オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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交差点で走ってる時に信号無視車に横からブチ込まれたので初投稿です!



Q.赤信号は気をつけて横断しなければいけない:◯か✕か

A.✕:青信号も気をつけて横断しなくてはならない為


皆さんもお気をつけ下さいね!(廃車)

佐藤東沙さん、カオルさん、誤字報告ありがとうございます。


新たなる一歩

 

 

 

 

「もう生きていけないよおおおおおお……」

「私は…………人を救えなかった鬱憤を幼女に押し付けて晴らそうとしていた屑妖精だ……」

「ブツブツうるせえ……」

「私は最低なんだぁぁぁぁ!!!!!」

「もうお話できないよううううう!!!!!」

「ギャーギャーうるせえ!!」

 

 リリに色々ぶっちゃけられたその日の夜、食事の場で二人の人間が物理的にも心理的にも九十度にへし折れていた。

 

「重症過ぎますね……」

「例の子の関係ですか?」

「えぇ……私達の思ったよりもリリさんに大分本気でウザがられていたのですよ」

 

 共に食事をしていた他の団員の質問に答えながらも、輝夜は薬が効きすぎたな……と溜息を吐いた。

 

 その視線の先では着席順の関係で上手いことネガネガしい二人に挟まれてしまったライラが小さな拳で机に突っ伏している二人の頭をボカスカ殴っていたが、すでに折れてしまった二人が顔を上げる様子は無い。

 

「っだあぁコイツラマジで駄目! アストレア様ぁ、なんか言ってやって下さいよ!!」

 

 ライラの弱音にクスリと微笑んだ女神……アストレアは「そうねえ」とだけ言ってその形良い顎に指を当て、ほんの数秒考え……「じゃあ一つだけ」とニコリと笑む。

 

「リオン。アリーゼ」

「……はい」

「はいぃ……」

「【ヘスティア・ファミリア】への改宗(コンバーション)だったら、何時でも話を通してあげる。あそこなら信頼できるし、ヘスティアも私の言うことなら無碍にはしないと思うしね」

 

 食堂の空気が、ピタリと凍った。

 

「…………えっ?」

 

 食卓から顔を上げた二人。

 

 アリーゼの声が、凍った食堂に響いた。

 

「な……なん、で?」

「う〜ん、そうねえ……こういう事を言うのはきっと良くないんだけど……」

 

 それ(・・)を言うのはアストレアとしても迷いがあったのだろう。暫く天井を見ていた彼女だが、それでも困ったように眉を寄せながら、諦めたような笑顔で確かに言った。

 

「……だって……『正義』で人は護れても、救う事はできないもの」

「えっ……」

 

 裏切られたような声を出すリューに対し、アリーゼは諦めたように食卓に視線を落とすだけ。

 

 他のメンバーも、誰もがその顔に『諦め』を浮かべており、リューはそれを見て只々困惑を深めるのみだった。

 

「……な、何故……そんな……」

「リュー? 正義の本質はね、『許さない事』なのよ。そして、救済の本質はね……『許す事』なの」

 

 犯罪を許さない。

 

 不正を許さない。

 

 悪を……許さない。

 

 だからこそ剣と盾をその手に取る。許せないものと、戦う為に。許せないものから、護るために。

 

 それが、それこそがすべての正義の根本に位置する感情。そう、アストレア(正義の女神)は己の眷属に説く。

 

「だけど、正義(剣と盾)に出来ることはあくまでも悪から無辜の民を護る事だけ……既に傷ついてしまった民を癒し、救う事は正義(剣と盾)の仕事ではない……それは、ディアンケヒト(傷を癒す薬)だったり、デメテル(心満たす食事)だったり、ゴブニュ(安心できる住居)だったり……ヘスティア(無償の愛情)だったり……」

 

 人を救う事のできる神の名前を列挙するアストレア。

 その中に戦闘を主とする神の名前は出てこない。アストレアは、民衆の守護神ガネーシャですらもそこに並べる事をしなかった。

 

 剣を取るものに人は救えない。その事をその並びから直感的に察したアリーゼの脳裏には、どっかのグラサンモヒカンアホドワーフのしたり顔が浮かんでいた。

 

