眼前に聳え立つそれを前に、思わず言葉が零れる。
「デカいな」
禁足域の入口。
そこにはとんでもなく巨大な柱が立っていた。
直径二十メートルぐらいはあるだろうか。
この場にいる全員が手を繋いでも一周できないぐらいには太い。
表面はすっかり苔生しており緑一色。
天頂に至っては、はるか上空の雲の中で拝む事すらできない。
なるほど、メリッサが集めた資料に禁足域の入口は行けば分かると書かれていた理由が漸く理解出来た。
これは間違えようがないぐらいに分かりやすい。
「お兄ちゃん、皆さんご準備が出来たようです」
呆然と立ち尽くしていた俺にアイリスが声を掛けて来た。
どうやら他の皆は各々の装備をチェックし終え準備万端のようだ。
さっきまで全員が柱の大きさと荘厳さに圧巻されていたというのに、情緒もへったくれもあったもんじゃない。
「悪い悪い。んじゃ、入る前の最終確認と行くか」
皆を集めたところで懐から資料を取り出し、そのうちのヴァイスコフ山のラフ画が描かれたものを大きめの岩の上に広げた。
その絵を皆が囲い込むようにして覗き込む。
「俺達が今いるのが山脈の中腹であるココ。そんで、これから目指すのはヴァイスコフ山の山頂付近。山頂までは、古代の人が参拝に使っていた参道があるらしいから、基本的にはそれに沿って登れば、目的地まで迷わず辿り着くはずだ」
地図の左下にある中腹から右上の山頂までを指でなぞり、今後の方針を説明していく。
このように聞かされれば一見、とても簡単なように聞こえるだろう。
だが、それで済むような簡単な仕事ならば、わざわざ王族が依頼してくるはずがない。
「問題はここからだ。メリッサが集めれくれた情報によれば、あそこのやたらでかい柱の奥にある入口から山頂まで続く参道が設置されているのは間違いない。だけど、参道沿いに歩いていたにもかかわらず、実際に山頂まで辿り着いたという情報は殆ど得られなかったらしい」
資料に書かれている噂レベルの情報によれば、いつの間にか元の場所に戻される場合が一番多く、めぐみんが言っていた世間一般に広まっているものと大差ない。
しかしその他にも、ここから何千キロも離れた場所に転移していたり数年後に入山した姿のまま現れたり。
それならまだいい方で、中にはそのまま消息を絶った者や、死体となって麓の村に放り出された者もいるらしい。
数少ない登頂できたと言う情報も、殆どが気が付いたら辿り着けたというもので、その人でさえもう一度入山したら今度は入口に戻されてしまったと言う。
「だから今回は、全員の体をロープで繋いで進もうと思う」
これならば他の場所に転移されたとしても、全員一緒に移動できる……かもしれない。
接敵した場合でも、全員で対処できる……かもしれない。
結局、安全だと言い切れるだけの確証など欠片もないのだ。
とはいえ、対策の一つもせずに向かおうと思えるほど俺の精神は図太くない。
こんな策とも呼べない策でも、ないよりかは幾分マシだろう。
「口伝を書き留めた書物によれば、山頂にはでかい池があるらしい。もし無事に山頂まで辿り着いたら、暫くは池の畔で留まっていてくれ。そこで皆と合流する」
各々がロープで自身の体を結んでいくのを確認し、更なる指示を出す。
「先行は壁役のダクネス、サポートで探知のクリスに火力のゆんゆん。アクアは真ん中で前後のメンバーのサポートを頼む。その後ろに瞬間火力のめぐみんに遊撃手のイリス、俺は最後尾で後方の敵を確認する」
神妙な面持ちで全員がこくりと首を縦に振る。
「それじゃあダクネス、先頭は頼んだ」
「ああ、任せておけ。どんなモンスターであろうと、お前達には一歩も近づけさせない」
グッと手を握り力強く答えるダクネス。
物怖じすることなく山道の入口へと歩み出した。
その後ろを続々とみんなが続いていく。
いつもならもっと騒がしいのだが、珍しく誰一人として口を開こうとしない。
