この夢見る少女に願い星を!   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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第四夜 ρ-セルペンティス~果敢にチャレンジする意欲~

 山頂探索一日目

 

 湖を一周したところで日が沈み始めたので、初日の調査はそれで終了とした。

 周回して判明した事だが、この山頂には湖以外には特筆して語るものが何もなかった。

 湖の上には常に霞が掛かっているため正確には分からないが、歩行時間から計算するに湖の周囲はおよそ十二キロほど。

 直径にしておよそ四キロといったところだろうか。

 周囲は切り立った峰に囲まれており、登れないこともないが安全を期するにはそれなりの時間を要しそうだ。

 基本的には石がゴロゴロ転がった草地が広がっており、所々には誰かが手入れでもしたのかポッカリと草が生えていない砂地もあった。

 しかし、樹木があるのは参道を抜けた一帯ぐらいのもの。

 食料になりそうなものは残念ながら見つからなかった。

 

【挿絵表示】

 

 そして当然、目的の果実も。

 俺達が野宿しているのは、山頂について初めて四人で合流した場所だ。

 ないとは思うが、もしかしたらめぐみん達が登って来るかもしれない。

 その時スムーズに合流するために、山頂での拠点をここにした。

 図ったかのように、丁度座るのに適した石がいくつもおいてあったのも決め手だ。

 幸いここにはモンスターがいないようなので、火を焚いても問題がない。

 しっかり焚火で暖をとりながら食事を堪能することができた。

 今は食事も終わり、女子三人組は仲良くガールズトークに花を咲かせている。

 別に俺がハブられている訳ではない。

 ただこう言う場合、唯一の男である俺は会話に入りづらいので一人満天の星空を眺めているだけだ。

 それ以上の理由はない。

「綺麗だな」

「急にどうしたのカズマ? 私が綺麗で美しいのは今に始まった事じゃないけれど、前触れもなく言われると気持ち悪いんですけど」

 俺の呟きが聞こえたらしく、勝手に勘違いしたアクアが俺から微妙に体を逸らした。

「一人合点で身を引くな。お前じゃなくて星だよ星。最近はすっかり見てなかったけど、ああして輝く星ってやっぱ綺麗だなと思ってな」

 俺が指差すのに合わせて、アクア達はすっと顔を上に向けた。

「確かにここから見える星は中々に綺麗だね。普段は街の光に邪魔されて、ここまで沢山の数は見えないし。助手君が言い出したのは意外だけど」

「本当にチョー綺麗ですね。この景色を見られただけでも、クエストを受けた甲斐がメッチャあったとさえ思えます。お兄ちゃんが言い出したのは意外ですが」

「言われてみればそうね。いつもこの時間は酒場でお酒を飲んでるから気が付かないけど、偶にはこうして見上げるのも悪くないわ。カズマが言い出したのは意外だけど」

 こいつら、偏見だけで人を測りやがって。

 俺がそう言う事言いだすのはそんなに変だろうか?

「あのな、これでも俺は一時期、天体観測にハマってたんだぞ。一通りの天文知識は履修済みだっての」

「本当かしら? ロマンティックなことにはすぐにマジレスして白けさせそうなカズマさんにそんな趣味があっただなんて到底信じられないんですけど」

 好き勝手言ってくれるじゃねえかこの野郎。

 俺だってマジレスする時と場合ぐらい選んでたっての。

 ネット上とか学校でカップルがそう言った事を話していたら速攻で潰してたけど。

 よし、ここは一つ俺の雑学力を見せてやるか。

「いいかお前ら、天体観測では星一つ一つを眺めるのもいいが、それ以上に星座を見つけるのも楽しいんだ。この時期で有名なのはやっぱり夏の大三角だな。空の上で線を結んでできる巨大な図形はそれだけで人間の想像力を豊かにしてくれるって物だ。そうだな、今の時間からして……」

 空を見上げて分かりやすい三角形の捜索を開始する。

「星が沢山集まって川みたいになってるだろ、あれが天の川だ。で、その川のほとりで輝いている白い星がベガ。こと座のα星で、夏の夜空の中だと一番明るい。それと、川をまたいで光ってるのはわし座のアルタイルだ」

「へえ、助手君は本当に星に詳しかったんだね。ちょっと見直したよ」

 クリスからの純粋な賛辞についつい頬が緩みそうになる。

 だがここで調子に乗ってはいけない。

 あくまで冷静に堂々とした態度を貫かねば。

「最後は白鳥座のデネブだな。あれは北十字星とも言われていて比較的簡単に……」

 あれ?

