青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.65 計画完遂~燃える世界へ~

 

 

 興奮冷めやらぬ気分で、実況が叫ぶ。

『ゴール前に残っていた11番、潔世一の直撃蹴弾(ダイレクトシュート)が突き刺さり──』

 このフィールドで、誰もが予想しなかった事態。

青い監獄(ブルーロック)、逆転ゴーール!!』

 いや、23名の選手と、選ばれなかった11名と、彼らを指揮する2人と。

『そしてこの瞬間……! 試合終了のホイッスルが鳴り……!』

 彼らの活躍を願っていた者たちは、願い、あるいは信じていたこと。

 

『スコア5‐6で……青い監獄(ブルーロック)11傑(イレブン)の勝利です!!!』

 

 BL11傑が、ベンチメンバーが、一斉に潔に向かう。

 遠い場所にいた我牙丸。最初から最後まで戦った烏。共に攻め抜いた雪宮。

 肉離れが落ち着いて、ベンチから駆けてくる千切。

 お祭り騒ぎだ。

 落ち着いて喜ぶ氷織もいる。

 最後のゴールを奪えず、イラついてベンチへ戻る馬狼もいる。

 そして、90分間最後まで走りきった宵越がいた。

「……」

 勝つために戦った。そしてバカみたいに笑う。

 宵越はこの時のため、頑張ってきたのだ。

 直近の試合を思い出した。といっても青い監獄(ブルーロック)内での試合じゃない。

 ヒリついて、5対5以下のミニゲームでもなくて──優勝をかけた公式の試合。

 つまり、関東大会、高校カバディ選手権決勝。対星海(せいかい)高校戦。

 死力の果てに勝利した宵越は、勝利を噛みしめて──大の字に背中から倒れ込んで、大笑いした。

 今、宵越は、全く同じ動きをしてみせた。

 天を見やる。星々を掴むように両腕を掲げる。

 楽しかった。

 気持ちよかった。

 嬉しかった。

 最高だった。

 けれど。

(悔しい、か。俺も絵心の言う通り染まって来てやがる)

 掲げた両の拳に力がこもる。どこか諦めきれない両手。

 関東大会では、紆余曲折の末に宵越は最後の攻撃を成功させ──そして全員の守備で勝ってみせた。

 今は違った。最後のプレーに、宵越の介入はほぼなかった。

 潔のプレーだった。

(してやられたぜ。あの状況でも最後まで凛を──いや、自分のゴールを信じ切った)

