「やれるかやれないかで言えばやれるとは思っていたけどさ。バルガってこんな気持ちだったのか」
妖精のお願いを詳しく聞けば、なんでも艦娘が違法に拉致されたらしく、俺にはその艦娘を助けて欲しいとのことだった。
深海棲艦と戦うことができる艦娘ではあるが、陸では武装規制やら海上時に比べて肉体的にも制限があるやらで、簡単に言えば制圧不可能ではないらしい。
仮にの話をするなら陸軍と艦娘が一部隊同士で争った場合、準備をした上で互いに陸地戦闘であれば陸軍に軍配が上がるぐらいだろうとは妖精談。
そんなことを考えられたのかと驚いたのは記憶に新しいが、まぁ、そんなこんなで今回の救出対象を拉致った相手は不意をついたと考えてもそれなりに手練れなのだろう。
「そろそろですよー」「おとしますよー」「みえますよー」
妖精的マジカルパワーで拉致られた艦娘の場所は把握できているらしく、それならと思いつつ、助け出すにしても大変そうだな……なんて考えていた矢先に移動手段が無いことに俺は気付いたんだ。
聞けば対象は自分たちが居る島から海を挟んだ向こう側。動かせそうな船がある様子もないしどうしたもんかと悩んでいた俺を他所に、とある一人の妖精がポンッと俺の方を叩いて差し出してきたんだよ。いい感じのワイヤーロープを。ついでにロープの先は俺のエアレイダーのジャケット。
「救出対象は一人でいいんだな?」
「かわいいかんじで」「てだしはダメなかんじで」「おこりますよ!」
「……分からんから一人ぐらいついてこい。一人な? 大人数は面倒見きれんぞ」
「「「「「でーとだー!」」」」」
「こいつら……」
どうやって決めたのかは知らんが、上からロープを伝って降りてきた妖精が組んでいた俺の腕を足場にして移動。胸ポケットを陣取ったと同時に丁度走行中のトラックの運転席付近に到着する。
まぁ、もっと高いところから落下した事もある。だから怖いかと言われればそうでもないが、慣れているわけでもなく、もっとローブ伸ばしてくれと言いたい……がしかし、これ以上は風に煽られすぎるのも理解できる。つまりウダウダ思った所で腹を括らんといけないわけで。
「とうか!」「とうか!」「とうか!」「「「ごぶうんをー!!!」」」
拝啓バルガよ……気持ちを味わうなら、地面から生えたかったわ。
なんて思いを心にしたため、パシュンと小気味いい音と共に俺はトラックへ向けて落下する。
「あ、やべ。これ乗れるか?」
――
―
それは突然だった。
車体が揺れたかと思えば、天井を踏み鳴らすが運転席の方へと進み、次の瞬間には助手席の窓を割って伸びた腕が最寄りの一人を引きずり出し、変わるように入ってきたフルフェイスの男が運転手に見たこともない銃を向けながら一言。
「動くな」
いきなりの事で従う様に車内にいた四人は固まってしまい、入ってきた男はいつの間にか握っていた二丁目のこれまた見たことのない大きい銃を後部へと向けて撃つ。
射出された弾は遮られる事もなく最後尾のガラスに張り付き、赤いランプと点滅させている。
「しっかり見とけ。お前もバックミラーで確認しとけよ」
男は言うやいなや弾を打ち出した銃を一瞬手放し上から鷲掴みにして側面のボタンを押せば――トラックの後方は吹き飛び風通しが良くなった。
「理解できたな? ハンドルをしっかり握っておけ」
引かれたトリガーと共に、自分の頭にも吸着爆弾であろうソレが張り付き点滅しはじめた運転手の震えは更に強くなる。しかしそれでも逃げてしまえばどうなるか見せつけられた運転手は、呼吸を荒くしながらもハンドルから手を離そうとする様子は見られない。
「さて、言葉は通じてるな? 今更とぼけるなよ? 要件は一つ、この中のモノを貰うぞ」
男――ストーム1が運転席の後ろに備え付けられていたロッカーを軽くと、中から小さくも何かが動く音がした。
「日本語、少しだけ、分かる。要件、ダメ」
「ダウトだ」
返事をした男の後ろで銃を構えていた男が飛び出してくると同時に、ストーム1は一歩踏み出し倒れ込みつつ腰から下げていた台座にミラーボールが乗っているキーホルダーのようなモノを床に叩きつけた。
キーホルダーは設置されると変形しながらサイズを膝丈ほどにまで大きくしていく。そしてその間にもその効果は発揮されていた。
一人が撃ち出したからか、好機と捉えてか残りの三人も各々が弾切れを起こすまで撃ち尽くした……が、突如として四人とストーム1の間に現れた向こう側が見える程度の赤い壁を貫くことはない。
