サトシと翼の王   作:ヴィット

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エスパー少女

 

 ジムトレーナーの男によってサトシとコライドンは案内される。内装はパーティ会場か占い師の館の様な西洋チックのもので、隣にある格闘道場とは大きく異なる。

 

 道中、超能力に関する話をジムトレーナーから説明された。スプーン曲げは勿論、テレパシーや未来予知、テレポートなどの特殊能力はサイキッカーにとって「使えて当たり前」だという。サトシからしてみればピンと来ない話だった。

 

 ……ちなみに、サトシは悪ふざけで「透視能力とかは使えるのか? 」という質問をしたが、ジムトレーナーが物凄くブチ切れた。神聖な超能力を下賤(げせん)なことに使う訳無い、とのこと。どうやら超能力者はプライドが高く、つまらないことはしない主義らしい。

 

(つまりここの連中、ガラルのセイボリーみたいな奴ばっかりってことか)

 

 サトシは勝手に彼らをそう判断した。酷い風評被害である。*1

 

 そしてサトシはバトルフィールドに辿り着く。向こう側には既に一人の女性が人形を抱えたまま、椅子に座っていた。どう考えてもこれから戦うトレーナーの態度ではないが、今更そこにツッコミを入れる気が起こらない。

 

「臆病風吹かれて雲隠れするかと思ってたけど、戦意喪失せずにのこのこ顔を見せるんだ」

「……逃がす気が無い癖に、よく言うぜ」

 

 ナツメの相手を嘗め腐った態度にサトシは悪態をつく。ただでさえわざマシン『サイコキネシス』を貰うことができなかった。だから彼はすごく機嫌が悪い。

 

 そんな少年の無礼な口を聞いてナツメは眉をひそめる。他所のジムからの情報とは一致していないからだ。

 

「ふぅん? 今までのジムは敬語使うって話があったのに、私に対してはタメ口なのね」

「気に入らねぇ奴には使わねえっての」

 

 事実、サトシはカスミに対してはタメ口で話している。しかし、ハナダシティの責任者は姉のサクラだ。彼女に対しては敬語使ってたので、「サトシはジムリーダーに対しては礼儀正しい」と思われていた。

 

 当初、ナツメはどうでもいい情報だと思っていた様だったが、いざタメ口で話されるとかなり苛立つ。相手をリスペクトしていない癖に、相手からリスペクトされないと機嫌が悪くなる。母親を人形に変え、父親からロクな教育をされていなかった故の弊害(へいがい)か。

 

「ルールはフルバトル。技の制限も、持たせる道具も自由。本当に何でもアリよ。今まで通りのようなお遊びなんてつまらないでしょ? あなたの手持ち全部ボコボコにしてやるんだから! 」

 

 無法もここまでくれば清々しい。つまり持てる力全部使ってぶつかって来いってことである。公式ルールガン無視で、しかもコライドンまでもボコボコにすると言っている。……つまり本気だ。

 

 この時点でサトシはコライドンを出すことに決めた。ただし今回の主役はバタフリーとゴース、スリープである。翼の王は彼らに華を持たせる為の「縁の下の力持ち」でしかない。ここでまさかの舐めプだった。

 

 人形が不気味にケラケラ(わら)うと、急に彼女の本体の眼が赤く光る。そして急に何も無い場所からボールが現れた。

 

 ジムリーダーの ナツメが しょうぶを しかけてきた!

 

「……」

「バリバリッ! 」

 

 ナツメが出現させたボールの中から、バリヤードが現れる。『リフレクター』や『ひかりのかべ』を張るのが得意なポケモンだが、何よりの問題は特性『フィルター』だ。これをバリヤードが持っていた場合、効果抜群を狙う価値が薄くなってしまう。

 

 なお、ナツメはテレパシーを介してポケモンに指示を出している。相手に自分の行動を読ませない為のテクだ。同じサイキッカーでも無い限り、この戦法を破ることはできない。

 

「行けっ、コライドン! 」

「アギャス!? 」

 

 初手でコライドン。サトシの選択に相棒はびっくりだ。しかし彼は指示通り、バトルフィールドに立つ。しかもタイプが格闘・ドラゴンの複合な為、バリヤードとは相性が最悪過ぎる。

 

 何気に初のジム戦だが、やることはたった1つしかない。

 

「バリヤードに向かって『とんぼがえり』だ! 」

「!? ……ギャオース!! 」

 

 ここでまさかの虫タイプの技。この技自体はサトシが頑張ってコライドンに覚えさせたものだ。弱点を克服させる為だが、今回に限っては少し違う。

 

「……」

「バ、バリィ!? 」

「アギィイイ! 」

 

 バリヤードはナツメの命令を受け、即座に『リフレクター』を張って身を守った。しかしコライドンの物理攻撃力が高過ぎて完全に防ぐことができない。無視できないダメージを負ってしまった。

 

 そしてコライドンは『とんぼがえり』の追加効果によって、フィールドの外へと移動。すかさずサトシはボールを取り出す。

 

