妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
婚約前の二人きりの時期の謎時空。
付き合っていないのに甘い兄妹のお話です。
「すっかり秋めいてきましたね」
ソファでカップを傾けながら、開けた窓の外の音に耳を澄ませる。
りーりー、と虫の鳴き声が季節の変わり目を教えてくれていた。
「日中はまだまだ暑いですが、もう秋が来ていたのですね」
ふわり、とカーテンが膨らみ涼しい風が入ってくる。
「そうだな」
隣に腰掛けていたお兄様が上体を傾けカップを机に戻してから、腰を抱き寄せた。
「これだけ涼しくなれば、触れやすくなる」
「まあ。それではまるで夏は触れるのを我慢されていたような口ぶりではないですか」
涼しくなったと言ってもまだ九月も初旬。長袖には少し早い気温だ。
抱き寄せられて触れた個所が熱い。…これに関しては気温体温だけじゃなく羞恥心で熱いのだけど。
お兄様、真夏だろうと関係なくこうして隣に座られているはずなのに何を、と訴えるもお兄様はそよ風程度にしか感じられていない模様。
「気付かなかったな?ならこれからもっと触れていくだろうから夏との違いを感じられるようになるだろう」
「そ、のようなことをわざわざされる必要はありません」
というか宣言して妹を撫でまわそうとなさらないでください!危険!大変危険ですお兄様!!
よくわからないけれどなんかこう、フェロモン的なね!モノを感じるというか。
それは妹相手に漂わせるものじゃないです。至急引っ込めて欲しい。
「これも季節の変化というヤツだ」
どこの世界に春夏秋冬触れ合い方の違いで季節を感じる兄妹がいるのです!?
「お兄様はもう少し風流を学ばれるべきです」
「俺には歌を詠んで愛を乞うよりも、こうして直接の方が得意のようだ」
「…もう、お兄様ったら」
(どうして!そんな過激なことを妹に言うの!!)
どうしよう。お兄様がとんでもない女たらしになってしまわれた。こんなにさらっと口説き文句を言われるなんて。
だが残念ながらそれが家以外で披露されているところを見たことが無い。
お兄様教育をどこかで間違ってしまったというのか。
「一体どこでそういった文句を学ばれるのです?」
どこでこんな知識を身に着けてくるのだろう?
本の中?それとも軍の諸先輩方とか??先生は俗世から離れているから九重寺の方々ではないはず。
この質問にお兄様は顎に指をかけて考えこむ。
…そこまで真剣に考えられなくてもよかったのですけれど。
待つことしばし、出た回答がこちら。
「どこで、と言われてもな。深雪を見ていると自然と出てくるんだ」
…本人の素質によるもののようです。
お兄様天然であれらのセリフが出てきちゃうんです?流石ラノベ主人公、ということなのだろうか。
「まるで私のせいみたいな言い草ですが、お兄様のボキャブラリーから出てきているのですから、お兄様自身の素養によるものでしょう?」
「素養、なあ。お前を讃える言葉を探しているうちに身に付いたものだからそうとも言えるのだろうが」
え…お兄様、妹を讃える言葉を探すって…もしやお兄様にとって妹を褒めることは兄として必須だと思われてる?
そういえば原作でもいつも妹を褒める言葉が豊富だったけれども。
「別に無理に学んでいるわけではないぞ」
「!」
どうやら顔に出てしまっていたらしい。
お兄様が否定されるけど、今学んでいるって言ったってことは本当に何か調べたってことだよね。
じぃ、と見つめるとお兄様は降参、とばかりに両手を上げてため息を漏らした。
勝った!
「一体どんな本を読んで学ばれたのです?」
あれだけの甘いセリフや例えが自然に湧き出るはずはないと思っていただけに、お兄様の『参考書』が気になっていた。
その秘密が今、暴かれる!と思うと興奮が隠せなかった。
(恋愛小説?それとも大穴で少女漫画とか!本ではなく映像って方法もある)
まるで想像ができなくてどんな答えが返ってくるのかと目を輝かせて見つめると、お兄様はそんなに面白い話でもないんだがな、と苦笑して――
「辞書だ」
「……はい?」
「辞書を読んだ」
じしょ…辞書?
…辞書は恋愛指南書でしたっけ??
うまく言葉が飲み込めずにじっと見つめたまま固まった様子が面白かったのか、ふ、と笑って頭を撫でられた。
「そんなに驚くことかい?言葉を知るには辞書が一番正確でわかりやすいだろう」
…うーん、頭のいい人の勉強法は理解しがたいというけれど、お兄様も独特な勉強法。
するり、と頭を撫でた手が滑り落ち頬を包んで顔を上げられた。
瞳がかち合う。
「この美しい黒をなんと表現するのかと、片っ端から黒を調べた。特に深雪のこの瞳はその時々で色を変えるから同じ黒でもいくつか近しい言葉を用意する必要があったし、この見事な黒髪もまた違う表現が必要だった。
日本語はいいな。黒を調べるだけでたくさんの言葉があって深雪に当てはまるものを見つけるのは楽しかった」
「はぁ…」
お兄様が楽しいのならいいのだけれど、結局のところ――
「言葉のチョイスはお兄様自身であって、やはりお兄様には元からそういった素質があった、と」
「その俺の素質というのは一体何の素質なんだ?」
「それはもちろん女たらしの…あ」
口を滑らせて青ざめる私に、お兄様はにっこり微笑まれて。
「俺が女たらしに思えたのかい?ひどいな。俺は弄んだことも無ければ誘惑したことも無いんだが」
頬に当てられていた手はさらに下に滑り落ち、顎を伝って首元へ添えられた。
する、と指が滑る度にぞくぞくする!
今!まさに誘惑されて弄ばれている状況にしか思えないのだけど!
「俺は深雪に対しては本気だからな。たらしていると思われているのは心外だな」
「…そんな笑われて。弄ばれているではないですか」
ぐいぐい来るお兄様から逃れようとするのだけど、腕を突っ張ってもお兄様から距離が取れない。
もう!心臓が破裂してしまったらどうしてくれるというのか。
「これは兄妹のじゃれ合いであって、弄ぶだなんてとんでもない」
くつくつと笑って最終的に抱き込まれてソファに倒れ込んだ。お兄様が下敷きになる形で。
「わかったか?」
「…何がです?」
「こんな触れ合いが夏の暑い時期にできるわけがないだろう?」
…そういえば、この話の発端は季節の変わり目でしたっけ。
もうすっかり忘れてしまっていた。
りー、りー、と鳴いていた虫の声は移動してしまったのか、聞こえ無くなっていた。
「俺たちがうるさくてどこかに行ってしまったかな」
「熱すぎて秋を探しに旅立ったのかもしれませんね」
ちょっとヒートアップしすぎておかしくなっていたらしい。
「お兄様、お放し下さい。まだ、秋は早いようです」
「早く涼しくなるといいな」
放してもらい、体を起こして涼しい風で火照った体を冷ますが、しばらくこの熱は冷めなさそうだ。
「もう少しだけ、ここで涼んでいよう」
「賛成です」
今夜は少し夜更かしすることが決定した。
朝晩涼しくなってきましたね。
ってことで秋らしいお話をと思ったら、こんなお話になっていました。
お兄様のあの赤面するセリフの数々は一体どこで学ばれたのでしょうね?
お粗末様でした。