 それは宵越も同じだが、やはりその質は違ったのだろう。

「潔、あの野郎。俺の借りの清算、邪魔しやがって」

 士道には勝てた。勝てたが──得点は士道2、宵越1。4対4で自分のプレーを凌駕した借りは返しきれなかった。

 凛の得点は宵越と同じ1点。互角だ。

 何より、最後のゴールを宵越から奪った、エゴイストがいる。

 宵越は不敵に笑ってみせた。

「倒す相手、増えやがった」

「おいおい、《不倒》が馬鹿みたいに倒れてんじゃねぇよ」

 近づいてきた声。天を仰ぐ宵越の足元から現れた。

「愛空」

 U-20日本代表CB、オリヴァ・愛空が、宵越に手を差し出してきた。

「……助かる」

 愛空の手を借りて立ち上がった。

「どいつもこいつも、お前のおかげで進化しやがった」

「はっ、負け惜しみか?」

「そうだな。呆れるほど悔しいぜ。サッカー行方不明の落ちこぼれにしてやられたんだからな」

「そっちにも悪魔と天才がいた。異分子が紛れたのはお互い様だろ」

「かもな。お前……サッカー、続けるのか?」

「あ? 当然だ」

「引退したのに?」

「やるべきことがある。最善を尽くすために、俺はここにいる」

 それは、試合途中でも愛空に投げかけた言葉だった。

 愛空はわらった。

 宵越の引退前後に起こった騒動は知っていた。雑誌社の宵越を過剰に祭り上げる報道と、その試合を観ていた愛空の知り合いから聞いた顛末との乖離。

 愛空自身の確執とは異なるが、宵越に感じていたのだ。夢に挫折した、自分と似た境遇を。

 そしてDFを選んだ自分とはやはり異なるが、それでも宵越は還ってきた。

 愛空は思った。こいつもやっぱり本物で、自分と同じスポーツ選手なのだ。

 そして、そんな宵越にしゃべりかけた人間はもう一人いた。

「なにぬりいこと言ってんだ、《不倒》」

「……糸師冴」

 新世代世界11傑(ワールドイレブン)、MF糸師冴。

「……勝ったぜ、天才」

「は。たかが1点で満足か。ストライカー失格だな」

「かもな。俺は一度サッカー辞めた。アンタの言う通りだ」

「なら──」

「でも、もう一回這い上がりゃいい」

 宵越はどちらも否定しない。

 仲間に頼ることも、エゴを貫くことも。

 冴も実際のところ協調性そのものを否定はしていない。協調性を強く意識するあまりストライカーとしての負けん気が弱くなっていた日本サッカーに呆れていただけで。

 その観点で言えば、冴は少なからず、宵越に一つの可能性を視ていた。

 宵越は冴を指さした。

「今日はアンタに一歩だけ追いついた。アンタの積み重ねを俺の一歩に変えたから」

「……エラシコ(股抜きクロスエラシコ)の件か」

「ゴール数は1対1。チームとしての勝敗は俺。でも、他は負けた」

「……」

「次は全部勝ってやる。借りは返すぜ」

 これが、糸師冴への宣言だ。

「……勝手に言ってろ、クソ《不倒》」

 冴は踵を返す。少しずつ遠くなる。

 ただ1人、うずくまる凛の元へ向かうのがわかった。

 愛空も動き出した。

「さて、それじゃヒーローの下に行くかね」

 ニヤニヤと、宵越を試すように。敗北の悔しさはあっても、清々しいのだろう。今はもう、宵越から栄光をかっさらった潔のことでからかってくる。

「ちっ、煽ってんじゃねぇよ……」

 遠くなる敵たち。

 入れ替わりで仲間たちが入ってきた。

 氷織、雪宮。

「お前ら」

「ナイスゴール、宵越」

「お前もな、雪宮。最後、よく動いてくれた」

「監督みたいなこと言うなぁ。こっちは悔しくてたまらないよ。久々のノーゴールだ」

 雪宮にとっては、青い監獄(ブルーロック)に来て初めての無得点試合だった。

「俺は、まだまだ強くなれる」

「そうだな。相手は俺だけじゃねぇ。全員だ」

「ああ」

 身長はやたらと高い氷織が、後ろ手を組んで可愛らしく2人の合間に割って入る。

「それ、僕も混ぜてもらっていいんやね?」

「当たり前だろ」

「いつでも俺にパス出してくれていいんだぜ? 氷織」

「ユッキー、言ったやろ? がっかりしたら捨てるって。僕のパスに付いて来いってね」

『極Sパス野郎め』

 異口同音で宵越と雪宮が吐き捨てた。氷織はただただ、笑顔でいた。

「迫真のゴールでしたね、宵越くん。ベンチで震えました」

「それでこそ、俺たちが最後まで守ってやった甲斐もあったな」

 二子、玲王。

「……士道や閃堂、冴。あいつらの攻撃を5得点で防いだのは、お前らや蟻生……守備の手柄だ。最高のプレーだったぜ」

「慣れねぇ誉め言葉使ってんじゃねぇよ」

 玲王が宵越の肩を小突いた。二子は、2人にドリンクを差し入れてくれた。

 二子は続ける。

「3rdチーム……全員試合に出て、きっちり動きました」

 宵越と玲王は頷いた。

 二次選考を突破した7チーム。5人中5人がこのフィールドに立った。それは3rdチームのみ。

「でも、最後は潔くんがかっさらっちゃいましたね」

「……お前も、潔にやられたんだったか?」

「伍号棟第2試合でした。彼、僕のこと見降ろしましたから」

「思ったよりドSやねー……」

 その場の4人が思った。お前、人のこと言えないだろ。

「俺もだぜ。伍号棟最終試合に二次選考の3on3、どっちもしてやられたんだ」

 玲王も乗ってくる。

 3rdチームには、少なからず潔と因縁があり……そしてたった今、因縁ができた者がいる。

 潔世一は、まさに主役に躍り出て見せたのだ。

 そんな潔は、五十嵐に背を押されてピッチ上に用意されたバックボードに連れられていた。そこにはカメラマンやインタビュアーはじめ多数のスタッフがいた。

 敗者側、愛空や冴。勝者側、宵越。運営が興業の意味でインタビューを受けさせたい選手は他にもいる。

 だが、この試合を決した者が、まず最初にそこに立てる。それは間違いなかった。

 

