ネタのつもりで書き始めたのですが案外バッチリハマってくれた気がして書いた人は一生笑ってます。
アゼムは真名をコレー(ペルセポネー)としてますがどんな仲だったかはご想像にお任せします。
その英雄はほとんど口を開かない。
その声を聞いたことがある者はほとんどいないらしい。
それにも関わらず人々は口々に彼を信頼に足る人物だと言う。その状況が、彼の人柄をよくよく現しているのかもしれない。
曰く、素直じゃない、ひねくれ者、天邪鬼。等々。
彼は、眉を寄せたり、しかめっ面をしたり、肩を竦めたり、飄々とした態度であることが多い。
しかし最早常態であるらしい仏頂面に稀に覗くふわっとした分かりづらい微笑みや、同じく稀に発声される渋い声にころっとやられる女性が居たりするらしい。寡黙さやどっしりと構えた存在感に兄貴分と慕う男性諸氏も多いとか。几帳面に刈り上げられた真っ白な髪と月のような薄い色をした双眸が、実は真面目で優しい内面を黙って物語るのだと歌う吟遊詩人も居るとか居ないとか。
ともかく、一見した雰囲気はどう考えても怖いのに世間で英雄ともてはやされ親しまれる彼は、ぶち上げた輝かしい功績もさることながら、それ以外の本当に細かい人々の日常的な悩みをなんでもないことのように引き受け、ことごとく背負い、生真面目に解決していってしまうのだ。
それをお使いのエキスパートと揶揄する者も居る程である。
ぽつりと『……おお厭だ』『面倒臭い……』と呟いているのを聞いたような気がした者もいたらしいが、誰も彼も気のせいだと己で信じ込んでしまうか、相変わらず素直じゃないねえと笑うのみだった。
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ガレマール帝国の二代目皇帝が崩御して数年経った現在において、更に摂政の地位にあったその義母、コルネリア・ウィル・ガルヴァスの崩御がエオルゼアを駆け巡る。
彼女のミドルネームである『ウィル』は、下級皇族を指すものだ。
それを与えられていることからも分かる通りに、彼女は皇后ではない。
ソル帝よりも随分若い彼女はその若さと美貌で愛妾となり、皇后亡きあとは実質正妃のように扱われていた。
そんな事態をあまりよく思わない者が居たのも必定。
皇后が亡くなったのは彼女が仕組んだことだという噂も立った。
水面下では血みどろの争いが繰り広げられていたらしい。
彼女は夫である初代皇帝ソル・ゾス・ガルヴァスの逝去後、即位はすれど身体の弱かったソル帝の長男に代わり摂政として国の頂点に立ち、女性ながら影で辣腕を振るい続けた。周辺諸国を次々に屈服させて属州とし、世界に随一の勢力を示したのは彼女の功績ではあるのだろう。そのため帝国内では最初の内は支持者の多い評判の為政者ではあった。
それがエオルゼア侵攻を開始してから雲行きが怪しくなっていく。
銀泪湖上空戦での敗北により最新鋭の超大型戦艦と精鋭部隊をごっそり失い、メテオ計劃の失敗によりシタデル・ボズヤ蒸発事変という凄惨な大事件を起こす。果てはカルテノー平原での『大量虐殺』だ。それは敵であったエオルゼア同盟軍だけではなく自軍にまで甚大な被害をもたらしたことへの中傷でさえある。更に再びのメテオ計劃の失敗は『第七霊災』を引き起こし、人々だけではなく大地にもエーテルにも甚大な爪痕を残した。
そして属国での非道な支配も相まって、彼女は女狐、傾国の美女、と囁かれるほどになった。
皇帝である長男が長く臥せっていたのも、実は彼女がじわじわと毒を盛り続けていたのだと噂されていた。その彼が後継者を指名しないまま崩御した。そのため次の皇帝が決まるまで評判が地に落ちたコルネリアがいつまでも実権を握っていたわけだが、そのせいで治安はどんどん乱れて行ったらしい。
それが、変わらず次の皇帝が決まらないうちに崩御した。真相は不明のようだが、あまりの暴君っぷりに暗殺されたらしいとの噂である。帝国は更に混乱を極めているという。
不語仙の座卓ではその崩御だけを耳にしたにもかかわらず、世界情勢も勤勉に学んでおり事態をすぐに理解した英雄は、普段にも増して眉間に深い皺を寄せていた。
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相変わらず小さな依頼もことごとくこなし、大きな功績も次々に積み重ねた英雄は──手ひどい裏切りに遭い、仲間を喪い、盟友を喪い、そんな茨の道をそれでも真摯に駆け抜けて、とうとう違う世界さえ救うために奔走する。
そんな道で今までに次々と立ち塞がってきた『アシエン』という者たちの魂の色に、どことなく懐かしさをおぼえることに疑問を抱きながらも、彼は走り続けた。
そしてひときわ輝く不思議な色のエーテルに逢ったときに、彼の混乱は頂点に達した。
その顔は、敵をきちんと知ろうと生真面目にガレマール帝国史を学んでいた時に目にした肖像画にあった、今は現存していないはずのもの。
「わたくしの名は『アシエン・アゼム』。以後お見知りおきを?」
おどけた調子で妖艶に微笑みながら、もったいぶったようにそう言った彼女に、彼はただただ目を見開いた。
肖像画を見ただけでは知り得なかった魂の色。
それに彼はどうしようもなく惹きつけられた。
(……私は、彼女を、知っている……?)
「……コレー」
そう声を発したのが自身だと、彼はすぐには気づけず。
それを聞いたオリジナルだというアシエンも、目を丸くしていた。
「……ハー、デ……いえ、そんなはずがない」
(その顔も、その目も、その色でさえ変わらない。遠い子孫ではと言い聞かせたけれど……まさか……まさか)
彼女の真名を口にしたとはいえ、しきりに困惑して口元を押さえる英雄に、記憶があるわけでも思い出したわけでもないと理解し、彼女は大仰な態度で話を続けた。
エレゼン族の男性にカードを投げつけられたことでいったん退場しながら、彼女は姿を晒したことに、協力を持ち掛けたことに、後悔を抱き始める。
しかし。
(……もう、始めてしまったこと。ならば全うするまで)
そう決意を固めながら、彼女は拳を握り締めた。
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「……何故、私を助ける」
ぼんやりと光る漆黒のローブ。その白い仮面の下の口元はきれいな弧を描いていた。
『これがわたしの生み出した術。どこに居ようと貴方を喚んで、どこに居ようと連れ戻してあげられる。……離反したからアシエンにはしてあげなかったけど』
かつての十四人委員会をアシエンとして喚び集め繋いでいた『星を喚ぶ術』で、今は次元の狭間から英雄を喚び戻し、彼女は彼の問いに静かに答える。
『どうせ覚えてないわよね。それじゃあ、エリディブスをよろしくね』
オリジナルのアシエンとして──かつての悪女コルネリアとして彼の前に立った彼女とは似ても似つかない雰囲気と口調でそう言って、背を向けた彼女はひらひらと手を振って消えて行った。
かつてエメトセルクの座にあった者の欠片である英雄は、託された『親愛なる者の記録』を強く強く握りしめ、かつての同胞だという『英雄』に立ち向かう。
大切なものをことごとく失った彼を、もう、休ませるそのために。