月例企画東方小説。今月は秋分の日で秋姉妹……のはずなんですけど、これは正邪SSではなかろうか。メインテーマは『不平等』と『勝ち負け』というところでしょうか。生まれたときから不平等。けれど、何を持って誰かに勝った、誰かに負けたと思うのはそれぞれ次第。

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天は人の上に……とはだれの言葉だったろうか。

まぁ、誰の言葉でもいい。

そんな会ったこともないような人を『誰だったかな~』と思い出そうと頑張るのは労力の無駄だろう。

それにこの言葉に価値があるというのなら、それは『誰』が言ったからというのは関係なく、
その言葉に込められた意味……『何』を言ったから、というのが大事なのだ。

ほら、本人も言っているではないか、『人の上に人を作らず』と。

そう、人類皆平等なのである。

『誰が言った』というのを重きに置いているうちはその言葉を理解しているとは到底思えないな。

その言葉に何が込められているのか。

その言葉がどういう意味を持っているのか。

それを理解すれば、言った人が誰だ。とか、どんな地位にある人なのか。なんてのは意味がないと気が付くだろう。

…………まぁ、そんなことはひとかけらも思ってないけどな?

当然だろ?

どこぞ国のトップと、そこらにいる子供が同じことを言ったとして、その言葉が同じになるはずなんてあるはずがないじゃないか。

言葉の価値ってものは『何』を言ったのか……というだけで決まるなんてことはありゃしない。

まぁ、当然のことながら『誰』が言った、というだけでも決まるわけではないんだが……

とりあえずは私的な結論としては。

言葉ってのは、『誰』が『何』を言ったのかというのが重要である。ということだ。

ん? それで何を言いたかったのかって?

ああ、本題がずれていたな、最初に戻ろう。

『天は人の上に人を作らず』という話だ。

これまでの私の話を聞いて、この言葉を出すということは、私が何を言いたいのかわかるだろう?

……なに? 『結局、人間は平等じゃない』だって? ある意味では正解だ。

この言葉自体、偉大な言葉として後世に残されているんだ。

それを残した男は偉人ともてはやされている……つまりは、ほかの人間よりも上の存在ってわけだ。

かくいう私はそれが誰なのか忘れているんだがな。

しかしながらだ。

私はこの『天は人の上に……』という言葉は正鵠を射ていると思ってはいるんだよ。

……なんだって? 『矛盾してるじゃないか』だって?

まぁ、平等なんてあるわけないなんて言った後ならそう思われるのも仕方のないことだな。

だが、意外と矛盾はしないんだな、これが。

確かに『人類皆平等』は単なる詭弁だ。

けれど『天は人の上に人を作らない』のも真実だ。

ああ、察しの悪いお前でも気が付いたようだな。

さすが言葉遊びが好きなだけはある。

そう、『天』は人の上下を作らないんだよ。

じゃぁ、誰が作るのか……それもまた、人間だ。

あの人は自分よりすごい。

あいつは自分より下手。

そういう比べる心が、人の上下を決めている……私とおまえの上下関係も。

そして、あの姉妹の関係も……な。

ずいぶんはた迷惑な関係だったよな。


アキフカシ

「いやぁ、いつの間にやらずいぶん涼しくなりましたなぁ!」

 

ぬははははは、と高らかに笑う声が一つ。

 

すっかり涼しくなった秋の空を見上げては、遠い山の薄く色づいた木々。視線を落としては道の脇に生える夏とは種類の変わった草花を楽しんでいるようだ。

 

何かが目に入るたびに『秋ですなぁ』とウザったいことこの上ない。

 

「いつの間にこんな涼しくなったんだろうね。これまで、まだ暑いまだ暑いなんて思っていたのに、気が付いたら田んぼの刈り取りが終わってたよ! いや、季節ってのは移り行くのも早いなぁ。この分だとまたすぐ冬になった~なんていうんだろうな。ね、正邪ちゃん!」

 

彼が呼びかけた先……といいつつ、位置的には彼の背後数メートルというくらいを一人の女性がゆっくりとついてきていた。彼女の表情はとてもわかりやすいもので、自己完結的にハイテンション状態を維持している男の行動にうんざり……もしくはげっそりという心持ちがはっきりとしていた。

 

「私としては早くこの暑苦しいのがどうにかならないかと思ってしょうがないんだが?」

 

やれやれ、と肩をすくめて皮肉気に彼女は言うのだが……

 