「以前に……ヘスティア様のところのセルバンおじさまが言ってたわ。『剣を握らなければ おまえを守れない 剣を握ったままでは おまえを抱き締められない*1』……って」

「あの子、普段はわけの分からない子だけど偶に妙に含蓄のある事を言うわねえ」

 

 どっかのアホとそのアホの言葉を思い出したアリーゼのせいでちょっと緩んだ感のある空気だが、リューだけは何かに耐えるようにジッと机を見つめていた。

 

「リオン、アリーゼ。他の皆も……今日や明日なんてことは言わない。一月後でも半年後でも一年後でも良い……納得いくまで考えて、好きなだけ悩みなさい。その上で……『護る』よりも『救う』事に、『許さない』より『許す』に重きを置きたいと思ったならば……何時でも言いなさい」

 

 私は貴女達の変化(・・)を祝福する。

 

 そう言って、アストレアは空の食器を持って立ち上がる。

 

「私がやります!」

「良いのよ? このくらいは私にやらせて」

「いえ! アストレア様に水仕事などやらせるわけには!」

 

 毎日の恒例の遣り取りをする団員達を遮るように、リューは「あの!!」と声を張り上げる。

 

「どうしたの? リオン」

 

 大きな声に静まる室内。当の女神はその手に食器を持ったまま綺麗な微笑みを浮かべる。

 

 その笑顔を見たリューは何かを言いかけて、喉に詰まるような苦しげな顔を見せる。

 

「……いえ、ごめんなさい……何でもありません」

 

 そして、何も言わずに彼女は再び机に視線を向け直した。

 

 喉元まで出かかった『許す事と許さない事、どちらの方が正しいのでしょうか』等という問いがどれだけ度し難い愚かな質問なのかは、いかに彼女とて理解していた。

 

 

 

 その翌日、毎朝の修行と朝食を終えて外に出掛けたリューは昨日リリとアイズが座っていた噴水の縁に一人腰掛け、青空をボーッと眺めていた。

 

「あ! 【アストレア・ファミリア】だぁ!! こんにちは!!」

「……えっ」

 

 突然に掛けられた明るい声に、雲を眺めていた視線を下界に戻す。

 

 そこには熊の縫いぐるみ……テディベアを手に抱えた少女が……リリとそう年齢の変わらない少女が、屈託の無い笑みを浮かべていた。

 

「嗚呼、冒険者様……! あの時は本当に有難うございました……!!」

 

 その少女の背後に居た母親らしき女性にそこまで言われて、色々といっぱいいっぱいなリューはそこで初めて目の前の少女が、以前に闇派閥(イヴィルス)の襲撃があった際、一斉に避難を起こしてパニックになりかけていた民衆に踏みつぶされそうになっていた少女だということを認識した。

 

 確か──名前は。

 

「……リア、でしたか?」

「うんっ! 私リア! アリーゼお姉ちゃんに助けてもらったの! 今日はお姉ちゃんいないの?」

 

 噴水の縁から立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回すリアの頭を撫で、ついでに縫いぐるみの頭も撫でてやる。

 

「ええ、今日は別行動です」

「そっかぁ……じゃあじゃあ、お姉ちゃんにも伝えてほしいの! いつも助けてくれてありがとう! って!」

「私からもお礼を言わせてください。本当に、何と言ったら良いか……!!」

 

 その言葉に……きっと二人は深い考えもなくただ言ったのであろうその言葉に。

 

 リューはほんの一瞬も耐えることができず、キュッとリアを抱きしめた。

 

「わぶ!! ……お、お姉ちゃん……?」

「ごめん……ごめんなさい……! けど今は……少しだけ……!」

 

 みっともないと心の何処かの自分が言ったが、それでも止めることはできなかった。

 

 暫くの間、柔らかな少女の体温を感じたかった。

 

 そうするだけで、どうしようもなく涙が溢れてくるのだった。

 

 しばらくの間そうさせてもらい、少しだけ元気が出たリューが親子と別れたその直後。

 

