妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします! 番外編 作:tom200
婚約者後の恋人未満。最近ほのぼのを書いていたのでちょっと反対方面に。
支部のアプリを読んでいると出てくる広告の漫画を見て、これをしたら妹は――と着想を得て書いてみた。あれって皆同じものが出てくるんですかね?男性向け女性向けで違うのかな。
皆同じでないことを前提に説明すると、出てきた広告は恋人に別れてもらうため嫌いなタイプを演じる、という内容のものでした。つまりそれを妹がするとこうなるんじゃないかと。
グダグダです(笑)よろしければどうぞ。
婚約者となってしまった私は考えた。
お兄様が血迷って妹を異性として愛していると言っているけれど、一時的な勘違いや、唯一の感情を思い違いしたことによって血の繋がった妹を愛してしまったと思い込んでいるのではないか、と。
だって、おかしいのだ。
原作のお兄様は葛藤に葛藤を重ね、絶世の美少女の猛アタックを往なしていたのに、ライバルに送られた塩によって自分の気持ちに気付き深雪ちゃんとくっついた。
それはもう、お兄様は悩みに悩みぬいたうえでの結論だった。
しかし、この世界でのお兄様はどうだろう?
私がお兄様を幸せにと奮闘していたら、どういうわけか異性として見ることのない妹を…その…手籠めにしちゃうってどうなんだろうか。原作の深雪ちゃんだってそこまではしなかった。…手は出して欲しかったみたいだけどね。お兄様は鋼の理性で耐えていた。
凄いと思う。その理性。だって、絶世の美少女だよ?しかも自分を慕ってくれている。…まあ、妹だから許されない、とブレーキがかかっていたのだろうけども。
…うちのお兄様、そのブレーキどこで壊れたんでしょうね?
でも、もしそのブレーキが修復されてしまった時、お兄様はきっと酷い自己嫌悪に陥ると思うのだ。
だからそうなる前に、正気に戻るその前にもう一度離れる為に作戦を立てた。
その名も!お兄様に嫌われよう作戦!
実はお兄様が思っていたような子じゃなかったら、お兄様も目が覚めるのではないか。そう思って立てた計画だ。
パターンは三つ。
ひとつ目、お兄様は積極的な子はあまり得意じゃない気がする。ほのかちゃんには悪いけど、ぐいぐい来られるとお兄様は腰が引けていたように思うのだ。か、体を押し付けられたりとか、好き好きアピールをされたらお兄様だって急にどうしたってなって、こんな私はちょっと、となるかもしれない。
ふたつ目、悪態をつく。私はお兄様にどころかあまり悪態を直接的につくことは無かった。遠回しな嫌味は言っていたけどね。悪い言葉を使う妹に引いて、こんな子ではなかったのに、と恋が冷めるかもしれない。
みっつ目、悪役令嬢ばりの高圧的な我侭お嬢様になってみる。水波ちゃんにも協力を仰ぎ、使用人風情が!みたいな発言をすればお兄様だって百年の恋も冷めるはず!
(ふはははは!どうだ、この完璧な計画は!)
――この時の私はとても素晴らしい計画に思えた。
甘い言葉と行動で私を篭絡するお兄様に混乱し、追い詰められていた私が出した苦肉の策。
…とても正常な判断ができる状態ではなかった。待ってくれると言っていたお兄様の猛攻は確実に私をサスペンスのクライマックスの崖に追い詰めていったのだ。
(窮鼠は猫を噛むのだ!私だって)
この時の私は猫が本気でなく弄んでいるのだと思っていた。だから隙が突けると、甘い考えも持っていた。
私の机の上には飲み終えたエナジードリンクとコーヒーがあった。――キマった状態であった。
無敵だと思えた。今ならできると、背中に翼が生えた気がしてしまったのだ。それがイカロスの翼どころか段ボール紙でできた翼だったことに何故気付けなかったのか…。
兎も角この時の私は意気揚々と自室を出た。
まずは第一の策を実行するために!
