その忌み子、〝ほぼ天才〟につき   作:悪魔さん

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あっという間に最終回です。


最終話 その後の話

 鬼殺隊解散、そして鬼舞辻無惨との和解。

 千年に及ぶ戦いは、たった一人の青年の手によって思わぬ形で終わりを迎えたのだった。

「本当に、終わったんだね……」

 産屋敷邸で、耀哉は一人呟く。

 國広によって、無惨たちを人間に戻す形で終戦を迎えた。

 鬼の悲劇は、もう繰り返される事はない。もうこれ以上、隊士たちは死ななくて済む。産屋敷家は呪いから解放された。願ったり叶ったりの大団円だ。

 しかし、死んでいった剣士たちには何と言い訳しようか。無惨が産屋敷の要求を呑んだことを称えるのか、それとも青筋を浮かべて怒っているのか……死人に口なしである以上、想像の範疇でしかない。

 まぁ、それもまた仕方ない。結果的には勝利と言えるのだから。

「……()()()、柱の皆様が」

「ああ、そうだね」

 妻のあまねに呼ばれ、耀哉は立ち上がって広間に足を運ぶ。

 すでに柱たちが勢揃いしていた。

「皆、私の勝手で先に解散宣言を出したのに……ありがとう」

「礼には及びません……あの判断はお館様でなければ、出来ないものでした」

 岩柱・悲鳴嶼行冥は、涙を流す。

 醜悪極まりない老害・槍木時治が漁夫の利を狙って産屋敷を潰そうとした、あの日。あの時の機転が無ければ、鬼殺隊はあのまま潰されていた可能性があった。鬼を斬り人を護る為の刀で、人を斬るのはあってはならない事だから。

 幸い、人間に戻った一部の上弦が戦いづらい柱たちを國広の遊撃隊と共に援護してくれたため、あの場は凌げたと言える。

「……じゃあ、改めて」

 耀哉は座布団の上に腰を下ろすと、柱たちに告げた。

「行冥、義勇、錆兎、しのぶ、杏寿郎、実弥、天元、蜜璃、小芭内、無一郎……みんな、今まで本当にありがとう」

「長きに渡り、身命を賭して世の為人の為に戦っていただき、尽くしていただいたこと……産屋敷家一族一同、心より感謝申し上げます」

 耀哉とあまねが、深々と頭を下げる。

 それに習い、ご子息たちも深々と、床に手をついた。

 ――顔を上げてください!

 ――礼など必要ございません!

 ――お館様たちがいなかったら俺たちは……!

 ――そうです! 鬼殺隊が鬼殺隊で在れたのは、産屋敷家の尽力が第一です!

 柱たちの想いは、感謝の言葉となって産屋敷家のご子息たちに降りかかった。

「……ありがとう……そう言ってもらえると私たちも救われる」

 耀哉の目に涙が浮かんだ。

「……お館様、無惨たちはどうなったんですか」

「それについてなんだけどね――」

 実弥の質問に、耀哉はとんでもない答えを言い放った。

()()、國広に預かってもらう事にしたんだ。誰も引き取ってくれなさそうだからね」

『――ハァァ!!?』

 柱たちの悲鳴に近い絶叫が、産屋敷邸に響き渡った。

 

 

 時同じくして。

 國広は今回の戦いの最大功労者として、産屋敷家から一族の別邸と目玉が飛び出るような大金を報酬に賜った。

 しかし、いつの世も旨い話には裏があるもの。それと引き換えだと言わんばかりに、とんでもない事案を引き受けた。

「……國広……醤油……」

「あいよ、(みち)(かつ)。無惨は?」

「頂こう」

「――いや、待てやぁぁぁぁ!!!」

 産屋敷家別邸改め、國広邸の大広間で獪岳は叫んだ。

 思わず立ち上がる彼に、食事中の全員の視線が集中する。

「どうした相棒? 腹でも下したか?」

「んな訳あるかボケ!! 何で()()()()いるんだよ!!」

 獪岳の言うコイツら――それは、鬼から人に戻った無惨たちだ。

 実を言うと、一昨日の夜に國広は耀哉から無惨たちを預かって欲しいと頼まれたのだ。理由は簡単、どう考えても柱は引き取ろうとしないだろうという推測である。

 童磨は元々が新興宗教の教祖、堕姫とその兄の妓夫太郎(ぎゅうたろう)は吉原で生活できており、玉壺も壺職人として生きられる。無惨は無惨で人間社会を熟知しているので問題ないが、それ以外がはっきり言ってポンコツなのだ。居候として誰か引き取ってくれないか頼もうと思っても、不俱戴天の仇だった相手の衣食住を保証してくれる物好きが身内にいるわけもない。

