それに付き従うシュラ・サーペンタインが、アスラン・ザラと激突する話。
「待ちかねた……」
ズゴックの装甲が弾け、中から露になったインフィニットジャスティスガンダム弐式の姿に、シュラは笑みを浮かべ、喚起に振るわせる両手で操縦桿を握る。
「待ちかねたぞ、アスラン・ザラッ!!」
振りかざしたビームサーベルを、こちらと同様にアンビデクストラス・ハルバードモードにしたサーベルで、目の前の機体は受け止める。
「そう来なくては!やはり我らがぶつかり合うのならば最高の状態でなければならない!」
「何故だ!何故お前はそうも俺との闘いに拘る!?」
「何故か……だと?そんなこと、決まっているだろう!」
激情をぶつける様に、ビームソード、ロック・シールド・スヴァローグ、ビームマント、ディス・パテール、己の機体に備え付けられた武装のすべてを用いて叩きつける乱舞を、一発一発いなし、下がりながら対応してくる中、投げかけられた問いに、お互いのシールドをぶつけ合わせながら答えた。
「俺が超えるべきなのはキラ・ヤマトでもシン・アスカでも無い。貴様こそ俺が超えるべき存在だからだ!アスラン・ザラァッ!!」
「それは俺が“最強”だからか!?」
「いいや、貴様がキラ・ヤマトの剣だからだ!」
「剣だと?」
体格上上回るシヴァのパワーを以って、鍔迫り合いに持ち込もうとするのに付き合わず、大きく下がったインフィニットジャスティスがこちらの言葉を復唱してくる。
「俺はキラの道具じゃない!」
「当然だ。気分を害したのであれば訂正しよう。貴様ほどキラ・ヤマトを理解しているのは他にラクス・クライン嬢だけであろうさ!」
「ならば……ッ!」
「だからこそ貴様は剣なのだ!キラ・ヤマトという男が全幅の信頼を寄せ、命を懸けるに値する存在。比翼の鳥、連理の枝!シン・アスカでは駄目だ。戦友ではあるが憧憬の入ったあの目ではキラ・ヤマトの理解者足り得ない。カガリ・ユラ・アスハも駄目だ。例え血がつながっていなくとも、時には殴ってでも彼を止める絆こそあるが、奴もまたキラ・ヤマトという存在に頼っている!」
そう、俺とオルフェがそうであるように、
「対等なのだ!貴様が唯一!奴の心を理解したうえで、力で対等に渡り合える存在は貴様だけなのだ!だからこそ剣!戦場で己の命を預け、一心同体となって振るう武器になれるのは貴様だけなのだよ、アスラン・ザラァッ!」
「理解者だというのなら……」
ぎりっ、と奥歯を噛み締める音が聞こえる。先ほどまでこちらの攻撃を受け続け、虎視眈々と隙を伺っていたインフィニットジャスティスが転身する。
「何故奴を止めてやらない!?奴の苦しみを和らげてやらない!?オルフェは、今一人で戦っているんだろう!?キラとラクスを相手に!どうしてあいつに孤高の道を行かせたんだ!?」
「見解の相違だな!」
ビーム重斬脚の蹴りをクローで受け止め、直後振り返りざまに飛んでくるフォランテスとビームサーベルでの回転4連撃をこちらもビームマントとサーベルを合わせて受け止める。
「オルフェは覚悟を決めたのさ!突き進む覚悟を!血に塗られ、茨で舗装され、魑魅魍魎が障害として跋扈する道だが、平和に最も近い修羅の道を突き進む覚悟をな!ならば俺がすべきことは、その道に立ちふさがる障害を切り捨てることだとも!」
「それをオルフェが、本当に望んでいるというのか!?」
「望んでいるとも!心から!!平和を求めるからその道を望んだ!」
「これが平和だというのか!?」
「愚門だな!戦争のない世界以上に……」
ここまでの問答で一瞬思考に生じた揺らぎ。そこを突き繰り出したシールドバッシュが、インフィニットジャスティスの体制を崩す。
「平和な世界がある物かよ!」
そうだ。争いのある世界を平和と言えるわけがない。戦う為に、勝つために、『オルフェの剣』として作り出され、戦うことを楽しむ俺が言うのだから間違いない。今も、勝ったと思い繰り出した斬撃を紙一重で反らされ、肩の装甲を浅く切り裂くのにとどまった。マシンスペックで上回り、思考を読み、全霊を以って戦う俺が、決め切れず、攻められる。カガリ・ユラ・アスハ、キラ・ヤマト、シン・アスカ、親友のこと、恋人のこと、仲間のこと。様々な思考が読心を乱す互角の戦いに血沸き肉躍る。ずっとこの状況を味わっていたい。だが、この状況が他者の涙を生むのならば、俺は、
「その為なら俺は剣になろう!この楽しみなど、捨ててしまおう!」
脳裏に過ぎるのは、少年の涙。戦争の巻き添えで瓦礫の下敷きになった母親。戦いに夢中になり視野が狭くなっていた愚か者が、心を読み、その表情を目にして、初めて己の過ちに気付いた、ありふれた悲劇。
「勝つことこそ俺に与えられた意味!その意味を成すためならば……」
一心同体の剣でなくともいい。握れば勝てる、そのような陳腐だが最強の剣に
「この俺の命すらも、捨てて見せよう!」
「ッ!!」
気圧されたのか、流れ込む感情の渦の奥に、アスランの動きが見えた。
「貰ったァ!」
「それは……違う!」
「馬鹿なッ!?」
が、アスランは俺が読んだ方向と正反対の方向によけ、反撃でシヴァのバックパックと左腕を破壊した。
「そのような独りよがりな力が、強さなんかなものか!」
「まさか……!」
遠隔操作。俺の読心を破った仕掛けのタネが、アスランの思考から流れ込んでくる。
「強さとは……」
大切な誰かと……共に……
「生きる意志だ!」
迫るジャスティス。いや、まだだ!俺はまだ負けていない!負けるわけには行かない。越えなければならない!子供一人に涙を流させるような存在の、何が最強か。俺は今こそ、最強になって(涙の無い世界を)……
「(逝かないで……)」
「ッ!?」
そうして振るったビームサーベルがインフィニットジャスティスの右腕を切断した直後、涙を流す、少女の思考が流れ込み、動きを止めたシヴァを、インフィニットジャスティスの頭部から展開されたビームホーンが、
「がはっ!?」
「お前は、自分を剣だと言った。道具になってでもいいから力を求めた。大事な物の為に、もっと大切な物を捨てたんだ。感情の無い剣に……理解者が務まるか。」
故に、強さとは、生きる意志ということか。あぁ……そうだ。名前も知らぬ子どもの涙を拭くために、一人残した我らが姫君に涙を流させるとは。あぁ、これは……
「なら……オルフェの、正義と……お前たちの……正義。はたしてど、……どちらが、正しいか。せいぜい、地獄で……」
「この……馬鹿野郎。」
馬鹿なことをしたものだ。