勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん   作:Mckee ItoIto

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(魔女パート)
 魔女さんはラスボスではなくメインヒロイン定期

※少々せんしてぃぶな展開を含みます。


魔女さんの超絶アドリブ最終試練

・・・

 

 

 

 

 帝国は割と孤立した国と言える。

 南は大森林に覆われ、西と北は大山脈に塞がれており、そもそも高地なので交通の便が悪い。

 

 なぜこんな辺鄙な場所に国を興したのかというと、そもそも初代皇帝が王国での権力争いに負けた公爵家の当主だから。

 この辺そこまで詳しくは調べてないから少し曖昧だがそれが大体200年くらい前のことらしい。

 てなわけで帝国ってぶっちゃけそこまで歴史のある国じゃないわけだ。

 

 歴史が浅く、地政学的な状況も良くなく、地形環境的にも厳しい。

 そんな国が手っ取り早く力を持つために求めたのが魔術。

 私が来る前から魔術が盛んだったのはそういうわけでもあるのだ。

 

 ……結局それも、二代目皇帝以降から先代までの間で単なる権威付けに使われるようになっていったみたいだけど。

 今の皇帝様がいなければ魔術以外の力がない帝国は、そう遠くない未来に初代皇帝の遺産を食い潰して滅んでたかもしれないね。

 

 

 地理的に整理すると、大森林を隔てて南に獣国、南東に王国。

 大森林は東西に広いので、王国との距離は結構離れている。

 

 そして実質的に唯一の行路となる東側には教国、そして法国。

 この二つの国はもともと一つだったので距離的にはそこまで変わらない。

 

 強いて言えば教国との方が近いが、別に法国にも道がつながっているので直接向かうこともできる。

 まぁつながってるといっても、ちょっと整地されててせいぜい馬車が通れるくらいの砂利道。

 前世基準で考えたら、これ道か……?みたいな感想が出るけど、どこもそんな感じだしむしろマシな方でもある。

 

 ちなみにこの世界では馬車が普通にメインの交通手段なのだが、馬も魔力を持ってるので普通に成長すればどんどん強くなる。見た目は前世の馬と変わらないけど。

 でもあまり全力で動くと運んでる荷物や人が大変なことになるので、馬がその辺を調整してくれてるみたい。えらいね。

 

 私は動物も嫌いじゃないというか、一見論理的に見えないけど確かにある知性、ということには好奇心がそそられるよね。

 特に、お馬さんのような賢さを感じられる動物とか、魅力的だ。

 

 ……いや、別に私はケモナーとかいうわけじゃないぞ?

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 そういう地理的な問題もあり、帝国は教会と関係が深い。

 帝国教会と教国教会、法国教会は密に連携しており、帝国の聖職者もそこそこレベルが高いのだ。

 

 といっても帝国教会はあくまで支部的ポジションなので流石に上位聖職者がゴロゴロいるわけじゃないんだけど。

 というか目の前の黒髪ちゃんみたいな上位聖職者がゴロゴロいたら普通にヤバい。

 

 

 あ、いや、もしかしているのか……?

 別に私も教国とか法国の教会のことそんな知らないし、上級冒険者顔負けの人類の上澄みがゴロゴロ……?

 

 

 いーや、こっわ。冷静に考えたら教会って結構ヤバイね。

 

 少なくともこの子が実力者なのは間違いないとして、単独行動してるこの子だけが特別に強いってのも考えにくいし。

 教会の総本山たる法国と教国にも同じくらいの実力者が少なくとも最低一人ずつは存在すると考えた方が良いでしょ。

 むしろこの世界の創造主たる女神と直接つながってるやつらなのだから、もっと強いのがいてもおかしくない。

 

 うわやっべ、教会の戦力評価をもっと上げないとダメか?

 

 

 

 ……いやまぁ最悪、私が出張れば大抵のことは大体むりくり解決できるので大丈夫っちゃ大丈夫ではあるけど。

 そもそも私が戦力的に出張る案件とかほぼ魔王軍関連のことだったりと普通に異常事態だし無いと思いたい。

 

 だいたい帝国と教会は関係が良好なはずなのでそんな事態まず有り得ないだろうが。

 教会自体、私が知る限りでは割と善性寄りの存在だしなぁ。たぶん大丈夫かなと。

 

 ……個人的には神とか聖とかそういう関係の存在、そんなに好きじゃないので思うところは結構あるんだけど、それはそれとして。

 

 

 

 

 

 

 

 と、いうわけで。

 

 気を取り直して魔術院試験の続きである。

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 ……なんかちょっと気まずい。

 

 あの3人のクレーマーズトリオはさっき適当に結界に閉じ込めたところなので、この場にいるのは私と黒髪ちゃんの二人きり。

 あと一応、特に今後の試験結果に関係ない私たちも別の結界を作って閉じ込めている。

 

 結界を隔ててお互いの様子は目視では分からないが、私は監視術式であちらがどうなっているか逐一わかるので問題なし。

 

 もちろん試験の邪魔をしないため、術式の展開はバレないようにこっそりとやった。

 あいつを見守るために鍛えた私の監視術式の練度は我ながらすごいからね。院長相手でも多分バレないレベルの超絶技巧な隠蔽技術だよ。

 

 なんかこうやって手際の良さを説明するとまるで犯罪者っぽいけど気にしてはいけない。

 私がやってたのはあくまで見守りでストーカーではないので……!

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 ……。

 

 ああいや、しかしなんていうか……。

 私は自発的に人と会話するのが、そう、ほんのちょっぴり苦手なので……。

 

 ……こう、二人きりという状況だと時間が流れるのがやたら遅い気がする。

 

 

 

「……」

 

「えっと、ねぇ、あっちの人たち大丈夫?」

「え? あ……、う……ん? 今のところは……?」

 

「今のところ?」

「え…っと、このあとどうなるかは……」

 

「ふーん」

 

 

 

 ……よし、おーけー。

 

 急に話しかけられたのでちょっと焦ったが、問題なし。

 イッツ、パーフェクトコミュニケーション。

 

 だいじょーぶい。

 

 

 

(いやどこが?)

