「…ん…」
「おはようございます。」
目を覚ましたとき、しのぶさんが俺の顔を笑顔で覗き込んでいた。
「おはようございます。どれくらい眠ってましたか?」
「二時間ほど眠っていましたよ。」
外からは鉄を叩く音が響いていた。
それなりに大きい音なのだが、その音で起きることはなかったようだ。それほどまでにしのぶさんの膝枕は眠りやすかった。
「二時間ですか。ん…ん〜」
体を起こし、伸ばした。その後しのぶさんの方を向き頭を下げた。
「ありがとうございます、お陰で疲れもかなり取れた感じがします。」
「どういたしまして。疲れが溜まったときは言ってくださいね。」
炭治郎くんは数日間、絡繰人形を使った修行を行っていたけれど、改めて状況を確認すると意識が戻ってから二週間と経っていなかったのだ。空白の二ヶ月間の後に、実戦形式の修行。このままにしておくと体を壊してしまう可能性があったので、休むことを勧めた。
その甲斐あって炭治郎くんは体を休めてくれた上、私は彼の寝顔をのんびり眺めることができた。
「しかし休むとなると、こう…手持ち無沙汰になるというか…」
炭治郎くんはかなりの仕事人間らしく、常に何かをしていないと落ち着かない類の人らしい。
「では、のんびり雑談しましょうか?最近はあまりできていませんでしたし。」
何しろ炭治郎くんは二ヶ月間意識不明、目を覚まして三日ほどで私は此処に来たのだから、話す時間はほとんどなかった。
「そうします。しのぶさんとのお話は楽しいですし。」
「そ…そうですか。それは良かったです。」
無自覚でこう言うことを言ってくる。言われる側からすれば、他の方にも言ってるのではないかと思うと気が気じゃない。…と思ったけれど、以前炭治郎くんに同じようなことを言ったような気がする。その時は炭治郎くんが顔を赤くしていた記憶がある。
「あれから二週間近くなりますけど、身体の方は大丈夫ですか?」
恐らく毒の摂取を止めてからということだろう。心配そうに聞いてきた。
「問題ありませんよ。まあ、一年かけたことが二週間でどうこうなるものでもありませんが、前より身体は少し軽く感じます。」
「そうなんですね、良かったです…」
安心したように私の手を両手で握った。炭治郎くんの手は陽の光のように温かかった。
「あったかい…」
「しのぶさんの手は少し冷たいですね。」
「…確かに人より冷たい方かもしれません。でも、今はあなたが温めてくれるので安心ですね。」
「しのぶさんが望むのならいつでも温めますよ!」
「そうですか?それなら…」
炭治郎くんの前に同じ向きで座り、彼の手を私の体の前に持ってきた。
「後ろから抱きしめて温めてもらえますか?」
「は…はい」
急に言われて緊張しながらも抱きしめてくれた。私の肩に顎を軽く乗せていたので、顔を見ることができた。見てみると、目を瞑って頬を少し赤くしていた。
「ど…どうでしょうか…」
「温かいですよ〜。しばらくこのままでお願いします。」
三十分ほどそのまま堪能し、その後は肩が触れるほどの近い距離で隣に座り、のんびり雑談していた。
「そういえば、新しい呼吸はどうですか?」
「かなり形にはなりましたよ。実戦でも十分使えると思います。」
とは言っても、鬼の頸が斬れるかどうかは実戦でしてみないと分からない。
仮に頸が斬れなかったとしても、藤の花の毒を使った戦闘自体は可能なので存外そこまで不安ではなかったりする。
「雪の呼吸と名付けました。」
抜刀して、刀身を炭治郎くんに見せながら言った。
炭治郎くんは刀を食い入るように見つめていた。
「雪の呼吸ですか…」
「水の呼吸の派生と風の呼吸が合わさったような感じでしたね。」
そして蟲の呼吸の突き技も組み合わせることで、かなり戦略の幅が広がった。