「行けっ、ゴース! 」

「ウケケケッ! 」

 

 ここでゴーストタイプのポケモンが出て来たことに、ナツメは警戒を高める。この手のポケモンは対応を間違えると逆に返り討ちに遭うからだ。『ほろびのうた』や『みちずれ』、『あやしいひかり』などといった技はサイキッカーにとって忌々しいものである。

 

「……」

「バリバリ! 」

 

 ここでナツメはバリヤードに『ちょうはつ』を指示。『サイコキネシス』で倒すという考えもあったが、『みちづれ』が怖かったのだろう。変化技を封じてから倒せばいいと判断したようだ。……しかし、

 

「ゴース、『たたりめ』だ! 」

「ケケーッ! 」

 

 まさかの特殊攻撃だった。ゴーストタイプの技がバリヤードに直撃する。『ひかりのかべ』を張っておらず、コライドンの攻撃を受けて大ダメージを負っていたので、バリアーポケモンは戦闘不能になってしまった。

 

「おのれ……! 」

「ナッシー! 」

 

 忌々し気にナツメはバリヤードをボールの中に戻す。そして次のボールをテレポートで出現させた。そこからナッシーが現れる。すばやさの低いどんそくアタッカーだが、物理攻撃と特殊攻撃に恵まれているのが特徴。

 

 このナッシーであれば容易にゴースを倒すことは可能。そう思ってナツメはテレパシーで指示を出そうとした。

 

「戻れ、ゴース! ……行け、コライドン! 」

 

 ここでサトシはポケモンを交代した。しかもまたコライドンを出してくる始末。

 

「あなた、まさか」

「そのまさかだ! 『とんぼがえり』でナッシーを吹っ飛ばせ! 」

「ギャオース!! 」

 

 コライドンの強烈な一撃がナッシーに向かった。『リフレクター』によってダメージ量は半減するも、4倍弱点の技を受けてしまった為、やしのみポケモンは戦闘不能になってしまった。

 

 コライドンの予想外の強さによって2匹も倒されてしまった。これにナツメは機嫌が悪くなる。ナッシーをボールに戻し、新たに虚空からボールを出現させた。

 

「……」

「ジュラ! 」

 

 新たに呼ばれたのは氷とエスパーの複合タイプ、ルージュラ。ぼうぎょの低さがネックだが、コライドンがフィールド外に戻っている為、このタイミングで出したのだろう。

 

 サトシは新たにホルダーからボールを出し、次のポケモンを出した。

 

「出番だ、スリープ! 」

「リィプ! 」

 

 現れたスリープを見てナツメは怪訝(けげん)な顔をする。ここはエスパータイプのジムだ。当然、スリープというポケモンの特徴を彼女は知っている。

 

 補助技を得意としており、逆に攻撃は滅法苦手なガリ勉タイプ。少なくとも、サイキッカーたちの間では育てにくいポケモンとして知られている。超能力者の聖地であるヤマブキジムでは使われることは無かった筈だ。

 

 それをサトシがこのジム戦で繰り出した。ナツメにとっては正に意味不明な光景である。

 

「何を狙ってるのかは知らないけど、ただの人間にエスパータイプのポケモンが扱えるとは思わないことね! 」

「ジュララーッ! 」

 

 ルージュラは右手から『れいとうビーム』を放出させる。この技でストライクやバタフリーなどといった飛行タイプのポケモンを瀕死にしたという実績があった。スリープはとくぼうの高さが取り柄だの言われているが、この技には耐えられない筈だ。そうナツメは思っていた。

 

「リリ、……プッ! 」

 

 けれどスリープはその攻撃を耐えきった。おまけに透明なバリアを張っている。

 

「『ひかりのかべ』ですって!? 」

「格闘道場の親方から貰ったわざマシンで覚えさせたんだ! これで『サイコキネシス』とかは半減できるぜ! 」

 

 ここでまさかの壁役である。エスパータイプのポケモンは厄介なことにとくこうの種族値が高い者ばかりだ。故にサトシはスリープを採用し、壁を張らせることでこのジムを攻略しようと考えていた。

 

「だったら物理攻撃で攻めるまで! 」

「……『さいみんじゅつ』で迎撃しろっ! 」

 

 『れいとうパンチ』を振るうために接近してくるルージュラに対し、スリープは得意技を使った。催眠の力は偉大であり、ひとがたポケモンは抗えずにそのまま意識を失ってしまう。

 

「こ、この! 」

「『ずつき』で攻め続けるんだ! 」

「リィプ!! 」

 

 こうなってしまえばルージュラに勝機は無い。スリープの容赦ない攻撃を何度も受け続け、彼女は瀕死に陥ってしまった。

 

「リィプ、……リーパー!! 」

 

 ルージュラに勝利した瞬間、スリープの身体が光る。そして彼はスリーパーへと姿を変えた。超能力者の聖地故か、思わぬ力を得たのだろう。

 

