翌朝五時頃、私は目を覚ました。眠った時間がおおよそ九時半だったので、七時間半の睡眠になった。普段は眠れたような感覚が少ないのだが、炭治郎くんが横にいたからなのかぐっすり眠ることができた。
横を見ると仰向けになって眠っている炭治郎くんがいた。寝返りで仰向けになったのだろう。
しっかりと『全集中・常中』ができていて感心したと同時に、かわいい寝顔を見ることができて朝から幸せだった。
もう少し見ていたいが、里の人が来る時間は五時半から六時頃なので、起こすことにした。
「炭治郎くん。朝ですよ〜。」
「んん〜…」
朝が弱いのか、緊張して中々眠れなかったのか分からないけど、揺すっても半覚醒状態のままだった。
「仕方ない…」
炭治郎くんの耳元へ行き、
「…起きないと悪戯しちゃいますよ〜?」
「っ!ぉ…おはようございます…」
囁き声で言った瞬間、驚いたように目を覚ました。
「はい、おはようございます。もう少ししたら里の方が来られますよ。」
「はい…ありがとうございます…」
起きた炭治郎くんは少し勿体なさそうに布団から出て畳み始めた。
「どうかしましたか?」
「いえっなんでもないです。」
顔を近づけて聞いてみると、顔を少し赤くしていた。自分からは言わないつもりのようだった。
「もしかして、悪戯されたかったんですか?」
「…しのぶさんは人の心を読めるんですか…」
若干不貞腐れながら顔を逸らした。
「炭治郎くんが分かりやすいんですよ。私としてはその方が安心できますけどね。」
そんな話をしながら布団を片付け終えた所で、里の方が戸を叩き、開いた。
「おはようございます、竈門さん。
胡蝶さんもご一緒でしたか、おはようございます。朝食の用意が出来ております。」
「「ありがとうございます。」」
「竈門さん、鋼鐵塚さんが見つかり次第連絡すると、長より言付かっております。それまで体力をつけて静養してください。」
「はい、ありがとうございます!」
里の方は持ってきた朝食を卓上に置き、部屋から出ていった。
「それでは、いただきましょうか。」
「はい!いただきます。」
ご飯を食べ始めたところで禰豆子さんが箱から出てきて目に見えない速度で机の下に隠れた。
「禰豆子さんは近くで見るとさらに美人さんですね。」
「はい。自慢の妹です!町でも評判だったんですよ!」
「炭治郎くんの妹ということは…このままいけば禰豆子さんは私の妹にもなるという訳ですね。」
禰豆子さんの手をぺたぺた触りながら
「禰豆子さん。今後ともよろしくお願いしますね。」
未来の妹さんに挨拶をした。すると禰豆子さんは私の腿の上に仰向けで頭を乗せてきた。笑顔でこちらを見ていたので、ひとまず認めて貰えたみたいだ。頭を撫でつつ炭治郎くんの方をみると、恥ずかしそうにしつつも満更でもない感じだった。
「よろしくお願いしますね、未来の旦那様。」
こういう顔をみるとついつい揶揄いたくなってしまう。禰豆子さんもその顔を見て笑っていた。
朝食を摂り終わった頃、外から鉄を叩く音が聞こえてきた。刀鍛冶の方々が作業を開始したようだ。
「さて、炭治郎くんは秘密の武器を探すんでしたよね?」
「はい。しのぶさんは?」
「私は担当の刀鍛冶の方に会ってから向かいます。刀の使用感をまだ言ってませんので。」
「分かりました、では後ほど。」
そう言って炭治郎くんは禰豆子さんと一緒に秘密の武器である絡繰人形を探しに行った。
「おはようございます、鉄原さん。」
挨拶すると、振り向いてこちらを見た。
「おお!朝からどうも、胡蝶さん。刀の調子はどんな感じや、いけそうか?」
もう慣れたけど、相変わらずの話し方だ。
「はい。問題なく使えそうです。」
「そりゃええわ。またなんか要望追加するんやったら言うてな。長から色々学んだからかなり融通効くと思うで。」
下手したら長よりええ刀打てるかもしれんわ。なんてことを冗談半分で言っていた。
「そういや、連れはおらんのか?朝は一緒におったみたいやけど。」
連れとは炭治郎くんのことだろう。
「彼はあの絡繰人形を使って修行すると言って先に行きましたよ。」
「あの人形か…壊れるかもしれんとかなんとか言うとったけど、大丈夫かいな…」
なにか心配してるようで刀を片付け始めた。
「ちょっと面倒事になってそうやから一緒に向かわせてもらいますで。」
