「うぉー」「わがよのはるだー」「「かこめー!」」「「にがすなー!!」」
「……こりゃ、ついにくたばったかぁ? 俺」
一瞬意識が飛んだと思えば、全く身に覚えのない景色が広がり、足元には謎の生物。
集るちっさいソレ等から敵意は感じない。
よじ登ってくる時に重さも触感もあるってことは、幻覚ってことはないと信じたいところだが……いや、ちっさすぎねぇか? くそ不本意だけど銀の野郎の視線を体験してる気分だ。
「おぉぉ?」「うらやま!」「わたしものせろー!!」「えこひいきだー!」
見た目通り手のひらに収まるサイズ。一人当たりの重さはちょっとデカいキーホルダーぐらいか?
「さて、そっちの言葉は分かるが、こっちの言葉は通じるのか?」
「ええこえやー」「ときめきをかんじますね」「ささやきをきぼうする!」「みみもとでね、やさしくね?」
「どういう存在なんだ。人間……ではないよな」
「われわれは、ようせいさんです」
「妖精さんねぇ……」
囁やけなんて要望を無視して呟けば、クライミングを終えて俺の頭で寛いでいる個体から"妖精"という答えが返ってきた。
まぁ、羽とかでパタパタしちゃいないが、妖精サイズと言われれば確かにこんなモンをイメージはできるな。ただ生まれてこの方、巨大生物は見ても妖精なんて存在は見たことがなかった。こうなると、マジでくたばって死後の世界にでも来ちまったか?
ってか増えすぎだ。いつの間にかすごい数に集られて、下手に動けば潰しそうになる。
「ちょっと座らせてくれ」
「よろこんで!」「ささ、こちらへ」「ひざはもらうぜ」「かたはもらうぜ」「あたまももらうぜ」
「遠慮の欠片もねぇな」
「「「えへへ」」」
「褒めてはないからな?」
何か行動を移そうにも、わーきゃーわーきゃーと集ってくる自称妖精達から聞きたい事も聞けない現状。落ち着くまでの間は、とりあえず分かりそうな範囲で現状を整理でもするか。
まず、足元は砂。視界の先はおそらく海。後ろには森に近いぐらいの木々もあるが、流石に木の種類で気候やら地域の予想をできる知識はない。
服は記憶の最後と同じエアレイダー装備一式か。無線機は……まぁ死んでるな。武装は無し。体に損傷も見る感じは無いな。内出血の様子もなく痛みもない。疲労感も特に今は感じない。
「いや、メットがねぇな」
「あれです?」
「あ、あぁ、あれだわ」
頭を触ってメットが無いことに気付いたが、妖精の一人が指す方に転がっていた。ついでに妖精が持ってきてくれた。
わるいな。
「レーダー類は動いてはいるか。ただ妖精の反応がないのは、故障か仕様か分からんなぁ」
頭の上で寛いでいる妖精をどかそうとも思ったが、久々にゆっくりと素肌に感じる潮風が心地よく、とりあえずメットは着けずにフルフェイスの光学シールドを覗き込めば、レーダーの類は機能しているようだ。
集って寛いでいる妖精達の反応はないが、俺のマーカーはしっかりとある。敵のマーカーは今のところ無いから、ひとまずは安心か。
「まぁ……今後も赤マーカーを見る機会があるかは知らんけど」
記憶の最後。銀の野郎を撃破したのは確かなはずだ。
何でそうなったか結局分からんまま、死んだらループするなんて奇っ怪な状況で銀の野郎を撃破した後はどうなった――あぁ、そうだ。撃たれたんだ俺。
しかも丁度一段落でメットを外した時に、頭をズドンだったな。レーダーにも敵勢力としては映らなかったからなぁ。
思い出してきた。相手の手もガッタガタに震えていた気がするし、アレでヘッドショットされるとか運が悪かったか。
あれは確か……プライマー共と対話して和平がどうの、しまいにゃ降伏論がどうのとか言っていた政治家だったかな。よくあの戦場で生きていたもんだ。そして俺を殺せたもんだ。羨ましくなる悪運だよ本当。
「しかしそうか。俺は人類に殺されたか」
誤射やら自殺やらでもループしていたはずだが、お役御免ってことなのかねぇ。
