ここから本格的に原作から外れます。ご注意ください。
炭治郎くんたちが遊郭の任務に赴いて数日経ち、炭治郎くん、善逸くん、伊之助くん、宇髄さん、全員重症で蝶屋敷へと帰ってきた。
遊郭に潜んでいたのは上弦の鬼だったようだ。幸い応急処置がされていたので四人とも再起不能になるほどの大きな損傷はなかったが、一時的に体内に鬼の毒が回ってしまい、意識不明になってしまっていた。
善逸くんは毒にはかかっていなかったが脚を大きく怪我していた。雷の呼吸は脚に力を込めるそうで、限界以上の力を込めた結果がこの状態なのだろう。
伊之助くんは体に毒が回り、心臓辺りの体に穴が開いていた。普通なら死んでいるはずだが、そこは伊之助くんだ。臓器を無理やり動かしたのだろう。相変わらず常識破りな人だ。
炭治郎くんは左肩は裂けていて、一歩違えば左腕を失っていただろう。
宇髄さんは左手を失っていたが、奥さんたちの肩を借りて歩いていた。流石の丈夫さだ。
「炭治郎くん…」
宇髄さんは自宅で療養することになり、三人は怪我の度合いが酷かったため、各々別室で治療することになった。
ひとまず治療が終わり、今は炭治郎くんの病室にいる。みんな空気を読んでくれたのか、一人にしてくれた。
炭治郎くんの顔を見る。好きという感情を改めて実感して照れると同時に、このまま目を開けなかったらどうしようと、呼吸の仕方を忘れる程心配になった。
それから毎日、病室に来ては目を覚まさない炭治郎くんを見るという日を繰り返していた。
俺は実家にいた。部屋の中央には禰豆子のような人が眠っており、縁側には俺と同じ耳飾りを着けた剣士がお茶を飲んでいた。
そして何か話をしているようだった。悲しい話を。
そんなふうに言わないでほしい…どうか、頼むから…自分の子をそんなふうに…
「悲しい…悲しい…」
「夢…か…」
炭治郎が目を覚ましていた。
部屋に入ったと同時に花瓶を落としてしまったが、それを忘れるくらい驚き、炭治郎に近寄った。
「大丈夫?戦いの後二ヶ月間、意識が戻らなかったのよ。」
「そう…なのか…そうか…」
「目が覚めて…良かった…!」
ここ最近師範の元気がなかったので心配だった。すぐにでも知らせたいけど、生憎今は任務に出てしまっている。
どうしたものかとしばらく横にいたが、
「あの、これ、カステラ置いとくんで、しばらくしたら下げてください。傷みそうだったら食べちゃっていいので。」
「あ…ありがとうございます…」
隠の後藤さんが炭治郎にカステラを持ってきた。
炭治郎が礼を言うと、後藤さんは驚きのあまりカステラを落とした。
「意識戻ってんじゃねーか!!もっと騒げやアァァ!テメーは本当にボーッとしてんな!人を呼べっつーの!!意識戻りましたってよ!バカ野郎がああああ!!」
眼球が飛び出そうなほどの顔と、喉が潰れそうなほどの大声で怒られた。あまりの圧に気圧されて、アワアワするしかできなかった。
「みんな心配してんだからよ!上とか下とか関係ねーからな今だけは!!」
全くもってその通り過ぎて、頭を下げるしかなかった。
「きよちゃん、すみちゃん、なほちゃん、アオイちゃ〜ん!炭治郎意識戻ったぜえええ!」
みんなが炭治郎の病室に来て色々あったが、しばらくして炭治郎はまた眠った。
最近、蟲の呼吸が以前より上手く扱えなくなった。原因はなんとなく分かっている。あの時、遊郭から重傷で帰ってきた炭治郎くんの顔を見たときからだ。呼吸の仕方が変わってしまったのだ。呼吸が変わるほどとは…一体どれだけ心配していたんだろうか。
「まったく、炭治郎くんは酷い人ですね。貴方のせいで、今まで積み上げてきた呼吸法がほとんど崩れてしまいましたよ。」
