「オレはただのサイヤ人だ」
「……」
目の前にいるサイヤ人は僅かに眉を動かす。
「おい、聞いてるのかガキ?」
「聞いてますよ……」
改めて目の前にいるサイヤ人を見つめる。ベジータさんとよく似た戦闘服。赤い鉢巻。そして、腰にベルトの様に巻いている尻尾。ラディッツやナッパ、尻尾があった時のベジータさんと同じで直ぐにサイヤ人と気づいた。
何よりも――
「(父さんと、そっくりだ……)」
見た目は父さん、最近産まれた悟天にそっくりだが、その男から感じる気はサイヤ人のものだった。
だが、父さんとはまるで違う。父さんの気には、どこか澄んだものがある。
しかし、このサイヤ人の気には――荒々しさ、鋭さ、そして幾度もの戦場を戦い抜いてきた戦士だけが持つ凄みがあった。
「……あんた、どうしてここに?他の奴らは現世にいるのに……」
死人の証であろう頭に輪っかがありこの人物が死人であるのは直ぐにわかった。このサイヤ人は他の連中とは違いここに残っておりしかも俺を助けてくれた。
「さぁな、気づいたらここに居た」
「そう…なんですか」
サイヤ人は俺の横を通り過ぎる。
「来るぞ」
「……!」
その瞬間だった。
「キィィィィィィッ!!」
無数のジャネンバが一斉に動き出す。まるで獲物を奪われることを嫌がる獣の群れ。
数十――いや、数百。空中、地上。そして空間そのものから。あらゆる方向からジャネンバが姿を現す。
「くっ……!」
俺は直ぐに身構える。
だが――
「下がってろ」
「……!」
サイヤ人が一歩前へ出た。
「ここからはオレがやる」
「でも――」
「お前は少し休んでろ。そんな状態じゃ足手纏いだ」
短い言葉。だが直ぐにその言葉の意味が分かった。
「まさか、あなたは…気を感じ取れているのか?」
「だったら何だ?」
ハッキリと答えた。この人もおそらくベジータさんの故郷の星がフリーザに滅ぼされた時に死んだサイヤ人だろう。しかしそうなると気は感知できないはず、フリーザ軍は基本スカウターを使い気や生命エネルギーを探知する。
しかし目の前のサイヤ人は間違いなく気を感じ取れる技術を身につけている。
「来い。今度はオレが相手してやる」
その瞬間。ジャネンバの一体が飛び込んだ。
「キィッ!!」
「危ない!!」
サイヤ人は動かなのを見て俺は思わず叫ぶ。
――ドゴォッ!!
だが。ジャネンバの拳は、彼の顔面寸前で止まっていた。
「……え?」
サイヤ人の左手。たったそれだけで、ジャネンバの拳を掴んでいる。
「キ……?」
ジャネンバが戸惑う。サイヤ人は不適な笑みを浮かべその腕を捻った。
「甘ぇんだよ!」
――バキィッ!!
ジャネンバの身体が大きく傾き、そのままは身体を地面へ叩きつけた。
ドォンッ!!
「ギィィッ!!」
さらに別の個体が背後から迫るがサイヤ人は振り返らない。
「そこだ」
肘が後ろへ突き出される。
――ドゴッ!!
直撃。
ジャネンバの身体が弾丸のように吹き飛び、後方の群れを何体も巻き込んでいく。
「……」
悟聖は言葉を失った。
今の動き。無駄が一切ない。一見力任せの様に見えるが、力任せに殴っているわけでもない。必要最低限の動きだけで、相手を倒している。恐らく数多の戦場で戦い抜いたからこそできる芸当だろう。
「す、すごい……」
その呟きが聞こえたのか。サイヤ人が僅かに振り返る。
「感心してる場合か?」
「え?」
「まだ来るぞ」
「……!」
前方からジャネンバの群れが一斉に襲いかかる。
「キィィィィィィ!!」
「数で押し潰すつもりか……」
しかしサイヤ人は口元を僅かに吊り上げた。
「上等だ。最近歯応えのある奴らがいなかったんでな」
拳を握る。そして――
「久々に存分に暴れられそうだぜ!」
地面が爆発した。
「――ッ!?」
サイヤ人が消える。いや。俺の目では追えない。
「速――」
直後。
ドゴォン!!