「どうかしたの? 比較的簡単に、の続きは?」

「い、いや待ってくれ違うんだ、見慣れた空よりも星が多いからちょっと手間取ってて。すぐ、すぐ見つけるから、だからそんな胡散臭い目で見るな」

 クソ、何で見つからない。

 いくら天の川の星の数が昔見ていた時より多いとは言えあれだけ目立つ星座なんだ。

 千里眼まで使ってるのに見つからないはずないが。

「一つ思ったのですが」

 焦燥感に駆られ血眼になって空を睨む俺にアイリスがぽつりと、

「お兄ちゃんの故郷と今私達が見ている空では見える星が違うのではないですか?」

 …………あ。

「なになに、カズマさんてばそんな根本的な事すら忘れていたのかしら? あれだけ大見栄きって知識をひけらかそうとしてたのに? プークスクス! うけるんですけど、格好悪すぎてチョー受けるんですけど!」

 畜生、腹立つのに何も言い返せねえ。

 そうだよ、日本とここで星の位置が同じな訳ないじゃないか。

 どうしてそんな根本的なことを忘れてたんだ俺。

 ドヤ顔で星の蘊蓄とか語ってたのに間違ってたとか恥ずかしすぎる。

 羞恥のあまり蹲る俺にアイリスはまあまあと宥めてきて、

「お兄ちゃんの言った名前が正しいのかは私では分かりませんが、あれだけ光り輝く星なのです、きっと偉大な星霊に違いありません」

 精霊?

「なんで夜空に輝く星と精霊が関係するんだ? 火の精霊とか水の精霊とかが星に関係あるとは思えないんだけど」

 至極当然の質問をしたはずなのだが、なぜか三人が可哀想な人を見る目を向けてくる。

「助手君は知らないの? 夜空に浮かぶ星々は全て星霊そのものなんだよ」

 あー、はいはい大体オチはよめた。

 これはあれだな、いつものパターンだな。

「すまん、多分俺の知ってる星の定義と全く違うから解説お願いしていいか?」

 痛みの走る頭を抑えつつ尋ねた俺に、アイリスがおずおずしながらも王族印の知識を開示してくれた。

「星霊というのは、微精霊が自我を獲得した末に至る姿の一つです。微精霊は生まれてすぐは自意識を持たず、霊みたいな状態で宙をふわふわしているだけの存在なんです。そこで様々な体験を積んだ微精霊達はいずれ、神族か悪魔族か精霊族かのいずれかの自我に目覚めるようになります」

 この世界においては常識なのか、当たり前のようにスラスラとアイリスは答えていく。

「そして精霊の自我を持った者のうち、下界での働きを天帝に認められた者だけが星霊へと昇格でき天へ上げられるのです。夜空で輝く星々は、そんな優秀な精霊なんですよ」

 ほらな、やっぱりこういうとんでも理論が飛び出すんだ。

 この常識がかっとんだ異世界に来て随分と経ったが、いまだにこういう頭の悪い現象や生命体には頭が痛くなる。

「ま、まあこの際、星の話はどうでもいいんだ。それよりも、そろそろ第一回山頂探索攻略会議を始めるぞ」

「逃げたわね」

「逃げたね」

「逃げましたね」

 に、逃げてないやい!

 本当に明日からの作戦を考えたかっただけだい。

 三人が疑わしそうな視線を向けてくるがそれには折れず、俺は進捗確認から始めた。

「今日の探索結果を踏まえると、ナサの雫は多分この樹林帯のどこかにあるはずだ。高さ二メートルぐらいの紅い高木に実るらしいから目立つとは思うが、四人でまとまって動くには捜索範囲が広過ぎる。そこで、明日は二手に分かれて果実の探索をしようと思う」

 分け方は俺とアイリスでワンペア作り、アクアとクリスでもう一つペアを作る。

 山頂をぐるっと回った限りではモンスターはいなかったが、念の為敵感知のある俺とクリスは分断したほうがいいだろうという判断だ。

「まあ、それが妥当だろうね。あたしは異論ないよ」

「私もないわ。カズマと同じ組だとどんなセクハラされるか分かったもんじゃないし」

「誰がお前にやるか。俺だってセクハラする相手ぐらい選ぶわ。それでイリスはどうだ?」

 首を絞めてこようとするアクアと対峙しながらアイリスに話を振る。

「はい、私もそれで問題ありません。メッチャ頑張ろうね、お兄ちゃん!」

 そう言って満面の笑みを浮かべるアイリス。

 これは嫌でもやる気が出てくる。

「よっし、それじゃあ今日は明日に向けてさっさと寝るぞ。ナサの雫だかなんだか知らねえが、そんなもんお兄ちゃんが明日一日で見つけてやんよっ!」

 握り拳を突き上げて俺は声高々に宣言した。

 