「技については見せられる機会があればお見せしますね。」
「はい。楽しみにしてます!」
炭治郎くんが満足したところで、刀を鞘に戻して床に置いた。
「炭治郎くんの方はどうですか?ヒノカミ神楽、扱えそうですか?」
「中々難しいです…でもかなり動けるようにはなりましたよ。」
炭治郎くん曰くヒノカミ神楽、もとい日の呼吸は強力故に反動が生じるのだと。その反動を減らしていくためには使い続けて慣れるしかないみたいだ。
「ヒノカミ神楽、日の呼吸はいくつの型があるんでしょうか。」
「そうですね…父から神楽について聞いた限りでは…十二個ですね。」
指折り数えながら十二個と言った。
「十二個の型…日の呼吸を極めるのは想像以上に難しいでしょうね。」
「はい、単発で出す分にはなんとかなるんですが、連続して出すとなると肺への負担が大きくなるんです。」
「…お父さんは病弱ながらも、神楽を夜明けまで舞っていたんですよね?それについては何か聞いたりしていませんか?」
お父さんとの会話を思い出そうと頭を唸らせ、いくつか思い出したようだ。
「息の仕方、どれだけ動いても疲れない呼吸の仕方があると、言っていました。」
「呼吸の仕方、全集中の呼吸のことでしょうか…他には何か?」
「正しい呼吸と正しい動き、最小限の動作で最大限の力をだすことで頭の中が透明になってくる、とかですね。」
「頭の中が透明になる…何かの比喩でしょうか…」
そこに関しては炭治郎くんもよく分かっていないようで、
「俺にもよく分からないんですよね。」
その後考えてみたが、答えはでなかった。
同日夜、部屋で禰豆子さんが私にじゃれていたとき、時透さんが部屋に入ってきた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「時透くん。どうかした?」
「鉄穴森って刀鍛冶が何処にいるか知らない?」
「鉄穴森さん?一緒に捜そうか!」
炭治郎くんがそう言うと
「なんでそんなに人を構うの?君には君のやるべきことがあるんじゃないの?」
不思議そうに聞いてきた。
「人の為にすることは結局、巡り巡って自分のためにもなっているものだし、俺も行こうと思ってたから丁度いいんだよ。」
それを聞いて時透さんは何か感じたのか
「えっ!?何?今、なんて言ったの!?今…今…」
驚いたように、いつもより大きな声で言っていた。時透さんが大きな声を出すのが珍しかったので私はそちらを見た。それに釣られて禰豆子さんも同じ方を見た。
「え?丁度いいよって…ん?」
突然禰豆子さんが二人の会話に割って入り、
「んっんっん〜ん!」
「…あれ、なんだっけ…」
腕をパタパタと振っていた。
時透さんはまたいつもの時透さんに戻っていた。
そのとき、廊下から誰かが入ろうとしていた。
「ん?誰か来てます?」
「…そうだね。」
里の方であれば戸を叩くはずだ。しかし戸を叩く気配はない。
私は少し警戒し、刀の準備をした。
戸が開かれたとき、
「ぐうっ…ヒイィィィ…ヒイイ…」
鬼が部屋に入ってきた。気配からして恐らく上弦の鬼だろう。
すぐさま抜刀し、
-雪の呼吸 壱ノ型
鬼に向けて素早く突き技を放った。がしかし、一撃入っただけで躱されてしまった。咄嗟のことで毒を仕込めていなかったので、有効打にはならないだろう。
時透さんも抜刀し、回避先に
-霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り-
斬りかかるが、またしても躱された。
今度は天井に張り付いた。
かなり素早いようで、少し手に掠っただけだった。
「うがあ!ヒイイイ!…やめてくれ…いじめないでくれ…痛い…!」
鬼は手から血を流し、泣きながら言っていた。