ノックに対し、入っておいで、と掛ける己の声が甘い自覚はあった。
だが、仕方がないだろう。想いを自覚し、婚約者となった今何を隠せというのか。
――ずっと好きだった彼女を手に入れる為ならなんだってする。
そのためには自分の使えるモノはすべて使う。深雪が俺の声が好きだというならそれを利用するまでだ。
しかし、愛しいあの子の姿を待っても入ってこない。コーヒーでも持ってきて開けられないのだろうか。
モニターを消し、扉を開けると――そこには確かに深雪が立っていた。
だが、その恰好はいつもと違っていて、目が離せない。
その白く輝く首筋から続くなだらかな肩も、ボタンの開いた胸元も、くびれが強調されたスカートはとんでもなく丈が短く、白い足が惜しげもなくさらされている。
だが、何よりも目を引いたのは彼女の拗ねたような表情だ。
「なかなか開けて下さらないから寂しかったのですよ?」
(俺は、夢でも見ているのだろうか…)
だとしたら、なんと淫らで耽美な夢だろう。
潤んだ瞳は俺を誘い、赤く染まる頬は早く食べてと急かすようだ。
「すまない」
気付いてやれなくて、と手を伸ばすのだが、その手は空振りした。
何故なら深雪の方が先に動いたからだ。
「もう、達也様は焦らすのがお上手ですのね」
するりと俺の懐に入り込むと、しな垂れるように身を寄せた。柔らかくも温かい肉体が押し付けられて、更に甘い香りが鼻腔を擽り、風呂上りであることを伝えてくる。
伸ばした手が行き場を失ったまま硬直した。
一体どうしたというのだ?こんな積極的な深雪は初めてだった。
恥じらっていないわけではないだろう、少し指先が震えている。それを誤魔化すようにぎゅっと服を握られると、ぐっと胸が苦しくなる。ついでに体中の血液の巡りも早くなった。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
一番に疑ったのはアルコールだった。深雪はアルコールを飲むと別人のようになる。これもまたその別ケースかと疑ったが、アルコールの気配は感じられない。酔ったようにも見えない。
「…いけませんか」
更に胸を押し付けるように背を逸らせ上目遣いをされて、なんとも思わない男はいないだろう。
さて、どうしたものか、と考える。
これがもし悪戯であれば乗っかるのもおかしな流れではないだろう。むしろ揶揄った罰にお仕置きとして如何に危険なことをしたかをその体に教え込むのもいい。
誰かの指示だった場合、俺を試している可能性もあるが、そもそも何を試されるというのか。慎重に探る必要がある。
もしエリカたちだったら待つと言って全然待てないじゃないか、と非難を浴びることになる。
それ以外の場合は――今は思いつかない。
一体深雪は何をするつもりなのか。
「優しい兄であったなら、いけないと諭して返してやるだろうな」
「達也様はどうなのです?」
深雪の指が、俺の胸の上をすべる。一体どこでこんなことを覚えてきたのか。これも詳しく聞かねばなるまい。
「そうだね。俺としてはこれがお誘いであればいい、とは思うが」
「…本当ですか?」
宙に浮いていた手を絡めとられ、指を絡められるとぞくぞくと背筋が震えた。
自分の目が鋭くならないよう、深雪を怖がらせないよう抑えるのに苦心する。
まだ、彼女の真意が見えない。今は耐える時だと思った。
「なぜ疑うんだ?」
今にも襲い掛かりそうなのを抑えるのに必死なのに、深雪の方が焦らしてくる。
「だって…」
「だって?」
深雪の足が動いた。
俺の足の間に右足を滑り込ませ――って、ちょっと待て!本当にどうした!?俺の理性にも限界がある。
「ほら、お兄様の腰が引けていますもの」
(それは!お前がっ!!)