 

 

 山頂探索二日目

 

「見つからなかった……」

 一日中樹林帯を探し回ったその日の夜。

 両肘を足に乗せ組んだ両手に頭をつけた俺は血を吐くように告げた。

「ま、まあ、まだ本格的な探索を始めて一日目だし、こんなもんだよ」

「そ、そうですよ。お兄ちゃんがチョー頑張ってくれてたのは私が一番よく知っていますから、だから落ち込まないでくださいマジで」

 深く溜め息を吐く俺の両側からクリスとアイリスが必死になって慰めてくる。

 二人の心遣いは非常に嬉しい。

 だけど、昨日あれだけの啖呵を切っておいてなんの成果も挙げられなかったと言うのは流石に恥ずかし過ぎる。

 穴があったら入りたい。

「プークスクス! カズマさんてば、昨日あれだけの啖呵を切っておいてなんの成果も挙げられなかったなんて笑っちゃうわねっ!」

 くっ、コイツ。

 ここぞとばかりに笑って来やがって。

「アクアさん、助手君だって頑張ってたんだからそんな追い打ちをかけるようなこと言わないであげてください!」

 爆笑するアクアをクリスが嗜めてくれているが、アクアの言い分が事実なだけに反論できないのが悔しい。

「と言うかおかしいだろ! 高木が生えそうな場所はここの樹林帯しかなくて、樹林帯にある高さ二メートル前後の高木は一つ残らずチェックしたってのに、なんで紅い木が一本もないんだよっ!」

 アイリスとダブルチェックしながら丁寧に確認したし、見逃していると言うことはないだろう。

 まさか日によって木の色が変わるのか?

 ……いや、仮にそうだとしても、どの木にも果実なんて付いていなかった。

 じゃあ、今が果実の実る時期じゃないとか?

 ……それもないな。

 もし今が果実ができない時期なのだとしたら、わざわざ期日を設けてまで依頼を急かす理由がない。

 どこだ、どこに見落としがあるんだ?

 パキンっと高い音を立てて焚火が爆ぜ、真っ白になった薪が崩れ落ちる。

「……一つ思ったのですが」

 俺が頭を抱えていると指を一本立てたアイリスが、

「星霊の木はこの樹林帯にはないのではないでしょうか」

 そんな前提部分を揺るがすような発言をした。

「でも他に木が生えてそうな場所はなかったわよ。イリスはどうしてそう思ったの?」

 小首を傾げたアクアが疑問を呈す。

 それは俺も是非聞きたいところだ。

「お兄ちゃん、メリッサさんが作ってくれたという資料を貸していただけませんか?」

「お、おう」

 言われるままに鞄の中から調査書を取り出してアイリスに手渡す。

 しばらくペラペラとページを捲っていたかと思うと、あるページの一文を俺達に見えるようにかざして来た。

「この星霊の木の情報によれば、この樹木は星々の雫を浴びることで成長するとあります。また果実を実らせるには、三夜星稜に委ねよとも。正確な意味は分かりませんが、恐らくは星に因んだ何かのはずです。けれどあの樹林帯の樹木の殆どは十メートル以上ありますよね。そのような環境下で、果たして高さ二メートルまでしか成長しない星霊の木が星々の雫とやらを得られるでしょうか?」