今度は炭治郎くんが
-ヒノカミ神楽 陽華突-
天井に向けて放つが、少し当たっただけで躱された。
この間、何故か鬼は全く反撃してこない。
「ウゥ、ウッ!」
禰豆子さんも戦闘態勢に入り、鬼の腹に蹴りを入れた。
「うごっ…ぎゃああ!」
まともに喰らった鬼は体勢を崩した。
「禰豆子!その姿になるな!鬼化が進むからやめろ!」
禰豆子さんの体全体に葉のような痣が発現していた。
体勢を崩した鬼の頸に、すぐさま時透さんが斬りかかった。
「ヒイイイ…斬られた〜!」
「時透くん、しのぶさん、油断しないで!」
鬼の頸はあっさり斬られ、肉体は霧散…しなかった。
斬られた頭には頸から下の胴体が、胴体には頭が再生し、二体に分裂した。
時透さんは片側、炭治郎くんと私はもう片側の頸を斬りかかる。
そのとき、時透さんが斬りかかった方の鬼が団扇を一振りする。瞬間、途轍もない風が吹き、時透さんと私は建物の遠くへ飛ばされた。炭治郎くんは禰豆子さんが手を取り、なんとか吹き飛ばされずに耐えれていた。
「禰豆子…しのぶさん!時透くん!」
飛ぶ直前に炭治郎くんの声が聞こえたが、どうにもならず吹き飛ぶしかなかった。
「敵襲〜!鬼だ!敵襲〜!各一族の当主を守れ!柱の刀を持ち出せ!長を逃がせ!」
飛ばされた先は里の入口に近いところだったらしく、時透さんとは別の場所に飛ばされたようだ。
里内には金魚の体で背びれ部分に壺がついた四足歩行する狂気じみた鬼が大量におり、里の方々を襲っていた。
すぐさま金魚の鬼たちに近づき、急所であろう壺を切断する。
動きは単純なため、型を使う必要もなかった。そして問題なく頸…ではないかもしれないけど、頸を斬ることはできるようだ。
「ちょうどいい所に吹き飛ばされたみたいですね。」
新しい刀で鬼を斬る練習台をわざわざ用意してくれているのだ。最大限利用させてもらおう。
「柱が来たぞ!」
襲われ始めてからそれほど時間は経っていないようで、死人は数えられる程度といったところだ。
「それにしても…凄い大きさですね…」
手早く金魚の鬼を倒していく。しかし、倒しても倒してもすぐ湧いて出てくる。
血鬼術か何かで生み出されているらしく、際限なく出せるのかもしれない。
炭治郎くんと禰豆子さんの所へ戻って加勢しに行きたいけれど、湧いて出てきた金魚の鬼は依然として刀鍛冶を狙っている。
ここを離れてしまうと里は壊滅してしまうだろう。
(すみません、炭治郎くん…禰豆子さん…何とか持ちこたえてください…)
…………………………
暫く金魚の鬼を倒していると、一際大きな金魚の鬼が私の隙を縫って里の内部へ行ってしまった。恐らく里長の鉄珍様を狙っている。
「しまった…」
鉄珍様を助けに行きたいところだけれど、金魚の鬼は未だ現れ続けている。今離れれば辺りに居る刀鍛冶は全員死んでしまう。里長を優先すべきなのは間違いないけれど、此処に居る人数が流石に多すぎる。
「私たちよりも…長のところへ!」
「…ごめんなさい…!なんとか凌いでください…!」
可能な限り早く戻ってこられるように急いで鉄珍様のもとへ向かった。
鉄珍様のいる建物へ向かうと、先刻の一際大きい金魚の鬼が長を掴み上げようとしていた。
「あわ…あわわわ…」
鉄珍様はそれを見て腰が抜けてしまっていた。
-雪の呼吸 参ノ型
鉄珍様が掴まれる直前で、複数ある不気味な腕を切断する。続けて壺を切断し、大きな金魚の鬼を倒した。
「鉄珍様。ご無事ですか?」
霧散していく鬼を尻目に安否を確認する。
「うん、おかげで怪我なく助かった。美人に救われて幸せ〜。抱きしめてくれるとさらに幸せなんやが…」
「あ…相変わらずですね、鉄珍様…」
いつもの鉄珍様で苦笑いしかできなかった。