 そこで、鬼への恨み憎しみが皆無で自立した生活を営み、集団生活にも適応できる貴重な人材として、國広に白羽の矢が立ったのだ。良く言えば適材適所、悪く言えば貧乏くじであった。

 さすがの國広もこれは嫌がるのではと思っていたが、当の本人はそれをあっさり承諾。何だかんだ彼もお人好しである。

「別に生活苦にはなんねぇはずだぜ。壺職人っつーちょうどいいシノギもある。土地も余ってるから畑作りもできる。山暮らしの延長線上だと思えば問題ねぇ」

「……お前なぁ」

 すでに鬼との因縁をキッパリ絶った國広は、生活に支障はないと断言。

 獪岳も國広は妥協しないと薄々察したのか、それ以上の追及はしなかった。

「……ところで、玄弥は?」

「兄貴のところに帰ったよ。遊撃隊も解体したからな、真菰も狭霧山に帰った。有一郎も弟のスネかじるらしいしな」

「……お前こそ、山に戻らねぇのか」

「ここで隠居するって決めたんだ、今更戻る気はねぇ」

 あとで解体しに行く、と國広は付け足す。

 思い切りのよさはさすがと言うべきだろう。

「……で、これからどうすんだ」

「とりあえず、今後は半天狗のじいさんの葬式の金策だな」

「ひっ!?」

「そりゃそうだろ、こん中で一番最初に〝あっちの世〟に行くのは()()()()()()一番年食ってる奴に決まってる。そうそう、生前葬を済ませるって選択肢もあるぞ」

 元上弦の肆であった半天狗のお迎えは近いと、わざわざ本人の前で言い放つ國広。

 確かに事実ではあるが……。

「ヒィィィ、恐ろしや、末恐ろしや……!!」

「諦めろ、もう鬼になれねぇんだから」

 味噌汁を啜りながら、國広は無慈悲に告げた。

 そんな中、猗窩座――もとい(はく)()が國広の顔を見た。

 彼は記憶を取り戻して以来、ずっと重い空気を纏ったままだった。

「國広……俺はどうすればいい」

「またか? 生きて償い続けりゃいいっつったろ……そんなに死にてぇなら他所でやんな」

「そうじゃない、どう償い続ければいいのかわからないんだ……!!」

 狛治の蒼褪めた顔には、曇りなき悲嘆が浮かんでいた。

 それを見た國広は、顔色一つ変えずに言い放った。

「今まで殺した人間の冥福を死ぬまで祈るぐらいできるだろ」

「っ……」

「俺はお前ら全員の罪を自分(てめぇ)の物差しで裁けるほど偉い存在じゃねぇ。それは地獄の閻魔がやることだ。残された命をどう使うかは自由と言えばそれまでだが……最低限のケジメをつけろよ。これは他の奴らにも言えることだからな」

 諭してからご飯をかき込む國広に、狛治は押し黙った。

 静まり返った広間で、無惨は一人立ち上がった。

「くだらん」

 その言葉に、鬼だった者達は一斉にかつての主君を仰ぎ見た。

「私には何の天罰も下っていない。何百何千という人間を殺しても、この千年神も仏も見たことがない。……お前達もそうではないか」

「俺だって神も仏も見たことねぇよ。……まぁ、()()()()()()()()はそう言うか……」

 意味深な呟きをする國広を、無惨は一瞥する。

「……今度供養塔を作る。全員で弔ってやれば、少しは成仏してくれるだろ」

『國広……』

「犯罪に走んなきゃ俺は特別口は挟まねぇ。余生謳歌しな」

 食事を終えた國広は立ち上がり、膳を片付け始める。

「……もう終わったんだ。争う理由も命を懸ける理由もねぇ。お前らはもう人間なんだよ」

『…………』

 言葉に詰まる彼らを横目で見ながら、國広はその場を後にした。

「……あのような若造に、この私が屈したのだな」

「無惨様……」

「…………忌々しい限りだ」

 そう吐き捨てる元鬼の始祖。

 しかし言葉とは裏腹に、その表情はどこか清々しかった。

 