 なるほど。

 高木というから木々が生えそうな場所を探していたが、それ以前に星霊の木は星々の雫とやらがなければ成長できないのだ。

 星々の雫や星稜に委なるとは何を指しているのか俺には分からない。

 だが、ひとまずその名の通りで解釈するなら、何某かの形で星は関係してくるだろう。

 となれば、背の高い木々が生い茂り星の恩恵などほとんど得られないであろう場所に生育するとは考えられない。

 つまり、星霊の木はもっと星の恩恵が得られそうな場所にあるのではないかと言うのがアイリスの仮説だ。

 これは非常に的を得ている。

「多分その予想に間違い無いよ。流石はイリス! やっぱり持つべきは出来る妹だよな。こんな優秀な妹が持ててお兄ちゃんは幸せだ」

「あ、ありがとうございます、お兄ちゃん」

 大賛辞を送る俺から何故か距離を開けるアイリス。

 おかしい、心からの気持ちを伝えたはずなのになぜこうなる。

 思いがけずダメージを喰らった俺をよそに、クリスは頬をぽりぽりとかいて苦笑を浮かべた。

「あはは。とりあえず、その星々の雫とやらが集まりやすい場所を見つけないとだね。でも星々の雫ってなんだろう? それと星稜に委ねるって部分も分からないんだよね」

 そう、どうにも分からないのはその二つだ。

 星々の雫は何となく星から落ちてくる雫みたいなイメージが湧くし、星が沢山見えそうな水場と考えられなくもない。

 だが星稜、こっちについてはイメージすら浮かばない。

 星の稜ってなんだよって話だ。

 しかしなんだろう。

 なんとなくだが俺はこの星稜という言葉を知っている気がする。

 一体、どこで聞いたことがあるんだったかな。

「うーん、流石にヒントが少なすぎるわね」

「せめて思考の道標になるようなものがあれば、話も変わってくると思うのですが」

 ポツリとアイリスがそんなことを……。

 星の、道標?

 …………。

「それだああぁ!」

「わああっ⁉︎ カズマさんってば、いきなり大声出されるとびっくりするんですけど」

 両耳に手を当てアクアが抗議してくるがそれどころじゃない。

「そうだよ道標だよ! 星稜そのものが道標として果実にまで誘ってくれるんだ!」

「はあ? 星稜が道標ってどういう意味よ?」

 理解が全く追いついていない三人が怪訝な表情を浮かべている。

 しかし分からなくてもしょうがない。

 これは多分、俺じゃないと分からなかった。

「いいか、星稜っていうのは星の稜、そこから転じれば星型のなにかって考えられるだろ。それで思い出したんだ。俺の世界には五稜郭っていう星の形をした城があるんだけど、この城は財宝の場所への道標としての役目も担ってるんだよ。だから、星稜が五稜郭と同等のものだと仮定すれば、星形のものを用意すればそれがこの山頂の財宝、ナサの雫への道標になるってことだ!」