「なん……だと……正邪ちゃんそんなに暑苦しく感じていたのか……なら……しょうがないじゃないか…! 薄着しようよ薄着! ほら、少し前に里で手に入れたこの夏服なんてどうかな? ワンピース! ほら、夏仕様でちょっと薄めの布を使ってて、風通しもいいし、何より正邪ちゃんにとっても似合うと思うんだ! けど、ちょっと残念なのは、これを着ると……丈がちょっと短めだから正邪ちゃんの生足があらわになっちゃうっていうね! きゃー! 正邪ちゃんったらせっくすぃ……ぐほぅ!」

 

「黙れ! 暑苦しいのはもれなくお前だ! それ以外は快適すぎる秋模様だわ!」

 

鈍感を通り越してわざとかと思うほどのスルースキルを身に付けているこの男、元サトリ妖怪の『名無し』には通じなかった。

 

「ぐっ……正邪ちゃん……ナイス……ミドル!」

 

彼女にけられた横っ腹を押さえつつ、グッ! と親指を立てていい笑顔を見せつける。

 

その笑顔を見て彼女はまた、心の中でこう思った。

 

『殴りたい……この笑顔!』

 

と思いつつ、殴ったとしてもまたいい笑顔を見せつけられるだけということが分かり切っているので、どうにも感情の矛先に迷うばかり、というのが秋に入った頃から感じている彼女の気持ちであった。

 

「お前最近この扱いに慣れ過ぎだろ……」

 

力を入れたはずの拳も行き先を見失い、だらんと脱力のまま宙で揺れる。

 

どんなことをしてもこいつには敵わないな。と思い始めてしまったのはいつの頃からだろうか。

 

幻想郷で異変を失敗したときか。

 

それとも、そのあとで逃走中に助けられた時か。

 

もしくはずっと昔に振り返って、外の世界で思わずこいつの『能力』を逆転させてしまったときか。

 

あるいははじめてであったその時からだろうか……。

 

と、過去のことを思い出している中でふと頭をよぎったのは少し前に閻魔のとこでの出来事だが……『あれはない。そう、あれはなかった』と意図的に意識の奥底に押し込めることで考えなかったことにする。

 

「うぃ……正邪ちゃんどうしたんだい?」

 

「あー何がだよ……」

 

視線を向けると心配そうにこちらの顔を覗き込む名無しの顔が目に入った。

 

「いや、なんか顔が赤いから、季節の変わり目だし、風邪でも引いたんじゃないかなと……熱は……ぐふぅ!?」

 

「なんでもねぇよ!」

 

熱を測ろうと手を伸ばしたところで、カウンター気味にボディブローが入る。

 

行き場を失ったはずの拳は無事着地できたともいえるかもしれない。

 

「正邪ちゃん……ナイス……ブロー」

 

そのまま倒れてもおかしくないような打撃だったくせに、またもや親指をあげるこいつの根性は見上げたものがある……あ、これもまたこいつに勝てないと思う瞬間なのか? とすぐに勝ち負け、もしくは上下関係で考え始める自分に頭を押さえたくなってくる。

 

―――ぱぁん!!

 

とそんな風に苦悩している中、秋晴れの空に鳴り響いた小気味のいい破裂音。それはある意味で聞きなれた音で、たとえるなら目の前の男に張り手をくらわせばこんな音が響いただろう。

 

「な、なんだ……い、今の音は、張り手? け、けれど、俺は痛みを感じない……なんなんだ! もしや、俺が打たれ強くなったためにダメージを感じていない? いや、もしかすると打撃音だけが先に届いているだけで効果はあとから……」

 

「お得意の妄想癖はいいから! あっちだ」

 

「あ、ひどい。正邪ちゃん追いてかないでってば~」

 

* * * * * *

 

「穣子……なんで……」

 

「おねぇちゃんはいつもいつも……何もわかってないんだから!!」

 

音のした方に向かっていって目に入ったのは二人の女性の姿。どちらも赤を基調とした服を着ていて、どことなく雰囲気も似ているのできっと姉妹か何かなのだろう。

 

「彼女たちは……秋神さま?」

 

「秋……の神様?」

 

「そうそう、あっちの髪飾りつけた方がおねぇちゃんで静葉様。帽子かぶったほうが妹の穣子様。姉が紅葉、妹が豊穣を司る能力の秋の神様姉妹だね。あ、苗字は秋ね」

 

「なんだよその微妙に姉妹で格差のありそうな能力は……絶対妹の方が重宝されてるだろ……」

 

「ぬはははは……ははは……」

 

「笑ってごまかすなよ。で、これは何事だよ?」

 

紅葉の髪飾りを付けた女性が頬を押さえているということは、さっきの音はもう一人の方……赤い帽子をかぶった彼女が殴った時のということだろうが……

 