(さっき普通に話してた年下相手にまたキョドってるやんけ)

(コミュ力が時間を置くとリセットされるタイプのクソ陰キャ)

(ざこざこな稚魚)

 

 

 

 ぐふ……。

 

 試験的に再起動したサブ私たちにさっそくボコボコにされた件。

 これ脳内会議みたいなもんだけど思考権限付きでメイン私から独立してるからなんか何気にダメージあるよね……!

 実質ただの自虐だから多少マシとはいえ、これ実際メンタルダメコンとして方向性合ってるのかなぁ……!?

 

 

 

(というか最近の私、アホが加速してない? もともとアホだけど)

(そもそもこれも、ほぼバレてるとはいえ普通に私の仕業ですって自分からバラしてるようなもんだがええんか? だいじょばなくない?)

(たしかに)

(かに、たらばがに)

 

 

 

 いやちょっと、なんかこの新しく生やした分割思考のサブ私ども、生やしたてでまだ仕事振ってないからってやりたい放題すぎへんか……?

 黒髪ちゃんの干渉でバグ残ってるかもだし、まだ魔術院の方の試験の最中だし、メイン私に変な影響ないように早々に仕舞うか対処した方がええんか……?

 

 

 

(まぁノータスクで思考権限だけあったら暇だし、そら姦しくなりますわな)

(いうて元々こんなもんだった気がしないでもないけど?)

(脳内デスマーチの甲斐あって今のところ進捗好調だし、若干調子に乗ってる感はある。ちょい内省)

(調子は元々乗ってる定期。まぁまぁ影響ないよ。うに)

 

 

 

 うーむ、どうなんかなぁ。まだまだ脳内で処理する仕事はあるけど追加が控え目だから減少傾向ではあるけど、バッファ的な遊びは改めて要調整か?

 

 あととりあえずさっきからへべれけな海産物謎電波垂れ流してるやつ、シンプルにウザいのでこいつだけ先に仕舞っとこ。

 

 

 

(あじゃぱー! ひとでなしー!)

 

 

 

 うっさ。

 素面になってから帰ってこいや。

 

 

 

 

 

 

「……まぁいいかなぁ。こっちには何もないの?」

 

「?」

 

「えぇ……? なんで首傾げてるのかなぁ……ほんと話が通じるようで微妙に通じなくてちょっと……」

 

 

 

 ちょっとってなんやねん。

 

 え、ていうかなんかした方がいいのか……?

 

 この子も合格する気がないってのは既に分かってるし、私も合格する意味がないので別に何もいらないような気がしてたんだけど……。

 

 なんか……、なんか……?

 

 

 

 ……うーん、まぁでもそうだなぁ。

 

 あちらの三人組が試験を終わらせるまで暇だし適当に何かするか。

 

 

 

 

「あ、いや別に何かしたいってわけじゃ」

 

 

 

 

 

――『使い魔:召喚』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……さて。そもそも使い魔とは何か。

 

 帝国魔術の定義で説明すれば、それは術者が魔力パスを直接つなげて主体的に行動を操作することが可能な生命体、もしくはある程度自律的な魔道具のことを指す。

 

 例えば私がこれまで隠れてこっそりあいつのことを見たり眺めたり見つめたり観察したり見上げたりするのに使ってきた見守り使い魔くんズ。

 

 あれらは生きてない魔道具タイプの使い魔になる。色々作ったので外装も内部設計も様々だが、どれもリモートで動かしてるラジコンのようなもの。

 色々命令を与えてるので半自律でも動くし、動力も自前で作ったりしてるけど、完全に私から独立してるわけじゃない。

 

 あと、前に作るつもりで結局作ってない完全自律型の使い魔くん。一応そのうち研究目的で作るつもりではあるけど。

 この設計構想も、結局のところパスは付けたり外したりして手動操作できるし、自律といっても行動権限は私が主なので、使い魔に定義される。

 

 ちなみに使い魔と似てる概念で、眷属ってのがあるけど、それは別の話になるので今は置いておくとして。

 

 使い魔としての中核は、魔力核に繋げたパスによる主従の関係だ。

 使用者と使用人、つまりはエンプロイヤーとエンプロイー、マスターとサーヴァント、といった与えて受け取り応える関係性が必要になる。

 

 

 なので農作業ゴーレムのAGRIや元アル人形のソルなんかの疑似人格型自律ゴーレムたちは使い魔ではない。

 私が直接パスをつなげて強制的に弄ることは可能だが、別に私がその行動権限を持っているわけじゃないからだ。

 

 あくまで、行動の主体はあの子たちにある。

 まぁ逆にそれを無理矢理書き換えて掌握すれば使い魔となるわけだが。

 

 私にはそんなつもりも予定も無いし、あの子らのような高機能疑似人格術式相手にそれをできるような術者はほぼ存在しないと言っていいだろう。

 

 

 

 で、魔道具タイプの使い魔の他にも、生命体タイプの使い魔も存在するわけなんだが。

 

 そう、例えば。

 

 

 

 

「……! すっ……スライム?」

 

 

 

 

 どたぷんっと、虚空から出現した半固形ジェル状の生き物。

 

 スライム。

 

 この世界では、水の自然魔力さえあればどこにいてもおかしくない有り触れた魔力生命体。

 大量かつ極小の核から延びる魔力線で液状の身体を繋ぎとめる単純な組成でありながらも、群体的性質も持ち、大きくなればなるほど強くなる魔物。

 でも小さいスライムはほぼ害が無いと言っても良い。こぶし大程度のサイズであれば子供でも鼻歌歌いながら散らして退治することができるくらい。

 

 生き物のイメージとしては……ちょっとマイナーだが個虫群体タイプのクラゲモドキとかが近いかもしれない? カツオノエボシとかみたいな?