任務終わりの帰り、一人で愚痴をこぼしていた。
刀の新調と同時に、今に合わせた呼吸法を作らなければならなくなってしまった。
「あっ胡蝶様!炭治郎が意識戻りましたよ!」
屋敷に戻ったとき、隠の方が玄関で待っていて、私が帰宅したのを見て急いで駆け寄ってきた。
「えっ…分かりました!わざわざありがとうございます。」
私は隠の方に礼を言いつつ、急いで炭治郎くんの病室に向かった。
病室に行くと、皆がいた。皆というのは、きよ、すみ、なほ、カナヲ、アオイ、伊之助くんだ。善逸くんは一昨日任務に復帰しているため、病室にはいなかった。
「みなさん、いたんですか。」
「「「「「しのぶ様!(師範!)」」」」」
私の声に気づいて皆が同時にこちらを向いた。伊之助くんは炭治郎くんに顔を近づけたままだったが。
「
「あっ…あの…はいっ!大丈夫です!」
私は近づきながら聞くと、炭治郎くんは頬を赤らめながらそう言った。
今朝目が覚めたばかりで、まだ首から上を動かす程度しかできないようだ。しかし意識自体は正常で、私の言葉にも問題なく受け答えできている。
炭治郎くんが顔を赤くしたのを見てみんな察したのか、席を外し始めた。伊之助くんはアオイに引っ張られていたが、
「なんで出るんだよ!」
「せっかく二人きりになれるんだから、とにかく出て!」
そんなやり取りをしながら渋々出ていった。
アオイは声を殺していたつもりようだけど、全て聞こえていたため炭治郎くんはさらに顔を赤くしていた。
私も緊張はしていたけれど、真っ赤な顔をした炭治郎くんを見ていると少し落ち着いた。
「あの…その…」
何を言うべきか悩んでいた炭治郎くんの声に被せて、
「炭治郎くん。色々言いたいこと、聞きたいことはあるでしょうが、ひとまず無事で…意識が戻ってよかった…」
「あっ…はい!ありがとうございます。」
呼吸こそしていたけど二ヶ月間意識が回復しなかったので、もう目が覚めないのではと胸騒ぎが止まらなかった。だから目が覚めたのを見た瞬間は安心して膝が崩れかけた。皆が居たので何とか崩れないように耐えたのだけど。
お互い暫く沈黙したところで、
「あの…しのぶさん」
炭治郎くんが改まって言ってきた。
「俺…しのぶさんのことが好きで…だから、貴女の人生を俺にください。」
告白の仕方がとても真っ直ぐで、炭治郎くんらしいと思った。
正直この申し出を受けたいと思っているけれど、これを受けてしまうと将来炭治郎くんを悲しませてしまうことになってしまうかもしれない。
「私も…炭治郎くんのことは好きですよ。ですが、私は…」
「貴女が藤の花の毒を摂取してることは分かってます。」
私の言葉を遮るように、少し強い声で言ってきた。
毒を摂取していることが気付かれていたなんて想像もしていなかったので、私は驚愕した。今まで近くにいたカナヲにも、ずっと屋敷に居るアオイたちにも気付かれなかったのに炭治郎くんには気付かれた。
「俺の鼻が良いことは知ってますよね。
日に日にしのぶさんから藤の花の匂いが強くなっていますし、それに比例して貴女は
他人の感情をも認識できるのだから、藤の花の匂いなどすぐに分かってしまったのだろう。
顔色の悪さは化粧で誤魔化していたけれど、案外分かりやすいのだろうか。思い返せば不死川さんにも度々元気かどうかを聞かれていた。もしかすると気づいていたのかもしれない。
「いつ…気付いたんですか?」
「遊郭に行くほんの少し前です。最初は触れるべきではないと思ったんです…でも、遊郭に潜入する前に善逸と宇髄さんのおかげで自分の気持ちに気付いて…
