていいですからね。」

 

炭治郎の次の言葉を予想して、先に容認する。

 

「…本当に、何でもお見通しですね。

勿論そうさせてもらいます。」

 

炭治郎は、身体を寄せてきたしのぶの背中から手を回し、二の腕に触れて更に身体を寄せた。

しのぶは少し見上げて、満面の笑みで炭治郎と顔を合わせる。

 

 

その後は身体を寄せたまま静かに月や星を眺め、

四半刻ほど経った頃、

 

「…ん…ふわぁ…」

 

どちらかが眠気から欠伸を零し、もう一方に伝染する。そして互いに顔を合わせて微笑する。

 

「そろそろ寝ましょうか。」

 

しのぶは湯呑みに残った茶を飲み干す。そして炭治郎も同様に茶を飲み干すと、しのぶは盆を持って立ち上がる。 

 

「明日洗うので、水に浸けておいてもらえますか?

俺は先に戻って布団敷いておきますから。」

 

「分かりました。ありがとうございます。」

 

それだけ言って、しのぶは台所まで食器を持っていった。

炭治郎は先に部屋へと戻り、布団を敷いて就寝する準備をする。

 

「洗い物が残っているのが気に入らなかったので洗ってきました。」

 

「そうですか。俺の分までありがとうございます。」

 

しのぶは結局食器を洗ってから戻ってきた。それと同じ時機に炭治郎が布団を敷き終えていた。

 

「抱き合って寝るとき、布団は一組か二組かどっちの方が良いんでしょうか。」

 

「私は何方でも構いませんが、一組の方が密着できるでしょうね。」

 

しのぶは炭治郎が敷いた布団の方を見る。布団は一組しか敷かれておらず、炭治郎は聞く前から既に決めていたようだ。

 

「聞く前から何方が良いか分かってましたね。」

 

しのぶはまたしても炭治郎に心を読まれていたが今回は嬉しかったようで、笑顔のまま部屋に入る。

 

「俺は一組の方が良いなと思って。しのぶさんも同じで良かったです。」

 

蝶屋敷の時と代わって、今回は炭治郎が先に布団に入って、しのぶが入りやすいように掛け布団を半分捲る。

 

「どうぞ。」

 

炭治郎に促され、しのぶは炭治郎の隣に入って横になる。すると、本格的に眠気が襲ってくる。

 

「横になったらすぐに眠くなりますね…」

 

「そうですねぇ…ふわぁ…」

 

炭治郎もしのぶと同様に眠気がやってきて、欠伸を零す。

そして炭治郎も横になり、捲った布団を再度掛けると同時にしのぶを抱きしめる。

 

「昨日の今日で炭治郎くんが温かくなった気がします。」

 

しのぶは炭治郎の体温を感じながら抱きしめ返す。

 

「昨夜は沢山触れ合いましたからね。」

 

炭治郎は優しい笑顔を浮かべ、しのぶの額に軽く口付けする。しかししのぶは物足りなかったようで、炭治郎の唇に自分の唇を重ねる。

 

「こっちじゃないと満足できません。」

 

若干狼狽える炭治郎を見て、しのぶは眠そうにしながらも静かに笑う。

 

「炭治郎くんも同じでしょう?」

 

「まあ…それはそうなんですけど…」

 

炭治郎の言葉を聞いて、しのぶは抱きしめる力を強くする。お互いの身体に隙間が無くなるくらい強く抱きしめるが、眠気が強くなっていくにつれて抱きしめる力が弱まっていく。

 

「…数日間会えない分…目一杯…くっつきます…」

 

しのぶは限界に達し、途切れ途切れに言いながら眠りに入った。

そして、しのぶの抱きしめる力が弱まった分、炭治郎が抱きしめる力を強める。しのぶは眠りに入ったばかりでまだ少し意識があったようで、ほんの少し頬が緩み、寂しそうな匂いが薄まった。

 

「おやすみなさい、しのぶさん。」

 

それだけを言って、炭治郎も眠りに入った。

 


 

翌朝、炭治郎が目を覚ますと、しのぶは先に起きて何処かへ行ったようで隣には居なかった。

 

「ん…良い匂い…」

 

炭治郎が起きてしのぶを探しに向かおうとしたとき、台所の方から料理の香りが漂ってきていた。

 

「おはようございます。」

 

「あら、おはようございます。」

 

香りにつられて台所に向かうと、しのぶが朝食を作っていた。

 

「もう少しでできますから、待っててくださいね。」

 

「はい!」

 

