「今日はぼくも外で遊ぼうかな」
大人しいきょうだいの珍しいその言葉。歓声を上げるスラッシュやジョウブレーカーに、私は混ざれなかった。
あの一件……墓地に潜んでいた蜘蛛の姿のディセプティコンとのことがあって以来、ずっと塞ぎ込んだままだったナイトシェード。パパもママも、ロビーもモーも、きょうだい達もみんな、ずっと心配していた。
私だって、心配だった。だってナイトシェードにあの墓地の場所を教えたのは、私なんだ。
勿論その時は『オニールさん』を探す手伝いをするつもりで、あのディセプティコンのことなんか全然知りもしなかった。でも頼ってくれた時は嬉しかったし、その後何日も私達のことなんてそっちのけで足繁く墓地へと通っていたのはちょっと寂しい気持ちになったりもしたけど……楽しそうだな、良い人に会えて良かったな、なんて考えてたんだ。
まさか、あんなことになるなんて思ってもいなかった。
「やったー!何して遊ぶ?何して遊ぶ?」
「トランスフォーマー鬼ごっこ!」
「それもう飽きたじょ〜!」
「ナイトシェードはまだやったことないでしょ!ビークルモードもゲットしたし、ナイトシェードも一緒ならきっといつもと違って楽しいよ!」
「そっかぁ〜!」
賑やかなきょうだいたちに笑う、やや低いところにある白い横顔、笑みを描くその口元が少しだけぎこちないのは、多分気のせいじゃない。
優しくて、賢いナイトシェード。だからみんながずっと自分のことを心配してるのも、きっとすっかりお見通しなんだ。
それに、私は気づいている。
前は一日中一人でこもって作業していた秘密基地の発明スペース。あれ以来、ナイトシェードは前ほど長くは過ごさなくなった。
理由は……はっきりとは分からない。だって私があれこれ考えたって、それは私の考えであってナイトシェードのものじゃない。だから墓地から持ち帰ったあの壊れた機械を見る時、どこか寂しげな表情を浮かべているように見えるのももしかしたら私の錯覚なのかもしれないんだ。
けれど。
「あのさ、ナイトシェード!」
鬼タイヤ──鬼ごっこの鬼役の目印にしているタイヤを抱え上げ、我先にと外へ走り出したきょうだい達を追って出て行こうとする細い背中を、咄嗟に呼び止めた。
「なぁに、ハッシュタグ?」
今までとは少し違う色味の瞳がこちらを見返してくる。
──言えるだろうか、正しい言葉を。
「もしよかったらさ」
私よりずっと頭のいい、私のきょうだい。
「外で遊んだ後でいいから」
その心の空白を、寂しさを、悲しさを、埋める言葉を、私は言えるだろうか。
「秘密基地の改造、私も手伝っても……いい?」
闇夜に浮かんだ満月のようなまんまるの瞳が、より大きく見開かれた。その優しい淡い翠の燐光を、祈るような気持ちで見つめ返す。お願い、どうか。
「もちろんだよ!」
こちらを見上げる顔が、ぱっとほころんだ。
「ハッシュタグが手伝ってくれるなんて、嬉しいなぁ!手を借りれたらな、なんて思ってたところ、いっぱいあるんだ!どこからお願いしようかなぁ、まずは緊急システムでしょ、あと脱出ポッドも考えてるんだ!あ、けどまず最初はハッシュタグがやりたいことでいいよ!ね、何がしたい?」
矢継ぎ早に帰ってきた言葉は、“いつもの”ナイトシェードで。その勢いに、さっきまでの不安はすっかり消し飛んで思わず笑ってしまう。
「え〜何かなぁ?あ!基地の中からでもおうちの外が見れるカメラとか!」
「いいね〜!ますます秘密基地っぽいよ!」
連れ立って上へと上がる階段を歩きながら、高揚したように捲し立てるその華奢な体躯を横目で見やる。
きっとまだ、無くしたもの全ては埋まらない。壊れてしまった機械がもう直らないように、ナイトシェードの悲しい気持ちが完全に消えることはなくて、また思い出して寂しくなることはあるんだろう。
でも、それでも。
ナイトシェードのお話は、それだけで終わりではないのだ。
「まかしといて!どんどん力になっちゃうよ〜!」
そんな思いを秘め、わざと大袈裟にどんと胸を叩いてみせた。