ジャリジャリと石を踏みしめる音だけが響いてくる。
参道の入口である巨大な柱を超えたところでダクネスの歩みがピタリと止まった。
「どうしたのダクネス? 何か見えたの?」
アクアの問いかけに、しかしダクネスは答えない。
「クリスにゆんゆんまで。一体どうしたっていうのですか。一体なにが……」
「……めぐみん? お前までどうしたんだよ」
ダクネスと横並びになったクリスとゆんゆんに続き、一歩踏み出したアクアにめぐみんまでもがその場で立ち止まった。
不審に思い立ち止まった連中の横から奥の方へ視線をやる。
藪の中にできた天然のトンネル。
普通なら奥の方まで見通せそうなものだ。
しかし、山全体が雲に包まれているからか、それとも余程藪が深いのか。
まるで黒い靄が掛かっているように見えた。
「確かに不気味そうではあるが、そんな立ち止まるほどじゃ……」
一歩踏み出した瞬間、身体の中を得も言えない寒気が一瞬で貫ぬいた。
全身の力が強張り、吹き上がるほど鼓動が速くなる。
地面に張り付いたように足が動かない。
他の連中同様、俺もその場を全く動けなくなってしまった。
理屈は分からない。
だが、これ以上踏み込んではいけない。
そう本能が訴えかけてくるのだ。
立ち尽くしている俺の手にふと、温かい感触が訪れた。
驚いてバッと隣に振り向く。
そこには、真剣な表情をしたアイリスの横顔が。
口元はキュッと結ばれ、目線は薮の奥へと注がれている。
暖かさの元を辿ろうと視線を下ろせば、固く握り締めていた俺の手をアイリスがそっと優しく包み込んでいた。
そして気がつく。
高い戦闘力を有しているとはとても思えない、年相応の柔らかく小さな手。
その手が僅かに震えていることに。
……クソ、俺は何をビビってるんだ。
アイリスだって怖いはずなのにそれを押し殺して立ち向かおうとしているんだぞ。
ここで兄である俺が手を引かないでどうするってんだよ。
俺は胸元に下げている二つのお守りを服の上からグッと握りしめた。
「……アクア、全員に支援魔法を頼む。幸運の上がる奴な」
「……えっ? う、うん」
手を口元に当て気持ち悪そうにしていたアクアだったが、俺の顔を見るなり怪訝そうにしながらも素直に魔法をかけてくれた。
俺の発言で他のメンツも気がはっきりしたようだ。
アクア共々、俺に疑問の視線を向けていた。
そんな視線を浴びつつ、キョトンと小首を傾げていたアイリスにニヤリと笑いかける。
「イリス、不安な時は考えるのを一旦やめて逆に楽しんじまえばいいんだ。そっちの方が楽だろ。そして、そんな時にはあれを言うんだ」
「あれ、ですか?」
「前に言わなかったっけ? これは俺よりも運がいい友達の口癖なんだけど」
隣からクスッと笑いが零れる。
しばし見つめていると、アイリスはその言葉を思い出したようだ。
強張っていた頬を少しだけ綻ばせた。
「「いってみよう!」」
ザクザクと雑草や枯草を踏みしめる。
体にはいってくる澄み切った空気とは裏腹に、周囲を取り巻く靄はねっとりと体に粘り付き気色悪い。
油や泥の中を泳げばこんな感じになるのだろうか。
瞳に映るのはほんの数十センチ先のみ。
それ以外は膠色に鈍く沈んでいる。
足元ですら朧げだ。
すぐ前を先行しているアイリスの姿でさえ、千里眼を駆使しても確認できない。
一応は草木が生えていない、参道と思しき場所を歩いているつもりだ。
しかし、藪の深さと霧が相まって、碌に周囲を把握できない。
方向感覚はとうになくなっている。
時間の流れさえもあやふやだ。
出発してから結構な時間が経った気もするし、ほんの数分前だった気もする。
後ろを振り返っても、入口から数歩歩いた時点でもう見通せなくなったので、引き返すという選択肢は早々に諦めた。
幸い敵感知には反応がないので、差し迫った危険はない。
しかし、いつ終わるとも知れない道を進むのは中々堪えるもので。