 

           *

 

 

 月日は流れ、某日。

 國広は邸宅内に作った墓に手を合わせていた。

 墓石には「槍木冴子之墓」と彫られており、線香が仄かに香っている。

「…………」

「國広さん」

「! 炭治郎か」

 気配を感じ振り向けば、炭治郎が禰豆子や同期たちを連れて立っていた。

「……禰豆子が結婚したってな。おめっとさん」

「いえ! 國広さんのおかげです、全部!」

「本当にありがとうございました!」

 頭を下げる炭治郎と禰豆子につられ、善逸も頭を下げた。伊之助は通常運転と言わんばかりに胸を張った。

「わだかまりはまだあるか?」

「……正直言うと、あります」

「だろうな。……でも、もう大丈夫だろ?」

 國広がそう問えば、二人は頷いた。

 無惨は家族の仇ではあるが、彼が鬼になる以前の話を聞いた事で、二人は少しずつ認識を改めていた。

 家族の命を奪ったことは許せないが、彼が命に嫌われ続けた日々を送っていたことには思うところがあったのか、お互いに歩み寄っていこうとしていた。それによって無惨も少しずつではあるが、人間らしい感情を取り戻しているようにも思えてるらしい。

「無惨はアイツなりにケジメつけようとしてんだ。それを見守ってやればいい」

「「…はい!」」

 二人は元気よく返事をする。

 すると今度は、見慣れたおかっぱ頭と書生姿、麗しい女性が墓前にやって来た。呪いが解かれた耀哉と、人に戻った珠世と愈史郎だ。

「やあ」

「國広さん、お久しぶりですね」

「珍しいな。とうとう不倫旅行か?」

「違うわ戯けぇ!!」

 質の悪い冗談に愈史郎が目を剝くと、國広は「悪かった」と軽く謝った。

「……國広さんのお母さん、ですか」

「今まで真面に弔えなかったからな……でも村は滅んだ。少しは報われると信じてぇ」

 珠世の確認に、國広が答える。

 彼女は國広の隣に立つと、手を合わせて冥福を祈った。

 もし冴子が國広を命懸けで逃がさなければ、あるいは冴子が村の価値観や悪習に囚われていれば、少なくともこのような平和的な結末にはならなかった。大勢の血が流れ、大勢が死んでいただろう。

「――あなたの母は、偉大な方です」

「……400年も戦い続けてきた珠世さんに比べりゃ屁でもねぇと思うけどな」

 冴子の事を手放しに褒める珠世に対し、國広は恥ずかしそうに頬を掻いた。

 そんな様を見て、耀哉たちは朗らかに微笑む。

「國広……本当にありがとう。君がいなければ――」

「そっから先の言葉はいらねぇぜ。別に礼を言われるようなことはしてねぇよ……ただのお節介さ」

 そう呟きながら、國広は線香を墓前に供える。

 さざ波のように静かに揺れる煙が、風に乗って天に昇っていく。

「……せっかく来たんだ、ウチで昼飯でも食っていけ」

「それは嬉しいね、遠慮なくごちそうになるよ」

「グワハハハハ! 天ぷら寄越せ!」

「こら、伊之助!」

 賑やかな笑い声が、邸宅に響き渡る。

 

 ――好きに生きて、好きに笑って。愛してるわ。

 

「!」

 不意に、どこか懐かしい女性の声が背後から聞こえた。

 國広はバッと振り返るが、そこには母が眠る墓があるだけである。

「母さん……?」

「どうした、國広」

「……いや、何でもねぇ」

 狐につままれたように首を傾げる國広は、頭を掻きながら邸宅へ向かう。

 そんな彼の背中を、ぼんやりとした姿の女性が笑顔で見送っていた。

 

 

 

その忌み子、〝ほぼ天才〟につき 完




これにて完結です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
もうちょっとじっくりやりたかったんですけど、早く次回作がしたくて急ピッチで仕上げました。
約9ヶ月の連載でしたね。本作はこれでおしまいです。

……で、肝心の次回作はヒロアカです。
作者の第1作目がヒロアカが元ネタでしたが、活動開始から8年目を迎えようとしている中、再びやりたくなりました。第1作目の頃は本編完結してなかったですし。(笑)
かなり挑戦的な作品になるんじゃないかなと思います。今月中には投稿します。
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