「俺の全財産444ヴァリスがぁぁぁ!!! 誰かぁぁ!! 取り返してくれええぇぇんっ!!!!」

 

 そんな声が聞こえた。

 

「……さて、やりましょうか」

 

 リューの心に既に負った傷は消えない。

 

 生じた『正義』への疑念は薄れない。

 

 それでもリューは立ち上がり、歩き始めた。

 

「待ちなさい! 【アストレア・ファミリア】です!!」

 

 地獄へ(・・・)

 

 

 

 まるで皿のようにまんまるに見開いた金の瞳。

 

 関節が外れたのかと言いたくなるほどに大きく開けられた口。

 

 大きく仰け反った身体。

 

 何かを掴むような体勢で、しかし何も掴む事無くブルブルと小刻みに震える腕。

 

 ……アイズは今自分が感じている『驚愕』を一切隠すことなく全身を使って曝け出していた。

 

 というのも……

 

 

 

「一応できました、【具象化】。昨日」

「うそやん」

 

 リリが昼飯を食べている時、何でもない事のようにセルバンに対してそんな事を言ったからである。

 

 セルバンの普段のキャラをかなぐり捨てたその一言を皮切りに大混乱に陥った昼食後、庭にいつものメンバー*2が勢揃いしてグルリとリリを取り囲む。

 

 その中で、リリは「ふにゅにゅ……」と何やら気の抜ける集中の仕方をして、姿の変わらぬその刀から靄を生み出す。

 その靄は数秒間リリの周囲を回った後一点に固まり、小汚い鼠へと変わってみせた。

 

 おぉ……と周囲がざわめくのも束の間、チョロチョロと周囲を見回した(猫嚙)は、屈んでそれを見ていたヘスティアの元へ猛ダッシュし跳躍。

 揃えられた膝によって大きく形をたわませていたその豊かな谷間にふぼっ!!! と埋まった。

 

「おっ」

「わぁ!」

「ちょおおおおあああああ!!! なにして、なにしてるんですかおまっ、このバカ!!」

 

 小汚い毛並みの尻をプリプリ揺らしながら、まうまうまうっとヘスティアの谷間の奥へ奥へと潜り込んでいく鼠の尻尾を泡を食って掴み取ったリリは勢い良く鼠を引き抜き、ビターン!! と地面に叩きつける。

 

 即座に起き上がって遺憾の意を表明するかのようにリリに威嚇を行う鼠であったが、そこで時間切れか、その身体は徐々に靄へと戻っていった。

 

 そして心中に秘めたヘスティアへの並ならぬ執着をまざまざと衆人環視の中で見せつけられた怒りを抑えきれないリリは、地面に置いてあった猫嚙(ねこがみ)を文字化不可能な奇っ怪な猿叫と共に蹴り飛ばし、吹っ飛んだそれが地面に落ちる前に瞬歩で追いつき抜刀、敷地の外壁のレンガに剥き身のまま叩きつけてさらに蹴りを数度入れた。

 

 アルフィアでさえポカンとするスピード感で展開される意味不明な状況の中感情を向けられた当人であるが故かその一連の動作の意味をだいたいなんとなくで理解したヘスティアは照れ笑いで、特にリリの痴態に興味の無いセルバンは顎に指を当てて、それぞれに首を捻った。

 

 土まみれになった斬魄刀(かたな)を恨めしそうに引きずりながら帰ってきたリリは、荒れた息を必死で整えながら今の一連の出来事を無かったことにしたいかのようにセルバンに話し掛ける。

 

「はぁ……はぁ……い、今のって【具象化】ですよね!?」

「うぬ、確かに【具象化】だな。いや〜……マジか……早過ぎんだろ一護かよ……」

「なんか……一瞬しか出せないんですけど……」

「あぁ、そりゃあ魔力(霊圧)が足りんのだろうな」

 

 恐るべきものを見る顔のセルバンに軽く続きを促すと、彼はビッと指を二本立てた。

 

「俺が考えるに、【具象化】に必要なものは二つ……即ち、『己の斬魄刀の真の姿を心に捉える事』……そして、『刀の魂を核としてその捉えた姿を現実に描き出せるだけの魔力(霊圧)』だ」

