『あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ』
せや! まほあこ時空に狛枝ぶち込んだろ!!
タイトル回収は多分しない
「ああ……なんて……なんて絶望的な光景なんだろうね」
ある日のある街中に一人の少年がいた。その少年は柔らかく炎のようにうねる白髪を持ち、カーキ色のパーカーの中に着た白いシャツの胸元には血のように赤黒い模様が渦巻いている。
そしてその少年の前で繰り広げられているのは、非常にショッキングと形容する他ない行為であった。
幼い少女たちならば誰もが夢見る可憐な衣装に身を包んだ魔法少女達と、そんな彼女達を嗜虐な笑みを浮かべながら執拗に痛め続ける、扇情的な衣装に身を包んだ女。怪人の女は内に秘めるサディスティックさを隠そうともせず、魔法少女達を辱めては恍惚とした笑みを浮かべていた。
そんな光景を物陰から眺める少年は蒼白な顔に歪んだ笑みを浮かべながら、両腕で自分の身体を抱え込みつつ矢継ぎ早に言葉を紡ぎ出す。
「この街の『希望』の象徴である魔法少女が、邪悪を前に屈服しかかっている……ここまで絶望的な光景も他にないよね……ボクみたいな凡俗で無価値な人間はただ見ている事だけしかできない……けど、ボクはみんなを信じてる!こんな所で君達が負けるはずが無いんだ!」
少年は勢いのままに物陰から飛び出すと、声援、あるいは野次のようにも取れる言葉を飛ばし続ける。
「諦めちゃ駄目だ。君たちはこの街の希望なんだ!!」
「また起き上がるんだ!また戦うんだ!」
「そうしてこの絶望を乗り越えた君達はきっと、より素晴らしい希望になれるはずだよ!」
果たしてそんな少年の声が届いたのか、拘束から逃れた魔法少女達による猛反撃が開始される。余裕たっぷりだった悪の女幹部の顔が一転して歪んだものとなり、やがて押し負け敗走するまでの間、少年は祈る様に、崇拝する様に、恍惚とした笑みを浮かべながらその光景を眺め続けていた。
「あぁ……なんて素晴らしくて美しい光景なんだろうね……」
魔法少女達の勝利だ。この街の希望の象徴たる魔法少女達が悪に打ち勝ったのだ!
「素晴らしいよ…………そうやって何度でも立ち上がるからこそ、君たちは希望の象徴なんだからさ……!!」
「こんな最高の活躍を目にする事ができるだなんて……」
「ああ……ボクは本当にツイてるよ……!!!」
やたらと露出の多い破廉恥な格好の女に捕えられてしまった魔法少女達の姿に、物陰で成り行きを見守っていたボクは気づけば思わず隠れる事を忘れ飛び出してしまっていた。とはいっても今にしてみればボクが抱いていた不安なんて、魔法少女達にとってはきっと全く的外れなものであったに違いないのだけど。追い込まれていたかに見えた彼女達は攻勢に出た途端、あっという間に露出の多い悪の女を退けて、その希望としての在り方を示してくれた。
魔法少女達の華々しい活躍を見られた感激の余韻にできればこのままずっと浸っていたい気分だが、しかしそうしている訳にはいかない。普段は遠くから活躍を眺めるか、想像の中で想いを馳せるかのどちらかしかできない魔法少女達が今、ボクの目の前にいるのだから。
「えーっと、はじめまして!もう知ってそうだけど、私はマジアマゼンタ。こっちはアズールとサルファだよ」
「えぇ、はじめまして…その、すみません、何と言ったらいいのか…ボクは魔法少女の皆のファンで…こうして話せるのが夢みたいで…」
マジアマゼンタさんがボクに向けて言葉をかけ、他のメンバーの2人の紹介までしてくれている。この状況に思考が働かなくなりそうになるが、失礼にならないようどうにかこちらも言葉を返す。
「そんなに硬くならないで大丈夫!というか今回は私達だって、かっこ悪い所を見せちゃったからね……」
「そんな!かっこ悪かったなんて事はないよ!今ボクにあるのは魔法少女のみんなの勇姿を目の当たりにできた事への感激だけさ……!」
マジアマゼンタさんから恥じらうようにそんな発言が飛び出したが、とんでもない。逆境を覆す姿には実に胸が熱くなったのだから。そんな想いを頭の中でどうにか纏めて言葉にして伝える。
「そうかな、あなたの応援が聴こえる前まではかなり危なかったし、今回はあなたに助けられちゃったかな。あなたの応援おかげだよ!」
「マジアマゼンタさん……」