叫べるものなら叫びたかった。ここまで積極的な誘いに、何故戸惑わねばならないのか。このまま襲い掛かって良いのではないのかと理性の糸を切ろうとしそうになったところで深雪の震えが指先だけでなく、全身にまで行き渡っていたことに寸でで気付き、空いている手で肩に触れ、体をゆっくりと離す。
…とてももったいないことをしている。心が手放したくないと不満の声をあげるが、その心を殺して言葉を返す。
「俺はお前を傷つけたいわけではないからね。このまま獣となって襲い掛かるのは良くないことだ」
いや、できる事ならここで我慢などしたくない。言いくるめてでもこのまま――、殺したはずの心、否、欲だな。欲望をもう一度殺して優しい兄の笑みを浮かべる。
しかし、深雪の反応は――なぜか表情を輝かせていた。だがそれも一瞬で、切なげに瞳を揺らす。
「やはり、お兄様はおしとやかな私が好きなのですね」
「…ん?」
「このようにぐいぐい来るのはお好きではないと」
ちょっと待て。展開が早すぎて付いていけないのだが。
「深雪さん?…ちょっと展開についていけないんだが」
正直にそう言えば、深雪はいいのです!と大げさなアクションで…これは何処かで見た覚えがある動きだな。
そう言えば先ほどの行動も、どことなく彼女を彷彿とさせるものではあった、か。
「こんな私など、達也様にはふさわしくないですよね…」
…
……
…………もう、いいな?
「きゃあ!?おにいさっ――達也様?!」
「ここのソファは狭いが、我慢してくれ」
「ちょ、ちょっとお待ちくださいませ!」
「悪いがこれ以上は無理だ」
「た、達也様っ」
「あんなに積極的な深雪に迫られたら耐えられるわけがない」
「で、ですが、お兄様は苦手なのですよね?!」
「そうだな。あまり強引に迫られるというのは対応に困る」
「そうですよね?!」
「ぐいぐい来られるのはな」
「苦手ですよね!」
「だがそれは興味の無い女性に対してだ」
「……え?」
「それが意中の相手なら大歓迎だ」
「…え?」
「その恰好も、とてもそそるね。普段見えないところがよく見える。いつもと違う魅力に理性なんて焼き切れて当然だった」
「あの、ちょっ――」
「せっかく用意してもらったてくれた膳だ。残らずいただくとしよう」
据え膳食わぬは男の恥と言うものなぁ、と口角を上げて言えば、涙目を浮かべて今度は震えを隠すことは無かった。
可哀想に、と思う。だが、止まろうという気にはならない。
よそる器が違うだけでも料理は変わるものだな。
大変美味しくいただいた。
「ところで深雪、何がしたかったんだ?」
「……なんでもないです」
深雪の目が光を失っていない。まだ何かをしかけるつもりなのだろう、楽しみだ。
数日後の夜、その機会は訪れた。
こんこん、とノックされたのは俺の寝室。いつもの夜の語らいの時間。
だが、深雪が入ってくる気配はない。
内心今度は何をするつもりなのだろう、とワクワクしながらドアを開く。
すると、パジャマにカーディガンを羽織った深雪が腕を組んで仁王立ちしていた。
つん、と顎を上げているのが可愛らしい。
そこから口付けてぐずぐずにしたくなる、という気持ちを抑えつつ、深雪の行動を待った。
「お兄様、今日という今日は我慢なりません!」
今回は怒って見せてくれるらしい。これもまた普段見られない深雪だ。
喜びそうになるのを困った表情に変えるのが難しかったが、何とかそれらしい顔ができたのだろう。深雪がちょっと満足そうに目を輝かせた。
…いつもの淑女の仮面はどうしたのだろうな。可愛すぎる。
「俺は何かしてしまったか?」
「何かも何も!…もうお兄様にはあ、あい、あい…」
どうにもどもって先を言えないらしい。なんとなく言いたいことが分かるのだが、ここは大人しく待ってみる。
「あい、そ…が尽き…かけた気がします!」
…なんだろうな。この可愛い生き物は。何がしたいのだろうというよりも、先に可愛いという感想が頭を埋め尽くす。
俺のことを嘘でも嫌いと言えない深雪の精いっぱいの悪態に、胸を撃ち抜かれる。
「お兄様のあんぽんたん!」
ぐぅっ…。胸を押さえて俯くと、深雪が一瞬心配そうな顔になるが、首を振ってこぶしを握り、
