凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
二年生の三学期になると、京都への修学旅行がある。
旅程は二泊三日、班組みは自由で、六人までなら男女の割合も問われない(但し宿泊部屋は出席番号順に同性2人ずつ)。
したがって、俺の班は例の女子四人との合わせて五人となった。
……二年の最後のイベントまでいつものメンツで行くことなくない? たまには新キャラだけで組むのもよくない?
とはいえせっかくの修学旅行。
友達の多い春野と日高はどうせならばと色んな友達と回りたいらしく、本日は俺達と別行動となった。
ちゃんと集団で行動するなら班内で分かれて行動しても許可するという我が校の方針ってちょっと自由過ぎるんじゃないかと思う。
というわけで本日は安達・加賀見・俺の三人で京都を回ることに。このグループ、キツいっす……。
「さて、ミユ。タクシー呼ぼ」
「呼ばないよ、マユちゃん。途中までバスだけど基本歩いていくからね」
「ミユ、正気……⁉」
「いい加減体力付けようよマユちゃん……」
基本は徒歩で移動というのを認めようとない加賀見の説得に苦労している安達。
コイツら一生こんな感じでじゃれ合うんだろうな。
それでも安達は何とか加賀見の説得に成功したようで、ミユマユが並んで目的地を歩く。
「はー、はー……ミユ、まだ……?」
「まだ10分も歩いてないよ、マユちゃん」
「今日は、荷物、あるから……」
「いや主な荷物は部屋に置いてきたでしょ」
早くも息を切らす加賀見。もうコイツ置いていっていいのでは。
「あーもー、しょうがないな」
面倒そうに安達がすぐ斜め後ろにいた加賀見の手を取る。
「ベンチが見えたらそこで休憩するから、そこまで頑張ろ。頑張れるよね?」
「う、うん」
彼氏のように頼もしい安達に対し、加賀見もすっかりしおらしくなった。
普段からこんな調子でこの悪魔も大人しくしてくれてたら……何か似たようなことを何度も思ってるよな、俺。
運よく安達が加賀見を引っ張ってから少しして、ベンチを見つけることはできた。
さらに運よくちょうど三人掛けで誰も座っていなかったことから、さっそく揃って休憩を取ることに。
「あー……助かる」
「うん、あと少ししたら出発しようね」
「え……ここが目的地じゃないの?」
「いくら辛いからってここでゴールしようとしないで」
安達も大変だなあ、と他人事の気分で眺める。
思えばこうして安達がやる気のない加賀見を何とか促してやることをやらせるという構図も、当たり前になっていた。
来年の今頃には、見納めになるであろう。そこまでは俺もファイトだ。
「ところで黒山君さ」
「ん?」
「来年の進路ってもう決めてたりする?」
おう、唐突に。
来年のことに思いを馳せてたら安達から来年の話が出てくるってどういう偶然だよ。まさか安達と思考がリンクしてるの? 10年前を振り返ったら安達も10年前の話題を出してくんの?
「多分進学になると思うが。急に何だ?」
「ああうん。今三年の先輩達は受験シーズンでしょ。ふと皆の進路が気になっちゃって」
そうか。
「大丈夫、ミユ」
乱れていた呼吸の調子を取り戻しつつあった加賀見が自信ありげに語る。
「私も黒山も、別々の進路に分かれたって一緒にいる」
え、俺も?
「加賀見は大丈夫そうだな」
それとなく俺は無関係と伝えようとするも、
「うん、だから黒山もまず大丈夫」
加賀見がすかさず食らいついてくる。
「うん、そうだよね。自分から会いに行けばいいだけなんだし」
安達がさっきまでの憂えた感じから回復した。
「ま、まあ、大学で新しい友達作るのも、いいんじゃないか?」
そうすれば高校まで一緒だった友人の方は自然と疎遠になるだろう、ということはあえて避けて安達が前向きになれそうな提案をしたが、
「うん、もちろんそれも考えるよ。でもそれだけじゃなく、黒山君やリンちゃん、サッちゃん、マユちゃんとも会うのも欠かさないようにしないと」
まるで俺の言わずにおいたことを打ち払うような念押しを、安達はしてきた。
いや、マジで?
マジで俺、コイツらから一生離れられないの?