目の前の彼女の表情が僅かに曇っていくのが見て取れた。あぁ…彼女はボクなんかに気を使ってくれているのだろうか。ボク如きが居なくたって、みんなは絶対に勝てていたに決まってるというのに。
「ボクは関係ないよ、希望を背負う君達魔法少女の実力さ。いつだって最後には必ず希望が勝つ。ボクはそう確信してるんだ!」
「あはは……そうだね、うん、ありがとう!私達が頑張らないとだよね!」
マジアマゼンタさんの目に一際強い光が宿る。あぁ、マジアマゼンタさんのような希望は、そうやって誰よりも前を向いているべきだーーー
「……それよりもマゼンタ、彼には他にも言わなければいけない事があるんじゃない?」
「せやなぁ、挨拶は程々にして注意しとかないかん事があるんとちゃいますか」
マジアマゼンタさんの強い希望を感じ取りそちらに思考が呑まれそうになっていたが、成り行きを見守ってくれていた2人の魔法少女からも声がかけられる。そして、そこにマジアマゼンタさんも加わり3人からの話は、ボクに対する注意喚起であった。
「そ、そうだね!あのね、エノルミータがいたらちゃんと逃げなくちゃ駄目だよ!」
「今回は私達も貴方も無事だったけれど、次も同じとは限らないんだから。次からはそうして頂戴」
「そうだね……ごめん。返す言葉もないよ。全くもってその通りだ」
「……解ってくれたならいいのだけど」
「次からは気ぃつけや」
あぁ……如何にボクがなんの価値も持たない最底辺のゴミクズといえども、きっと彼女達にとってボクだって護るべき市民。何の才能も使命も持たない凡庸で凡俗なボクのような人間が、希望の象徴である彼女達の軌跡に泥を塗るなど許されざる大罪だ。
「でも、応援してくれたのはほんと嬉しかった!ありがとね!」
でも、マジアマゼンタさんはそんなボクの手を握りしめて優しい言葉をかけてくれた。ボクなんかの希望まで背負おうとしてくれるだなんて、流石は魔法少女だね。
「私達はそろそろ行かなくちゃ。じゃあね!狛枝君!」
「うん、さようなら。……あれ?ボク名前言ったっけ……?」
「ちょっと、マゼンタ……!」
「あ、今のはその……あはは、なんでもないよ!じゃあね!」
そんなやり取りを後に、彼女達はボクの前から飛びさって行く。最後のやり取りは少しだけ気にはなったが、あまり深く詮索するのもとどうかと思い、微かな疑問は胸の中に押し留める。
そうして、華やかな彼女達の姿が空の彼方へと溶けていく瞬間を見届けるまで、ボクはその場に留まり続けた───────
この街には魔法少女が居る。
魔法少女トレスマジア。世界征服を目論む悪の組織エノルミータと戦う正義のヒロイン。
正体はわからなくても、皆がその事を知っている。
そう、魔法少女とは希望の象徴であり、正義であり絶対的な
─────なんて話、今更語るまでもない事実だよね。
かく言うボクももちろん魔法少女のファン。なんてボク如きが名乗るのは烏滸がましいかもしれないけれど。
ボクの名前は狛枝凪斗。中学2年生。
特別趣味だとかいったものは無いけれど、強いて言うなら、この街で戦う魔法少女達のファンを自負している。なんて、この街で暮らしている以上、魔法少女を応援するのは当たり前だと思うけど。特にボクのような何の才能も実力もなく高潔な志なども持ち合わせてない最底辺のゴミクズな部類の人間には、それ位の事しかできやしないのだから。
晴れ晴れとした朝。この美しい空の下で、今日も彼女達は悪を打つのだろう。さて、現在のボクは通学の真っ最中。
昨日は実に幸運な日だった。なんといっても、魔法少女の皆の素晴らしい活躍を間近で目にする事ができたのだから。
ほんの少しだけ気になるのが、昨日魔法少女達を最初追い詰め嬉々として甚振っていた露出の多い女についてだが、昨日の魔法少女の奮闘ぶりを見ていれば、心配なんて要らないのは明白だ。魔法少女は誰が相手であろうとも絶対に負けたりなんてしない。苦戦する事はあろうと、必ず壁を乗り越え最後には華々しい勝利を手にするのだ。ああ……なんて素晴らしくて美しいんだろう……
「ん……?」
そんな風に魔法少女の活躍に浸っていたが、前方からおぼつかない足取りで歩いてくる酔っ払いらしき人が手から落としたビール瓶が道路に転がっていくのを視界にとらえた瞬間、ボクは即座にすぐ近くの電柱の影に走って行って身を隠した。直後、ビール瓶を轢いてスリップした車が直前までボクがいた場所へと向けて突っ込んで行く。
ズガァァァァン!!!