「お、おたんこなす!」
うっ…。あまりの破壊力に膝をついてしまった。
「あっ…えっと、」
おろおろとする深雪だが、深雪が思っているようなダメージなど一切受けていない。というか、これで傷つく奴はいるのだろうか。
ただただ可愛さに息の根を止められそうだ。
「お、お兄様の人たらし!」
「…それは悪口なのか?」
しまった。つい突っ込んでしまった。
深雪はびくぅ!と身体を震わせて逃げ去ろうとするのを、腰をひっつかんで身動きを取れなくさせて部屋の中へ連れ込んだ。
「ひぇ!お、お兄様?!」
「深雪…俺の駄目なところをもっと教えてくれ」
「お、お兄様にダメなところなどっ」
「お前の理想になることは難しいだろうが、できるだけ努力はするから」
「う…お、お兄様に悪い所など…心臓に悪いことを言ったりしたりとか」
「例えば――こんなことか?」
「っ!!あの、」
「それとも、これか?」
「ゃ、あ、ちょ、」
「俺は空気を読むのは苦手なんだ。ちゃんと言葉にして教えてくれ」
言いながら深雪の弱い所に指を這わせる。
言葉はほぼ喘ぎ声となり、残念ながら教えてもらえなかった。
次こそは!との捨て台詞を言いながら這う這うの体で部屋に戻る深雪が愛おしくて、よく擽るだけで我慢したな、と自分を褒めた。
流石に立て続けでは彼女の計画がストップしてしまうかも知らないからな。
次回も楽しみだ。
今までが二人きりの時だったからと言って、今回もそうとは限らない。
突然始まった深雪劇場の舞台は、ダイニングからよく見えるキッチンだった。
「ちょっと水波ちゃん、このカップ、拭きが甘いのではなくて?」
「も、申し訳ございません!」
「このところ主人への態度も随分と馴れ馴れしいのではなくって?いくら私が許可をしたからと言って限度というものがあるのよ」
「は、はい!大変失礼いたしました!以後気を付けます」
高圧的に威圧をする女主人と、そのメイド、だろうか。
水波が怯えるように震えながら頭を下げ、深雪の顔を見ようともしない。
深雪は上品に口を隠しながら罵る言葉を述べた後そっぽを向く。
機嫌が悪いという態度のようだ。
だが――水波。お前、隠す気はあるのか?怯えるではなく感動で震えているだろう。…主に仕えるメイドになりたかったんだものな。距離感が理想だったか。
…この台本を考えたのも水波か?どうにも深雪が言うにしてはピンポイントすぎる。
俺への悪態があれだったんだぞ?こんなこと、深雪が自力で考えたとは思いにくい。
深雪がちらっと俺の方を見た。
そしてさも今気づきましたと言わんばかりに、
「あら、お兄様。いらしたのですか」
などというものだから、俺もここは乗った方が良いのだろうか、と考えて。
「叔母上の物真似かい?深雪には少し迫力が足らないように思うが」
「…物真似なんかではございませんわ」
「へぇ。それは…とても気になるね」
「気になるも何も、私は使用人風情が主人を敬いもせず好き勝手しているのを注意したまで」
…深雪、どうだ!言ってやったぞ!と達成感を覚えているのはいいが、向かいの水波がダメージを受けるどころか、胸の前で手を組んで感激していることに気付け。
もうあの子は演技など放棄しているぞ。…しかし、
(なんだろうな。水波がうらやましい。俺なんて悪態も吐いてもらえなかったのに)
俺も台本を渡せば言ってもらえるだろうか、と今度リクエストすることを考えつつ。
「なら、俺もだな」
「はい?」
「俺も――私もガーディアンとして随分とお嬢様に馴れ馴れしく接してしまいました」
「え…あ…、お、お兄様はガーディアンでもお兄様ですので…」
「そういうわけにはまいりません。ガーディアンという立場はそこの水波と同等のはずです」
「!――そうですね。確かに、その通りです」
お、どうやら方針を変えるらしい。さて、どうくるか。
「では、これからは相応しい距離感で接してください」
「かしこまりました、お嬢様」
恭しく頭を下げつつ深雪を観察して視ると、深雪の悲しそうな表情が。だけどこれでいいのだと固く目を伏せて、四葉で見る淑女の仮面を装着する。
家の中でまでこれを見ることになるとは。
(さて、これで深雪の策はおしまいか?)
