凪の気分を   作:冴木甲士

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第197話 凜華

 葵に続き、春野からの告白。

 

 俺は衝撃を受けると同時に、どこかこうなるんじゃないかという予感がしていた。

 

 葵に告白されたことで自惚れでも芽生えたのか。

 自分で自分がたまらなく嫌になるが、まずは春野への返事だ。

 

 

「悪い。俺は誰とも付き合うつもりは、ない」

 

 

 自分の口から出た言葉が、葵のときとはまた別に、いつか聞いたような感じを覚えた。

 

 これは……そうだ。

 春野が、王子こと榊をフッたときの言葉と、似ているのだ。

 それを今度は俺が春野に、ぶつけることになってしまったのだ。

 

「……だろうね」

 

 春野は、ここで微笑んだ。

 春野の今の心境が、俺には全く計り知れなかった。

 

「やっぱり、卒業したら皆と距離を置くつもりだった?」

 

 さっきの告白はどこへやら、春野は俺の意向を確認してきた。

 前に似たようなことを聞かれたときははぐらかした記憶がある。

 

 しかし今、こんなときに聞いてきたこれも、同じようにごまかせる気はしなかった。

 それならいっそ、正直に答えることにしよう。

 

「……ああ、そうだ」

「だよね。黒山君は、基本的に一人で過ごしたいんだもんね」

 春野が、俺のやりたいことを嚙み砕いていく。

 

「一人で生きていきたいなら、そりゃ誰とも付き合うわけないよね」

 

 春野の口調から、敵意のようなものが感じられた。

 だからだろうか。俺も受けて立つような気分になっていた。

 

「ああ、そうだな。誰が付き合ってくれと言おうと、俺は断るしかない」

 

 

 そう。

 誰が何と言おうと俺は絶対に恋人を作る気はない。

 

 俺はできることなら常に一人で生きていきたい。

 飯を食うときもマンガを読むときもアニメを見るときもゲームをするときも外出するときも何もせずぼーっとするときも。

 その他のありとあらゆる行為をするときも、一人で充分なことならとにかく一人でやっていきたい。

 

 だって、俺にはその方が楽しいからだ。

 

 物心付いたときから、そうだった。

 小学校や中学校の時代でももちろん一人で過ごす方がいろいろと気楽だった。

 高校に入って安達・加賀見・春野・日高・奄美先輩・葵・奈央・深央と接するようになって、ますます自分の気持ちに確信が持てた。

 

 俺は、友達や恋人を持つことに魅力を感じないのだ。

 

 世間一般には一人でいることが寂しいと感じる人の方が大多数というのは、知識としても経験としてもわかっている。

 友達や仲間がいた方がいざというときに助け合える、大事な絆とでも言うべきものが育まれるというのは、学校の授業どころか人気のマンガ・アニメでも手に垢が付きまくるほど取り上げられたテーマだろう。

 

 しかし俺には好意だの友情だの恋愛だの、そういった気持ちがよくわからない。

 コンテンツとしてそれを楽しむ感性はあっても、自分のことになるとどうにも実感が湧かないのである。

 

 そういう部分では、俺は狂ってると言われても仕方ないのであろう。

 だが一つだけ、ハッキリと自分の心に留めていることがある。

 

 

 これが、俺だ。

 

 

 一人でいるのが楽しいというのは、他の誰にも理解できなくとも、間違いなく俺の性分なのである。

 だからこれからも、俺の意志は変わらない。

 俺は誰とも恋人になるつもりは、ない。

 

 

 春野の言葉を受けて、俺の頭に途轍もなく変な熱が入ってしまったらしい。

 しばらく黙っていると、

「覚えといて、黒山君」

 春野が、俺の耳元にそっと口を寄せる。

 

 

「私はこんなことで、諦めない」

 

 

 小さな呟きを聞いた俺は少しだけ冷静になり、春野を改めて評価する。

 

 ああ、お前、つくづく主人公だわ。

 

 その信じられないほどの諦めの悪さと、思い切りの良さが、な。

 

 

「それじゃ、また後でね」

 そう黒山に告げて去っていった春野の先には、日高が待っていた。

 日高にはこの時間にこの場所で告白するということを、事前に打ち合わせていた。

 同行したわけでもここで待ち合わせしたわけでもなかったが、日高は春野を案じてここに来ていた。

 

「皐月……」

「あー、やっぱり結果がどうしても気になっちゃってさ。もう告白したんでしょ?」

「うん……」

 日高と合流した春野は、日高に事の次第を話した。

 

「そっか……。ダメだったんだ」

 自分のことのように落ち込んでくれる日高が、今の春野にはありがたかった。

「うん、でもね。本番はこれからだよ」

「え?」

 

「黒山君を心変わりさせなきゃいけないんだもん。大変なのはここからじゃん」

 

 春の日差しのように眩しい幼馴染の姿が、印象的だった。

 

 

 思い出すのは、二年の、春野の誕生日の翌日のこと。

 

「私は、黒山君と交際したい。交際して、黒山君が私達から離れないようにしたい。皐月、協力してくれないかな?」

 

 日高にとっては願ってもない展開だった。

 男性恐怖症の春野が。

 恋愛のことをろくに知らない春野が。

 みずから、仲のいい男子と付き合いたいと望むとは、思わなかった。

 

 これ以前にも陰から春野と黒山がくっつくように周旋してきたが、春野が積極的に望むとなればこちらの意欲も俄然上がった。

 しかし、その一方でこうも思った。

 

 黒山が、もしも皐月(私)に告白をしたのなら。

 自分は一体、どうしただろうか。

 春野を裏切って、自分が黒山と恋人同士に、なったのだろうか。

 

 ……いや、そんなことは、考えない。

 考えちゃ、いけない。

 自分はとにかく、春野と黒山が結ばれれば、それでいい。

 

 それで、いい。

 

 自身の下らない想像を振り払うように、

「うん、そうだね! 応援する!」

 日高は春野の頑張りに精一杯大きく答えた。

 

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