 一体だけでは独立性の低い生き物がコロニーを作り、その集まりによって性質を変えて、まるで大きな一個の生命のような振る舞いをするっていう小さな生き物たち。

 

 それの、クラゲよりももっとドロドロで自由度の高い、陸上でも活動する半液状タイプな魔物。

 見た目は勝手に動く半透明のゼリーだね。気泡のように濁って見えるのは全部魔力核で、溶けかけ色付きこんにゃくといってもいいかも。

 

 スライムはこのダンジョンにも至る所に勝手に住んでる。暗くてジメジメしたところは水の魔力が溜まりやすいので勝手に集まってくるわけだ。

 魔力を持つ魔物の中でも組成が単純なので割と実験の材料にもしやすいし、魔術院にとっては勝手に沸く資源みたいなもんでもある。

 

 そして組成自体は単純なので魔力で無理やり核同士の動きを制御して動かしたり、なんなら術式化していろんな機能を持たせたりもできる。

 

 そう、魔物でも魔力核を掌握して術式を刻むことができれば、行動を操作したり情報を受け取ったりと使い魔化することもできるわけだ。

 中でもスライムは個々の魔力核の数は多くとも抵抗は弱いので使い魔にするにはもってこい。初心者向け。

 

 まぁ大型のスライムとかはそれなりに複雑なコロニーになってて魔力連携による抵抗も強くなるので難易度は上がるけど。

 

 

 

 ……ああ、あと余談だけど。

 

 どんな生き物でも理論上は魔力核を完全に掌握することができれば支配して使い魔にできる。

 人間の魔力核、すなわち人の魂は非常に高密度かつ複雑なのでほぼ不可能だけど、例えば小動物とか弱い魔物とかは比較的容易。

 

 で、魔物の魔力核ってのはその魔物の固有魔法と密接に関係している。

 

 

 

 それ故に、魔物の魔法を完璧に模倣できる魔族は、その魔物を使い魔として支配することもある、とされている。

 

 

 

 ……上位の魔族は強い魔物を従えることもあり、これは魔王が恐れられている理由の一つでもある

 なので魔物を使い魔にするってのは正直かなり外聞が悪いんだけども。

 

 スライムは見た目が液状であまり生き物っぽくないし、というか魔術師の使い魔として割と一般的かつ身近でイメージしやすく害の少ない魔物だったりするので問題になることも少ない。

 

 てなわけで王国とかならともかく、少なくとも帝国周辺で魔術師のスライム使い魔が問題になったことは無いし、そもそも冒険者の魔術師も普通に使うことある。

 

 まぁでもゴーレムみたいな魔道具を使い魔化して運用する方が一般的かな。メンテ楽だし。生き物を使うってのはそれはそれで大変なのだ。

 

 

 

 んで、いま私が呼び出したのは私が魔改造しまくった使い魔スライムくん。

 

 百体以上のスライムを魔術的に合成して作った実験用の人工的な巨大スライムで、私の背丈よりでかい大質量だから結構迫力ある。

 

 でも今は待機中なので触腕とか生やしたりしてないし、見た目はただのクソデカ水まんじゅうって感じ。ぷるぷる震えててかわいいね。

 

 

 なんかその場からめっっっちゃすごい勢いで飛びのいた黒髪ちゃんも、その可愛らしい姿に毒気を抜かれたのか、困惑?といった表情をしてる。

 ほんの一瞬敵意みたいな不穏な気配を感じたけど、別に召喚は無宣言で魔力隠蔽もしてるので私が出したとはバレてないはずだし……?

 

 

 まぁいいや、とりあえずこれで暇をつぶしてもらうとする。

 

 

 

「これ、試験のボス」

「えっ……? えぇ……?」

 

「あ、あとあっちにも出し……出た」

 

 

 ついでにあちらの三人組が見てると想定以上に順調だったのでちょっぴりテコ入れ。

 流石に三人がかりだと結界解析の難易度も易しくなっちゃうし、お邪魔キャラとしてスライムくんを送り込んだ。

 

 

「は? これを……?」

「あっちのはこっちよりも小さくて弱い」

 

 

 あっちのやつは魔女さん判定レベル的に20くらいかな?

 流石に私たちと実力差が大きすぎるので、送ったのは多少改造してるけど一応は普通なスライム。

 三人がかりなら余裕だろうけど、一対一だと少し苦戦しそうな感じ。

 

 こっちのキングなスライムくんは30から40くらい。油断しなけりゃ上級冒険者が一対一で十分対処できる程度。

 つよつよな黒髪ちゃん相手には不足にも程があるけど、そこそこ歯応えあって暇つぶしにはちょうどいいくらいだろう。

 

 

 

「あぁそう……なんだぁ……? 良かったのか良くないのか……いや良くない寄りかも……あぁもう」

 

 

 

 ……うーん? なんか反応がイマイチだな。

 

 

「えっと、来るよ? 気をつけて?」

 

 

 まぁ正確には来るというか行くというか、けしかけるというか。

 

 触腕を伸ばし身体を震わせズルズル!っと意外に機敏に動く姿も、なんていうかキモ可愛いと思うんだけどなぁ。

 

 毒も酸も出さないような調整をしてあるので、口を塞がれたりしない限りは命の危険もほぼ無い。ただし物理はほぼ無効で魔術的な対処が必須なので決して簡単な相手でもない。

 

 適度な難易度で危険性も少ないためこういう試験用ダンジョンのボスとしては最適かもしれない……と思いきや作成難易度とか維持管理コストとかの問題もあるので常駐には向いてないのが玉に瑕。

 生きてる使い魔は魔力核が代謝で更新されちゃうからね……長く使うには結構めんどいのだ。

 

 てなわけで人工スライムみたいな使い魔は基本使い捨て。実験が終われば処分行きなので、こうして有効活用できるならそれに越したことはない。勿体無いし。

 

 

 

 それじゃあ私はこれで採点に入るので。

 

 みんな、頑張ってね……!