一体。
バギィ!!
二体。
ドォン!!
三体。
一瞬の間に、ジャネンバが次々と吹き飛ばされていく。
「キィ!?」
「イヒッ!?」
「ギィィッ!!」
サイヤ人は群れの中を縦横無尽に駆け抜けていた。
拳。
肘。
蹴り。
時にはエネルギー波を放ち、時には煙幕を利用し、ジャネンバの首を絞め、そのまま別の個体へ投げ飛ばす。
一切の躊躇がない。そして――
「邪魔だ!!」
サイヤ人は両手を前へ突き出す。
「はぁっ!!」
ドォォォォォン!!
巨大なエネルギー波が放たれ、正面にいたジャネンバの群れを一気に吹き飛ばす。
「……」
俺はその光景を見つめていた。自分が限界突破2まで引き上げ、父さんとベジータのフュージョンの時間切まで全力で戦い続けてようやく押し返していた群れ。
それを――この男は、まるで戦場を歩くような感覚で蹴散らしている。
「……この人……」
俺は思わず拳を握る。
「一体……何者なんだ……?」
その時。
「キシシシ……」
「……!」
ジャネンバ本体が動いた。分身体とは明らかに違う濃密な邪気。俺は警戒する。
「本体……!」
恐らくサイヤ人も気づいている。
「ほう……」
ジャネンバは口元を歪めると、身体をパズルのように分解する。
「来るぞ!」
俺は叫ぶ。
「分かってる」
サイヤ人は動かない。空間が歪む。ジャネンバが姿を現す。
「キシシシ!!」
拳が振り抜かれる。
――ドゴォォォン!!
しかし。
「……なに?」
バーダックの拳とジャネンバの拳が正面から激突していた。
衝撃波が周囲へ走る。俺の髪が大きく揺れる。
「ぐっ……!」
サイヤ人の足が僅かに後ろへ滑る。
だが、それだけだった。
「……なるほど」
サイヤ人は笑う。
「お前がこの軍団の親玉か」
「キシシシ……!」
俺は思わず息を呑んだ。さっきまで自分を追い詰めていたジャネンバを前にしても、この男は一歩も退いていない。
むしろ――笑っている。
「……面白ぇ」
サイヤ人はジャネンバを睨みつける。あの人は…この戦いを純粋に楽しんでいる…
「久しぶりに……血が騒ぐぜ!!」
「……ッ!?」
拳を握り直す。その瞬間サイヤ人の身体から、凄まじい気が噴き上がった。
「……な……」
思わず目を見開く。先ほどまでとは明らかに違う。ただ気が大きくなっただけじゃない。
まるで――今まで身体の奥底に押し込められていた力が、一気に解き放たれていくような感覚。
「な、なんだ……この気……」
足元の大地が震える。あのサイヤ人を中心に、砂埃が円を描くように舞い上がっていく。
「……ッ」
俺は思わず腕で顔を覆った。風圧だけで身体が押される。
だが、それ以上に驚いていたのは――
「この気……」
どこか懐かしい。いや。懐かしいなんてものじゃない。俺はこの気を知っている。
「……スーパーサイヤ人……?」
「――はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
咆哮。大地が震えた。空間そのものがビリビリと震動する。
「なっ……!?」
俺は思わず後退する。バーダックの髪が――ゆっくりと逆立っていく。黒かった髪が、まるで何かに引っ張られるように上へ伸びる。
そして――
「――ッ!!」
ドンッ!!と凄まじい光が周囲を包み込む。俺は思わず目を閉じた。
「な、なんて気だ……!」
光の向こうから、さらに巨大な気が膨れ上がる。先ほどまでとは比較にならない。荒々しい。鋭い。
それでいて――恐ろしいほど研ぎ澄まされている。
「……これが……」
俺はゆっくりと目を開く。光が収まっていく。