「……つまり、私にはその魔力が足りないと?」

「恐らくはな……普通は戦いの最中で魂を研ぎ澄ませ、その果てに刀の真の姿を捉えるものだが……こういう部分は流石にリリ坊だな。『歪み無く己を見据える』という一点に関してはおんしは間違いなく天才と言える」

「歪み無くも何も己自身が既に歪みまくってますからね〜なぁんちゃってアッハハハ」

「笑えんわ」

 

 この場で一人(リリ)しか笑えないジョークをかっ飛ばした彼女は見せるものは見せたといった態度で肩をグリグリ動かしながら教会へ戻っていき、他の面々もゾロゾロとそれに着いていく。

 

 ……そして、その場には驚愕の表情で固まったアイズと、ソレを心配そうに見つめるリヴェリアだけが残された。

 

「あ〜……アイズ……?」

 

 尚、アイズは未だに始解すらマトモに出来ていない。

 

「う……ううううううう」

「……コレは下手な慰めだが、お前はまだ若いんだから……」

「リリはもっと若いもん!!!!」

 

 あまりにも下手くそ過ぎる慰めを一蹴したアイズは疾風のように教会に駆け込み、自分の斬魄刀(かたな)を掴んで飛び出してきた。

 

「ううううう!!!!! ううううッッッ!!!」

「あ、こら待てアイズ!!」

 

 悔し涙を流しながら敷地の端っこに座り込み、膝に荒々しく斬魄刀(かたな)を叩きつける。

 

 ボロボロと大粒の涙を幾筋も流しながらも目を閉じて己の内に入ろうと試みるアイズだが、しかしそんな状態で精神世界に入るなど不可能だ。

 

 ソレを理解しているリヴェリアはその震える肩を軽く押さえる。

 

「ううううううう……!!!」

「……まずは落ち着け」

「落ち着く!? 無理だよッ!!」

 

 目を開いてその掌を振り払ったアイズは、ボロボロと涙を溢れるままにして、それを拭いもせずに叫んだ。

 

「私はこのごろずっと!! 落ち着いて! 楽しくて! 嬉しくて!」

「このままでもいっかって!! 思って!!」

 

 そこまで言った彼女は、自身の着ていたワンピース……ダンジョンに潜るためのそれとは違う、普段着としてのそれの端をきつく握りしめ……絞り出すように叫んだ。

 

「…………だから……だから、私はまた……置いて行かれた(・・・・・・・)!!!」

「落ち着けアイズ! お前は誰にも置いていかれていない! 誰もお前を置いていったりはしない!!」

 

 危うい、と。

 

 揺れるアイズの瞳を見てとっさにリヴェリアはそう思った。

 

 ほんの一年と少し前のアイズの暴走が脳裏を過る。

 

(アイズは知人友人が自分の手の届かない場所に行く事を異常に恐れる節がある。それが怪我や病気だけでなく実力差(・・・)という部分でも発揮されてしまうのか……!!)

 

 これは依存(・・)だ。

 

 リヴェリア達【ロキ・ファミリア】の上層部はアイズに地上での日常を過ごさせる事でダンジョンへの異常な執着を和らげようとしていた。

 そしてそれは少しずつではあるが確実に和らいではいたのだが……同時にアイズはいつの間にか、日常と……その象徴であるリリへの依存性を強めていたらしい。

 

(……予想すべきだった……今のリリは年代も含め、最もアイズが遠慮しなくて良い相手だ……最低でも二回りは年上で、扶養関係にある私達とは前提が違う……私達に対する依存度とリリに対するソレを同じに考えるべきではなかった……!!)