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 

 ……といっても、いやまぁ採点っていうか?

 

 こちらはそもそも採点の余地無いし、あちらは妨害を防ぎつつ結界突破出来たらクリア、出来なかったらアウトの2パターンしかないから終わるまで見守るしかないんだけど。

 別に最初の簡単な命令付与以外でスライム操作したりしないしする必要も無いし。

 

 

 

(なんていうか、ホラー系バトルアクションゲームのトラップ解除みたいな?)

(時間制限付きパズルってめんどいけどロマンよね)

(失敗したらゲームオーバーのデッド・オア・アライブ。しぬぅ、ころさえぅ)

 

 

 

 いや死なんがな。これ試験やぞ。万が一の時は介入するわい。

 そもそも人を増やすための採用試験で人減らしてどうすんねん意味不明だろ。

 

 確かにマンガとかだと明らかに人死ぬやろって描写の試験とかあったりするけど、ああいうのはあくまでフィクションであるからして現実的ではない。

 

 まぁこの試験がどこまで現実的なのかはさておくとして……。

 

 

 

 帝国魔術院はコンプライアンスを重視してますし!

(注:皇帝様の意向と帝国法の範囲内)

 

 

 安全性に配慮した安心の試験をご提供いたしております!!

(注:皇帝様の意向と帝国法の範囲内)

 

 

 

 ……まぁ、少なくとも今回のスライムたちは攻撃性能ほぼ無いし、どっちに転んでも安心して見ていられるよね。

 できることならあちらはクリアしてほしいし、こちらは暇なのでそれなりに時間を稼いでほしいけども。

 

 

 

 と、いうわけで……!

 

 それいけ! スーパースライムくん!

 黒髪ちゃんをぬっちょぬちょんのねっちょねちょにしてしまえ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「『雷撃』」

 

 

 

 突然の空気を引き裂く衝撃。

 

 あわれ、ウルトラビッグなスライムくんは無残にも爆発四散。かわいそう。

 魔力残滓が煙のように漂う奥からバチバチと魔力のこもった指を突きつけた黒髪ちゃんの姿が現れる。

 

 

 

「……まぁ? 所詮スライムだよねぇ? ……バカにしてるの?」

 

 

 

 えぇ……、なんかさっきから黒髪ちゃんめっちゃ不機嫌じゃない?

 

 多少話せるようになったと思ったのに、また妙に私へのヘイトが高いような……。

 

 私もただ突っ立ってるわけじゃなく、なんか私だけ何もしないってのもアレなので一応、勝手に動いて私にも襲ってくるスライムくんを適当にさばいたりしてるのだけど……。

 何故だか勝手に黒髪ちゃんの中で、スライムアンド私、バーサス黒髪ちゃん、みたいな構図になってる気がする。

 

 いや事実としては間違ってないんだが。

 

 

 あぁ……、あと一応。この子の今の行動を評価するなら割と高得点だったりする。

 

 一般的にスライムは物理耐性が非常に高い。

 群体生物だからといって全部の核を壊さないといけないってわけではないけど、切ったり殴ったりした程度ではすぐにくっ付いてしまう。

 一応、群体のコア的な密度の高い中心部分は存在するので、そこをピンポイントで壊せば全体が崩壊するけど、パッと見じゃまずわからないし。

 

 故に対処法としては、高火力広範囲の魔術で全体を叩くのが一般的。

 水系魔物なので水系の魔術は効果いまひとつだし、使うなら広範囲を焼ける火属性がオススメ。水だからといって火に特別耐性があるわけでもないし。

 だけど、一番効くのは電気。個体によっては絶縁性が高いのもいなくはないけど、たいてい効果抜群だし一気に全部を焼けて手っ取り早い。

 

 電気って基本属性じゃなくて、風と火の元素を巧いこと合成して扱わないといけないので結構難易度が高いのだけどね。

 水と風は親和性が高いので水属性の黒髪ちゃんも風属性を普通に使えるとは思ってたけど、火属性の扱いも中々上手みたい。

 

 やはりこの子はレベルが高い……、のだけど、一つちょっと気になる点として。

 

 何ていうかあまり理論派じゃないのか、たまに変な構築してたりして術式覗くとモヤったりもする。

 ちょいちょい冗長というか、動けばいいという感じというか。

 

 たしかに相手と共有すべきじゃない攻撃系の術式の可読性を上げる意味ってのは冒険者ならあまりないけど。魔術って人間しか使わないし。

 相手の使う術式を瞬時に読み取れる魔術師自体ほぼいないのだから、そこまで気にする必要も無いっちゃ無いのだけども。

 でも悪意ある超上級の魔術師と敵対した時とか、だいぶ致命的というか危険だったり。

 

 この子は使ってないけど座標系の攻撃魔術とか、万が一ハックされて座標初期化されたりすると座標ゼロにあたる術者の中で発動して盛大に自爆したりするし?