この結末は何をするためのモノか。なんとなく、予想はついているのだが。それにしても深雪の行動は――可愛すぎた。
(これでは逆にお前に溺れてしまいそうだ)
「すべては貴女様の御心のままに」
敬語を使い、距離を一定に保つ。夕食は深雪一人で、俺と水波は配膳と背後に佇むのみ。
すまし顔の下が悲しげに歪んでいるのが幻視出来てしまい、今度はこちらが耐える番だった。
そのあとのコーヒータイムも無く、深雪は部屋に戻っていく。
「達也様、一体深雪様に何をしたのです?」
「酷いな。俺が何かしたことが前提なのか」
「でなければ、あのような寸劇を深雪様が提案するとは思えませんので」
「残念ながら何かをしたつもりは――、」
全くないが、と言おうとしたところで己の行動を振り返って気付いたことがある。
「あったようですね、心当たり」
「まあ、な。…ちょっと謝ってくる」
水波の呆れたような視線が突き刺さるようだった。巻き込んだこと、後で謝った方が良さそうだ。
おかしい。私の計画は完ぺきだったはずだ。
なのに、最初の計画は、お兄様の謎理論によって論破されてしまった。
いえ…考えれば確かに友達に迫られたら困るけど、好きな人であれば鴨葱状態にもなるか。
(好きな人なら、か///)
自分の考えに顔が熱くなるのを、頬を押さえて冷ます。
あの後のことを思い出してはいけない。…いつもより反応が早かったとかそんなことは無かったし、そもそもいつもと言うほど比べられるだけ回数を重ねてもいない!
…落ち着け。クールダウンしよう。すーはー。
次の悪態をつく、はお兄様が口元を覆って俯かれた時、傷つかれたんだ!と作戦の成功を喜ぶとともに傷つけてしまったことを後悔した。だけど私は決めたのだ。お兄様を私に縛られず自由にするんだ、と。
その後崩れ落ち、体を震わせていた姿に胸が締め付けられるようだが、何とか絞り出して最後の悪態をついた。ら、お兄様からもっとダメ出しをしてくれと、相応しい男になりたいから、と言われてしまい、次の言葉が出なかった。
そんなこと言われたら困ってしまうでしょう!?どうしてダメ出しされたがるのです!お兄様にダメなところなど、と思ったところで直してほしい所が一か所浮かんだのでそれを伝えたら、詳しく教えてほしいとお願いされたんだけど、お兄様言わせる気あります?悪戯な手が擽りにかかってきた。
おかげで息も絶え絶えとなり言葉にすることができなかった。命からがら敵前逃亡に成功。意識を失うように眠った。
綿密に考え抜いた作戦は二つとも不発、失敗してしまった。
このままでは計画が失敗に終わってしまう。
最後の計画にすべてをかけて水波ちゃんに参加してもらった。
今度こそ嫌なお嬢様でしょう?威張り散らして辛く当たって!
…水波ちゃんにも説明して参加してもらったのだけど、え、こんなこと言うの?これくらい言えないとダメ??水波ちゃんはいつも良くしてくれているのに…。
ここは強気に出なくてはだめ?そ、そうよね!これはお兄様に嫌われて距離を離す計画。これくらい思い切らないとだめよね!