 

 また自分達のファミリアから面倒事をリリ達に増やしてしまった罪悪感で胃が泣く声を聞きながら、リヴェリアは努めて柔らかい声でアイズを宥める。

 

 一瞬だけその視線が宙を泳ぎ、教会の入り口のドアの縁に連なってコチラの様子を見ている三人に吸い寄せられるが、ソレを力付くでアイズに戻す。

 

 コレは、自分達の身から出た錆だ。【ヘスティア・ファミリア】の手を煩わせはしない。

 

「……なぁ、アイズ……分かってるだろう? リリはお前を置いていくような子じゃない」

 

 リヴェリアにとって幸運だったのは、アイズがポロポロと涙を零しながらも彼女の言葉を聞く姿勢を崩さなかった事だ。

 かつての少女なら、彼女の言葉など一顧だにせず己の道を突き進んだであろうが、今の彼女は昔よりもずっと人と触れ合う事に慣れていた。

 

 その態度から感じる確かな成長に微笑みを浮かべながら、リヴェリアはゆっくりとアイズに近寄り、その身体を抱き締める。

 

 滑らかな金髪を漉くようにゆっくりと頭を撫でながら、彼女は震える少女に言い聞かせる。

 

「大丈夫だ、アイズ……お前はちゃんと前に進んでる」

「でもっ……リリは、もっと前に!!」

「人の進む速さは一人一人違うんだよ、アイズ。アイズは剣技ではリリに勝っている。リリは斬魄刀の扱いでお前に勝っている……そして、お前もリリも、自分の歩みでそれぞれの分野を歩んでいる……それで良いんだ。そういうものなんだよ」

「……っううぅ」

 

 自分の胴に回した手にぎゅうっと力が入るのを感じながら、リヴェリアはその小さく温かい身体の震えが収まりますようにと願いを込めて、その背を撫でてやった。

 

 

 

 その日の夜、アイズが眠った事を確認したリヴェリアは、目の周りに掛かった髪の毛を払ってやってから少女の部屋を後にする。

 

 ドア越しの足音がしなくなった事を確認したアイズは布団からヒョコッと頭だけを起こし……

 

「…………」

 

 ジッと耳を澄ませる彼女の耳に、もう一度足音が聞こえる。

 

 アイズの問題児っぷりに適応し始めている最近のリヴェリアはこうして時折(毎回ではないのがキモ)『扉から離れるフリ』をするのだが、そんなリヴェリアの親ムーブに対し少女もまた適応した対応をとっていた。

 子育てとはどこまでもイタチごっこである。

 

 そうしてリヴェリア(お母さん)の完全な退室を確認した彼女は、ベッド脇のサイドテーブルに立て掛けていた斬魄刀(かたな)を掴み、己の膝の上に叩きつける。

 

「リリ……!!」

 

 その脳裏にあるのは、自分が足踏みを続けている分野で事も無げに、一足飛びに先を行く親友の顔。

 

 未だアイズは気付いていないが、それは彼女が初めて抱く、純粋な『対抗心』であった。

 

 ────そして。

 

『……来ると思ってたよ、アイズ』

「………………」

 

 小雨の降る精神世界(大樹の根元)で、己に背を向けいつものように無言を貫く大きな怪鳥の羽毛に全身を埋もれさせ、雨避けにしている黒い少女(アイズ)*3に、アイズは無言で刃を向ける。

 

『斬り合いの前にこの雨をどうにかしてほしいんだけど』

「今日こそ、斬る」

 

 億劫そうに羽毛から離れて刀を抜き放つ少女(アイズ)と、アイズの視線が絡み合う。

 

『分かっているんでしょう? こんな気持ちが自分自身との斬り合いで晴れる訳がない……だってこれは、(アイズ)のリリに対する気持ちの問題なんだから』

「知ったような事をっッ、言うなァ!!」

 

 二人の刃がぶつかり合う。

 

『何故否定するの? 貴女と私は同じでしょ?』

「私はっ、お前とは違う!!」

 

 二筋の剣閃が互いの間に閃く。

 

 小雨と共に足元で散る青草が、二人の剣圧でゴウと吹き散る。

 

 互いの完全に拮抗した力量から鍔迫り合いへと縺れ込んだ二人は、世界で最も見慣れた顔に言葉を叩きつける。

 

『なら今すぐ眠って明日に備えたら? リヴェリアの言うとおりだよ。貴女は(アイズ)を使うのに向いてない。リリは刀を振るのに向いてない……それで良いじゃん』

「良く……ないっ!!」

 

 ガギッ!! と金属音を鳴らし、力付くで距離を引き離したアイズ。

 離れたのは、間合いか、心か。己が逃げた(・・・)事にすら気付けない彼女は、次の言葉に硬直する。

 

『何故?』

 

 何故、と問われて思い浮かぶのは、セルバンの言葉(それから?)

