この夢見る少女に願い星を!   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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七夕伝説をテーマにしたカズアイルート、開始です!

毎週金曜夜に投稿予定なのでお楽しみください!


プロローグ ネッカル~未知を夢見る想像力~

7月7日

 

「ねえカズマ、いったい何を注文したの? 随分と細長いものみたいだけど」

 長さ三メートルはあるであろう郵便物の梱包を解く作業を、アクアがソファー越しに覗き込んできた。

 めぐみんとダクネスも興味津々の様で、椅子に腰かけたままチラチラとこちらに視線を向けている。

「これはな、今日という特別な日を最大限楽しむ為のマストアイテムだ」

「えッ⁉ それってもしかしてシュワシュワなの?」

「こんな長いシュワシュワがあってたまるか」

 他に思い付くものがないのか、後ろで頭を悩ませているお酒の神様は放置しつつ最後の包み紙を剥がす。

「おっ、結構立派なやつが届いたな」

「「……竹?」」

 めぐみん達がキョトンとする中、両手で抱え起こしゆっくり竹を立ててみる。

 運ぶ時もそれなりの重量感だったが、こうしてみるとやっぱ迫力があるな。

 品質の高さに俺がうんうんと満足しているとアクアがあぁと呟いた。

「七夕ね!」

「そう言うこと」

 ひとまずは竹を部屋の壁に立掛けておく。

 後は短冊を吊り下げればそれらしくなるだろう。

「なあ、そのタナバタというのはなんなのだ?」

「またカズマの国の祭典行事ですか?」

 そういえばこいつらにはまだ話していなかったか。

 以前、アイリスに話した時も似たような反応だったし、この世界では七夕が浸透していないのかもしれない。

「七夕っていうのは、織姫と彦星が一年に一度だけ会うっていう伝説にちなんだ祭りだ。七月七日の夜に短冊へ願いを書き込んで笹に吊るせば、その願いが叶うとされている。本当は笹の方がいいんだろうけど、値段が竹の数十倍はしたから諦めた」

「竹の王子である笹は稀少なだけじゃなくて狂暴性も高いものね」

 そう、どうもこの世界の笹はとんでもなく狂暴で、自身を刈ろうとする対象を竹達に排除させるらしいのだ。

 注文をした際に卸売りの人に竹と笹の違いを教えられたのだが、その時は何の冗談だとつい真顔になってしまった。

 だが、こういうのは考えたら負けなのだ。

 この世界に来て一番身に染みた教訓である。

「オリヒメとヒコボシ? なぜそこでその二人の名が出てくるのだ?」

「いや、なぜと聞かれても」

 七夕というのはそういうものだからとしか言いようがないのだが。

 ダクネスへの返答に困っていた俺にめぐみんが、

「知らないのですか? オリヒメとヒコボシという名前が同時に挙がれば、それは『羽衣強奪事件』を置いて他にないでしょうに」

「羽衣強奪事件?」

 そんな事件初耳なのだが。

 七夕伝説と言えば、織姫と彦星がイチャ付きすぎて働かなくなったから、怒った天帝に引き剥がされ、一年に一度だけ会う事を許されたって話だろ。

 それがなんで事件とかって話になるんだ。

 と、俺達の間で視線を行き来させていたアクアがトントンッと俺の肩を叩いた。

「あのねカズマ。羽衣強奪事件って言うのは、大昔にこの世界で起こった事件が伝承された物でね。オリヒメはその事件の被害者なのよ」

「はあ?」

 訳が分からない俺に、アクアが『羽衣強奪事件』とやらについて話し始めた。

「昔、天帝の娘であるオリヒメが地上へ遊びに来たんだけど。水浴びをしている隙に、偶然通りかかったヒコボシに羽衣を奪われたのよ。その羽衣は天上と地上を行き来する為に必要なアイテムだから、オリヒメは必死にヒコボシに頼むんだけど、返す条件として、自分と結婚するよう強要されたの」

 なんだ、そのクズ野郎は。

 相手の弱みに付け込んで交渉してくるとか外道の極みじゃねえか。

「……思ったのだけれど、ヒコボシってカズマとそっくりね」

「「確かに」」

「お前ら喧嘩売ってんのか?」

 清く真っ直ぐに生きているこの俺が、なぜそんな卑怯な手を使う奴と同列扱いされないとならないのだ。

 心当たりなんてこれっぽっちも……。

「前に私の羽衣売り飛ばそうとしてきたわよね」

「つい最近も、ちょむすけを引き合いにお姉さんを涙目にしてましたし」

「結婚式場では大金で買った私に、体で払わせるとも言っていたな」

「で、その後オリヒメはどうしたんだ?」

 キリッとした目付きで話を促す。

 別に自分の立場が危ういからとか三人の視線が痛いからとかが理由ではない。

 これは純粋なる好奇心からの質問だ。

 納得がいっていないようだったが、それでもアクアは話を先へと進めた。

「それで、泣く泣くオリヒメはヒコボシと共に生活するようになるんだけど。天帝の娘が家に帰らないものだから、天上は大騒ぎ。何年もかかった末になんとかヒコボシを見つけた天帝は、彼をヘルモン山の山頂へ磔にし、その身を未来永劫鳥に啄ませる刑を下したの。今でもその刑は執行され続けているって話よ」

 未来永劫って、そこまでキツい刑を科されたのかよ。

 いや、天帝の娘を攫った罪に対しての報償なら妥当なのか?