「なんで、殴ったほうが泣いてるんだよ」

 

「いや、それはわからないんだが……泣いている女の子が目の前にいる! それだけで理由は十分……すわっ!?」

 

「無闇に突っ込むのやめい!」

 

今すぐに彼女たちの元へと走り出そうとした一歩目を見事に救ってその場に転がす。

 

「正邪ちゃん、足掛けは地味に痛い……」

 

「はい足元はよく見て歩こうなー」

 

まったく喧嘩なんぞに手を突っ込んで変なことに巻き込まれたらどうするんだ。

 

ただでさえフラグ乱立体質の癖に。

 

という建前と。

 

やたらと女性にちょっかいかけようとするこいつの行動にいら立ってついやった。後悔はしていない。

 

「おねぇちゃんなんかもう知らない! ずっとそうやってればいいんだ!」

 

「あ、穣……子?」

 

とこっちでごたごたやっているうちに、神様たちの方でも動きがあったようだ。

 

帽子をかぶったほう……穣子が涙を流しつつも、怒りをあらわに走り去っていく。

 

そしてそれを止めようと手を伸ばしつつも……何も言えずにその場で立ち尽くした姉。

 

その二人の行動に、思わず……ニヤリ……と口の端が上がる。

 

「なんだ、ずいぶん面白そうじゃないか……」

 

久々に嗅いだ気がする『争い』の匂い。

 

そして、姉妹喧嘩という『下剋上』の機会。

 

その雰囲気に懐かしいと思いつつ、心が浮き立つ。

 

「正邪ちゃん?」

 

おっと、あまりにもいい笑顔過ぎたのだろうか。先ほどとは別の意味で名無しが心配そうにこちらの顔を覗き込む。

 

「ちょっと行ってくるわ!」

 

* * * * * *

 

「あ、正邪ちゃ……いっちゃった……で、こっちを俺にどうしろと?」

 

まるでスキップをするかのように走り去っていった彼女の姿を見送り、視線をもう一方に向ける。

 

そこには呆然と立ち尽くす姉の方の神様がいるんだが……

 

「……大丈夫ですか?」

 

とりあえずはやさしく声をかけたのだが、近づいてみると思いのほか頬の平手の後は色濃く残っていた。

 

「えっと……?」

 

『やべぇ、どうすればいいかわかんねぇ!?』と内心焦りつつも、相手の反応を待つこと数十秒。

 

機械の動作のようにゆっくり彼女の首が動き、こっちを向いた……

 

「ふぇえええええええええん!」

 

「って泣かれたぁああああ!?」

 

マジでどうすれあいいでしょうか?

 

助けてください正邪ちゃん!

 

* * * * *

 

「全く、おねぇちゃんはいつもいつも! 私にああしなさいこうしなさいって! 少しは自分のことをしろぉー!」

 

ぶつぶつと、けれど時々叫ぶという奇行を繰り返す神様が一人。その内容は姉に対する不平不満ばかりのようだ。そしてそんな様子の彼女に声をかける存在がいる。

 

「よぉ、ずいぶんたまってるようじゃないか?」

 

生まれながらにしての天邪鬼、鬼人正邪。

 

「あなた、この前の異変の……天邪鬼が何の用よ?」

 

「いやー、警戒しないでもいいじゃないか。私はお前の味方をするためにここに来たんだから……」

 

「私の味方?」

 

「ああ、お前……姉に不満を持ってるんだろ?」

 

「聞いていたの? 趣味の悪いことね」

 

「あれだけ叫んでたら、いやでも聞こえるさ。けどわかるぞ……そりゃぁ不満にもなるよな?」

 

相手の近くに寄り、相手の目を見つめ言葉を紡ぐ。まるで、相手の心の奥底を覗き込むように。

 

「全然役に立たない姉。自分の方が人々に必要とされてるのに。ただ先に生まれただけで偉そうに説教を垂れる! 何を言っても、何をやっても、歳の差が埋まるわけじゃない。そりゃぁ、不満になるよな。だったらさぁ……決着つけちまえばいいじゃないか。下剋上……年下のお前が、お前の方が優秀だって、明確にしめ……」

 

――ぱぁん!

 

と、予想外の出来事に、意識が一瞬どこかにすっ飛んだ!