「はい、構いませんが…」
鉄原さんと共に絡繰人形のところへ行くと、時透さん、お面を付けた子ども、炭治郎くんの三人が絡繰人形の近くで言い合いになっていた。
炭治郎くんは時透さんの手を掴んでいた。
「おうおう!やってんなあ!今どうゆう状況や?」
「えっどうしてそんなに呑気なんですか?」
大阪ならではなのか、それとも鉄原さんだからなのか。どう見ても険悪な雰囲気なところには場違いな感じだ。
「あの…あなたは…しのぶさんの担当の刀鍛冶さんですか?」
炭治郎くんがこちらを向き、そう言った。
「おう!そうやで〜。ほんでもっかい聞くけど、どうゆう状況なん?」
炭治郎くんは時透さんの手を掴んだまま、事の経緯を簡潔に話した。
「ほ〜ん。さいよっか。で、あんちゃんは修行したいんやな?」
何を言っているのかよく分からない程の方言だ。
鉄原さんの話し方に聞き慣れてきたと思っていたけど、普段はあれでも丁寧に話してたんだと知った。
「変な喋り方だなぁ。まあいいや、そういうこと。だから早く鍵を」
「胡蝶さんとちょっと稽古しとき。木刀持ってってええから。柱同士なら文句あらへんやろ。胡蝶さんもそれでええか?」
なんとなく言われるだろうと思っていたので、特に驚きはしなかった。それよりも木刀を二本持ってきていたことに驚いた。
「はい、構いませんよ。では、時透さん少し場所を移しましょうか。」
「…まあ、修行できるなら何でもいいや。」
それから場所を移動し、しばらく時透さんと実戦形式の稽古をおこなった。
「で?小鉄よ。お前さんは何しとんの。」
話し方はきついが、できる限り優しい声でそう言っていた。
「て…鉄原おじさん…だって、次使ったらあの人形は壊れる…!」
「別にええやん。壊れたら壊れたで。案外人形の中に金になるもん入ってたりするんちゃうか〜?」
「あなたもそんなこと言うんですか!?」
明らかにふざけた言い方をしていた。刀鍛冶の方に普通の人はいないのだろうか。
「冗談やって。そんな怒ってたら長生きできひんで?まあそれはええとして、壊れる前に中見たらええやん。ほんで全くその通りに作ったら同じもんできるやろ?」
鉄原さんという人が言ってることは至極当然だが、
「それができたら苦労はしないと思うんですけど。」
「しゃーないなぁ。中見たるわ。お前さん等は離れて待っとけ。最悪ちょっとの揺れで壊れるかもしれんねんから。」
そう言って鉄原さんは人形の背中を慎重に開けて、内部の構造を見に行った。
「あの人、中見るって言ってたけど…大丈夫なの?」
小鉄と言われていた子どもにそう聞いた。
「鉄原さんは長の次に凄いって言われてる刀鍛冶なんですよ。刀だけでなく、色んな物を作ってたみたいなんですが、ほんの少しのズレも無く作れるらしいです。あの人が言うには、物の大きさとか幅とかが見ただけで分かるとか。本当かどうかは分かりませんがね。」
時透くんもそうだけど、意外と天才っているものなんだなぁと思った。
「ほーん。これがこうなって…なるほどな…昔の人はおもろいもん作りよんなぁ…ん?なんやこれ…これも部品になってんのか…これが無かったら動かんようになってんのか?へぇー…斬新でええやん。」
満足したのか、鉄原さんは人形の背中を丁寧に元の状態に戻した。
「君、竈門炭治郎さんやったかな。」
「はい。どうして俺の名前を…?」
「胡蝶さんからちょっと聞いただけや。竈門さん、秘密の武器を探してるって話やんな?」
「そうですけど…」
話の内容がよく分からず、言葉を詰まらせていると、
「小鉄、これの説明したって。」
鉄原さんにそう言われ、小鉄くんは俺に説明してくれた。
どうやらこれは鬼殺隊士の訓練用絡繰人形で、名前は縁壱零式という。
小鉄くんが必死に守っていた鍵を背中辺りにある穴に差し込み回すと動き出す。
腕が六本あるのは、この人形の元となった実在した剣士の動きを再現するのに六本必要だったからだそうだ。
腕の話がもし本当ならこの剣士は恐ろしい程強い人だっただろう。
「で、これがその秘密の武器ってやつや。それでな竈門さん、こいつと戦ってぶっ壊せ。」
「ええっ!?どうしてですか!?」
「そうですよ、鉄原おじさん!何言ってるんですか!」