そこに立っていたのは――先ほどまでのサイヤ人でははなかった。
黄金色のオーラ。逆立った金色の髪。そして、先ほどまで以上に鋭くなった眼差し。
「……スーパーサイヤ人……」
思わず言葉が漏れる。俺が知っているスーパーサイヤ人。父さんも。悟飯も。
そして俺自身も到達した領域。条件を兼ね備えたサイヤ人の誰もが到達出来る領域なのに――
「……同じスーパーサイヤ人なのに……」
何故だ。目の前にいるこの男から感じる圧力は、俺の知っているスーパーサイヤ人とは明らかに違う。
「……重い」
ただ強いんじゃない。この気には――幾度となく死線を潜り抜けてきた戦士の凄みがある。
「……あんた……」
俺が呟く。サイヤ人はゆっくりと拳を握った。
「久しぶりだな……この感覚は」
黄金のオーラがさらに激しく燃え上がる。
「地獄じゃこんな力を出す必要もなかったからな」
「……地獄で……?」
俺はその言葉に引っ掛かる。だが、問い掛けるより先に――
「さて……」
サイヤ人はジャネンバへ視線を向ける。その目には、先ほどまで以上の闘志が宿っていた。
「キシシシ……!」
ジャネンバもそれに応えるように、不気味な笑い声を上げる。その瞬間――
「……待ってくれ」
「……あ?」
俺の声にサイヤ人が振り返る。俺はゆっくりと立ち上がり隣に立つ。
「お前……まだ動けるのか?」
「……さっきよりは、ずっとマシですよ」
俺は肩を回しながら調子を確かめる。身体にはまだダメージが残っている。脚にも若干の重さがある。
だが、先ほどまでとは違う。呼吸は落ち着いている。限界突破2によって荒れていた気も、少しずつ整い始めていた。
「少し休ませてもらったおかげで、だいぶ回復しました」
「そうか」
バーダックはそれだけ言うと、再びジャネンバへ視線を戻した。
「なら、そこで休んでろ」
「……え?」
「まだ本調子じゃねぇんだろ?」
「……」
図星だった。確かに先ほどより動ける。だが、全力で戦える状態には程遠い。
それでも――
「俺も戦います」
「……何?」
「さっきまで一人で時間を稼いでましたけど……今度は二人でやればいい」
拳を握る。サイヤ人は僅かに目を細める。
「足手まといはいらねぇ」
「だったら――」
身体から、再び金色のオーラが立ち上る。先ほどまでより弱々しい。だが、それでも確かな力が宿っている。
「足手まといにならないようにしますよ」
「……」
数秒。サイヤ人は黙って俺を見つめる。
そして――
「……ハッ」
口元を吊り上げた。
「面白ぇガキだな」
「それ、褒めてます?」
「好きに受け取れ」
サイヤ人は前へ向き直る。
「だが、無茶はするな」
「そっちこそ」
「オレは無茶してんじゃねぇ」
黄金のオーラがさらに激しく燃え上がる。
「戦ってるだけだ」
「……なるほど」
俺も思わず笑う。やはり純粋に戦いを楽しんでいる所は…やはり父さんに似てる。戦いが終わったら色々と聞いておかないとな。
「じゃあ…… 俺も戦います!」
気合いを入れ拳を構える。
「来るぞ!!」
サイヤ人の叫びと同時に、ジャネンバの群れが一斉に動き出した。
「キィィィィィィ!!」
「数が多すぎるだろ!」
が苦笑する。
「おりゃっ!!!」
サイヤ人が地面を蹴った。黄金の閃光が戦場を駆け抜ける。
「邪魔だぁぁぁッ!!」
サイヤ人の拳がジャネンバを吹き飛ばし、そのまま別の個体へ叩きつける。
一瞬で開いた道。俺はそこへ飛び込んだ。
「はぁぁぁぁっ!!」
金色のオーラを纏った拳がジャネンバの身体を捉える。
ドゴォン!!