出発の時にあれだけ大見栄きっておいて情けないが、不安がジリジリと腹の奥から昇りつめていた。
他のメンバーの様子も気になるところだが、それも分からない。
初めの頃は互いに所在を確認しあってもいたのだ。
しかし、気づいた時には既に声や足音が聞こえなくなっていた。
呼んでも返事が返ってこず焦りもしたが、どうせこのまま進む以外に道はないのだと既に開き直っている。
アイツらは性格はともかく、能力的には全員が俺よりもずっと優秀なのだ。
たとえ何かあったとしても自力でなんとか切り抜けるだろう。
……というかこれって、何気に俺が一番ピンチなんじゃ。
不安が内に込み上げてきた、そんな時だった。
なんの前触れもなく、湿った土と草の匂いが鼻をついた。
遅れて足裏から確かに地面を踏み締める感覚が伝わってくる。
いつの間にか体にまとわり付いていた霧は消え去り、周囲は青々と茂った樹木で覆われていた。
「着いた……のか?」
まるで実感が湧かず、前方の木々が開けた方向へと歩を進める。
森を抜けた先には広漠な池が広がっていた。
いや、池と言うよりもむしろ湖と表現するほうが正しいか。
水上には厚い靄がかかっており、対岸などまるで見通せない。
汚れという概念そのものが濾されてしまったのか、目の前にあるはずの湖水を認知しようとする意思が零れ落ちていく。
遠目に見れば、白い砂利が敷き詰められているだけだ。
肌を貫くほどの冷たさと響く水音がなければ、そこが波打際だった事にさえ全く気づかなかっただろう。
見上げた空には雲一つ見つけられず、青の世界がどこまでも続いている。
水のせせらぎも木々のざわめきも聞こえない。
混りっ気などどこにもない。
ただ森閑とした清純な世界がそこにはあった。
「……っ! そうだ、あいつらは?」
真っ先に思い立ってもよかった事柄に今更ながら思い至る。
慌てて周囲を見渡すが、湖畔沿いにそれらしい姿は見当たらない。
通り抜けてきた森の奥にも視線を向けるが、やはり人影は見当たらなかった。
「これ、もしかして俺しか辿り着かなかったパターンか?」
そうだとすれば、これは非常にまずい事態だ。
禁足域ということでそれなりに覚悟を決めていたつもりだが、こんな序盤も序盤でほぼ全滅というのは厳しすぎる。
ダメ元で下山を試みるか?
いや、もしかしたら先行してその辺を探索している奴がいるかもしれない。
ならばせめてそいつと合流したほうが……。
「ここが……山頂にある湖であっているのでしょうか?」
「アイリス⁉︎」
突然の聞き知った声に慌てて横を向くと、そこには呆然と湖を見入るアイリスの姿が。
一体どういうことだろうか。
ほんの数秒前まで姿形などまるでなかったというのに。
「お前、いつの間に俺の隣に来たんだ?」
「? 私はずっとお兄ちゃんの傍にいましたよ」
キョトンと首を傾げるアイリス。
その表情は心底不思議そうにしていた。
そんなバカなとは思うが、アイリスが俺に嘘を言う必要性は皆無だ。
かと言って、さっきまでいなかったのは間違いないはずで。
…………。
と、とりあえず今は深く考えないようにしよう。
「じゃ、じゃあ、他の連中がどこにいるか知らないか? さっきから探してるんだが全然見つかんなくてさ」
「分かりません。私もつい先程ここに到着したと実感したばかりで、他の方々の安否確認までは気が回りませんでしたので」
それもそうか。
俺だってこの湖に辿り着いた直後は現実味がなさすぎて暫く気が動転していたのだ。
アイリスが知らなくてもおかしくはない。
「うし、ひとまずは他に誰か辿り着いていないか確認しておくか。もしかしたら他の場所に出てきちまったなんて事があるかもしれないし」
「それは必要ないと思うわよ」
またしても唐突に声が響いてきた。
森林の中から出てきたのは普段通りにあっけらかんとしたアクア。
そしてその後ろで手を口元に添え何やらぶつぶつと独り言を呟くクリスだった。
