里に到着して、
「こんにちは、鉄原さん。」
「おお!久しぶりやな、胡蝶さん。その後、試作の刀はどんなもんや?」
久しぶりに聞いた大阪の話し方は意外と型に
「実戦でも使えそうなくらいには扱いやすいです。」
呼吸との相性の加減で、まだ実戦で使用してはいないけれど、刀に合わせた呼吸が完成すれば問題なく実戦で使えるだろう。
「そうか、ほんなら良かったわ。刀は完成してるで。」
そう言うと、刀を持ってきてくれた。
「突き技にも使えるように、刃先は特に頑丈にしてる。長から色々聞いて、毒も使えるようにしてるで。今までで一番の自信作や!ついでにどんな色になるかも楽しみやな。」
どうやら、呼吸が変わったことも知らされているようだった。
そして、渡された刀を鞘から抜き、柄を握ってみた。
すると、刀身が柄の方から少しずつ色を染めていく。新しい日輪刀ならよく見る光景だ。しかし今回は今までとは違う色に変わったため、珍しい光景になった。
刀身の色は、純白にほんの少しの青を含んだ、雪のような色だ。そして、藤紫色をした細くゆるやかな波線が三本ほど、根本から刃先に向かって絡み合うように伸びていた。
「おお〜!またこれは珍しい意匠やなあ!綺麗なもんや。ええもん見たわ!」
「こんな色の刀は見たことないですね…」
色だけで見れば、水の呼吸の派生かもしれない。蟲の呼吸も大元を辿れば水の呼吸の派生だから、肉体的に近い適正なのかもしれない。
藤色は毒を使うことを表しているように見える。
刀自体も想像していた以上に綺麗で見惚れてしまった。
「前の刀と同じように鞘で毒の調合できるようになっとるから、そこの使用感は変わらんはずや。」
鞘の作りは以前と変わっていない。鞘だけは鉄珍様がお作りになられたようだ。
「しばらく任務は受けへんて聞いてるから、試しに使ってな。なんかあったら調整するから。」
「なるべく折らんとって欲しいけど、もし折れたら言うてな〜。あんま担当の隊士おらんしすぐ対応できるはずやから。」
と、気楽そうに手を振っていた。
「はい。ありがとうございます!」
炭治郎くんの担当の方とは正反対な人だ。とはいえこんなに凄い刀を打つ人なのだから、刀に愛が無いわけではないだろう。
そうして、刀の使い勝手の確認と今の自分に合わせた呼吸法の再構成を始めた。
二日程経ったとき、蜜璃さんが里へやって来た。
「こんにちは、蜜璃さん。」
「しのぶちゃんこんにちは〜!あれからどうなったの〜?たんじ…」
言いかけたところで私は蜜璃さんの口を押さえた。
日が落ちる前くらいの時間で、刀鍛冶の方々はまだ作業をしている。ここで話をされると周囲の方に聞こえてしまう。
バレてしまうのは構わないのだけど、わざわざ言いふらす様な事でも無いし、あまり面識のない人たちに知られるのは面白くない。
「この辺りは人が多いですから、食事のときに話します!」
「わかったわ、ごめんね。」
蜜璃さんは申し訳なさそうに頭を下げた。
そして、夕食時に恋仲になったことを話した。
「わあ〜!良かったね!おめでと〜!」
「蜜璃さんのおかげです。私一人だと自分の感情に気付くことはありませんでしたから。」
「そう言われると…えへへ〜」
嬉しそうに体を揺らしていた。
「蜜璃さんのほうはどうですか?」
そう、蜜璃さんの鬼殺隊になった理由は、前代未聞だった。添い遂げる殿方を見つけるためだと。しかしその目的を果たすために努力し柱になったのだから、とんでもない人だ。
「えっとね…素敵な人が居ないわけじゃないんだけどね〜えへへ〜」
恥ずかしそうに手で頬を覆っていた。
それに追撃してみようと思い、
「伊黒さんですか?」
と笑顔で言ってあげた。
「ええ〜!しのぶちゃん分かっちゃってたんだ!」
さらに顔を赤くした。本当にかわいい人だ。伊黒さんも蜜璃さんも素敵な人に出会えたようで良かった。
「なんとなく察しがついていただけでしたが、当たっていたみたいですね。」
ただ、蜜璃さんは心配なようで、
「伊黒さんは素敵な人だけど、伊黒さんが私を好いてくれてるかが不安なの…」
と、天然っぷりを発揮していた。
「これは私から見た感覚なんですが、伊黒さんは蜜璃さんのことをとても好いているように見えますよ。」
柱合会議のときに見る機会があったが、伊黒さんは蜜璃さんと話すときだけ雰囲気が柔らかくなっている。それに、一時期蜜璃さんの体調が悪かった時、真っ先に気づいたのが伊黒さんだった。体調が悪かった原因は私の鬼殺隊に入った経緯を知ったからなので、半分は私のせいだったけれど。
「そうなの!嬉しいなぁ!でも伊黒さんはあんまり喋る人じゃないからどうしよ…
しのぶちゃんたちはどっちが先に打ち明けたの?」
「炭治郎くんからですね。『貴女の人生を俺にください!』と言われました。少し声は震えていましたけど。」