何故壊す必要があるのかが全く分からない。それは小鉄くんも同様らしい。
「まあ詳しく説明してもええけど…それやとおもんないからなあ…一つ言うとしたら、秘密の武器の中に真の秘密の武器があるって事くらいやな。」
「「真の秘密の武器!?」」
小鉄くんと声が重なった。真と聞いて小鉄くんも興味を持ったみたいだ。
「そや。でもそれを取るためには破壊するしかない。やから竈門くん、君はこいつで修行して、この人形の動きより強くなって壊せ。そうすれば出てくるわ。ちょうど今君が求めてる物やと思うわ。」
俺が求めている物…少し考えてみたが、鉄原さんの想像しているものが何なのかは分からなかった。
「まあ頑張りや。私はそろそろ戻るわ。ほんで小鉄、人形の中身の詳細を紙かなんかに作っといたるから、しばらく…一週間位経ったら来いな。」
「あっはい…分かりました。」
そうして鉄原さんは帰っていった。それと同じ頃にしのぶさんも戻ってきた。
「あっしのぶさん、おかえりなさい。どうでしたか?」
「刀を振るのにもかなり慣れてきましたよ。時透さんとの稽古もかなり有意義なものになりました。時透さんも満足そうに帰りましたよ。」
ありがとう、良い修行になったよ。と言いながら帰っていった。
「それで、炭治郎くんはどうするんですか?」
「この人形で修行しようと思います。」
炭治郎くんから鉄原さんが何をしていたのかを聞いた。
「人形の中に、今の炭治郎くんに必要な物が入ってる…ですか。」
秘密の武器という程だから、もしかしたら刀が入っていたりするのだろうか。
「君はこの人形が壊れても構わないのですか?」
「はい。鉄原さんが人形の仕組みを調べてくれたので、いつか俺が作り直します!なにより…真の秘密の武器が何なのか凄く気になるんです!!」
少年はお面を着けていても分かるほど興奮していた。横を見ると、炭治郎くんも目を輝かせてうんうんと頭を縦に振り続けていた。
「そうですか。それなら炭治郎くん、頑張ってください。私は見学させてもらいますね。改めて貴方の実力を確認しておきたいので。」
しのぶさんは人形の間合いから少し離れたところに移動した。
小鉄くんは人形の刀を棍棒に変え、鍵をつけて回し、人形を動かした。
「うわっ!」
動き始めた人形は俺を目掛けて攻撃を繰り出してきた。突然のことでその動きになんとか反応はできたが、避けるだけで精一杯だった。
「これ、本当に人形なのか!?動きが滑らか過ぎるぞ!?」
「炭治郎くん、相手の動きをよく見るんですよ。」
「はっ…はい!」
しのぶさんからの助言の通り、相手の動きを意識してよく観る。そうすれば狙ってくる場所が匂いで分かる。
-頭部、左肩、首、腰、右脚、左手首-
六本の腕一本一本が狙ってくる場所を認識して寸前で躱し、受け流し、その上で人形の隙を突いて斬り込む。
繰り返しおこなう度に安定して人形の動きについていけるようになっていく。
「上弦と戦ったことで前より腕を上げたようですね。」
さらに人形の攻撃を躱し、攻撃を入れる度に動きに無駄がなくなっていき、素早くなっていく。
炭治郎くんは実戦をおこなう度に凄まじい速度で成長していく。
「もう少し経験を積めば柱と同じ位強くなれるでしょうね。」
数日経って二ヶ月分の遅れを取り戻し、炭治郎くんが斬撃を何度か入れたところで、ついに人形の寿命が来てしまい、最後の顔への攻撃によって人形の顔が壊れた。
人形の顔だったところから、刀の柄部分が出てきた。
「なんか出た!何これ!」
それを見て炭治郎くんは心臓が飛び出るほど驚いていた。
「本当に刀が出てくるなんて…」
何となく想像してたとはいえ、実際に刀が出てくるとは思わなかったので驚いてしまった。
小鉄くんが興奮して炭治郎くんの方へ走っていった。
「少なくとも…三百年以上前の刀ですよね?」
「そうだよね…これ…ヤバいね!どうする!?」
二人は顔を真っ赤にしてハアハアしていた。戦国時代の刀を見て過呼吸気味になっているのだろう。
「興奮が収まりませんね!」「うん!」
「炭治郎さん、ちょうど刀が打ってもらえず困ってたでしょ。これ炭治郎さん貰っていいんじゃないでしょうか。」
「ややややや!ダメでしょ。」
そう言ってるが貰う気満々な顔をして顔を横に振っていた。
結果を想像すると面白いので、私はしばらく口を挟まず見守ることにした。