ってことで嫌味なお嬢様をこれでもか!と頑張ったのだけど、まさかのお兄様が参戦!ガーディアンとして自分も馴れ馴れしすぎた、と距離を取られてしまったのだ。
いえ、最終的にそうするようにと私が言ったのだけど。
おかげでその夜の夕食は一人で食べることに。使用人と一緒になんて、ありえないものね。
(自業自得とはいえ、寂しい…)
というか辛い。何故大切な家族にお世話をさせながら贅沢に食事を取らなきゃならないのか。
せっかくの美味しいはずの水波ちゃんの手料理が、ほとんど味がしない状況。…辛すぎた。
あまりに辛かったのですぐに部屋に引っ込んでベッドに座って横に倒れた。
(でもそうよね、お兄様に嫌われるということは、今までのように仲良く暮らせないということなのよね…)
今更ながらに気付いた。
すべてはお兄様の幸せのために、と思っていたけれど、せめて他の候補の人がいてからバトンを渡したい。…というのは難しいか。私がいてはお兄様他に目が向かないだろうし。
同時に別の女性を好きになるなんて、お兄様にはできそうにない。惹かれたとしても自分には婚約者がいるのだからとシャットアウトしてしまうだろう。
お兄様は真面目で常識的な方だから。きっと不誠実な真似はできない、と他所に目を向けないようにしてしまうのだろう。
それは婚約者を持つ者としては当然の心構えではあるけれど、人の心とは思い通りにいかないものだ。…でも、それは普通一般の話。お兄様にそれが当てはまるかと思うと、難しいのかもしれない。
(うう…考えが纏まらない…。もう一本エナドリ開けようかな)
四葉印のエナジードリンクに手を伸ばしかけた時、ノックが響く。
慌てて姿勢を正し、乱れた衣服を整えてからどうぞ、と声を掛けた。
「深雪、少しいいか。話がある」
お兄様はすでにガーディアンモードを解除されていた。
そのことに内心安堵しつつ、でもそれだと計画が本当におじゃんになってしまう。
扉越しなら表情も見られることも無い。今なら突き放すことができるかもしれない。
ぐっと、お腹のあたりに力を入れて、見えないとわかっていても姿勢を正す。
「いくら兄とは言え、ガーディアンという立場を弁えていただきたいのですが」
うう…、まさかお兄様にこんなことを言う日が来るとは。
表情はとりつくろえていなかった。半泣きである。
「兄として、そして婚約者として謝らなければならないことがある」
「!!」
(こ、これは!ついに来たのでは!?)
婚約者として謝ることと言えばお断りである。
最後の最後に大逆転。計画通り、お兄様に嫌われたということ。
ズキッと痛む胸の痛みに蓋をして。私は優雅に微笑んだ。
…最後くらい、格好を付けたいから。
「どうぞ」
今度こそ促すとお兄様は失礼するよ、と中に入る。
腰を掛けるか尋ねるが、立ったままで良いとドアの前から動かない。…これは、いよいよか。
ゆっくりと瞳を閉じて潤みそうになるのを我慢した。
「深雪、すまなかった」
「一体、何を謝られるというのです?」
「俺は――浮かれすぎていた」
すまない、と深々と頭を下げられたけど――うん?浮かれすぎた、とは?
「お前の婚約者となって、俺の想いを受け止めてくれて、まだ受け入れるのは難しいと言いながらも拒絶されなかったことに、俺は浮かれすぎていた」
ええ、と…?
イマイチお兄様が何を言いたいのかわからないけれど先を促す。
「深雪はまだ俺を異性と見ていないというのに、俺はアタックすると宣言をしたことで心の整理も付いていないのに、混乱に乗じて付け込むように迫ってしまった。――お前を追い詰めてしまった」
…それは、身に覚えがありますね。
確かにここ連日の猛攻はすさまじかったと思う。おかげで夜も興奮してあまり寝られなくて、眠気を飛ばすためコーヒーやエナドリに頼ってしまっていた。
おかげで日中は何とかなっているけれど、夜はちょっぴり不眠症気味だ。
(だって、お兄様のあれやこれを思い出すと、恥ずかしくて、眠れないんだもの!)