それとも、明確な殺意を持って人類に殺されるとループは発動しない。みたいなピンポイントの条件でもあったのかもな。
「あの世と考えりゃ、妖精なんてのが居てもおかしかないか」
陽気がいいからか、うたた寝をし始めた妖精もで始めてだいぶ静かになったな。
まぁ、俺の死因なんて急いで考える必要もないか。くたばったのは事実だろうし、人類の英雄なんて呼ばれていたりもしたが、その英雄が人類に殺されるなんていつでも笑える滑らない話にでも思えばいい。
せっかく静かになって話しができそうなんだ。次にはこの死後の世界の情報収集でもしてみるか。
「誰でもいいんだが、この世界の基本情報を教えてくれ。俺みたいな人間は他に居たりするのか?」
「いませんねぇ」「っぽいのはいますねぇ」「てーとくさんはいます」「でもてーとくさんはいません」
「……?」
「「「「?」」」」
いや、なんで分からないの?みたいに首を傾げられても困る。
とりあえず"てーとくさん"は何かの呼称だろうが、人間にしろてーとくさんにしろ居るのか居ないのかハッキリしないな。
あ、いや、そういう事か? 多分片方のてーとくさんは俺を指してるのか。だったら――あん? 自分の名前が思い出せない?
EDFの連中の顔は細部までではないにしろ、普通に見たら判断付く程度には分かる。親の顔も名前もまぁ問題ない。さっきも最後の記憶を思い出すことは出来た。
ただやっぱり自分の名前だけ思い出せない。ドッグタグも名前の所だけ空白になって役に立ちそうにない……まいったな。
「てーとくさんで統一されると判断がまだつかないから、とりあえず俺はストーム1だ。略したりは好きにしていいが、てーとくさん以外で頼む」
「くとーてさん?」「わんさん」「すーさん」「しれー」「しれいかんさん」「いっち」
「あぁうん、まぁ、一つにしろとは言わないけど、せめて俺が俺の事だなって分かるやつで頼むな」
――
―
んー、日が沈むほどに時間は掛かった、
おかげで妖精達から色々と情報収集はできたが……死後の世界にしてはなんとも現実的な世界だな。少なくとも天国ではなさそうだ。
価格や価値がどうかは分からんが通貨は俺の知るモノと大差なく、年代は一九九◯以降である事は確か。一日の時間も二十四時間で変わりないところを見ると、天文学の発展やらこの星の周りの宇宙に大きな違いもなさげ。
天国なんてモノよりは、もう一つの地球って言ったほうが納得できるな。
もちろん違いはある。
一つはこの俺の周囲で祭りを始めた妖精達。
単純な科学力こそ元の世界の方が上だが、妖精が持つ技術は理外の領域だ。
妖精用のバーカウンターからプラモデルサイズの戦闘機。小さいものだけかと思えば、俺の寝床となる小屋もいつの間にかできている。そして何より驚いたのは、俺の世界の技術に適応していること。個体によって得手不得手はあるものの、技量もおかしければ速度も過程も謎。
まさか、メットのシステムに手を加えて自分たちの探知とマーカーを用意できるとは……いや、妖精の数が数すぎて鬱陶しいから基本オフは決定しているが。
二つ目は艦娘と深海棲艦という存在。
深海棲艦に海域のほとんどは占領されていて、日本はほぼ鎖国状態。他所の国も海を跨いでの交流はかなりの犠牲が危険を伴っているとかなんとか。
そんな深海棲艦と対を成すのが艦娘らしく、唯一深海棲艦に有効打を与えられる存在。様々な艦船をモチーフとした性能があったりなかったり……というのが妖精談。
又、艦娘は提督もしくは司令官などと呼ばれる指揮官が居て本領が発揮できるらしく、適正云々、試験云々を終えて認められると海軍から鎮守府に着任しろと辞令が出るらしい。
そして三つ目。俺にも妖精ばりの不思議パワーが備わっているということ。
お袋が聞いたら泣いて喜びそうなこの力は、確認したところエアレイダーで扱っていたモノに限りではあるが、任意で武装を呼び出せる。リムペットガン系から始まり、設置兵器にサポート装置、特殊系にとどまらず要請も一通りできる。