「申し訳ないのですが、私には心に決めた人がおりますので他をあたってください。」
「そうか、それはすまんかったの。大事にしいや〜」
鉄珍様は意外とあっさりした反応だった。美人なら誰でもいいのだろう。蜜璃さんが来ていればもっと喜んでいたかもしれない。
「…こんなことしている暇では…」
破壊された壁のところから助けに向かおうとしたとき、
「遅れてごめんなさい!皆さんご無事ですか!?」
蜜璃さんがやってきて、残りの鬼を倒してくれた。
「あ、ありがとうございます!」
助けてもらった刀鍛冶が震える声で言っていた。
「ご無事でしたか、蜜璃さん。」
状況の伝達のため、蜜璃さんの所に向かった。
「しのぶちゃん!辺りの鬼はしのぶちゃんが倒してくれてたんだね!」
「はい。鬼を斬る練習台になっていただきました。急所を斬れると倒したという感覚があって中々良いですね。」
刀も問題なく使えたので、これからは鬼を斬ることができる。そう思うと劣等感のようなものがなくなって気が楽になった。
「蜜璃さん。簡潔に状況を説明します。今炭治郎くんたちが上弦と戦っています。私は団扇を持った鬼にここまで吹き飛ばされてしまいました。時透さんも居ましたが、私と同じく吹き飛ばされて、今は何処にいるのか不明です。」
「分かったわ!ひとまず状況が確定してる方優先で行きましょう!」
時透さんの無事を祈りつつ、蜜璃さんと共に上弦と会った場所へ向かった。
その途中、遠くからでも分かるほどの巨大な木の竜が見えた。間違いなく血鬼術だろう。最初に会った場所からはかなり離れた所で戦っていた。
「…!炭治郎くん!」
一本の木の竜が上空に伸びていた。その木の竜に炭治郎くんが飲み込まれる瞬間が見えた。
周辺に他の鬼が居ないことを把握し、木の竜目掛けて跳び上がった。
鬼ではない気配、炭治郎くんのいる場所を確認し、その部分を斬らないように木の竜を細かく斬り刻んだ。蜜璃さんは他の木の竜を斬り、一時的に鬼の攻撃を止めた。
「…柱か…二人も…」
木の竜を繰り出していた鬼は十代前半ほどの見た目をしていた。その鬼は『憎』と書かれた連鼓を背負っている。あれを叩くことで血鬼術を発動するのだろう。
「炭治郎くん、大丈夫ですか?」
「しのぶさん…すみません、鼓膜が破れたみたいであまり聞こえません…」
「…」
一時的に難聴になってしまったようだ。炭治郎くんにも分かるように身振り手振りで状況確認を取った。
まず、分裂した鬼は本体を除いて合体、それが目の前にいる鬼である。
本体は小さすぎて目視で探し出すのはほぼ不可能。炭治郎くんは匂いで追えるとのこと。
『分かりました』と頷き、私は憎の鬼に向く。
炭治郎くんに状況を聞いている間、蜜璃さんは憎の鬼に説教していた。
「ちょっと君!おイタが過ぎるわよ!禰豆子ちゃんと玄弥君を返してもらうからね!」
「黙れ、阿婆擦れが…!わしに命令してよいのはこの世でお一方のみぞ。」
「ハッ!」
阿婆擦れと言われたのが衝撃だったようで、蜜璃さんは若干気を落とし、怒っていた。
-狂鳴雷殺-
竜の口から衝撃波と雷撃が蜜璃さんに向かって飛んできた。
-恋の呼吸 参ノ型 恋猫しぐれ-
蜜璃さんは独自の刀を操って三日月状に斬撃を出し、全ての衝撃波と雷撃を掻き消した。
「私怒ってるから、見た目が子どもでも許さないわよ!」
「もんげ〜!」
それを見て炭治郎くんは驚いていた。
それから蜜璃さんは攻撃を回避しながら鬼の頸へ近づいていく。
-血鬼術 無間業樹-
そのとき、木の竜が同時に広範囲に襲ってきた。
-恋の呼吸 伍ノ型 揺らめく恋情・乱れ爪-
木の竜を全て斬り刻み、鬼の頸に刀がかかる。
しかし鬼は口を開き何かを出そうとしている。
「甘露寺さん!そいつは本体じゃない!頸を斬っても死なない!」