思い出すと、あのときの炭治郎くんが可愛くて笑ってしまう。緊張しながらも頑張って言ってくれたんだろう。
「キャー!緊張しながらも言うなんて、炭治郎くん大胆で素敵!きっと良い旦那さんになってくれるわ!」
そこから蜜璃さんは自分の世界に入ってしまった。
「伊黒さんから来て欲しいけど…でも私から言ったほうが一緒にいられる時間増えるかなぁ…う〜ん…」
こんなに悩んでもらえる伊黒さんは幸せ者だ。
「はっ、そうだしのぶちゃん!」
不意に自分の世界から帰ってきた。
「刀変えたって聞いたよ!何かあったの?」
「実は、私の力でも頸を斬れる刀を作っていただいて、蟲の呼吸の適性も下がったみたいなのでせっかくならと変えてみました。」
夕食を摂った後で、鉄原さんから頂いた刀を蜜璃さんに見せた。
「わーっ!凄い綺麗!でも見たことない色ね。」
改めて見ても珍しい意匠で綺麗な色合いだ。
「新しい呼吸に適正があるみたいなんですよ。」
「そうなんだ!呼吸が変わったら柱名も変わるのかなあ?」
「どうなんでしょうか。呼吸の適正が変わるなんて話は聞いたことがありませんからね…」
その後も呼吸の話や色恋相談など、二人で色々話した。
意識が回復して一週間後、
負傷がほぼ回復し、二ヶ月休めた体の機能回復訓練をおこなっていた。
「あっそうだ!俺が眠ってる間に刀届いてない?刃こぼれしてしまったやつなんだけど…」
なほちゃんに柔軟の手伝いをしてもらいながら、何気なく聞いたら、突然怯えたように、
「「うっ!」」
「刀ですか?刀…」
「鋼鐵塚さんからお手紙は来てます。ご覧になります?」
そう言われて、機能回復訓練を中断して手紙を見た。
お前にやる刀は無い
ゆるさないゆるさない呪うゆるさないゆるさない
憎い憎いにくい憎い憎いのろう呪う呪う
とんでもない手紙が三枚届いていた。
「これは…まずいぞ…」
「ですよね…」
「二ヶ月あったんですけど、刀は届いてなくて…」
「う…うーん…今回は刃こぼれだけだったんだけどなぁ…前に折っちゃってるからなぁ」
そして猗窩座に向かって投げたとはいえ、貰って一日で失くすという大事件もあった。
これからの鬼狩りをどうしたものかと悩んでいると、
「里の方に行ってみてはどうですか?」
「直接会ってお話したほうがいいかと」
きよちゃんとなほちゃんがそう提案してきた。
「行っていいの?そういえばしのぶさんが言ってたっけ…」
君も来ることになります、と言ってたのはこういうことだったからか…
それから暫くしてお館様からの許可を頂き、刀鍛冶の里に到着した。
「ありがとうございましたー!」
蜜璃さんと温泉に浸かっていたとき、声が聞こえてきた。
「感謝の
「今の声は…炭治郎くんが来たみたいですね。」
怪我がある程度回復したから里に来たのだろう。
「怪我が治って良かった…」
「…炭治郎くんは上弦と戦ったんだっけ。生き残れたみたいで良かったね!」
そう言って蜜璃さんは抱きついてきた。
「はい、二ヶ月も意識不明でしたから…本当に良かった…」
最悪の場合あのまま意識が戻らない可能性もあったので、動けるようになるまで回復して、改めて心から安心した。
「…しのぶちゃんもそんな顔するようになったんだね!」
「…どんな顔でしょうか?」
「なんていうか、恋する乙女って感じ!キャー!かわいい!」
恋する乙女…そんなことを言われるとまた恥ずかしくなってしまい、苦笑いするしかできなかった。顔が赤くなっていたのは少し
風呂を終えて、階段を下りていると一人の隊士、不死川玄弥とすれ違った。
「こんばんは!」
蜜璃さんが挨拶したが、玄弥くんは無反応だった。顔を真っ赤にしていたけれど。
私が頭を下げる程度の挨拶をしたら、ほんの少し頭を下げてそのまま温泉の方へ行ってしまった。
「しのぶちゃ〜ん…無視されたよ〜…」
「無視したというより緊張して何も言えなかったのではないですか?年頃の男の子ですからね。顔真っ赤にしてましたよ。」
「そうなの?無視されたわけじゃなくて良かったよ〜」
蜜璃さんは安心したのか、また元気になった。
もう少し降りていったら里の人の説明を聞いている炭治郎くんがいた。
「こんばんは、炭治郎くん。」
「しのぶさん!甘露寺さんも!こんばんは!」
「こんばんは〜!炭治郎くんおめでと〜!」
祝いの言葉の意味が分かっていない炭治郎くんを見て
「しのぶちゃんから聞いてるよー、恋仲になったこと。成就して良かったね。」
声を落として、そう言った。配慮してくれたみたいで助かった。
「はい…ありがとうございます。」
それを聞いて炭治郎くんは顔を赤くして少し笑いながら言った。
その表情がかわいくて顔がにやけてしまった。
「しのぶちゃんも炭治郎くんもかわいい〜!