前世からの推しである。興奮するなという方が無理だ。想いは人生二つ分。好きが二倍じゃない。二乗になってる。…ん?二の場合は違いが無い?雰囲気です。伝わって。
「深雪、俺はお前が好きだ。愛している。その思いに揺らぎはない。だが、押し付けてどうこうするつもりは無かった。アタックすると言ったが、俺は待つとも約束したんだ。なのに、全く待ってやらなかった。…そのことにさっき気付いた」
「…お兄様…」
「俺は結局自分のことばかりで、お前を思い遣ってやれなかった。婚約者であると同時に俺はお前の兄貴だというのに。不甲斐ない兄ですまない」
「!いいえ!いいえ!!お兄様が不甲斐ないなど、そんなことおっしゃらないでください。…違うのです。いえ、確かにお兄様にはその、もう少しスピードを落としていただきたいとは思うのですけれど」
「すまん」
お兄様の発言に居てもたってもいられず立ち上がって否定をする。その際ちょっぴり要望を伝えたら、お兄様は再度謝られた。
…どうやら今回の作戦は、残念なことにお兄様には届いていないようだ。謝りたかったのは、猛アタックの件でした。無念。だけど、
(改めて思いを伝えられてしまうと、もう覆すことはできないのかもしれない)
こう、と決めたら目標に向かって邁進してしまうお兄様のことだから。
「…謝るのはこちらの方です。私はお兄様のお気持ちを疑いました」
ここ数日の挙動がおかしかったのは自覚している。そのことでお兄様に心配をかけたことも。あと水波ちゃんね。普通に心配されてました。反省。
だから、せめてもの誠意を、と心内を明かす。
「お兄様のお気持ちは一過性のモノなのでは、と。…その、お兄様も、男の人ですから、か、体だけでも」
「深雪、それは無い!誤解だ。確かに俺が性急すぎたのが悪かった。…だが、そうだ。俺も男だから好きな相手には触れたくもなる。だから、この間は我慢が利かなかった」
この間、と言われて先ほど思い出したことがすぐにリンクした。ボボッと顔が熱くなる。
「…あの時の深雪はそれは扇情的で、耐えられなかった。俺はあそこで耐えなければならなかったのだろう?」
「…?え、と?何のことです?」
「あれは試練だったのだろう?俺がお前をちゃんと待ってあげられるか。次の悪口を言うふりをして可愛らしい姿を見せられた時も実に危うかったが」
…あれれ?なんか思っていたように捉えられていなかった模様。
別に私はお兄様の忍耐力を試したわけではなく、お兄様に嫌われようと精いっぱい頑張ったつもりだったのだけど。
「お兄様はお嫌ではなかったのですか?」
「興奮した」
「!!さ、さようでございますか…///」
ちょっとお兄様あけすけすぎやしませんかね?!
「普段と違う深雪もとても魅力的だった。もちろん普段もとても魅力的だが、結局のところ深雪が深雪である限り、どんなに違う行動を取っても俺はお前から離れてやれない――深雪が好きなんだ」
「!お兄様、お気づきになられて…」
「気付いたのはさっきだけどね。深雪が我慢してまで俺から離れようとしなくていいんだ。お前はお前の好きなように暮らせばいい。だがな、まさか俺の気持ちが一過性のものだと思われていたとは思わなかった。…レオ達も言っていただろう。無自覚でもお前の周囲をけん制していた男だぞ?」
「そ、れは、兄として、でしょう?」
「それとガーディアンとしてもだが、それだけでなかった。…深雪、俺は自分勝手にもお前に近寄る男たちに嫉妬し、理由をつけては近づかせないようにしていたんだ。その理由が兄であり、ガーディアンだった。実際はただの男の醜い嫉妬でしかなかった」
幻滅したか、と自嘲気味に言うお兄様だけど、ごめんなさい。正直頭が追い付いておりません。絶賛混乱中です。
「混乱しているね。そんな無防備な状態に、以前の俺なら何も考えられないうちに丸め込もうと手を伸ばしていたのだが」
「…今はなさらない、と?」
「深雪の気持ちを優先するよ」
「お兄様…!」
「だから誘うにしても深雪の気分が乗らなければ俺は大人しく引き下がる」
うん…うん?なんか、雲行きが怪しく思えるのは気のせいでしょうか?