『あ! こちら来ていただきました! 劇的決勝ゴールの青い監獄(ブルーロック)11傑(イレブン) 潔世一です!』

『……え……っと』

 

 マイクを通じて、インタビュアーと潔の声がスタジアム全体に響き渡る。

 潔の慌てふためいた姿に、青い監獄(ブルーロック)陣営はただただ面白がっていた。

「勝利者インタビュー、獲られちゃいましたね宵越くん」

「まあでも、こいつに喋らせたら残念宵越(ヨイゴシ)が出てくるからな。正解じゃね?」

「おい玲王てめぇ」

 やいのやいの。

 

『ゲームを終えて率直な感想をお聞かせください!』

『あ……まあ……めちゃめちゃ、嬉しいです』

 

 人によっては、潔のゴールを偶然と嘲る者もいるかもしれない。後に専門家は、この試合のMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)、試合中最も活躍した選手が宵越であると語った。加えて敗者であっても冴が終始試合を圧倒していたし、瞬間瞬間であれば誰も彼もが好プレーをしてみせたという評価もあった。

 それでも、青い監獄(ブルーロック)にいる者であれば、最後まで貪欲に諦めず、事実栄光を手にした潔を笑う者はいない。

 だから、このインタビューは潔が手に入れた権利だ。

 

『今日の活躍でU-20代表入りも見えてきましたが、今後に向けて意気込みはありますか?』

『え……』

 

 潔の言葉が止まった。

 観客席から、多くの声援が届く。

 

 ──潔世一(いさーぎよいち)

 ──潔世一(いさーぎよいち)

 

『──優勝します』

『え?』

青い監獄(おれたち)は……U-20(アンダートゥエンティ)W杯(ワールドカップ)で優勝します』

 

 宵越はほくそ笑んだ。

(いいぜ。言ってやれよ)

 先輩がいたとしても、素人から全国優勝を掲げ、それを成した自分がいる。

 

 なぜカバディをするのか?

 頂点に居座る奴らを引きずり降ろして、1番になるために。

 

 日本一が、世界一に変わった。ただそれだけのことだ。

 願うことは一緒なのだから。

 

『俺が日本を、U-20(アンダートゥエンティ)W杯(ワールドカップ)で優勝させます』

 

 

────

 

 