 例えば帝国にちょっかいかけてくる魔族とか、結構そういうセキュリティ甘い構成の魔法をバンバン使ってくるので出オチ気味にあっさりやられがちなんだよね。きたねぇ花火だ。

 

 それに私たちは研究魔術師なので、その辺の粗はかなり気になってしまう。粗探しをしたいわけではないんだけど。

 

 

 

 ……ちょっと脱線しちゃったけど、試験の続きに戻ろう。

 

 と、いうか終わった気満々でいるみたいだけど……。

 

 

 

 

 

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「っ! 『雷撃』!」

 

 

 

 分裂した群体が不意打ちを掛け……、でもそれも見えてたみたいだね。

 上手く迎撃されてしまった。

 

 

 そう、スライムは分裂する。

 

 

 普通なら核が焼き切れたらお終いなんだけど、生き残った個体の数がコア部分再構築に足りれば、すぐ再構築して別々の群体として行動するようになる。

 まぁ、魔力的な消耗も核の損傷もそのままなので分裂するたびに最大HP的なのは減るんだけどね。

 いずれ分裂も再構築も出来なくなって完全に死滅するので不死身ではない。

 

 

 あと当たり前だが野生のスライムは普通こんなに頑丈ではない。

 というか、私判定100レベル近い上位聖職者の攻撃を一発でも食らって生き残れるスライムとか普通存在しない。

 

 ただ単に、私が魔改造した超絶スライムくんの耐性とHPがアホほど高いだけである。

 

 

 

「これくらい見えてる! 『雷撃』!」

 

 

 

 またもやバラバラに吹き飛び散らばるスライムくん。

 ぶすぶすと魔力残滓の煙を上げながらも即座に各々で再集合し、分裂して復活する。

 

 決して効いてないわけじゃない。

 というか普通にダメージはあるし、徐々に小さくはなっている。

 だが通常ワンパンで倒せるような魔物が何度も復活して増えていく様は不気味であろう。

 

 

 

「っ!? 『氷撃』!」

 

 

 

 お、ちょっと焦ったね。

 

 効くはずの攻撃が効かない。むしろ状況が悪化してるように見える。

 だから手段を変え、効かないはずの得意な属性を試してみる。

 効きにくいまでも凍結させて隙を作ろうって魂胆だろうか。

 

 抜け道を探るために悪手を試すのは、選択肢として一見正しく見えるかもしれないけど?

 

 でも、それは選ばされた不正解。試行錯誤に見せかけた逃避だよ。

 

 邪道はつまり茨道なのだから。

 冷静に、慎重に、最悪を想定しながら、それでもあえて選択するもの。

 判断ミスは致命傷に帰結しかねない。

 

 

 

 

「えっ……」

 

 

 

 

 魔力吸収反射。

 

 魔力核が特定の属性魔力を検知して活性、吸収して自己強化に利用する。

 魔物にはそれほど珍しくも無い反射的生理機能の一つ。

 

 まぁ、ゲームとかだと属性吸収ギミックとかお馴染みだけど、現実はそんなバランスブレイカーな代物ではない。

 

 スライムは水属性の魔力を食べて活動する、半魔力生命体だ。実際に小動物や魔石片などを分解して捕食したりする。

 生き物に襲い掛かるのは血とかの体液に含まれる水魔力を求めてのこと。そして魔力活性を起こして魔力核を増やし大きくなる、単為生殖的な性質を持つ。

 

 

 が、流石にぶつけられる魔術効力そのものを直接分解できるわけじゃないし、単純に変換効率の問題もある。

 あくまで食らった後の余波と残滓を利用するに留まるのだ。つまりダメージは普通に食らう。

 

 その辺の野良スライムでは、それこそクソザコ魔物たちの小競り合い位でしかまともに活かされない機能だろう。

 

 

 

 だが、この私謹製の激ヤバスライムくんなら耐えてしまう。

 一般ドラゴンくらいなら一撃必殺してしまうような魔術にさえ、数回程度なら。

 

 耐えてしまうとどうなる?

 

 

 

「えっ……、えっ」

 

 

 

 飛び散ったスライム片が、先ほどと同様に新たな子スライムとなる。

 

 水属性以外ならほとんど吸収できないので分裂の度に小さくなっていくが、水属性の攻撃を食らって耐えられたら、その魔力を吸収できる。

 

 吸収した魔力を使って核が増え、あっという間に立派な群体の大人スライムと化す。

 

 

 結果、めっちゃ増える。

 

 

 

「な、なっ」

 

 

 

 普通ならこんなこと有り得ないということが、有り得てしまうという初見殺し。

 

 もはやそれほど広くないこの結界内はスライムの巣のような状態。

 見渡す限りところ狭しと這いずり回るスライムたち。地獄絵図かな?

 

 ぶっちゃけ私も手動で迎撃するのが面倒になってきたので風属性の攻性障壁を張って自動迎撃してる。

 

 

 うーん……。なんか、見ててアレだね。

 黒髪ちゃん、対人戦闘の経験は豊富っぽいけど対魔物の経験はあまり無さそう?

 

 これだけ強かったら大抵の敵は無理くりゴリ押しすれば問題ないんだろうけど。

 高耐久ループ対策がなってないね。火力が足りずジリ貧になっちゃってる。

 

 まぁそうは言ってもレベル差かなり大きく、魔力的なリソース量もだいぶ違うわけだから受けきれなくなるのも時間の問題ではある。

 削られきって、いずれスライムくんも負けてしまうだろう。勝てはしなくても一矢報いてほしいところ。

 

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 あ、捕まった……。

 

 もちろん身体全体を守る防御系の術式も使ってたみたいだけど、物量に負けてその上から無理やりガバっと覆われちゃった感じ。私みたいに攻撃を弾く攻性障壁にしないから……。

 こうなっちゃうと全身がオールレンジの攻撃を常に受けてるみたいな状態になるから、防御術式を維持するのが結構大変になる。

 

 

 

「あっ、ちょ」

 

 

 

 隙を見せてしまった黒髪ちゃんにスライムが殺到する。

 あっという間に次から次にくっ付いて、こう、どんどん取り込まれて……。

 

 

 

「や、ぃ……、ごぽっ……!」

 

 

 

 

 ……。

 

 あの、えっと。

 

 ていうか……、なんか……?