このままでは蜜璃さんに攻撃が直撃してしまう。
私は鬼が攻撃を放つ瞬間を狙い、
-雪の呼吸 参ノ型
蜜璃さんの前に素早く出て憎の鬼の顔面、特に口の部分を二、三度斬りつける。
しかし鬼は攻撃を止めることなどはせず、
-狂圧鳴波-
口から衝撃波が発生し、至近距離にいた私と蜜璃さんはまともに受けた。
しかし口を斬ったからか衝撃波は弱まったらしく、動ける程の圧で済んだ。
「…ごほっ…ふう…大丈夫ですか?蜜璃さん。」
「うん、助かった!ありがとう!」
弱まった衝撃波とはいえ、上弦の鬼の攻撃だ。そして蜜璃さんと違って私の体には筋肉の密度が少ない。若干の耳鳴りが起き、少々吐血してしまった。
普通に喰らっていたら、体の形を保っていなかったかもしれない。恐らく蜜璃さんでも一時気絶してしまうだろう。
幸い蜜璃さんは筋肉を硬直させたことで、大きな負傷はしなかったようだ。
そして傷は再生されたが、今回は毒を仕込んでいたため、鬼の体に変化が出た。
「なんだ…この異変は…まさか毒か!那田蜘蛛山で喰らっていた物とは違う毒…!
いやしかし、毒ならば分解してしまえば良い。」
毒に耐性をつけ始め、体の異変が収まっていった。やはり上弦ともなると毒に耐性をつけることも容易いらしい。それに推測通り毒の情報も共有されているようだ。
「炭治郎くん、玄弥くん、禰豆子さん。あなた達は逃げた本体を追って、頸を斬ってください。こちらは私たちで抑えます。」
「はっ、はい!しのぶさん、甘露寺さん!こちらはお願いします!」
炭治郎くんたちは本体の方へ向かい、私達は憎の鬼に向かった。
「…流石にそろそろ我慢の限界です…!」
炭治郎くんが…私の大切な人がまた鬼に殺されそうになったことで怒りがさらに膨らみ、抑えられなくなった。
「しのぶちゃん。」
「蜜璃さん。」
顔を合わせて頷き、襲ってくる竜を片っ端から二人で斬り落としていく。しかし私と蜜璃さんから標的を炭治郎くんたちに変え、さらに竜の動きが先刻より激しくなり、劣勢になっていく。
心拍数を上げて更に速く動かなければ状況が悪化してしまう。炭治郎くんたちが本体の頸を斬るまで、なんとしてでも攻撃を止めなければならない。
負傷による体温と心拍数上昇、それに加えて意図的に上昇させたとき、異常なほどに体が軽くなった。それは蜜璃さんも同様のようで先程よりも動きが速くなった。
状況が変わり、竜を斬り落とすことが容易くなった。
同士討ちにならないよう、蜜璃さんと息を合わせて木の竜を斬り落とし続ける。
竜は私たち二人に狙いを定める個体と炭治郎くんたちの方に狙いを定める個体がいて、一度判断を間違えればやられてしまうかもしれない。
蜜璃さんの方を一瞬見たとき、左の首の所に鬼の紋様と似た痣が発現していた。色は炭治郎くんの額にあった痣と同じ色だ。
しかし、その痣が何なのかを考える暇はない。相手の攻撃は止む気配が全くなく、こちらの体力が尽きるまでこの攻撃を続けるつもりなのだろう。
ある一瞬こちらに攻撃を集中させて、私と蜜璃さんの不意を突いてきた。
前後左右上下、全方向から竜が嚙みつきに来る。
-恋の呼吸 陸ノ型 猫足恋風-
-雪の呼吸 肆ノ型
お互い自身の周囲に斬撃を起こし、全方位からの竜を斬り落とす。
「蜜璃さん、夜明けまでもう少しです。まだ持ちますか?」
「なんとか!まだ大丈夫!」
かなりギリギリだけど、夜明けまではなんとか持ちこたえられそうだ。それに、こちらにこれだけの力を割いているのだから、本体の方はかなり体力を消耗しているはずだ。力をつけた炭治郎くんなら問題なく頸を斬れるだろう。
…………………………
竜を斬り続けてどれくらい経っただろうか。
「はあ…はあ…」
「もう無理〜!」
