「行くぞ、俺の必殺シュート! ……ぐえッ」
足を振りかぶれば龍が現れ、強く念じれば手がデカくなったり、謎のエネルギーを元にした衝撃波を放つことができる。力を込めれば虎を呼べるし、ドリブルをすれば謎の宇宙空間が現れる。
吹雪アツヤ、弱冠5歳の冬。父に連れられて兄と共に初めて観戦したプロサッカーで、キャッチングの際に急激に成長するアフロを見てから、その手の現象に関する疑念は全て捨て去ったーーー正確に言えば未だ疑問はあるが、それでも捨て去らなければこの世界でサッカーをすることなど不可能であった。
「なにも、無理して必殺シュートを覚える必要はないんじゃないか? 現に、今のアツヤならノーマルシュートで必殺技を破ることも可能だろう」
監督は、父は、俺に向かって何度もそんな言葉を告げてきた。
ただ、それが通用するのはあくまでそこら辺にいる一般キーパーのみ。
少年サッカー界に名を轟かせる源田幸次郎筆頭に、一部の天才と呼ばれるキーパーが使う必殺技を相手に、今の俺では勝負の土俵に上がることすらできない。
そして、何よりも。
「アイスグランド!」
北海道を代表するDFである兄、吹雪士郎の才能が、埋もれてしまうのだ。
いくら兄貴守りを固めたとて、サッカーはチーム競技。俺たちFWが点を取れなければ、試合に勝利することはできない。
「だから、立ち止まるわけには行かねェんだよ……!」
しかし、闇雲にシュートを打ったところで、必殺シュートが完成する未来は一切見えてこない。
兄貴曰く、必殺技はその本人のイメージ次第。ビジョンが見えないなら、とにかく何か起これ、と念じながら力を入れるしかない。そうしたら自分は氷が出た、とのこと。何いってんだこいつ。
「……とにかく何か起これぇぇぇぇぇぇ!!!」
ただ、まぁ。その兄貴のヒント以外に、何か打つ手があるわけでもない。
幸いにして、なぜか技を放つ際にその技の名前を大声で叫ぶ習慣のあるこの世界において、シュートの際に馬鹿でかい声を出すことはさほど異端と見られない。
ものは試し、と取り敢えず一度、念じてボールを蹴り付けてみたわけだが。
「……ダメ、か」
炎を纏うわけでもなく、何か変な現象が起こるわけでもなく。
気合いを入れたからかいつもよりかは多少威力が高いかもしれないが、所詮その程度のノーマルシュートが無人のゴールに突き刺さる。
「…………頭冷やすか」
数秒立ち尽くした後、そう気落ちしてベンチに戻ろうとした俺の脚に走るのは、何か固いもので突かれたような感触。視界に入るのは鳥のようなシルエットをした物体と、地面に書かれた五文字のひらがな。
『こんにちは』
「…………うぼえあぁ!?」
☆☆☆☆
「……兄貴」
「どうしたんだい、アツヤ」
「指笛の吹き方を教えてくれ」
「ほんとうにどうしたんだ!?」
"兄貴を日本一のチームのDFにしてやるんだ!"と意気込み、必殺シュートを完成させるため日々特訓に励む可愛い弟、アツヤ。
そんな弟が突然話しかけてきたと思えば、聞かれたことはサッカーに一切関係のない指笛の吹き方。
必殺技を作らなければ、というプレッシャーに襲われ、思考が変な方向に流れているのではなかろうかーーーなんて失礼なことを考えていたけど、どうやらそうではないらしい。
「ちょっと待っとけ。……来い!」
「…‥あ、可愛い」
カーペットを突き破りーーー後できっちり母さんに叱られたーーー可愛らしい一羽のペンギンがその姿を現す。
以前父さんに見せてもらった、帝国学園の必殺技である皇帝ペンギン2号。そのペンギンとは色が少し違うような気もするが、今はそんなことはどうだっていい。
「やったじゃないかアツヤ、必殺技が完成したんだね!」
「いや、完成してねエよ。だから今兄貴に指笛の吹き方を聞いてんだろうが」
「……あぁ、なるほど。確かに、一々そうやってペンギンを呼んでたら、シュートまでが隙だらけになっちゃうもんね」
なるほど、それは確かにそうだろう。アツヤが念じてからペンギンが現れるまでおよそ数秒、その間棒立ちになっていては、相手からすれば何の脅威にもなり得ない。……とはいえ。
「僕も、指笛はやったことないからね」
「……あ? そうなのか」
「うん。というか、逆に何であると思ったのさ」
「何でって、そりゃあ兄貴だからだよ」
「アツヤの中で僕は一体、どんな評価を下されているんだろうね……」
可愛い弟の中で僕はいつ指笛が得意であるという認定を下されていたのか、ということは非常に気になるが、今はアツヤのことが先決。
ものは試し、取り敢えず一度試してみようと、それっぽい形を作ってみる。
「…‥あ、できた」
「兄貴…………」
その後一週間、アツヤは僕のことをなんとも言えない視線で見つめてくるようになった。
反応あれば続き書きます、多分