 

 あー、いや、なんだろう……。

 

 すっごい……。

 

 

 

(女の子丸呑みスライムくん)

(あー! えっちです!)

(美少女聖職者×スライム。これなんてエロゲ?)

 

 

 

 ……えー、いや、うん。

 

 たしかに私もあの子をぐちょぐちょぬらぬらにしろとは言ったけどさぁ……。

 

 いざこうなると、なんか申し訳ない気持ちというか、居たたまれない気持ちになるというか……。

 

 ……。うん。

 

 あんまり見てちゃいけない気がするし、私はあっちの三人組の採点に集中しようかな……。

 まぁ万が一に備えて魔力的な注視だけするけど……ほっといても別に命の危険は無いだろうし……。

 

 

 

「……! ……ぁぷ!」

 

 

 

 チラッ。

 

 うわぁ。すごい。

 

 

 

 ……まぁいいや、んーっと、あっちは順調みたいだね。うん。

 

 役割分担して、マッチョが解析、二人がスライムへの対処をしてるみたい。

 何気にマッチョが一番魔術解析能力が高いみたいで、レベルのわりにそこそこ手際が良い。9割くらい解析が終わってるのかな。

 

 ギャルとチャラ男もお互いの死角を補いながら丁寧にスライムを魔術で叩いている。

 あちらも野生のスライムよりめちゃくちゃ耐久高いので戸惑ってる様子はあるけど、まぁセオリー通りの対処だ。

 ほとんど片付いてるし、解析が終わって結界の解除をする前には殲滅できるだろう。

 2時間くらいかかるかなって思ってたけど1時間も経たず終わるかも。うれしい誤算だ。

 

 

 

「……!? ゃ……!」

 

 

 

 いやはや。

 

 なんだかんだ、難易度設定としてはテコ入れも含めていい感じだったんじゃないかな。自画自賛。

 

 かつての失敗は繰り返しませんよ。ちゃーんと相手のレベルに合わせた試験ができましたし。成長したね私。

 

 あの三人には、研究魔術師としても冒険魔術師としても良い感じの評価を与えられそうだし、このデータをまとめて担当の人に伝えればきっと良い結果が貰えるだろう。

 

 

 

「……っ! ……! ……」

 

 

 

 うん、よかったよかった。

 

 私も研究で出ちゃった処理に困る産業廃棄物を有効活用できたし。

 

 結果オーライ、万事解け――

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁぁあああッ!! 『海裂の奇跡(Divisio Maris)』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 へ?

 

 

 

 あれ、えっ……と?

 

 一瞬何が起こったかわからなかったけど、そこには粘液まみれの黒髪ちゃんが真っ赤な顔で立っている。

 

 

 

 

 

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 数えきれないほどの魔力核全てが、耐性を無視して完全に真っ二つに裂かれ、霧散している。

 

 

 

 

 

 なんだこれ? 水属性の概念的切断……?

 

 

 ……すっご。こんな奥の手があるんか。

 

 私の禁忌による切断とはまた違う。明らかな上位権限による強制干渉。

 これまで見てきた並の聖職者の奇跡とは、何もかも完全に次元が違う。

 

 散々すごいって評価してきたけど、改めてやべぇな、この子……。

 

 

 

 

「ハァ……! ハァ……!! 終わったけどぉ……!?」

 

 

「え、も、……もしかして怒ってる?」

 

 

「怒ってないけどぉ……!?」

「ひぇ……」

 

 

 

 いやブチ切れですやん……。

 あれ、私悪いことしてないよね……?

 

 大股でこっちに歩いてくる威圧感がすごい。思わず後ずさりしそう。

 

 

 

 ……あ、あっちも終わった。

 

 よ、よし、終わり……! 状況終了……!

 

 終わりよければ全てよし……!!

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「お前ら、大丈夫だったか?」

 

「大丈夫」

 

 

 逐一監視してたから分かってたが、チャラ男たちは特に怪我も無く無事脱出できた模様。

 そそくさと私は黒髪ちゃんから離れて三人組のもとへと向かう。

 

 ……あ、いや、逃げたわけじゃないぞ。別にビビってないし。

 

 でもとりあえずギャルとマッチョの後ろに回り込んで、いったん黒髪ちゃんの視線から逃れたい。

 

 

「そっちもスライムだったみたいね? えっと……、ドロドロみたいだけど本当に大丈夫……?」

 

「ぜんっぜん大丈夫だよぉ……? ぜぇんぶ私が倒したからぁ?」

 

 

 笑顔だ……。でもこちらを見る目がパキパキで怒気がヤバい……。

 

 いやマジでなんでこんなに怒ってるん……?

 初見殺し食らってちょっと全身スライム浴をしたくらいでしょ……?

 

 

「同じ試験内容ってことか。てことはアルの方が結界を解いてたってわけだな」

 

 

 アル? ……あ、私か。この名前全然慣れないな。

 

 いやまぁこっちでやってたのはただの暇つぶしなんだけど。

 黒髪ちゃんがスライムと戯れて、私がさっき結界を解いたわけだから、説明上は奇跡的に全部合ってるという。

 

 

「役割分担と共同作業……突然のことに驚いたが……実技試験としては合理的か……」

 

「そう、ゼフィールって結構こういうの得意なのよ。こんな見た目なのにね。それにしても……」

「ああ、あんなにデカいスライムは初めてみた。俺たちは3人いたから上手く立ち回りを変えて対処できたが……」

 

 

「あぁ……うん……大きかったよねぇ……?」

 

「……」

 

 

 訂正する必要も無いから黙ってるが、たぶんこの辺の認識にだいぶ齟齬があるだろうな、と。

 さっきも説明した通り、スライムは群体として成長するのでサイズがそのまま強さ的なレベルに直結してくる。

 