「必要ないってどう言う事だよ」
「あんた、危険地帯を抜けてきた仲間にかける第一声がそれってどう言う神経してるのよ。まずは相手の身の心配からでしょうが」
心配も何も余裕そうじゃないか。
「はいはい、無事でよかったな。それで、なんで必要ないと思うんだよ」
なんか心が篭ってないのよねとぶつぶつ文句を言うアクアだったが、諦めたように嘆息をつく。
「答えは簡単よ。ここの参道には極悪非道な時空間結界が張り巡らされているんだもの。普通の人間がここまで辿り着ける訳ないわ」
「時空間結界?」
俺の何気ない質問に、アクアは少し腹立たし気な表情を浮かべ、
「カズマも感じたんじゃない? 入口を潜ってからずっと、空気がねっとりと体に纏わりつく気色悪い感触がしたでしょ、あれのことよ」
そう言えばここに来るまでの間ずっと、油や泥の中を歩いているような感覚だった。
あれは結界だったのか。
「神域と呼ばれる場所の入口によく張られる物ではあるけれど、あそこまで露骨に人を選定する結界は初めてみたわ」
「そんなにすごかったのか?」
その時空間結界とやらに触れた経験は俺にはない。
だから比較のしようもないのだが、どうもそうではないらしい。
「すごくもあるけどそれ以上に酷いのよ。いくら信仰心の欠片も持ち合わせていないあんただって、日本にいた頃は神社にお参りしたことぐらいあるでしょ? その時に、鳥居を潜れないなんて事態はなかったわよね。それは、結界が悪魔やアンデッドと言った神敵のみを排拒むように設定されているからなのよ」
サラッととんでもないこと言ったな。
日本の神社にも当たり前のように結界が張られているとアクアは言うが、それすら俺にとっては寝耳に水なのだが。
とりあえず、その結界が日本でもありふれた物だと言う事で納得しておこう。
「でもここの結界はそうじゃない。ここに住まう神やそれに準ずる存在が認めた人でないと立ち入れないようにされているの。もし、そうでない人が立ち入ろうとしようものなら、時空間を歪めてその人を外に吐き出してしまうでしょうね。だから、今この場にいないのならば、どこかに飛ばされているはずよ。まあ、あの子達は綺麗な心を持っているし、入口に戻されるぐらいで済んでるんじゃないかしら」
私は女神だからそんな結界跳ね除けてやったけどねとドヤるアクア。
しかし今の説明を聞く限り、これが噂の核心なのだろう。
この禁足域に立ち入った資格のない者は時空間、つまり時と場所を超えた別の場所に転移させられると言う事だ。
気がついたら入口に戻されていたとか何千キロも離れた所にいたとか、それらは全てその結界の効果なのだろう。
だからあれだけ色んな現象が噂として世に出回っていたと。
なんちゅう面倒な事をしてくれやがるんだ、その結界を張ったやつは。
「……あれ、となるとなんで俺はここに入れたんだ?」
認めたくはないが、アクアは一応女神だし、クリスも元の姿を考えたら妥当だ。
アイリスは神器級の装備だし、多分その辺が関係しているのだろう。
でも俺は?
装備は並だし、神格なんか当然持っていない。
だったら、なぜ俺は結界に弾かれなかったんだ?
「それが分からないんだよね」
ここで、会った時からずっと思考に耽っていたクリスが口を挟んできた。
「君達が来るまでに軽く調べてみたんだけど、あの時空間結界は資格を持っていない普通の人間が通れば、基本的には入口に出戻りさせられる、運が悪いと他の時空間に強制転移させられるはずなんだよ。ごくごく稀に、正しい道筋から一歩も逸れずに歩き切る人も居たみたいだけど、そんなの天文学的確率だし」
「でしたら、その天文学的確率をお兄ちゃんが引き当てたんじゃないでしょうか? お兄ちゃんは幸運のステータスがチョー高いですから」
そう言う事なのだろうか。
でも、いくら俺の幸運値が高いとは言え、宝くじで一等とるよりも何千何万倍も難しい確率を一発で引き当てられるか?