 この世のモンスターを全て倒すと言った己に投げかけられた言葉(それから?)

 

 全く違う状況、全く違う意味で発せられたはずの二つの言葉が、少女の心を締め上げる。

 

 荒くなる息が、少女の肩を揺らす。

 

『何故。現実を。見ないの』

「うるさい!!」

貴女(わたし)は……』

「黙れぇッ!!」

 

 激突する金と黒の旋風。

 

「うぁぁぁぁああああっ!!!!」

 

 悲痛さを含んだ金色の雄叫びを迎え撃つ黒い少女。

 

 この世界に轟く衝撃が降り続く雨を吹き飛ばすが、このままだと先の二の舞であると同時に悟った二人が同じ様に刀を振り、距離を取る。

 

「ハァァァァ!!!!!」

 

 刀を手に突進するアイズを迎え入れる様に刀を構えたアイズ(斬魄刀)だが、その途中で何かに気を取られたかの様に間の抜けた顔で「あっ」と呟く。

 

 そんな彼女に全力のアイズの突進(チャージ)が当たるのと、現実世界のアイズの額がパチン! と弾かれるのは同時であった。

 

いっった()い!!!」

 

 その言葉を残して精神世界から飛び出していったアイズ。

 

 彼女の攻撃を割とモロに喰らってしまったアイズ(斬魄刀)は、その衝撃で吹っ飛び大樹の根元に蹲っていた怪鳥の羽毛に頭から突っ込んでいた。

 

 ずぽっと頭を引っこ抜いた彼女は、アイズの居た場所をチラリと眺めてからピョンと怪鳥の頭の上に乗った。

 

 怪鳥はそれに大層迷惑そうな顔をしたが、しかして翼を何度か居心地悪そうにモソモソ動かしただけで彼女を振り落とそうとはしない。

 

 そんな怪鳥の様子を大して気にもせずアイズ(斬魄刀)はそこに寝転び、高い高い天を見上げる。

 

「雨、上がったね」

 

 アイズの精神世界の雨は上がった。

 

 今は雲間に晴天が覗いている。

 

 ……だが一度遠くを見据えれば、そこには黒黒とした雷雲が息を潜めている。

 

「アイズ、早く思い出して」

 

「貴女の、本当の望みは────」

 

 

 

 精神世界の斬魄刀(アイズ)が空を見上げるその時、現実世界のアイズは目を丸くして自分にデコピンを食らわせた相手を見ていた。

 

「……アルフィア?」

「来い」

 

 どうやってか一切の破壊跡無くアイズの部屋の窓を開けた彼女は、月下に灰の髪を煌めかせながらアイズに背を向けた。

 

「これは契約だ。ヘスティアに言われたからではなく改めて私自身の意思で、お前に私の出来る限りの修行をつけてやる」

 

「代わりに……私が居なくなった後(・・・・・・・)、ヘスティア達をお前が護れ」

 

 あまりにも唐突なその言葉に、アイズは呆けた顔で、しかし確かに頷いた。

 

 それは、既に夜も更け、日付の境目を跨いだ時間であった。

 

 つまり(・・・)

 

【大抗争】まで、あと七日。

*1
BLEACH五巻巻頭ポエム(チャド)

*2
【ヘスティア・ファミリア】に加えアイズとリヴェリアとアルフィア

*3
尚、怪鳥は雨避けにされる事に対し若干不満げにしている




アンケート使って誰がアルフィアを殺害するかダービーでもやろうかな。

常勝の名馬リリ、弟子脚質が有利な対抗馬アイズ、同じレース(原作)で勝利の実績があるアルフィア(自殺)、他にも一番人気であろう生存とかアストレア・ファミリアとか大穴のザルド、エレボスとか、後は病死も入れて……絶対面白いと思わない?
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