 だいたい野生のスライムってのは、こぶし大とか野球ボールサイズ程度のやつばっかで、この辺は普通に一般のガキんちょでも踏みつぶすだけでやっつけられる。レベル1とか2とか。

 大きくなってもせいぜいサッカーボールとかバスケットボールくらい。ここまで成長すると毒や酸の機能を持つようになったり、無くてもサイズ的に顔を狙われて窒息したりする危険性があるのでちょっと危ない。

 

 まぁ危ないって言ってもスライムは獲物を生かさず殺さず体液を搾り取るため酸素とかを与えたりもするから、窒息死ってのもほぼ無いんだけど。危険っちゃ危険だけどむしろ危険性は毒とか酸にあるわけで。

 ここまで来てようやくレベル5から10前後って感じ。冒険者ギルドでの初級冒険者がゴブリンとかと並んで討伐の対象にしてたりする。

 

 

 で、あっちに出したのがデカめのビーチボールとかバランスボールくらいのサイズ。レベル20くらい。

 攻撃性能は取り除いてるから、当然その辺を完備してたら耐久マシマシな分もっと強い。

 

 で、こっちで使ったスーパーウルトラ超絶アルティメットスライムくん(享年1.5)は……。

 

 ……なんだろ、あれほどデカいと例える対象が思いつかないな。大玉転がしの玉よりちょいデカいくらいか?

 これも攻撃性能が無いからレベル30から40くらいって感じだけど、フル装備ならレベル50とか60越えのエルダードラゴン級?

 

 いやはやここまでくるといくら危険性は少ないって言っても、野に放つには流石に生態系に悪影響がありすぎるのよね……。

 魔術院で実験資料を提出したら責任もって処分しろって言われてたけど、こんなんどう処分するんかっていう問題。

 

 かといって単純に処分するにも結構手間暇かけて作ったので勿体無かったというか……。

 

 ……まぁ、あのスライムくんもこれほどの美少女を最期にもぐもぐできたのだから本望だろう。たぶん。

 

 

「それでぇ、あんな意味不明に異常で巨大なスライムの相手をさせられた私に対してぇ、何か一言無いのかなぁ?」

 

「え? えっと……ごめんなさい……?」

「それ何が悪いかぜったい分かってないよねぇ??」

 

「おいおい、喧嘩はやめようぜ。一人が大変だったのは分かるが、役割分担の結果だろ?」

「いや、そうなんだけどぉ……そうじゃないというかぁ……!」

 

「冒険中に仲間同士で争うのが一番良くない。続けたいなら外に出て全部終わってからだ」

「むぅ……むぅぅ……」

 

 

 ギャルの影に隠れた私を責めようとする黒髪ちゃんに対し、それを見かねたチャラ男が仲裁に入ってくれた。

 ありがとう助かったぜチャラ男……。

 

 

「それにしてもほんとドロドロね……。ほら、綺麗にしたげるからこっちに」

「むむむむぅぅ」

 

 

 とりあえずクールダウンした様子の黒髪ちゃん。

 むくれたままギャルに布で拭かれてるけど……、あれ?

 

 そういえば聖職者って身体を綺麗にする奇跡使えなかったっけ? 『浄化の奇跡』だっけ?

 帝国教会でも普通に使う人いるし、これほどの上位聖職者な黒髪ちゃんが使えないわけないよね?

 

 

 うーん……?

 

 ……まぁいっか。

 

 何にせよあとは帰るだけだ。

 

 

 

 本来であればこのダンジョン、転移装置とか便利なもん存在しないので徒歩で帰る必要があったりするんだが。

 

 めんどいから集団転移でサクッと戻ろう。

 

 

 

「えっと、告知。"試験を終了する。石碑の前へ。地上に送り届ける"」

 

「うん? 魔神の伝言か……? 俺的には結構手応えあったんだがどうだろうな……」

「というか送り届けるって……?」

「む……?」

 

 

 戸惑う一同。首を傾げてないで、はよ集まってほしい。

 バラバラでも転移は出来るけど効率が下がって大変なので。

 

 黒髪ちゃんと、何故か筋肉マンから視線を感じたが。

 私もちょっと疲れたのでそろそろ帰りたいってのが本音なところ。

 

 

 ……てなわけで、集まった四人と私、地上に帰還しまーす!

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてあっさり目の軽い調子で、ダンジョンを出てから。

 係の人に、記録は自動でされてるからそのまま帰って良いと言われたので場所は魔術院前。

 

 まぁ、記録用術式がダンジョンには山ほど仕込まれてたからね。

 プライバシーに一応配慮されてたのか休憩スペースとかには無かったけど。

 

 ……黒髪ちゃんもその辺わかっててあそこで仕掛けてきたのかな。

 だからあの辺のごたごたは記録には残ってないはずだけど……。まぁどっちでもいいか。

 

 

 

 

「じゃあ、また明日だな」

「明日は最終面接、ね。流石に疲れたから帰ったらゆっくり休んで備えましょ……」

「……」

「……ばいばーい」

 

「……またね」

 

 

 3人と黒髪ちゃんと別れ際の挨拶。

 

 ……いや。どうだろうね。

 

 面接は一対一だ。

 実技試験の評価を伝えたら、もはや私が行く意味も無い。

 だから、村娘アルとしての私は今日でおしまいなのかもしれない。

 

 

「それにしても5人まとめての転移か、ほんとすげぇな帝国魔術院……」

「歩いて帰らず済んで良かったけど……。魔術院の魔神……、やっぱり雲の上の存在ね……」

 

 

 離れていく後ろ姿。

 

 はたして、次合うときは、どっちの私なのだろうか。

 合格なら魔術院の一員として会えるだろうが、そもそも不合格ならここで完全にお別れになるわけで。

 

 ……。

 

 いや、結局のところ合格したところで会う機会もほとんどないだろう。

 実際これまでも私は魔術院の人たちとほぼ交流してないし。弟子以外でちゃんと対面でちょくちょく会うのは院長くらいか。

 副院長は用事が無くてもコンタクトを取ろうとしてくるが、私が消極的拒否してるので……。

 

 

 うーん……、いや……。

 

 ……うーん。

 

 

 私もこれからは研究室に引きこもってないでもっと院の人とか外の人と交流すべきなのかなぁ……。

 

 人と話す機会が無いとどうにもコミュ力減る気がするし。

 

 帰っても弟子いないし。

 

 

 ……。

 

 

 ……いや、一人がさみしくなってるわけじゃないが?