「オリヒメが無事に天上に帰って事件は万事解決。その日を星祭りと位置付けて、百年に一度お祝いをするようになりましたとさ。めでたしめでたし、というのが事件の概要ね」

「俺の知ってる七夕と全然違う」

 毎度のことではあるが、この異世界とのカルチャーショックには辟易してしまう。

 いつの日か、この感覚に慣れる日は訪れるのだろうか。

 ……いや、なんとなくそれは超えてはいけない一線のような気がする。

「ま、まあその話と七夕とは関係ないんだろ? 折角だし短冊を飾るぐらいはしようぜ」

 わざわざ高い金を払ってまで竹を取り寄せたのに、何もやらずに捨てるというのは流石に勿体ない。

「それもそうですね。オリヒメ周りの話が気にはなりますが、天帝も個人的な祝いにまで口を挟まないでしょう」

「ああ、カズマの国の風習のようだし、異文化交流として捉えれば問題はないはずだ」

「それじゃあ、私は短冊用の紙を用意してくるわね」

 三人とも俺の案を否定する気はないようだ。

 未知の経験ができるとワクワクしている三人の様子に、俺は内心ほっと息を付いた。

 本当ならこれはアイリスと一緒にやる予定だったのだ。

 だが俺の力が及ばず王都を追いやられ、約束を守れなくなってしまった。

 だからせめて来年こそはアイリスと一緒に最高の七夕を過ごせるよう、予行演習がてらに開催しておこうと考えたのだ。

「ほら、カズマもぼけっとしてないで短冊作るの手伝ってよ。さっさと作って願い事を書いちゃいましょう」

 いつの間にか自室から戻ってきていたアクアが、緑色の紙を手渡してくる。

 既にアクア達は各々短冊を作って自分の願いを書き終えたようで、立てかけた竹に活き活きと短冊を結びつけていた。

 さて、俺は何を書くべきやら。

 アクア達のあまりの行動の早さに俺は苦笑を浮かべてから、手元にある紙を短冊サイズに切り分け願い事を考える。

 平穏な日常が訪れますように?

 いや、いるかどうかも分からないオリヒメへの願い事とはいえ、こいつらがいる日常を平穏にさせるのは流石に無茶すぎるか。

 ……ただの平穏な日常を得るのが無茶だと思えてしまうのって、結構悲しいな。

 自分で考えてて落ち込みかけるが、頭を振って嫌な思考を無理やり追い出す。

 楽して大金が稼げますようにとかはどうだ?

 いや、なんだかんだ言って既に結構稼いでるしな。

 じゃあこれからずっとニート生活が送れますように?

 でもこれも半ば叶ってるし。

 何かちょうどいい願いはないものか……。

 ……あ、それなら。

「カズマ、何してるのよ? 早くしないと短冊を飾る場所がなくなるわよ」

「……いや、お前らどんだけ願い事書いてんだよ」

 既に短冊だらけとなった竹を前に俺は呆れ声をあげる。

「早とちりしないでください、この短冊はほとんどアクアが書いたものですよ。私の願いは一つだけですからね」

 そう言ってめぐみんが手近にあった短冊を指差した。

 えーっとなになに。

 

 ――爆裂魔法を連続で打ちたい

 

 まあ、こいつならこう書くよな。知ってた。

「私は二枚だな。少々欲張りすぎかとも思ったが、書くだけなら問題ないと思い直してな」

 続いてダクネスも自分が書いたであろう短冊を指差した。

 

 ――カズマ、アクア、めぐみんがずっと健康でありますように

 

 な、なんだよ、急に真面目ぶりやがって。

 こんな事書かれたらどう反応していいか分からないじゃないか。

 返事に困った俺は逃げるようにもう一枚の短冊に目を向けた。

 

 ――スライムに捕食されたい

 

 ……うん、知ってた。

 やっぱりこいつの変態性はもう手遅れだ。

「えーっと、私はね」

「お前はいい」

「なんでよぉ!」

 どうせシュワシュワを浴びるほど飲みたいとか、もっとダラダラしたいとかそんなんだろう。

 というかこいつは寧ろ願いを叶える側だと思うのだが、そこら辺のプライドはどこへ捨ててきたのだろうか。

「それで、カズマは何て書いたんだ?」

 ダクネスのその問いに、俺は自信満々に短冊を三人の前に掲げてみせる。

 その文面を見てダクネスがあからさまに顔を顰め、アクアとめぐみんは呆れ顔をした。

「お、お前という奴は……」

「別にいいだろ、どうせ叶えてもらえる訳でもないんだし」

「それにしたって、もうちょっと書きようがあると思うのですが」

 三人の視線を無視して空いているスペースに短冊をくくりつける。

「これでよし。それじゃあ飯にするか」

「この男、完全に開き直ってますね」

「ああ、自分の欲望を隠す気もないらしい」

「まあ伊達にロリマさんと呼ばれてませんし」

 それはお前らだって同じだろうが。

 あと俺はロリコンじゃないっての。

 どうせ叶えてなどくれないだろうが年に一度のイベントなのだ、少しぐらい高望みをしてもバチは当たらないだろう。

 夕飯の支度に取り掛かりながら、心の中でもう一度だけ願った。

 

 ――アイリスがいる日常を過ごしたい、と。




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