あまり腑に落ちないな。
その点はクリスも同感のようだった。
「うーん、助手君の幸運値が高いのは認めるけど、なんか釈然としないな。ていうか、それで言うと寧ろ……」
「そう言うクリスはなんで入れたの? と言うか、時空間結界についても妙に詳しいわね。あれは神とか精霊とかが使う魔法で人間には使えないから、存在自体あまり有名じゃないはずなのだけれど」
ふと思いついたであろうアクアの問いに、クリスが露骨に狼狽る。
「えっ⁉︎ あ、いやその……ですからそれは……」
「細かい事はどうだっていいじゃないか。今この場にあの結界を超えた人が四人もいる事を肯定的に捉えようぜ。クリスの口振からして、他の連中は入口に戻されているんだろう。だったら、あまり心配しないでいいだろうし」
「それもそうね、難しい事考えててもどうしようもないもの。それよりも、さっさと星霊の果実とやらを回収しちゃいましょう」
俺の言葉であっさりとアクアが質問を流してくれた。
鼻歌まじりに歩き出したアクアを見届けたクリスが腕で冷や汗を拭う。
そのままこちらに手を合わせてきたので、サムズアップを返しておいた。
こう言う時ばかりは、アクアの扱いやすい性格が助かるぜ。
「あの、アクアさんはどこに向かっていらっしゃるのですか?」
アイリスの言葉にアクアがぴたりと動きを止める。
「言われてみれば、どこに向かえばいいのかしら」
「おい」
こいつ、考えなしで歩き出してたのかよ。
「し、仕方ないじゃない、私だって偶には失敗もするわ」
「偶にどころか失敗ばかりだろうが。寧ろ成功していることの方が少ないんじゃねえか」
「うるさいわね! そういうカズマは当然、これからどこに向かえばいいのか分かってるんでしょうね?」
腹が立ったのか、アクアが挑発的な態度をとってくる。
「とりあえずここの探索をしておこうぜ。情報通りなら、ここのどこかにお目当ての実があるのは確かなんだし。それと帰り道の確保もしとかないとな。ゆんゆんがいてくれたらテレポートで脱出できたかもしれないが、それは無理になったし」
パッと思いつく限りのやるべき事を列挙してやるとアクアが悔しそうにぐぬぬと唸る。
ふっ、これが俺とアクアの差と言うやつだ。
「帰り道に関しては多分大丈夫だよ。初めにあたし達が辿り着いた場所の近くに小さな祠が置かれてて、その隣に時空間結界の入口があったから、そこを通れば帰れるはずだよ」
「わ、私も確認したから間違いないわ」
流石はお頭、仕事が早い。
「じゃあ、一度そこから元の場所に戻れるか確認しておこうぜ」
「そうね、それがいいと思うわ。ちょうど私も提案しようと思ってたところよ」
「それはやめておいた方がいいのではないでしょうか」
俺の提案に、しかしアイリスが異議を唱えた。
「仮にその祠から参道の入口に戻れたとしても、もう一度山頂に戻ってこられる保証はどこにもありませんから」
「そうよ、何の確証もないんだからそんな危ない事しないほうがいいわ」
「お前はちょっと黙ってろ」
確かにアイリスの言う通りだ。
俺以外の三人は戻れる可能性も高いだろうが、それだって絶対ではない。
最悪なのは、二度とこの場所に戻れなくなり依頼された果実が採取不能になること。
となれば、少々不安は残るが確認は諦めた方がいい。
「あと、念の為にこの辺に食べられる物がないか探しておこうか。もしかしたら、ここに何週間も滞在しないといけなくなるかもだし」
おお、確かにそれも重要だった。
入山後に皆がバラけることも考慮して、各々が一週間分の携帯食料を持つようにしたので差し迫った問題ではない。
とは言え、探索にどのぐらい時間がかかるのかは未知数なのだから、後顧の憂いを断つ意味でも早めに見つけておいたほうが得策だろう。
ナサの雫を採取する前に俺達が行き倒れては意味がないからな。
「よし、帰り道の確保は一応できてるとして、取り敢えずこの湖の周りを全員で一周回ってみよう。その過程で食料や果実もないか調査していくぞ」
敵感知スキルに反応はないが参道での件もあるし、少なくとも山頂の探索が終わるまでは全員で行動した方が安全だろうという配慮のもとでの決断だ。
全員が頷くのを待って歩き始める。
こうして、俺達の調査が始まった。
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