 もともと一人の時間のが長かったわけだし?

 

 違うが?

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 何故か後ろ髪を引かれるような感触。

 

 気持ちを切り替えなければ。研究室に戻れば仕事がある。

 この試験の前の約束で、書類仕事は院長がある程度受け持ってくれてるとはいえ……。

 

 ……いや書類が片付くだけだいぶ助かるなほんと。院長さまさまだよ。

 

 つっても実務的な仕事は山積みなので。頑張って働かねばね。

 

 

 

 何度か振り返りつつも物陰に入り、ポーンと転移で研究室にワープ。

 それほど長い時間じゃなかったのに、なんだかとても長く留守にしていた気がする。

 

 そして、特に意味も無く、あいつがくれたローブを被るように羽織る。

 

 深く、深呼吸をする。

 

 

 

 ……よし、私はクー。

 

 魔術院の研究魔術師、魔女っ子クーちゃんだ。

 

 お仕事に戻るよ……!

 

 

 

 

 

(いや、18歳で魔女っ子ってのは流石に痛くないか?)

(見た目が貧相な中二レベルなんだから別に痛くないでしょ)

(中身も中二でも美少女だし多分許される。いや、いろんな意味でもうちょい成長した方がいいとは思うが)

 

 

 

 ……サブ思考もうちょっと調整しようかな。

 

 私の思考、流石にもうちょっとまともだったと思うし……。

 ああいやでも前からこんなもんだったのか……?

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

<こどもとおとなのおしゃべり>

 

 

「……。どうしよっかなぁほんとぉ」

 

「……」

 

「……」

 

 

「おや、おや、どうも」

「!」

 

 

「お疲れ様です、お嬢さん」

「受付のおじさん……?」

 

 

「おや……? お気づきでなかったので?」

「……。……侮らないで。あなたがここの責任者ってのは気づいてるし。さっきまで受付として振舞っていたからそう呼んだだけ」

 

 

「ふむ、ふむ。その通りです」

「……」

 

 

「……そこまで警戒されずとも大丈夫ですよ。少しお話したいだけでして」

「……」

 

 

「それでは……、()()()()()()()?」

 

 

「……」

「……」

 

 

「……すっごい不愉快。そういうこと?」

「いえ、いえ。これも我々なりの誠意ですよ。失礼と取られたなら致し方ありませんが」

 

 

「……」

「……」

 

 

「……最悪というほどでもない」

「ふむ」

 

 

「善性は信じてもいい。だけど危険にもほどがある」

「ふむ」

 

「あんなの絶対に飼いならせないでしょ。上手く利用できるなんて思わない方が」

 

 

「ふむ。()()()()()()()()?」

 

 

「……」

「ですので、我々は我々なりに付き合っていこうという次第でありまして」

 

 

「……」

「ですので、貴女がたにも、適切にお付き合い頂きたいと考えておりまして」

 

 

「……。……おじさん、というかおじさんたち、性格悪いって言われない?」

「ええ、ええ。間違ってはいないかと。ですが、皆さんそれなりに身内思いでもありまして」

 

 

「……」

「信ずるに値する。ならば信頼する。その力に頼ることもあれば、頼られたなら力になる」

 

 

「……」

「仲間として、友人として、隣人として。そのような健全なお付き合いができた上でお互いの利にもなるなら、とても素晴らしいことではありませんか」

 

 

「……綺麗事の理想論」

「そうかもしれませんね。ですが無意味な空論ではありません」

 

 

「……」

「そして貴女も、悪人ではない。敵でもない。我々はそう信じている」

 

 

「……あぁもう、頭いたい」

「お疲れでしょう。お送りしますよ。宿までにしますか?」

 

 

「いらないよぉ……」

「それとも、国まで? そこまで直接転移して差し上げましょうか?」

 

 

「……なんかちょっとだけ同情するかも」

「おや、おや。我々にとっては貴女も彼女と同じように思えますが。おや、おや、どうなさいましたか? ずいぶんと顔をしかめておられますが?」

 

 

「……謝った方がいい?」

「その質問が出るくらいであれば必要ありませんよ。ええ、ええ、ですがこれ以上続ける必要もないでしょう。今はこれ辺りまでにしておきます」

 

 

「……」

「では、では。とてもお強い貴女がたとも、敵ではなく良き隣人であれることを祈っております」

 

 

 

「……」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

(……罪と怒り。愛情と慈悲。情報価値は高いが審問不可)

 

 

(私の方が多分強い。奇跡を使えばなんとかなる。でもここでの単独審問は避けるべき。今手に入った情報だけでも先に持ち帰った方がいい)

 

 

(だけど……いやほんと……どうやって上のおじいちゃんたちに伝えよう……)

 

 

(あぁもう……頭が痛いよぉ……)

 

 

 

 

・・・




 おまたせしました(大遅刻)
 そして本章はこれにて終了、次回より次章に入りますが……。
 更新もまたしばらくお時間かかります……更新安定せず申し訳ない……。
(別作品の更新を準備して再開するため)


 今回のお話も予定ではもうちょっと短くなるはずでしたが、スライムと聖女で友情コンボが発生してしまい何故か長くなってしまいました。不思議ですね。多分私は悪くないです。
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