炭治郎は近場に座って、しのぶが料理しているところを眺める。

調薬という繊細な作業ができるしのぶにとって料理は難しいことではないようで、手際良く調理している。

 

そして数分ほど経ち、人数分の朝食出来上がった。

 

「皆さんを起こしに行ってもらえますか?」

 

「分かりました。」

 

炭治郎は立ち上がって、禰豆子たちを起こしに向かう。その間にしのぶは米などを配膳する。

 

 

暫くして、

 

「おはようございます!」

 

禰豆子は目覚めが良さそうに挨拶する。善逸と伊之助はまだ眠いのか、欠伸をしながら目を擦っている。

 

「おはようございます。…眠そうなお二人は顔を洗ってきてください。」

 

しのぶに言われて、善逸と伊之助は顔を洗いに行く。

しのぶは二人の背中を見て、弟を二人持ったような気分になった。

 

「そうだ、しのぶさん。俺も今日蝶屋敷に帰ることにしましたよ。」

 

二人が顔を洗いに行っている間に、炭治郎が予定変更をしたことを話す。

 

「皆さんとの時間は大丈夫なんですか?特に禰豆子さんとは。」

 

「私は大丈夫ですよ!それに、会いに行こうと思えばいつでも行けますから。」

 

しのぶが禰豆子の方を向くと、禰豆子は問題なしといった風な顔を浮かべていた。

 

「勿論禰豆子も善逸も伊之助も大切ですけど、今の俺はしのぶさんとの時間が一番なんです。」

 

炭治郎は浅草で『少しも離れたくない』と言っていた愈史郎の気持ちが分かったような気がしていた。お互い、特にしのぶの寿命が少しずつ近付いているため、一秒たりとも無駄にしたくないのだ。

 

「分かりました。ありがとうございます。」

 

しのぶも離れなくて良くなったことが嬉しくて頬が緩んだ。

 

そうして話をしている間に善逸と伊之助が戻ってきて、賑やかに朝食を摂った。

食後に食器を片付けている途中、

 

「伊之助くんは沢山食べてくれますから、作り甲斐がありますね。」

 

しのぶがそう言うと、伊之助以外の全員が頷く。

すると伊之助はにゃははと笑って声高に、

 

「美味いもんはいっぱい食べるのが、作ったヤツへの礼儀だからな!」

 

伊之助の言葉に対して全員同意見のようで、再度頷く。

 

「因みに、誰のご飯が一番美味しいの?」

 

「アオイの作った飯、特に天麩羅が美味いぞ。」

 

伊之助は禰豆子の問いに間髪入れず答える。

伊之助にとってアオイの作った料理は余程美味しいようで、朝食を摂った後だというのに、唾液が出そうになっていた。

 

「いつでも蝶屋敷に来てくださいね。アオイも喜んで作ってくれるはずですから。」

 

しのぶが笑って言うと、伊之助は見て分かるほど喜んでいた。

 

 

その後も色々話をして、出発の時間になる。

 

「禰豆子さん、善逸くん、伊之助くん。それでは、またね。」

 

「みんな元気で!」

 

しのぶと炭治郎が玄関を出て、別れの挨拶をする。といっても月一の定期検診のために蝶屋敷に来るので、そこまで堅苦しい挨拶ではない。

 

「お兄ちゃんもお義姉ちゃんも元気でね!」

 

禰豆子、善逸、伊之助は笑顔で二人を送り出し、炭治郎としのぶは三人が見えなくなるまで何度か振り返って手を振った。




【あとがき】

鬼滅のソシャゲって結局どうなってるんでしょうかね…
何だかんだで楽しみにしてるんですが、延期のお知らせから音沙汰無しなのが悲しい…


互いに照れさせ合ってる炭しのが個人的に好きです。炭しのなら大体何でも好きですけどね。


投稿主は酒を好まないタイプなので知りませんが、酒の席じゃなくても場酔い(空酔い?)するものなんでしょうか。
仮に間違ってたとしても、大目に見てくれるとありがたいです。


未成年飲酒が禁止になったのは大正11年らしいですが、この話は大正5年頃なので普通に飲めるという設定です。


炭治郎としのぶは禰豆子たちと別の部屋で就寝してます。
竈門宅の間取りを調べても明確な見取り図が無かったのですが、戦国時代の偉い人が大工を雇って立て直したという設定があるので、一般的な家より広い家ということにしています。


料理の美味しい順は
炭治郎>>>しのぶ=アオイ>禰豆子=善逸
ですが、別に善逸と禰豆子が下手な訳ではありません。炭治郎が規格外なだけです。


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