 しかしサトシは無理は禁物と言わんばかりに、スリーパーをボールの中に戻す。そしてコライドンが前に出た。またもや『とんぼがえり』でダメージを与え、控えに戻ろうという考えだろう。

 

 ナツメはボールをテレポートで持ち出し、新たにポケモンを出す。それはエスパータイプの中で最も使われているポケモン、ユンゲラーだった。

 

「……まあいい、『とんぼがえり』で攻撃だ! 」

「ギャオース! 」

 

 ナツメがどんな作戦を考えているのか知り得ない。サトシは超火力でユンゲラーを倒そうと考えていた。

 

「ゲラー……」

「ア、ギャス!? 」

 

 しかしユンゲラーは『テレポート』でコライドンの攻撃を回避する。ゲームでは交代技でしかなかったが、アニメ時空ではバトルフィールド内を自由自在に移動するもの。神出鬼没の神業を前に翼の王は成す術もない。

 

「ま、マジか……!? 」

「最初から、こうすればよかったのよ。あなたのコライドンは物理攻撃が得意みたいだけど、所詮は考え無しの戦術。……私たち超能力者の足下にも及ばないわ! 」

 

 問題ばかり起こしてはいるが、それでもリーグ協会から認められたジムリーダー。エスパータイプの扱いに長けたナツメならではの戦術だ。

 

 常に場所を『テレポート』で移動しているユンゲラーをコライドンは捉えることができない。こればかりはすばやさの高さなんて無意味になる。瞬間移動できるということは、あらゆる攻撃を避けられるという意味も含まれているのだ。

 

「だったら、更に速くなればいいだけだ! 3回『こうそくいどう』するんだ! 」

「―――遅いわよ!! 」

 

 サトシの指示を受け、コライドンは『こうそくいどう』をし始める。しかしそれこそが「生まれてしまった(すき)」だった。ユンゲラーの『サイコキネシス』によってコライドンは完全に動けなくなってしまった。

 

「アギャ……!? 」

「ば、馬鹿な……!? 」

 

 サトシには信じられない出来事だった。……コライドンが戦闘不能になった。

 

 ユンゲラーを相手にまさかのボロ負け。パラドックスポケモンの強さを以てしても、瀕死に追い込まれた。これにはサトシも心が折れそうになる。最強だと信じてやまない相棒の見たくなかった姿だ。

 

(コライドンが負けた? どういうカラクリが? 時間経過で『ひかりのかべ』が切れているのもあるが、それでも一撃で倒されることは無かった筈。奴は『テレポート』ばかりで他に……!? )

 

 ここで思わぬ事実にサトシは気づく。彼にとってはありえないことだったが、ここは超能力者の聖地。そこで鍛えられたユンゲラーがまともな訳が無い。

 

「まさか、同時並列思考の応用だと!? 一度に技を2つ使ってるのか!? 」

「あら? 分かるトレーナーもいるのね」

 

 2つ以上のことを同時に脳で処理できる人間は多い。頭の良いポケモンなら直ぐにできる。それが並列思考。車の運転などでは非常に重要な能力であり、これがあるのと無いのでは勝手が違うと言っても過言(かごん)ではない。

 

 この技術をナツメのユンゲラーは1つの脳で複数の超能力を扱うことができる。例えば、『テレポート』をしながら『めいそう』を使う。要するに敵からの攻撃を回避しながら、ステータスの強化を行うというものだ。

 

「『めいそう』を6回積み終えたユンゲラーなら、コライドンを一撃で倒すことも可能だろうな! スリーパーじゃ無理な技術をいとも簡単に……」

「簡単じゃないわよ。このユンゲラーは私の長年の相棒。10年以上も私の隣で修行を積んだのよ? そんな彼の努力の成果を軽々しく「簡単」の一言で済まさないでくれる? 」

 

 真冬の様にナツメの声は冷えている。怒りだけじゃない、これは憎しみだ。相棒のユンゲラーの努力を否定する愚かな凡人に剣呑(けんのん)な眼差しを向けている。

 

 悔しそうにサトシはコライドンをボールに戻す。相棒ポケモン対決で敗北したのだ。どうしようもない屈辱だろう。

 

「……まだだっ! 俺はまだ負けてねぇんだ! コライドンを打ち負かしたくらいで、いい気になってんじゃあねぇぞテメェ!! 」

 

 ルールはフルバトル。どちらが先に相手の手持ちを全滅させられるか。それだけだ。

 

 サトシは次のポケモンを出す。彼の残りは5匹。対してナツメの手持ちは2匹残っている。勢いは止められたが、数だけならサトシがまだ有利だ。それを少年は信じるしかない。

 

「勝つぞ、スリーパー!! 」

「リーパー! 」

 

 ヤマブキジムのフルバトル。運命がどちらに味方をするのか、それは神のみぞ知る。

 

*1
ありえぬ、いやアリ・エーヌ!? こんなノン・エレガントな連中と一緒にされるなんてサイコショック……!

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