私は銀河生命体である。
名はない。
生まれたその時から自我が芽生え、延々と宙を漂い続け、時に襲い掛かってくる低位の生命体を蹴散らし、喰らって今まで生き続けてきた。
そして今日も低位の生命体をむっちゃむっちゃ貪っていると、とある物体を発見した。
無残な姿になった生命体をポイっと放り投げ、物体の近くに寄ってみる。
ペタペタと触ったり、ぺちょっと殴ってみたり、軽く投げてみたりして調べてみた結果、これは"船"だということが分かった。
なんて不格好で不合理な形をした船だと思ったが、それでもある程度の知性があり、モノづくりに長けた生命体がこの近くにいるということがわかり、私は少なからず興奮した。
考えてもみてほしい。
今まで自分が見てきた生命体はすべて、本能のままに襲い掛かってくるケモノしかいなかったのだ。モノづくりの"も"の字もわからないような連中だったのだ。
そんなやつらしかいない、見たことがない私にとって、この発見は、この一生で一度あるかないかの奇跡だ。
私は急いでこの"船"が辿ったであろう空間を捕捉して、全力で駆け出した。
そこら中にある
っと、そんな自問自答をしていたらもう着いていた。
私の目の前にある、蒼く、きれいな惑星。
それを私は見覚えがあった。
──なるほど、これが"地球"か。
遥か昔、遠い昔に降り立った惑星にあった書物に書いてあったものとだいぶ違うが、確かに、地球だ。
その書物には、地球は真っ赤だと書かれていたが、今私が見ている地球は、蒼い。ただひたすらに蒼い。
書物でしか見たことのない地球。
私は非常に興味を持った。
確かに地球よりもきれいな惑星があったり、摩訶不思議な惑星をたくさん、数えきれないほど見てきたが、なぜだろうか。
ほかの惑星とは明らかに、根本から違うのだ。
何が、とは、正直自分でもわからない。だが、なにかこう、身体の奥から感じるのだ。
……ふと、視界の端に何かが見えた。
──……船?
なんとも不格好で、遠距離移動に向いてなさそうな船を発見した。
ぴかぴかと輝く不思議な羽を複数枚付けた、船……と呼ぶべきか悩むその物体は、地球の周りをフワフワとほんの少しずつ落ちながら飛んでいた。
それが気になった私は近づいてみると、なんと中に謎の生命体がいたのだ。
それも一匹じゃない、何匹もだ。
どれもこれも、とてもじゃないがこの空間で生きられそうにない身体をしている。
あ、私に気づいた。
なんだか、中の様子が慌ただしくなったような気がする。
……なんとなく叩いてみる。
ぷにっぷにっと聞こえてきそうな感じで叩くと、一瞬だけ静かになったと思うと、一匹の貧弱な肉体を持った生命体が、こちらにゆっくりと近寄ってくる。
そして、私が叩いていた部分に、なんかとても器用そうな肉体の一部を当てて、さっきの私と同じように叩く。
私も何となく、もう一度叩く。
生命体も、同じように叩く。
私が──。
生命体が──。
………………
…………
……
……どれだけやっただろうか。
最初は私と一匹の生命体が始めたことだったが、気が付けばほかの生命体も、脇に並んで叩き始めた。
私のほうからは何も聞こえなかったが、向こう側からは、コンコン、とリズムよく聞こえてくる。
なんだか楽しくなってきたってところで、生命体の一人がなんと喋りかけてきたのだ。
驚いた、非常に驚いた。器用そうな肉体を持ち、そこそこの知能がありそうなこの生命体は、なんと独自の言語も持っていたのだ。
今まで話し合いどころか言葉さえ交わせなかった、あの下等の生命体たちと比べるのも烏滸がましいほどの知的生命体。
私は何とかその言語を理解しようと、身振り手振りで会話を試みる。だが、お互いの言葉がなかなか伝わらないこと、少しの時間が過ぎ去った。
私も複数の知的生命体も、うーんうーんと頭を悩ませていると、一匹の生命体がおもむろにその場を足早に立ち去る。かと思えば、すぐに戻ってきた。
その手には黒く小さい、棒状の何かと、黒い枠に覆われた、白い板を持っている。
なんだ? と思いながら見ていると、なんと棒状のもので白い板に何かを書き始めたではないか!
──なるほど! あれはホログラム盤と同じようなものか!
それよりかは遥かに原始的ではあるものの、それは確かに、遥か遠い星々の民が扱うホログラム盤だった。
ほかの惑星とはまた違った進化を遂げている、この生命体たちに歓喜していると、書き終えたのか、白い板をこちらに見せてくる知的生命体。
私は壁の反射に苦労しながら、全体が見やすくなる場所に移動して、白い板を見る。そこには、到底文字ではない、絵のようなものが描かれていた。
──丸いあれは、惑星……地球かな? で、あの角ばったやつは、おそらくこの船のことを指している。で、その船のそばにいるこれは、私かな? それが惑星、船の外側から来ていることを指しているように見えるけど……この「?」の奴は何を指しているんだ?
私はこの知的生命体たちが何を伝えたいのか、必死に、それはもう全身の細胞を活性化させるがの如く、考える。
そして、ようやくわかった、理解した。
──なるほど! この「?」は、疑問を指していたんだね!? で、この「○」と「×」の模様は、そうであるか、そうでないかを私に指してほしいわけだ!
つまりこの知的生命体が何を伝えたいのかというと、『あなたは地球の外から来たの?』ということを聞きたいのだろう。
ようやく理解できたのと、次の段階に進めるという気持ちに溢れながら、私は「○」の方へと腕を伸ばす。
中にいた知的生命体たちは、一瞬固まった後、なにやら騒いだり、ハグをしたりと、急に元気になって、私は少しだけ驚いた。
──えーと? この様子を見るに、この知的生命体たちは、彼らでいうところの宇宙人、銀河生命体に会ったことがないのかな?
私は、そんな彼らを見て、ほんの少しだけ、そんなことを思ったりした。