 

「何もわかってないくせに! 好きかって言うんじゃないわよ!」

 

頬の痛みで自分が平手を食らったことに気が付いた。

 

「何を……」

 

「姉に不満? ええ、あるわよ! けどね、それは私の方が優秀とかそう思ってるからじゃないわよ! おねぇちゃんの方が優秀だから! 不満なのよ!」

 

彼女は濁流のように次々と言葉を吐き出す。

 

「私の方が優秀? 何を基準に言ってるの? 豊穣を司るから? ええ、里の人には重宝されてるわよ。けどね、その豊穣の恵みがどこから出てるかわかってるかしら? 元をただせば大地の恵みになってるのは落ち葉よ、お・lち・ば。わかる? 地面に落ちた葉っぱをちっちゃな生き物たちが分解して大地の栄養になってるの。つまりはね。私が作物を大きく育てられるのは紅葉を司るおねぇちゃんが人には気付かれないところで頑張ってるからなのよ! だから私は私、おねぇちゃんはおねぇちゃんで頑張ればいいのに……おねぇちゃんと来たらいつも私の面倒を見ることばかり優先させて! 自分のこともやらないといけないのに私の心配ばかり! 少しは自分の心配をしなさいって言うのよ! わかる? ねぇわかる? おねぇちゃんはもっと評価されるべきなのよ。それなのにいつもいつも私を持ち上げて。『里の豊作は穣子のおかげよ~』とか! ふざけるなぁ! 自分のことも少しは褒めなさいよ! 喧伝しろって言ってるわけじゃないわよ? ただ、自分のやった仕事の重要さもしっかり認識して、豊作は私たち、そうわ・た・し・た・ちの成果だって言えばいいのよ!たったそれだけなのにいつもいつも『私は大したことしてないから』なんて……あ、こら! 天邪鬼!逃げるなぁ!! 話を聞いてけぇええ!! 私の不満はこんなもんじゃないぞぉ!」

 

「んなの聞いてられるか! ごめんだわ!」

 

聞けば聞くだけ不満が出てきそうなのにかかわってなんていられるか!

 

三十六計逃げるに如かずってやつだ!

 

「話聞いてけぇ!」

 

背後から聞こえる神様の声が聞こえなくなるまで後ろを振り返る勇気はあいにくと持ち合わせたなかった。

 

* * * * *

 

「……ということだ」

 

秋の神様から必死に逃げ出し、身を潜めていた私をどうやってか名無しが見つけ、経緯報告となった。

 

私としては不本意な報告だが、頬の痕を見た名無しがどこかに突撃しそうな勢いだったのでしょうがなく話した。

 

「ぬはははは。そりゃ災難だったね正邪ちゃん」

 

「全くだ……もう二度とあの妹の方には近寄りたくないわ」

 

「まぁ、ご苦労様。けどそのおかげで助かったよ」

 

「何がだよ……」

 

「あの姉妹、あの後仲直りしてたよ。きっと正邪ちゃんが妹の不満を吐き出させたからかね。帰ってきたころにはずいぶん素直になってたよ。結局のところ、あの二人は自分より相手が大事だったんだろうね。だから、姉は妹を心配していろいろと構うし、妹は姉にもっと自分を大切にしてもらいたいと思う……その結果、喧嘩しちゃうんだから、どんだけ仲がいいんだって話だよ」

 

「興味がないね……まったく、久々に下剋上にかかわれると思ったら、結局こんなかよ」

 

「けど羨ましいねぇ……俺たちもなんか喧嘩してみる?」

 

「冗談……そんな疲れることごめんだわ!」

 

「ぬはははは。そうだね、俺たちはいつでもなかよ……ぐほぅ! ……正邪ちゃん、痛いよ……愛が」

 

「うるさい。寝てろ!」




はいどうも、おはこんばんちは。カゴメです。

はい今回も書かせていただきました月例企画のさとり兄×正邪SS!

ん?

今月は秋姉妹じゃなかったのかだって?

いやそのつもりでしたが……これどう見てもさと正SSですよね?

もう作者としても悟りました。

自分の書くSSはさと正+α(その月のキャラ)だということを。

イヤー文字数制限ありますからねー。

五千文字だと正邪ちゃんたち書いてるだけで半分が埋まっちゃうという。

しかも今回は秋穣子さんの不満長台詞のせいで文字数が削られてしまった。

もっと秋姉妹同士の対立。そして、それをさとり兄がどう解決していくのかってのを書きたかったんですが、まぁ、それは同人誌版の加筆修正でやりましょう。

ということでまた来月もよろしくお願いします。


最後に一言。

この小説の主人公(さとり兄)に最近うらやましさを感じております。

作中の二人のやり取りが羨ましくなってきた人恋しい今日この頃です。

秋姉妹だけに。

(テーマ曲:人恋しい神様(作者))

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