私も蜜璃さんも流石に限界だ。蜜璃さんがそう言うほどだから、元々体力の少ない私はもう腕が上がらなくなるほど限界を迎えていた。
森の中のため、通りは悪いが陽の光が差し始めた。それと同時に鬼の体が灼け始めた。
目の前の鬼に陽の光は当たっていなかったので、炭治郎くんたちが本体の頸を斬ったのだろう。
「はあ…はあ…終わっ…た…」
「しのぶちゃん!大丈夫!?」
鬼が消滅し、集中が途切れたことで立っていられなくなり、体が倒れる。そこを蜜璃さんが支えてくれた。
「な…んとか…でも流石に…疲れ…た…」
既に限界を迎えていたので、その場で意識が途切れてしまった。
…………………………
ふと意識が回復したときには蜜璃さんの腕の中にいた。
「蜜璃さん…あれ、私…」
「あっしのぶちゃん!大丈夫?」
「意識なくしてましたか…ありがとうございます。もう大丈夫です。」
体力が少し回復して自分の足で歩けるようになったので、蜜璃さんの腕の中から出た。
「良かった!じゃあみんなのところに行こう!」
炭治郎くんたちが行った方向に向かうと、
「殺してやるー!」
「禰豆子逃げろ!」「逃げろーー。」
また炭治郎くんが鋼鐵塚さんに追いかけられていた。
「えっ…禰豆子さんが…」
「みんなぁ〜!みんなぁ〜!」
蜜璃さんは皆が生き残れたのを見て嬉しくなったのか、突然走り出した。
「甘露寺さん!しのぶさん!」
声に気づいたようで、こちらを見た。
「うわあ〜!勝った、勝った〜!みんなで勝ったよ〜!すごいよ!生きてるよ〜!良かった〜!」
「よかったね」
良かった、に反応して禰豆子さんがそう言った。
「…えっ?」「よかったね」
「ええぇぇぇえ!?」
蜜璃さんはようやく気づいたらしく、手をこれでもかと振りながら後退した。
私は炭治郎くんたちに近づき、
「炭治郎くん、禰豆子さん、玄弥くん、時透さん、皆さん無事で良かったです。」
「はい!」「よかったね」「…」「うん」
皆それぞれそう返した。玄弥くんは言葉は発さなかったけどコクリと頷いていた。
「禰豆子さんは…どうなってるんですか?」
普通に陽の光の下で、しかも今まで喋ることもなかったのに。
「俺にもよく分からないんです。でも、生きてて良かった…」
「…そうですね。今はとにかく生き残ったことが大事ですね。」
この後は生き残れたことを皆で喜びあいながら里の方へ戻った。その後治療のため、全員すぐに私の屋敷へと帰った。
【あとがき】
憎珀天との戦闘は2話に分割しようとしましたが、文字数がいまいちだったので1話に纏めました。
雪の呼吸
水の呼吸が派生して、風の呼吸と合わさった。
壱ノ型 垂り雪(しずりゆき)
『蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ』のように高速で横切ると同時に攻撃する。
状況によって『突き』『斬撃』を使い分ける。
参ノ型 風花(かざばな)
相手の隙を斬り込む連撃技。
隙が多ければ多いほど斬撃の数は多くなり、隙が大きければ大きい程強い斬撃になる。
肆ノ型 銀華白風(ぎんかしらかぜ)
『水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦』のように体を捻り、自身の周囲に強力な斬撃を放つ。
防御技としても使える。
しのぶ本来の性格(少し短気な性格)が風の呼吸に合うと思ってこうなりました。
水の呼吸に関しては、蟲の呼吸の大元が水の呼吸だからという理由です。
いくつか技は作りましたが、先は未定なので全部出るかは分かりません。
念のため、出た技は毎度後書きに記載しておきます。
何度か見直ししてますが、誤字・脱字があった場合は自己補完でお願いします。見つけた時は修正します。