凪の気分を   作:冴木甲士

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第193話 来月には

 一月のとある休日に、俺は奄美先輩との外食に出ていた。

 

 聞けば奄美先輩は大学の共通一次試験が終わったばかりとのこと。

 そこで骨休めも兼ねてこの日に外食しようとなったのだ。

 月に一回の定例となってそれなりに経つが、先輩曰くこれが最後になるだろうとのことだった。

 

 元々この外食は俺が奄美先輩のやることに協力してきた報酬というのが趣旨だった。

 俺としてはもう充分に奄美先輩から奢られ、堪能させてもらった。

 それに奄美先輩の卒業も近いとなれば、ここらで終わるのが切りがいいというのもある。

 奄美先輩が理由を詳細に説明することはなかったが大方そんな感じだろうし、俺としても異論はない。

 

「まだまだ寒いわね」

「そうですね」

 当たり障りのない会話もそこそこに、お目当ての店へ向かった。

 

 

 奄美先輩は、葵が俺に告白したことを知っているのだろうか。

 

 奄美先輩と、その妹である葵のやり取りは至る所で見てきたが、決して仲が悪いようには思えない。

 葵があの日の出来事を奄美先輩に包み隠さず話していても別に不思議はない。

 一方で、葵が奄美先輩も含めて周りに一切口外していない線も大いにあり得た。

 

 奄美先輩の場合、俺らの事情を全て知っていてもきっと口出しすることは控えるように思われた。

 この人は、妙なお節介を焼くタイプではない。

 俺らの仲に対しては一歩引いたところから静かに見守るタイプに近い。

 つまりは知る知らないに関わらず奄美先輩の言動は変わらないように思われる。

 

 要は、奄美先輩が知ってるか否かは全く読めない。

 だが、知ってたとしても特に介入してこないならさほど問題でもない。

 こちらから葵のことを話題をするのも憚られた。

 

 なので、葵のことには触れなかった。

 奄美先輩も今日は葵のことを話に出すことは、なかった。

 

 マンションや何かの敷地の壁の生け垣に、ピンクと紫の間のような色合いの花がぶわりと広がる形に咲いている。

 名前はよく知らないが今の寒い時期にはよく見る花だな、ということをふと思い出した。

 

 

 今日向かった店はやけに高そうな洋食屋。

 あまりうるさく騒げないような雰囲気が店内を支配していた。

 

 各々料理を頼みながら待っている間、奄美先輩が話し掛けてきた。

「来月には、卒業ね」

「はい」

「そのときには私もやっぱ泣いてるかしら」

「さあ、自分には何とも」

「可愛い後輩も結構多かったしね」

 かつての想い人だった王子のことを思い出しているのだろうか。

 

 俺も王子こと俺の同級生である榊と、奄美先輩を結ばれる作戦会議には毎日駆り出されていた。

 結果は奄美先輩の諦めという何一つ報われない形で幕を閉じてしまった。

 

 しかし、奄美先輩の妙にさっぱりとしている態度を見るに、もう完全に王子のことは吹っ切れたように思った。

 それなら王子に夢中になっていた期間も今の奄美先輩にとってはいい思い出に昇華されたのかもしれない。

 もっともこの人の容姿と性格なら大学行ってからも男を選べると思うし、気持ちを切り替えた今なら不自由なさそうである。

 

「同級生のお友達にも、奄美先輩と同じ大学に入る人はいるのでは」

「まあ、多分ね。入試の結果次第だからどのくらい入るかわからないけれど」

 その不安をごまかすためなのか、

「黒山君とか知ってる後輩達が私と同じ大学に入ってくれたらもっと楽しそうだけどね」

 奄美先輩はそんな冗談を言った。

 

 俺としてはこれ以上知り合いに振り回される人生は御免蒙(こうむ)りたい。

 ただでさえ今は一杯一杯なのだ。

 何でかは、奄美先輩には言えないけれど。

 

 しばらくして俺の前には注文したステーキ、奄美先輩の前にはパスタが置かれ、めいめい料理を頂く。

 見るからに高級なそれらを味わうのも今日が最後かと思うと、無意識の内にフォークで運ぶ一口分の肉をゆっくりたっぷり咀嚼していた。

「フフ、そんなに名残惜しい?」

 奄美先輩は俺の様子にしっかりと気付き、俺の意地汚さをからかっていた。

 

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