じゃあ私は空気を読んで先に部屋に戻るとします!」
そう言って蜜璃さんは夕食が何かを楽しみにしながら部屋に戻っていった。
周辺には誰もおらず、私と炭治郎くんだけなことを確認して、
「一週間振りですね、炭治郎くん。待っていましたよ。」
炭治郎くんに近寄り、手を背中に回した。
三歳年下だけど身長は私より高く、背中は触れただけで分かる程大きかった。
「えっ!あの…しのぶさん?」
突然の行動に驚いたのか、暫く固まったままだったので、その間に抱き心地を味わった。
「一週間会えなかった分です。ごめんなさい、同じ日に屋敷を出られれば良かったんですけど。」
恋仲になって四日程しか経っていなかったのに、しばらく会えなかったのだから、心配だったし寂しかったと思う。
「凄く寂しかったですよ…でも今は嬉しいです。」
しかし、炭治郎くんは一向に抱きしめ返してこない。
「…どうして抱きしめ返してくれないんですか?」
「あの…まだお風呂に入ってないので…お風呂上がったら抱きしめていいですか…?」
「…私は気にしないんですが…分かりました、約束ですよ?」
汚してしまうと思って我慢してくれていた。気にしないでいいと言っても本人が気にするので、今は諦めることにした。
「でも今日の夕食は蜜璃さん…甘露寺さんも一緒の予定ですから、二人きりはその後にしましょうか。二人きりと言っても禰豆子さんも居ますけどね。
…夜に二人きりですよ、楽しみですね。」
一緒にいるという意味であって他意はないが、抱きしめ返して貰えなかった腹いせに悪戯っぽく笑って言うと、
「はい…。じゃあまた後で…」
恥ずかしそうにしながら慌てて階段を登っていった。
里の中では温泉の匂いが強くてあまり鼻が効かないので、しのぶさんが今どういう感情なのかが匂いで分からない。
そして長男ということもあって今まで年上の女性と親密になることが無かったので、話すたびに心を掻き乱されてしまう。
それがまた悪くないと思っている自分に驚く。
「自分の意外な一面に気付いてしまった…」
温泉には同期の不死川玄弥が居たが、話しかけたら頭を湯の中に押し込まれて、そのまま温泉から出て行ってしまった。
しばらく湯に浸かっていたが、いつもより
「一緒にご飯食べて良いの?二人の邪魔になったりしない?」
蜜璃さんは二人の空間を邪魔しないかと心配そうにしていた。
「邪魔になんてなりませんよ。ご飯は皆で食べた方が美味しい。そうでしょ?」
「そうだね!そういうことなら遠慮なく!」
そんな話をしながら待っていると、炭治郎くんが戸を少し叩いて入ってきた。
「おまたせしました、お風呂上がりました!」
「おかえりなさい。もうすぐ夕食の用意が終わるそうですよ。」
と話していたら箱から禰豆子さんが出てきた。体はかなり小さい状態だった。
「わあ〜!禰豆子ちゃんだ!かわいい〜!」
蜜璃さんは禰豆子さんを見て、はしゃいで抱きついていた。禰豆子さんも嬉しそうにニコニコしていた。
傍から見ると、歳の差が離れた姉妹のようにも見える、微笑ましい光景だった。
「こうして見ると、鬼とは到底思えないですね。初めて会ったときにあんなことをしてしまって申し訳ないです…」
那田蜘蛛山で私とカナヲは禰豆子さんを殺そうとしてしまった。あのとき冨岡さんが守っていなかったら…
「今何も問題なく生きてるんですから、でももししのぶさん自身が納得できないなら…前にも言った通り、禰豆子と遊んであげて欲しいです。」
「…分かりました。でも蜜璃さんとの空間を邪魔するのは気が引けますね…」
炭治郎くんも蜜璃さんと禰豆子さんの方を見て
「そうですね。」
少し笑って言った。
その後は何の問題もなく夕食が済んだ。
「そういえば、玄弥は来ないんですかね。」
「不死川さんの弟ですね。すれ違った人ですよ。」
ふと炭治郎くんが言ったが、蜜璃さんは誰か分かってなかったようだったので付け加えておいた。
「そうだったの!?でも不死川さん弟いないって言ってたのよ…仲悪いのかしら、切ないわね…」
「そうなんですね、どうしてだろう…」
二人は不死川兄弟の仲が悪い理由が分からず悩んでいた。