「戦国の世の時代の鉄はすごく質がいいんですよ!」
小鉄くんが両手の残像が見えるほどの速度で縦にぶんぶん振っていた。
「ダメダメ!そんなぁ!」
「炭治郎さんが斬ったから見つかったんだから!」
二人とも組体操を無意識にするほど興奮していた。
「それは今まで蓄積された剣戟があってたまたま俺のときに人形壊れただけだろうし、そんな!」
「いいんですか?本当に。」
「んんん…」
「試しにちょっと抜いてみます?」
「そうだね!見たいよね!」
そう言って、二人はワクワクしながら出てきた刀を鞘から抜いた。
当然の如く錆びており、
「錆びてる…」
あまりに残念だったのか、二人とも地面に倒れた。
見たかった反応がついに見れてくすくすと笑いが出てしまった。
「あっ…しのぶさん…」
錆びてることに絶望し、涙を浮かべていた。
「鉄原さんが言っていたのはこれのことだったんですね。」
確かに、今の炭治郎くんには必要な物だ。しかし錆びていては使い物にはならないだろう。しかし錆取りしてしっかり研磨すれば問題なく使えるだろう。
「この刀を研磨してもらえば良いのではないですか?」
「確かに…」
そうやり取りしていると、木の隙間から鋼鐵塚さんが出てきた。
その後、ひと悶着あったけれど、鋼鐵塚さんが錆びた刀を研磨することとなった。
炭治郎くんに新しい刀を渡し、鋼鐵塚さんは里へ戻っていった。
時間は昼頃なのでひとまず里の方へ戻り、昼食を摂ることにした。
「さて、この後は…稽古か、今日は終わりにするか、どうしますか?私としては終わりにして体を休めた方が良いとは思いますが。」
昼食を摂った後、昼からどうするかを聞くと同時に、休んだ方が良いと提案した。
ここ数日間、炭治郎くんは人形を使った鍛練を長時間しているので、そろそろ体を休めたほうが良いだろう。
「分かりました。今日は体を休めておきます。」
「そうですか!では炭治郎くん、こっちに来てください。」
「?」
私は座布団の上に座り、腿をぽんぽんと叩いて、
「頭を乗せて寝転がってください。」
いわゆる膝枕というものだ。ここ数日かなり頑張っていたので、その疲れを癒してあげようと思ったのだ。
「し…失礼します…!」
炭治郎くんは少し緊張しながら私の腿に頭を乗せた。乗った感覚としては、意外と重さを感じないということだった。
「炭治郎くん、膝枕の感想は?」
「こ…心地良いですが、なんというか…落ち着かないです…」
横向きで寝転がっており、恥ずかしさからか耳が真っ赤になっていた。そして緊張からか、少し震えた声だった。
「ふふっ、私の旦那様はかわいいですね。では少し落ち着くようにしてあげます。」
炭治郎くんの頭を優しく撫でた。髪はツンツンしているけれど、触れてみると凄くふわふわで柔らかい。
「あっ…頭を…」
「炭治郎くん、お疲れさまです。偶にはゆっくり休んでください。」
頭を撫でられると気持ちが落ち着くと言われている通り、張り詰めていた緊張がほぐれたようで瞼を重くしていた。
「眠ってしまいそうです…」
「そのまま眠ってしまって良いですよ。おやすみなさい。」
私の囁き声で、炭治郎くんはそのまま眠りに入った。
少しして禰豆子さんが箱から出てきて、また机の下に入った。
「禰豆子さんはおはようございます、ですね。」
「ムー!」
禰豆子さんは”おはよう”と言いたい動きをし、その後炭治郎くんを見た。
「炭治郎くんもそうですけど、禰豆子さんもかわいいですよね。」
片手は炭治郎くんの頭を、もう片方の手は禰豆子さんの頭を撫でる。
「ム〜〜」
頭を撫でられて嬉しそうに声を出していた。声は全く違うけれど、笑顔は炭治郎くんとそっくりだった。
「兄妹そっくりですね〜。」
それから炭治郎くんは二時間ほど眠っていたが、その寝顔が見飽きることはなかった。
【あとがき】
この辺りから、隙間を挟んで炭治郎としのぶはイチャイチャさせていきます。
描写はありませんが原作同様、時透無一郎の新しい刀は鉄穴森が打っています。
しのぶの鬼に対する嫌悪感はかなり減少しています。現状は禰豆子に対してだけですが。
炭治郎が継子になってから半年以上経っていて、その間ずっと同じ屋根の下で暮らしているので、それくらいでも違和感ないかと思います。