「ギィッ!?」
そのまま回転。
「せぇぇいッ!!」
ドォン!!
二体、三体とまとめて吹き飛ばす。
「キシシシ……!」
ジャネンバ本体が俺のの前へ現れる。
「来たか……!」
だが――
「させるかよ!!」
横からサイヤ人が飛び込む。
「なっ!?」
ジャネンバが拳を振り抜くがそれをサイヤ人が受け止め――
「遅ぇ!!」
逆に拳を叩き込みジャネンバの身体が吹き飛ぶ。
「今だ!」
「分かってる!」
そのままジャネンバに追撃する。
「でぇぇぇいッ!!」
拳がジャネンバを捉える。
さらに――
「はぁっ!!」
サイヤ人の蹴りが横から叩き込まれた。二人の攻撃によってジャネンバの身体が大きく吹き飛ぶ。
「……!」
俺は思わずサイヤ人を見て相手もこちらを見る。一瞬だけ視線が交差する。言葉は必要なかった。
「……行くぞ!」
「はい!」
俺達は同時に地面を蹴った。黄金の軌跡と金色の雷光が、ジャネンバの群れへ突っ込んでいく。
俺達が同時に地面を蹴った。黄金の軌跡と金色の雷光が、ジャネンバの群れへ突っ込んでいく。
「でやぁぁぁぁっ!!」
「邪魔だぁぁぁッ!!」
左右から迫るジャネンバを、俺とサイヤ人がそれぞれ吹き飛ばしていき俺が拳を振るえば、一体が吹き飛ぶ。その直後には、横からサイヤ人の蹴りが別の個体を捉える。
「せぇいッ!!」
ドォン!!
互いの攻撃が不思議なほど噛み合っていた。
「……!」
俺は一瞬、隣を走るサイヤ人を見る。初めて会ったばかりだというのに――妙に動きが合わせやすい。
「おい、ガキ!」
「はい!」
「右だ!」
「分かってます!」
視線を交わす。次の瞬間、俺は右側へ飛び込む。
「はぁっ!!」
ジャネンバの拳を避け、そのまま顔面へ拳を叩き込む。
「ギィッ!?」
吹き飛んだジャネンバを、サイヤ人が追撃する。
「どけぇ!!」
ドゴォン!!
一撃でさらに遠くへ吹き飛ばす。
「……凄いな」
思わず呟く。すると、隣のサイヤ人がこちらを見る。
「何がだ?」
「いや……そう言えばあなた、名前は?」
「……」
サイヤ人が僅かに目を細める。
「『ただのサイヤ人』としか聞いてませんから」
「……ハッ。別に名乗る必要もねぇと思ってたんだがな」
そう言いながら、再びジャネンバを殴り飛ばす。
「だが――」
一瞬だけ、こちらへ視線を向ける。
「お前と一緒に戦うってんなら、名前くらい教えておくか」
「……!」
男は拳を握り直す。黄金のオーラが、その身体を包み込む。
「バーダック」
「……バーダック……」
これがこのサイヤ人、誇り高いこの人の名前…
「俺は孫悟聖です。バーダックさん」
「さん付けなんざいらねぇ気持ちワリィ」
「じゃあ、バーダック」
「それでいい」
バーダックは口元を吊り上げる。
「さあ、悟聖」
「……!」
「足引っ張るんじゃねぇぞ?」
「分かってる!」
二人は同時にジャネンバを見据える。
「行くぞ!!」
「ああ!!」
再び二人のサイヤ人が地面を蹴った。
今作のバーダックはエピソードバーダックの経験を経ている上、地獄でもGTピッコロの様に戦い続けている為かなり強くなっています。