「…実弥さんは玄弥くんに、鬼狩りになって欲しくないからではないでしょうか?」
そう言ったら二人が不思議そうにこちらを見た。
「診察のときに少し話したんです。そのときに、玄弥くんは強くなって実弥さんを守りたいと言っていました。あの時のことを謝りたいとも言っていましたね。あの時が何のことかは聞いていませんが。」
弟故に兄を守りたいという覚悟だろう。形は違えど、私と玄弥くんは似ている。
「そして実弥さんは玄弥くんを大切に想っているから、鬼狩りにならずに普通に生きていって欲しいと思っているのでしょう。私の姉もそうでしたから。ですが私の姉と違って実弥さんは不器用ですから、突き放すしか思い付かなかったのでは。」
私の話を聞いて二人共少し納得したみたいだった。
「そうですね…俺も禰豆子以外に下の子が四人いたんですけど、もし生きていたとしても鬼狩りにはなってほしくないですね。」
蜜璃さんも炭治郎くんと同じ気持ちの様で、うんうんと頷いていた。
その後、玄弥くんの所へおにぎりを持っていったが居なかったので、部屋に戻ることにした。途中で蜜璃さんが刀の最終調整に行ったため、炭治郎くんと禰豆子さんと私の三人で戻った。
「炭治郎くん、明日からはどうしますか?」
「甘露寺さんが言っていた秘密の武器を探してみようかと。」
秘密の武器と言うのはあの絡繰人形のことだろう。
「確かにあれを使えば今よりも格段に強くなれるでしょうね。下手をすると命を落としかねませんが…」
そう言うと炭治郎くんの顔がみるみる青ざめていった。
「あの…強くなるための武器なんですよね…?物騒すぎて既に体が震えてきたんですけど…」
「まあ大丈夫ですよ。炭治郎くんは一生懸命稽古に励んでいましたし、それに棍棒にしておけば当たってもかなり痛いだけで死にはしません。」
「それを聞いても恐ろしいんですが…」
「心配せずとも貴方は強くなっていますよ。上弦との戦いに五体満足で生き残れているんですから。」
顔を近づけて頭を撫でると、恥ずかしそうに目を逸らした。
「そう言って貰えると…」
「…ところで、約束…忘れてはいませんよね?」
夕方、風呂上がりに抱きしめると約束したことを今してもらおうと思い、小声で言ってみた。
「は…はいっ!」
「では、炭治郎くんの方からお願いします。」
私は腕を広げて抱きつき易い体勢になった。
「えっと…失礼します!」
緊張で少し震えながらゆっくり近づき、そのまま抱きしめてきた。
「炭治郎くんは暖かいですね…私より少し大きいですから、体全体が暖まって心地良いです。」
そのまま私は抱きしめ返した。すると、触れた背中がまた少し震えた。
「そんなに緊張しなくていいんですよ?」
「いや…あの…こればっかりはその…初めての経験で…」
「…それは良かったです。一応言っておくと、私も君が初めてですよ。ですが君が緊張していると逆に安心します。」
なんとか年上としての威厳的なものが保たれた瞬間だった。
ちなみに、禰豆子さんは長旅で疲れたからなのか、空気を読んでくれたのか定かではないが、箱の中へ戻って眠っている。
「炭治郎くん。今日は布団をくっつけて一緒に寝ましょうか。」
そういった途端、落ち着き始めた体がまた少し震えた。
「ぅえ!?その…大丈夫なんでしょうか…」
「大丈夫とは?」
「里の方たちに見られるかも…」
「心配しなくても、朝に里の方が来る前に私が起こしてあげますから。」
そこまで朝は弱い方ではないので、里の人が来る前には起きられるだろう。
「…分かりました。よろしくお願いします。でも俺、しのぶさんの顔見たら緊張して眠れる気がしないんで…反対向いて寝ていいですか…?」
「いいですよ。今日は初めてですからね。」
いつかは手を繋いだり、抱き合って寝たりしたいな、なんてことを思いつつ布団に入り、眠った。
しのぶの新たな刀が正式に完成しました。
オリキャラ刀鍛冶はまだ何度か登場予定です。
刀の色合いは出来る限り分かり易く書いたつもりですが、分かりにくかったらすみません。
具体的にカラーコードで書くと『#f0f8ff』で、藤紫は『#ddbcff』のつもりです。