だから、貴女のその考えを変えたい。寿命まで貴女と添い遂げたい。鬼になんて渡したくない。
鬼舞辻を倒すためだけじゃなく、貴女を守るためにも俺は強くなります!」
圧倒されるほどの凄まじい想いを語ってくれた。
それを聞いて私も口を開いた。
「…姉の無念を晴らすために、一年近くをかけて少しずつ毒を摂取してきました。姉を殺した鬼は上弦の弐、女を喰うことに異常な執着があるそうです。身体能力が高く、優秀な肉体を持つ柱、さらに女であれば間違いなく喰うでしょう。ですから、私は毒を摂取し、自らを喰わせることで弱らせようとしているのです。…今の私の体には致死量のおよそ六百から七百倍の毒が全身を回っています。毒が効くかどうかも不明ですが、頸が斬れない時点でこれしか方法がなかったのです。」
「…でもしのぶさん、新しい刀を呼吸に合わせれば…」
頸を斬れると言いたいのだろう。しかし、蟲の呼吸は突きに特化していて頸を斬るのには適していない。なによりも、
「最近、蟲の呼吸が上手く扱えなくなってきたんです。私の戦い方の本質は変わっていないですし、任務の数は他の柱よりも少ないので任務に支障はないのですが…」
「えっ!いつから!?」
話を聞いて驚いただろう。鬼殺隊にとって呼吸法は大事だ。その力が半分以上もなくなってしまったのだから。
毒を利用した戦い方は変わらないし、隊士の治療を優先しているので前線に回る機会は少ないのがせめてもの救いだ。
「負傷した炭治郎くんを見て不安のあまり、今までの呼吸の仕方を忘れてしまったみたいで…そうなるくらいに炭治郎くんのことが好きです…」
「…しのぶさん、改めて言わせていただきます。貴女の人生を俺にください。」
炭治郎くんはもう一度想いを、先刻よりも真剣に告げてきた。
年下とは思えない程頼れる殿方の顔をしており、改めて炭治郎くんのことが好きなのだと実感した。
「…はい、私の人生を貴女に…だから、お願いします。強くなって、私を守って…助けてください。」
「しのぶさんを守れるくらい強くなります…!」
炭治郎くんの手を握り、想いを受け入れると同時に懇願する。
私が握った手で私の手を握り返してきた。そして私の返事を聞いて嬉しそうに少し笑っていた。
炭治郎くんの手は私よりも大きく、暖かかった。
「でも…呼吸が変わってしまったのは、かなり大変なことなんじゃ…」
「丁度刀を新調する予定でしたし、その刀に合わせた呼吸を作れば良いだけです。」
無ければ作ればいいだけの話だ。藤の花の毒を開発し、独自に呼吸を作った私なら、もう一度新しい呼吸を作り出すことくらい簡単に出来るはず。
「そうなんですか…じゃあ、俺も手伝います!って言ってもこんな状態じゃ無理ですけど。」
えへへ、と苦笑いしていた。何度も見たことのある笑顔なのに、恋仲になった途端全てが愛しく思えてしまう。
「そうですね。今は怪我を治すことを頑張ってください。もっと触れられるように。」
頭を撫でながら言うと、炭治郎くんは嬉そうに、恥ずかしそうにはにかんだ。
炭治郎くんが目を覚ましたので、お館様に鴉を飛ばした。内容は、
蟲の呼吸との相性が落ちてしまったため、今の呼吸の適性を探すための時間が欲しいこと。
以前お伝えした新しい刀を打っていただくために、再度刀鍛冶の里へ行きたいこと。
数日後には返事が返ってくるだろう。
屋敷を空けてしまうのは少々心配ではあるけれど、アオイの治療技術も向上しているので余程のことがない限り問題ないはずだ。
翌日からは空き時間に炭治郎くんの病室に行くようにしていた。
「しのぶさん。毒の摂取ってまだしてるんですか?もししてるんだったら、出来ることなら止めて欲しいです…」
