東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
疑問
目が覚めると、自分は見知らぬベッドの上に寝かされていた。
「ここは…どこだ?」
自分は死んだはずだ。いや、助かったのか?少なくとも、ここがエラー対策本部内の医療施設でないことは確かだ。
装備を確認してみた。
フードの付いたモスグリーンのタンクトップの上に黒いパーカーを羽織り、デニムのジーパンを履いている。そして右腕にはアームキャノン――正確にはアームキャノン・ジェネラルカスタム――が装備されている。間違いなく、自分が死んだ時と同じ格好だ。
アームキャノンには、弄られた形跡は見当たらない。それもそうだろう。アームキャノンは操作が複雑過ぎて、余程訓練を積まない限り扱うなど到底できない。
つまり、自分を助けたのはアームキャノンの扱い方を知らない、すなわち自分の知り合いではないということだ。
「少し…探索してみるか」
俺は体を起こし、ベッドから降りた。
部屋の中を歩くうち、ここがエラー対策本部でないこと、そしてここが女性の家であるという確信が持ててきた。
まず、窓の外にはいわゆる温帯草原が広がり、遠くに花畑と森が見える。都心部に存在するエラー対策本部の周りには建物しかない。
そして、部屋の中の家具や置物、花などのセンスと、ベッドの横に無造作に放り出された“動かぬ証拠”が、俺の判断基準となった。
…ちなみに、最後のものは、正直見たくなかった。男を家に入れるのであればしまっておくべきだろう。
玄関から外に出ると、案の定広がる草原。コーカサス中央の山間部に位置するクレイドル草原に酷似しているが、どうも気に食わない。何かが違う。
「まさか…」
俺が、自分の脳裏によぎったある『可能性』を口にしかけた時、
「礼も言わずに出て行くつもりかしら?」
不意に、背後から声をかけられた。
いつもなら、俺は振り向きざまにアームキャノンを構え、いつでも“抜ける”状態になるのが普通だ。だが、ここで事を荒立てれば、状況は更に混乱を極めるだろう。俺はほんの少し迷った末、自然な動き――実際にはそう見えるよう努めた動き――で、声の主へと振り返った。
そこにいたのは、白いカッターシャツ、チェックのベストに同じくチェックのスカートを身に纏った少女だった。身体の発達具合からして俺と同年代だろうが、だとすれば彼女の緑色の髪はどう説明されるのか。生まれつきなのであればどう遺伝子を組み合わせればそんな色になるのかと議論が沸騰しそうだし、また染めているのであればあまり褒められたものではない。カツラかとも考えたが、部屋の雰囲気からして彼女がコスプレイヤーでないことは判る。
いや、今はそんなことはどうでもよい。
「…礼を言うかどうかは、俺が今からするいくつかの質問にお前がどう答えるかによるが?」
この女は、一体何が目的なのか。ここはどこなのか。それが、まず最初に解消したい疑問だった。
「…ええ、構わないわ。私に答えられるものならね。どんな質問?」
どうやら応じてくれるようだ。口調に少し気取った感があって少々気にいらないが。
「ここは…コーカサスのどの地区だ?」
「コーカサス? というのが何だかわからないけれど…とりあえず、ここはそんなものには属していないわよ」
「何?」
わけがわからなかった。西暦2113年の時点で、地球上の人口は全てコーカサスに移動したはずだ。なぜコーカサスの外にヒトがいる? 有り得ない。火星移住計画はそんな甘いものでは…
「…大分混乱しているようね?」
俺の乱れた思考は、目の前の少女の発した呆れを感じさせる声に遮られた。
「貴方は外来人のようだし、ちゃんと教えた方が良さそうね」
外来人? 何だそれは? 俺がそう問おうと口を開くより早く、彼女は続けた。
「――ここは幻想郷。忘れ去られたものが行き着く地よ」