元の世界では要請を行うには現地功績やら事前申請やら手間があったが、こっちでは妖精が集めてくるボーキサイトやらの資材を消化するだけでいいとのこと。
ブラッカー等のビーグルもそうだったが、いきなり現れるプラモデルサイズのDE-202やらに乗り込む妖精達は見てて面白かった。いやまぁ、調子にのってバルガを出してみようと思ったものの、今は資材が少ないしかなり減るから無駄に使うなと怒られもしたが……その辺は元の世界と変わらん世知辛さがある。
とまぁ、後は妖精も個体によって色々と特徴があるぐらいは分かった。
それで現在、手渡された双眼鏡を覗けば、黒蟻より少し小さめのデカい茄子みたいなモノ――妖精曰く深海棲艦 駆逐艦イ級が顔を出している。
「んで、近代兵器は効かないんだっけか。妖精達の見解では、リムペットガンも通らないと」
「めくらましぐらいなら」「よろっとさせるぐらいなら」「いきゅーなら」「われわれをつかうべし」
「なるほどなぁ……"展開"」
意識してから呟けば、グループに分けられた武装の名前が並ぶ半透明のウィンドウが現れる。
衛星兵器だけ名前が黒くなっているが、どうやらこれは使えないということらしい。妖精達はなんとかすると言っていたが、散々っぱらお袋が推してきていたから……まぁ、うん。別に今は使えなくても問題はない。
「イ級の耐久が分からんが、とりあえず"150ミリ砲D"」
距離は八百。さっきリムペットガンを試し打ちした感じ、元の世界と同じ感覚で撃って問題なし。
――ビーコン全弾着弾。
「うぉぉぉ!」「まかせろー!」「はでにいくぜぇぇ!」
いつの間にかの用意された妖精用飛び込み台みたいなモノを使い、ワラワラとガンシップに乗り込み飛び立つと、明らかに法則ガン無視で元の世界と同じ150ミリ砲がイ級にぶち込まれる。
総数十。着弾確認。
――轟沈確認。
四発目からはオーバーキルだったな。
ただこれで、要請……というより妖精達を介せば俺でも深海棲艦は沈められる事は分かった。潜水母艦のエピメテウスとかは無いはずだが、ミサイル系統の要請も問題なくできるみたいだし、その辺は気にしなくていいか。
「トーチカが機能するかの検証もしておくべきだったかもな。効果があるかは分からんが、持続時間の検証も兼ねて設置だけはしてみるか」
アブソ……いや、電磁城壁で様子見だな。
電磁城壁なら周辺の浜辺も小屋も範囲内に収まるだろう。あぁでも空爆も警戒対象か……結局アブソも使わんとか。小屋に横付けで対策しよう。
「デコイやらポストが意味あるのかも気になる所だけども、相手が居なきゃ分からんな。後はライフベンダーぐらいは試せるかな」
とりあえずライフベンダーZDを設置してみたが、効果はありそうだな。ナイフでアーマーを削ってみればちゃんと修復されている。
しかしコレ、相変わらずよく分からんな。人体に害はなく、ナノバイオアーマーだのなんだのと、聞いても本気でよく分からん技術が使われているのは説明されて知っているが――「「「「ほわぁ~」」」」「あ、これだめなやつ」「なるほどぉ、なるほどなぁ」――マジで大丈夫なんだろうな。
ベンダー中毒者を大量生産してもう半月程、なんだかんだ妖精達とも親睦を深めて今や小さなご友人。そんな妖精達と今後を考え始めた頃。
いつもは図々しく遠慮なしによじ登ってきたり、ポケットに潜り込んできたりしている妖精達の中の一体が、これ見よがしに目の前でもじもじちらちらとしている。
「トイレならその辺で勝手に行「でりかしー!」――ごめんて。それで、どうした? 何かあるなら聞くだけ聞くぞ」
何か言いづらい事なのかは知らんが、今更しおらしくされても調子が狂う。
「……かんむすをたすけてください」
「んじゃ助けに行くか」
どこからどう助けりゃいいか分からんから、とりあえずはきょとんとしている妖精をひっつかんで肩に乗せ、詳しい話を聞くとしよう。