直後、辺りに凄まじい轟音を鳴り響かせて車がボクの真横の住宅の塀に向かい勢いよく突っ込んで行った。衝突した車体の前面は潰れており、運転手も衝撃により気絶している。こちらから見える範囲では目立った外傷は見受けられないが、後遺症が残らないかは運次第か。
咄嗟に移動していなければ車線にいたボクもまた到底無事で済まなかっただろう。考え事をしながら歩くのは危険だったな。
事故の発生により周囲が一気に騒がしくなってきた。救急車は誰かが呼んでくれるだろう。
さて、この事故の下手人とも言える酔っ払いに目を向けてみると、彼は眼前の事故の光景を呆然と眺めてフリーズしていた。
「流石に酔いも覚めました?」
ボクは酔っ払いに軽く声をかけてから、救急車の喧しいサイレンの音を背にボクはその場を後にする。彼はこの後いろいろ大変な事になるのだろうな。
「時間に余裕はあるだろうけど、なるべく急いだ方が良さそうだね」
授業の開始にはまだまだ間に合いそうではあるが、いつもの慣れきった通学路といえどどんな不運が巻き起こるか分からない。特に昨日のようなツイていた日の直後は。ボクは急ぎつつもできるだけトラブルに当たらないよう慎重に、学校へと歩みを進めるのだった。
警戒していたものの、あの事故の後は特にこれといった不運に巻き込まれる事もなく無事に学校に辿り着けた。学校の中にいる間は、少なくとも外にいるより安心できる。
「おや」
「あっ…」
内心で一息つきつつ教室に入ろうとしたボクは、丁度同じタイミングで教室に入ろうとしていた女子生徒とドアの前でかちあった。鮮やかなピンク色の髪を左右に纏めた彼女の名前は……
「こ、狛枝くん……!おはよう」
「花菱さん。おはよう」
彼女は、花菱はるかさん。明るく活発な印象の強いクラスメイトだ。どうにも彼女の態度には少しいつもの彼女らしからぬぎこちなさを覚える。今日は調子が良くなさそうに見える。こちらに向けられる視線がどうにも揺らいでいるというか……
「……なんだか今日は具合が悪そうだね。大丈夫?」
「えっ!?そ、そんな風に見えるかな?あはは……大丈夫、なんでもないの!」
そう思ってつい声に出してしまった直後に気づいたのだが、今のはかなりデリカシーの欠如した迂闊な発言だったのではないか?そう気づいたものの時既に遅し。
「あー……えっとさ……」
明らかに今の会話は失敗だった。引かれてしまっただろうか。教室前まで来たため油断していた。こんな方向から不運に襲われてしまうとは、気を抜いてはいけないな……
そもそも昨日魔法少女の戦いを間近で見られて声までかけられるという人生最大級の幸運を味わったのだから、その帳尻合わせが起こらない筈がないというのに。ボクとした事が浮かれ過ぎだった。花菱さんには申し訳なく思うが、これ以上会話を続けてもろくな事にならない気がする。
「うん!そっか、何ともないならいいんだ。それじゃ「はるか、おはよう……って、あ……」ボクは……」
気まずくなったボクが会話を切り上げ教室に入ろうと思った時、花菱さんと一緒にいる所をよく見かける二人が後ろからやって来ていた。確か名前は、水神さんと天川さん。
「おはよう、狛枝君…その…」
「……今日は良い天気やね〜」
なんだか2人からの視線までもが痛い。二人ともがこちらに対してなんともいえない目を向けて来ている気がする。まさかさっきの会話を後の2人にも聴かれていたのだろうか。参ったな……下手に何か弁解しても良くないだろうし、生憎できる事は何も無い。ほとぼりが冷めるまで待つしかないだろう。
「そ、そろそろ授業の準備をしないと……行きましょう、はるか」
「う、うん、狛枝くん、それじゃあね!」
そんな風に友人に急かされた花菱さんは苦笑を浮かべながら教室へと入って行った。
あぁ……今日は朝から本当にツイてないーーー
「……あれ」
ふと背後に気配を感じたので振り向くと、黒髪の女の子が立っていた。どうやら困った様子でこちらになにか訴えかけるような目を及び腰ながら向けてきているように感じる。
彼女は確か─
「柊さん……ああ、ごめん。邪魔だったよね。今どくから」
「あ、狛枝君……ありがとう」
ボクが立ち止まっていた為に教室の入口を塞いでしまっていた事に思い至り、ボクはそそくさと教室に入って自分の席へと向かう。
どうにか沈んだ気分を変えるため、昨日の幸運を噛み締めるように逆転劇を浮かべながら、今日もこの街のどこかで悪を討つであろう魔法少女達に想いを馳せるのだった。
狛枝凪斗
魔法少女を心から愛し信じる少年。しかし本人曰く、その感情は憧れなどでは断じてない。
トレスマジア
クラスメイトに痴態()を目撃された。気まずい。
柊うてな
クラスメイトに痴態()を目撃された。気まずい。