 どうだ俺の名推理は。

 これ以上にないほど筋道だっていたのではないだろうか。

「確かに、星稜って言葉がそのゴリョウカク? と同じ役目を果たすのであれば、その推理は合ってる気がするね。お手柄だよ助手君!」

「ええ、マジですごいねお兄ちゃん!」

 絶賛して褒めてくれるクリスとアイリス。

 やばい、めっちゃ気持ちいい。

 探偵は一度やったらやめられないとは上手いこと言ったものだ。

 このクエストが終わったら探偵を目指すのもいいかもしれない。

「カズマさんってば本当に妙な知識はよく知ってるわね。ヒキニートやってたんだから学校で習ったわけじゃないでしょうに」

「ま、まあちょっと調べる機会があってな」

 二人に遅れて、ちょっとだけ感心したような眼差しをアクアが向けてくる。

 実は某探偵アニメの映画で初めて知ったんだとか今更言えないな。

「それじゃあ助手君の推理を踏まえて文献の文章を解釈すると、夜空の星々の光を星形のなにかに委ねたら星霊の果実が熟す、ってところかな」

 いい塩梅にクリスが話をまとめてくれる。

「だったら後は星形のものが何なのかさえ掴めればすぐに解決ってことよね。なんだ、やっぱり簡単じゃない!」

「ああ、これも俺の素晴らしい名推理のおかげだな! ふっ、俺に解けない謎は塵一つ存在しねえぜ」

「よっ、流石はやる時はやるカズマさん! 小狡いことを考えさせたらアクセル一ね!」

 小狡いとか言うなよな。

 だがアクアの言う通り、ようやく解決への光明が見えてきた。

 これはもう勝ったも同然なのではないだろうか。

 気分よく笑い合う俺とアクア。

 しかし裏腹に神妙な顔をしたクリスが口を挟んできた。

「盛り上がってるとこ悪いんだけど、この問題は助手君達が思ってるほど簡単には片付かないと思うよ」

「はあ? 何を見つければいいかは分かったんだから、後はそれを見つけ出すだけだろ。確かに面倒臭くはあるけど、やること自体はシンプルじゃねえか」

「そうよ、確かに面倒そうだけれどそれのどこが難しいって言うのよ?」

 自分の意見にケチをつけられた俺とアクアが眉を歪めて抗議する。

「あのですね」

 そんな俺達に恐る恐ると言った様子でアイリスが小さく手を上げる。

「昨日の探索でこの付近全域を、今日の探索で樹林帯を具に見て回りましたよね。ですがその間に、星形の形状をしたものは見かけていないんじゃないですか?」

「「……あ」」

 そうだった。

 アイリスの言う通り、ここ二日の調査で俺達はこの山頂をあちこち探索して回った。

 もちろん、当初は果実をメインに探していたので単純に見逃している可能性はある。

 しかし同時に、どこにあるかも分からない果実を探すために俺達は終始注意を払って探索をしていたのだ。

 果たして、星形などと言う目立つ形状をしたものを見逃すだろうか。

 少なくとも俺は星形の何かを見た記憶がない。

 つまり、現時点において探すあてが全くと言っていいほどないと言うことで。

 ……えーっと、これってかなりマズくないか。

「とりあえず雫を星稜に委ねるって部分は後回しにして、先に星々の雫について考えてみようよ。アクアさんは何か思いつきませんか?」

 どんよりし始めていた空気を変えようと気を使ってくれたらしく、クリスが明るめに声を上げてた。

 実際、行き詰まってた訳だし正直助かる。

「うーん、流石の女神な私でも聞いたことないわ。でも星々って言うぐらいなんだから、星が沢山見えそうな場所にあるんじゃない?」

 コイツと同じ思考に至っていたのがなんか悔しい。

 だが現状、雫の意味が誰も分からないのだから連想ゲームみたいに考えていくしか方法はないだろう。

 うーん、星が沢山見えそうな場所か。

 高い場所の方が沢山見えそうではあるが、峰の上は千里眼を使ってそれらしい高木が生えていないことは既に確認済み。

 湖畔でも沢山見えはするが、視界のどこかしらには山の峰が映り込んでしまうし、何より周回した時に見つけられなかったのだからその線もない。

 その上で、まだ探してない場所の中で最も星が見えそうな場所と言えば……。

 俺と同じことを考えたのか、この場にいる全員の視線の先が一つの場所に注がれた。

 今は漆黒の闇に埋め尽くされ姿が見えない。

 だが日中も霞に覆われその内部を一度も拝めていない場所。

 そう……。

「「「「湖の中央‼︎」」」」

 

 

 

 山頂探索三日目

 

 翌朝。

「どうだアクア?」

「ええ、そうと意識すればビンビン感じるわ。あの霞、高度な認識阻害の魔法がかかった結界よ。ああやって内側を守ってるのね」

 思った通りだ。

 昨晩の議論の結果、湖の中央が怪しいと結論付けた時点で、もう一つ新たな疑問が湧いてでた。

 それは、どうして今までその可能性に気が付かなかったのかと言う疑問だ。

 これだけ大っぴらに中が見えないようになっているのに、その中を確認しようという思考が一度たりとも沸かなかったのだ。

 しかも俺だけでなくこの場にいる全員が。

 流石におかしいと思い明るくなってからアクアに、湖の上の霞に何か仕掛けがないか調べて欲しいと頼んだのだが、予想は大当たりだったようだ。

「よし、それじゃあいっちょ盛大に頼むぜ」

「任されたわ!」

 気合いの入った返事を返した後、ツラツラと詠唱を始めたアクアはステッキ状の神器を前に翳した。

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 神器の先から出た光が霞に衝突する。

 しばらくすると湖を覆っていた霞は徐々に薄らいでいき、次第に晴れ上がっていった。

 早速千里眼を発動し湖を見やる。

 すると湖のちょうど中央付近に位置する場所に小さな影を見つけた。

 湖の中からヒョコッと飛び出た小島。

 そこに高さ二メートルほどの紅い高木が存在していた。

「ど、どうだい助手くん? あの木で間違いなさそう?」

 少し緊張した面持ちで尋ねてくるクリスと、その隣で祈るように手を組むアクアとアイリス。

「ああ、星霊の木自体はあれで間違い無いと思う」

 俺の言葉にアクアとアイリスは笑顔を浮かべハイタッチをした。

「やったじゃないカズマ! これでもう後はあそこまで行ってもぎ取るだけよ。なんだ初めはとんでもない依頼かと思ったけど大したことなかったわね。今回も私のお陰で木を見つけられた訳だし、大いに褒め称えてくれていいのよ!」

 浮かれて好き勝手言う駄女神。

 だが、その隣のアイリスとクリスは俺の異変に気がついていた。

「どうしたのですか、お兄ちゃん?」

 心配そうに尋ねるアイリス。

「それが……」

 俺は視線を湖の中央からズラさず、絞り出すように答えた。

 

「ナサの雫が……実ってない……」




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