私の体よりも自分の体の心配をして欲しいが、これが炭治郎くんの言う長男の素質なのだろう。
「炭治郎くんが目を覚ましてから摂取はしてないですよ。そもそも毒を摂取していたのは鬼の頸が斬れないという理由でしたから。ですが、刀鍛冶の方が頸を斬れる刀を打ってくださったので、自分を犠牲にせずともなんとかなるかもしれません。」
「そうですか、良かった…」
とは言っても、今の私の肉体は一年近くをかけて作った猛毒。血液だけでも濃縮の度合いが桁違いなのだ。雑魚鬼なら一滴だけで死に至らしめることができるだろう。
今後、いざというときに使えるかもしれない。無駄にするのも勿体ないので、血液はいくつか容器に入れて保存してある。各容器の毒は細部を調合し直して分析、分解を遅らせられるようにしておく必要があるけれど。
「今は体力作りをしています。頸を斬ったことがないので、その辺りの体力作りに中々苦戦してますけどね。」
「しのぶさん腕の力が弱いって言ってましたけど、毒の摂取を控えたら今より少しは力ついたりするんじゃないですか?」
「もしかしたら少しはつくかもしれないですね。しばらく任務も受けられる状態にないですし、今の間に慣らしていこうと思ってます。」
力がつく可能性は十分ある。藤の花の毒は鬼に有害だけど、突き詰めれば結局は毒なのだから人体にも少しは影響が出る。一年以上も一定量ずつ摂取すれば明らかに体に異変が起こる。実際、体調を崩すことが増えてきていた。
毒の摂取を止めたとしても以前の健康体に戻るまでにどれだけの時間がかかるのかは分からない。だとしてもしっかり栄養を摂り、日を浴び、眠れば少しずつは良くなっていくだろう。
…どれだけ力がついても、従来の刀は頸を斬ることはできないのが悲しいけれど。
そして炭治郎くんが目を覚ましてから三日後、お館様からの返事が昼過ぎに来た。里に行くことを許可する内容だった。任務に関しては毎度の如く、そもそも請負う数が少ないのでそこまでの問題ではないのだろう。
また、柱の階級が落ちるということはなかった。普通なら甲に降ろされそうなものだが、そうしなかったのは一般隊士への影響を考えてのことだろう。柱の数が減ると士気低下にもなりかねない。
「炭治郎くん。私は明日から刀鍛冶の里に行くことになりましたから、しばらく留守になります。」
それを聞いて寂しそうにしていたけど
「心配ありませんよ。体調が戻ったら君も来ることになります、きっと。」
何故ならこの二ヶ月の間に刀は届いておらず、担当の鋼鐵塚さんは手紙だけを送ってきたのだから。あの呪詛めいた手紙を…
カナヲは任務で外出していたので、きよ、すみ、なほ、アオイに説明して、一足先に刀鍛冶の里へ出発した。
ということで、胡蝶しのぶは刀鍛冶の里での戦いに参加します。
呼吸の変化ですが、頸を斬るとなると根本から変えるべきかなと思い、この流れにしました。毎度の如く、少々無理矢理ですが…
なんとなくですが、『蟲の呼吸』は突き技に特化していて頸は斬れなさそうなんですよね…
新しい呼吸は勝手に自作します。苦手な方が居たらすみません。
可能な限り原作に近い性能の技にするつもりです。変にぶっ壊れ技とかは逆に面白くないので。
遊郭での戦いはほぼ原作通りです。
炭治郎の実力が向上したとしても、戦況はそこまで変化しないのではないかと思ったので。
宇髄天元の左手ですが、やられたと思わせるために自身で切断したという話があったりなかったり…。左目は無事です。
仮に左手が無事だったとしても、上弦を倒したら柱を引退するとの約束があるので柱引退に変わりはありません。