「深雪がいくら冷たく当たろうとも、そこに俺への想いがあるのなら、俺は離れてやれない。想い合っているのに離れる必要などないからだ。そうだろう?深雪は俺の幸せを願ってくれているが、俺の幸せはお前の傍に居る事なんだ。それが隣で、互いを愛しみ合えるというのなら、それ以上望むものなどないんだよ」
一歩、また一歩と距離が詰められ、気が付けば腕の中。
ゆるりと拘束されて。
「離れようだなんて、しなくていいんだ。それは俺にとって不幸でしかない」
お前は俺を不幸にしたいか?と耳元で囁かれて、ぶんぶんと振り払うように首を振る。
お兄様を不幸になど、私が望むわけがない。
でも…そうなんだ。お兄様にとって、もう私は遠くから見守れる存在ではないらしい。
きゅ、とお兄様にしがみつくよう腕に力を込めた。
「申し訳、ございませんでした」
「いいよ。俺にとっては面白い体験でもあった」
同じような力で抱き返されて、こころがほっと落ち着いたのも束の間。
「あんな大胆な深雪も、可愛らしい深雪も、俺を突き放そうとして悲しむ深雪も、とても愛おしかったから」
お兄様の絶妙な低音ボイスが耳に吹き込まれ、音を立てて口づけを落された。
ぞくり、と背筋が震える。
手が、それを追うように背中を撫でられ、尾てい骨あたりで止まった。
「大丈夫、俺はちゃんと待ってあげるから」
「深雪にその気が無いのなら、お前の前から下がるよ」
「だけどもし、期待してくれるというのなら――その時は」
結局、お兄様を引き離し、お兄様に嫌われよう大作戦!もとい、お兄様に今一度選択肢を!計画はこうして失敗に終わった。
当たり前だった。
何度選択肢を与えたところで、お兄様には私以外を選択する気など無いのだから。
「俺があれくらいのことでお前を手放すと思ったのかい?むしろこれ以上ないくらいお前に夢中にさせられたよ」
何より私の企ては逆効果に作用してしまっていたらしい。
「ところで机にあるドリンクは?」
「四葉謹製のエナジードリンクです。元気が出ますよ」
お兄様も一本いかがです?と勧めたのだけれど、
「…深雪、これはあまり飲むことを勧めないよ」
「?どうしてです?」
「…催淫を促す成分が多く含まれている」
これはエナジードリンクというより精力剤じゃないか?とお兄様。
…
……
…………
(お、叔母様―――!!)
速攻エナジードリンクは封印した。
妹がおかしくなっていたのはお兄様の追い詰めが性急だっただったことと忙しさとドリンクが原因。コーヒーとエナドリは一緒に飲んではいけません。大変危険です。ハイになる。正常な判断は家出もしますとも。
睡眠はきちんととりましょう。
ちょっとだけお兄様のドリンクのネタをいれてみたり。…気になるんですよねぇ。あのドリンク。
タイトルの効果は抜群だ!はもちろんお兄様にダイレクトアタック。お兄様はお喜びになった!以上!!
広告の漫画で積極的に迫れば嫌われるかも!って、ただの鴨葱だよねって話ですよ。お兄様美味しくいただいた模様。まああんなに美しくて愛おしい妹に迫られたら理性なんて溶けますよね。
好きな人なら大歓迎。
妹の悪態のボキャブラリーにはお兄様もノックアウト。可愛さのあまり死ぬかと思った。かっこよさのあまり死にかける妹そっくり。
妹に罵られる水波ちゃんにはじぇらっていた。裏山案件。俺だって罵られたい(←
いつかリクエストする予定。
お粗末様でした。
※読み返したら、このタイトルの計画って実は真夜様のモノであって、エナドリで二人が仲良く()できたなら大成功だったのでは…?と今更ながら気づきました。流石真夜様!計画通り。