 チーム青い監獄(ブルーロック)陣営、ロッカールーム。

 お祭り騒ぎは続いている。士道を除く34人全員が集まり、試合に出た者もそうでない者も、等しく喜ぶ。

 そんな中、アンリと絵心が入ってくる。アンリは泣きじゃくれていた。

 絵心はいつも通りだった。潔がラストゴールを決めた瞬間、彼が強く拳を握りしめたことは誰も知らない。

「士道龍聖の交代。馬狼照英と宵越竜哉による同点劇。そこまでは俺の計算通りだった」

 宵越が反応した。

「あ? 諦めようとしてたのはどこのどいつだ」

黙っとけ(シャラップ)クソ不倒」

「どいつもこいつも語彙力なさすぎだろ……」

 結構な人間が思った。人のこと言えないだろ。

「だが……最後の1点は計算外だ。糸師凛。お前の覚醒が全てを呑み込んだ」

 凛の覚醒。それは、絵心にも読めていないことだった。

 挑戦者は常に成長のチャンスがある。けれど頂点にいる者は、それ以外の者に比べてチャンスは少ない。

 青い監獄(ブルーロック)の頂点と呼べる、世界選抜からゴールを奪った3人。カバディの試合を観た絵心にとって、疑うべくもなかった。士道は敵側だった。

 唯一、凛のそれだけが未知数だった。

「それに呼応した潔世一。あのラストプレーは確実に、青い監獄(ブルーロック)を世界に知らしめた」

 日本サッカーは、世界において強くない。最高記録、W杯ベスト16。それは奇跡だと、日本国民は思った。当たり前ではないのだと。

 その日本の若き才能たちが、内乱を起こした。自分たちが世界一になるのだと、世界王者からすれば滑稽な夢を描いて。

 そして、内乱は果たされた。今やU-20日本代表は青い監獄(ブルーロック)のモノ。

 ここからは、今までとは違う日本サッカーが、世界に牙を向けてくる。

「おめでとう、才能の原石共。お前らは凄い成果(コト)をやり遂げた」

 それは絵心の賛辞。紛れもない労いの言葉。

 この青い監獄(ブルーロック)メインスタジアムに、世界で一番フットボールの熱い場所を創り出したのだから。

「ただ、この勝利は戦いの終わりじゃない。青い監獄(ブルーロック)創世(はじまり)だ」

 まだ、ここには士道を含め35人がいる。

 アンリの目的は、日本サッカーのW杯優勝。

 そして絵心の目的は、世界一のストライカーを創り出すこと。

「今日は潔世一が主役に躍り出たが、チャンスはこの先も平等だ」

 サッカー人生におけるサバイバル。たった1人の頂点以外を生ける屍とする、それが青い監獄(ブルーロック)だ。

「覚悟しろよ、才能の原石共。青い監獄(おれたち)はもう引き返せないとこまで来たぞ」

 絵心は去っていった。

 再び、戦いが始まるのだ。この35人で。

 武者震いする者たちがいる。

 アンリは若者たちに労いの言葉をかけた。

 食堂で豪華料理が食べ放題。

 今日の勝利と同じように、少年たちは悦び跳ね上がる。選手たちが次々と戻っていく。

 

 その中で、1人動かない者がいた。

 動かない者を見て、2人、立ち止まった者がいた。

 

 ロッカー下のベンチに座りこんでいる凛。タオルを顔にかけたまま。

 潔に、話しかけられるがまま。

「凛。絵心の言うとおり、お前がいなきゃ俺のゴールは生まれなかった」

「……」

「天才共が全部喰った試合……それでも俺たちが勝てたのは──お前が冴に勝つって、俺だけが信じてた結果だ」

 最後の一撃は、間違いなく、潔と凛のもの。

 宵越の熱に呑まれなかった、2人自身の灼熱。

 青い監獄(ブルーロック)の、蒼熱。

「ありがとう凛。あれは俺とお前のゴールだ。それに……」

 潔は後ろを振り向いた。

「そんな灼熱を用意してくれた、宵越(お前)にも、感謝してる」

「ちっ。どいつもこいつも煽りやがって」

 宵越は潔のさらに後ろにいた。

 学びたくないと思わせた怪物の凛。

 最後の最後で手柄を横取りされた潔。

 どちらも、もう宵越にとっても只者じゃない。

 潔は語る。

「宵越に……ストライカーとして勝てたとは思ってない」

「俺もだ。お前に負けたと思ってる」

 2人の間に関係性ができる。

 2人の軌跡が、交わる。

 けれど。

「うっせぇよ……どいつもこいつも」

 凛が口を開く。

「死ねよ、クソ共が。もう、お前らだけは許さねぇ」

 殺意が漏れ出す。全てを破壊しようとする獣の。

 悪寒を感じる。

「今この瞬間から、お前らは、俺の宿敵(ライバル)だ」

「はっ……イキがってんのか、凛」

(ミナゴロシ)だ。全部潰す」

「いいじゃねぇか。嬉しいぜ。ライバル関係、俺も混ぜてもらえて。」

 冷や汗をかきながら、宵越は口角をあげた。

 潔世一。

 糸師凛。

 宵越竜哉。

 3人の間で刻まれるモノ。

 喰って、喰われて。乗り越えるモノ。

 異質でおぞましく、けれど清々しい。

 ライバルという関係。

 潔と、宵越は、互いを見て、凛を見て。

 異口同音に言った。

 

『やってみろよ』

 

 

────

 

 

 

 

EXHIBITION MATCH

 

U-20JAPAN

VS.

BLUE LOCK ELEVEN

 

 

 

SCORE

U-20J 5‐6 BL11

◆◆◆◆◆◆◆凪誠士郎◆◆◆◆6′

◆◆17′◆◆◆糸師冴◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆28′オリヴァ・愛空◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆烏旅人◆◆◆◆37′

◆◆◆◆◆◆◆糸師凛◆◆45+1′

◆◆50′◆◆士道龍聖◆◆◆◆◆◆◆

◆◆61′◆◆閃堂秋人◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆馬狼照英◆◆◆68′

◆◆75′◆◆士道龍聖◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆宵越竜哉◆◆◆82′

◆◆◆◆◆◆◆潔世一◆◆90+1′

 

 

 

 

青い監獄(ブルーロック)計画(プロジェクト)

第一段階(フェーズ・ワン)

 

計 画 完 遂(コンプリート)!!!

 

 







ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
宵越竜哉のブルーロック。
第1段階の完了と共に、こちらも一つの区切りがつきました。

ですが、これからもブルーロックの物語は続く。
はてさて、こちらの物語はどこまで駆け抜けていけるのか。
青い灼熱の世界へ──
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