「こっちの普通の銃弾もトーチカで防げると。検証に付き合ってくれて感謝する。まぁ、運が良けりゃ生き残るだろう」
ストーム1は最初から持っていたリムペット・スナイブガンとは別にリムペットガンを取り出すと、何をされるか察して慌てて最後尾から飛び降りていく四人に当てないように車内に向けて乱射する。
そうして残ったのは、ストーム1とガタガタと音を鳴らしながらもハンドルを離さない運転手。そして、開けたロッカーの中で状況をイマイチ理解できていない様子の艦娘を合わせて三人のみ。
「これは、想像以上に子どもだな……動けるか?」
「ぁ……ぅ……」
「あー……少し触るぞ。外傷は無し、瞳孔も問題なし、呂律は回らない感じだな。力は……入らない感じね。麻酔か筋弛緩剤か? 良く分からんな。とりあえず俺は君を助けに来た。証拠は、あ、これでいいか?」
適正がどうので見える人間は限られるらしいが、艦娘は総じて見えるという事を思い出したストーム1が胸ポケットから妖精を出して渡せば、艦娘は驚いた様に目を見開いてゆっくりとした動作で頷いた。
「結構。なら今から君を運ぶが暴れないでくれ。それと君も運転ご苦労、ついでにコレも貰っていくよ」
運転手の肩をポンと叩いて労い、全員が共通してジャケットに付けていたバッジをちぎり取り、ダッシュボードの上に散らばっている書類を数枚押収。
そして俵担ぎもしくはお米様抱っこと呼ばれるスタイルで艦娘を担いだストーム1は、四人が飛び出した最後尾へと足を進め暫くすると上空から垂れ下がったワイヤーロープを握り、そのまま上空へと引っ張り上げられていった。
残された運転手がゆっくりと時間をかけてトラックを停めて振り返れば、バックミラーで見えていた惨状こそ現実を突きつけてくるが、吸着爆弾や謎の壁を出す装置等は何一つ残っておらず、自分の頭に張り付いていたはずの吸着爆弾もいつの間にかその重さと共に消えていた。
一方、無事に艦娘を救出したストーム1は離れた場所へと移動するとバルガ運搬スタイルへ移行し、艦娘は所謂ファイヤーマンズキャリーで担がれ、なんとも言えない表情を浮かべならも無事にストーム1の拠点へと帰還を果たす。
――
―
「あ”ぁ”~くっそ肩凝るなアレ。できれば二回目のバルガスタイルは御免被りたいが……」
何度目かの伸びをして、やっとこさいい感じのフィット感を得られたことに満足して振り返れば、そこには妖精の山が着々とサイズと範囲を大きくしている。
「んぉー」「ほぁー」「これこれぇ!」「ぜん・のう・かん」
などなどと好き好きに言葉を漏らす妖精共を見ていると、一瞬誑かされたか?と思ってしまうが、先程よりも顔色が良くなっている艦娘を見れば、嬉々として"ライフベンダーが有効だからはよはよ"と急かしてきた妖精の言葉も嘘でもないのだろう。
「へぁ~」「ここにすみます」「わがこきょー」
艦娘に害が無いのか本気で心配になるんだけどな。
「気分は? キツくなければ所属というか、君の送り先を聞きたい」
「呉鎮守府の伊168よ。イムヤでいいわ……えっと、助けてくれてありがとう」
「礼は集ってる妖精達にでも言ってやってくれ。しかし呉鎮か……広島でいいのか?」
「うん、広島だけど? 他に呉鎮守府があるの?」
「あぁいや、ちょっとした確認だ」
助け出した事と妖精達が集っているからか敵意は無いが、懐疑的というか警戒心はそれなりか。おそらく妖精に聞いても分かったこと。広島かの確認はしなくてもよかったかもな。
まぁ、運搬の時に暴れなきゃそれでいいか。
「妖精さんや、ここから呉までどれぐらいだ」
「んー、そうですねぇ」「およげばたくさん!」「とべばちょっと!」
「今日の移動法ならどれぐらいだ」
「ここでのんびり」「いちじかん?」「そしたら~~」「「「にじかん!」」」
「さっき降下した場所、ボロボロだったが見えた標識も看板も英語だったぞ」
「「「「「???」」」」」
そうだったな。深く考えたら負けだったな。半月で俺は学んだんだ。
とりあえず一時間ぐらいしてから出発すれば、そこから二時間で着くってことは分かった。さっきも片道二時間だったが気にしない。日頃水平線の向こう側に何も見えんのも慣れたもんよ。
「あの、イムヤも質問いい?」
「どうせ一時間は暇だ。遠慮はいらない」
「じゃあ……ここどこ?」
なるほど。そりゃ気になるよな。きっとさっきの移動と時間を計算でもして、大体の場所を算出しようとしたんだろうな。
わかるわかる。該当しそうな海域が浮かばなかったんだろ? だから俺の返答にも納得してくれ。
「俺が知りたい」