東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
「すまなかった!!」
そう言って地面に叩きつけんばかりに頭を下げる慧音に、俺は目を白黒させた。
「いや、そんなに謝られるようなことでは…」
「いや、謝らせてくれ!!こうでもしなければ私の方が収まらな」
「はいはい、慧音もその辺で止めときなさい。小櫃が引いてるわよ」
翔子の提案で一度慧音の家に上がった俺達。妹紅はちょうど数分前に訪ねてきて、今は土下座する慧音を宥めている。
ルーミアはまだ慧音の後ろに隠れている。今まであれ程痛めつけてやろうと躍起になっていたのに、こうして怯えているところを見ると、まだまだ子供なのだなと、復讐心も薄らいだ。
「ルーミア」
「ひっ!?」
「…外来人だろうが何であろうが、ヒトを喰うのは一向に構わない。だが、――命への感謝を忘れるな」
『いただきます』。この挨拶に含まれる意味を忘れてはならない。生命とは残酷だ。命が命を貪り、生き永らえようとする。だからこそ、他者の命を自らの糧とすることに感謝しなければいけないのだ。
「…うん」
ルーミアは、慧音の後ろで小さく首肯した。
「それにお兄さんは、翔子の命の恩人だもん。食べちゃ悪いよね」
破顔一笑。俺を襲った時とは、また違う笑顔だった。
俺がコーカサスにいた頃は、誰にも“心配”されていなかったように思う。彼なら大丈夫、彼なら死なない、彼ならやってくれる…確かに俺はあの島の上では最強だったのかもしれない。だからといって、俺がこの
「はい、じゃあもう辛気くさいのはおしまい! 翔子は妹紅お姉さんと遊ぼう!」
「うんっ!!」
「あ、なら私も」
妹紅の子供好きは今に知れたことではない。実際彼女は一昨日の宴会で、翔子やその友人達と一緒に遊んでいた。彼女は翔子とルーミアを伴って、隣の部屋に向かっていった。
「…俺も、お前に謝らねばな」
「え?」
「すまなかった。憤慨していたとはいえ、あのような挑発をしてしまった」
「いいんだ、それはもう。そんなことより、
「ああ、実は…」
「不可視の敵?」
「ああ、何か情報はないか?」
俺は慧音に、例の“赤い影”について話した。
「それと直接的な関連性があるかはわからないが…ここ最近、人里に住む妖怪が、よく路地裏などで吹っ飛ばされるような事例が何件か発生している」
「何?」
「聞いた話では、ここ以外にも妖怪の山の哨戒天狗、紅魔館の妖精メイドなども同様の被害に遭っているらしい」
「一応聞くが、吹っ飛ばされた時に犯人らしき人影を見たという報告は?」
「ないな、恐らくは。私もこの新聞で読んだばかりだから…」
そう言って彼女が取り出したのは、『文々。新聞』と書かれた新聞だった。見出しには大きく『正体不明、目視不可能! 突然現れた未知の恐怖』とある。
「この新聞を書いた天狗――射命丸文というのだが、彼女も一週間前の夕方に吹っ飛ばされたそうだ。いつもなら毎日のように飛んでいる姿を見るのに、怪我をしているのか、最近姿を見ていない。幻想郷最速を自負する彼女ですら反応できなかったということは…」
「いや、皆まで言うな。最初に遭遇した時に既にわかっている」
幻想郷最速、というのがどれ程の速さなのかは知らないが、マッハ7以上で飛行する不可視の物体に反応できる訳がない。…俺は例外として。
「…そうだな、被害に遭った人物に実際に話を訊いた方がよさそうだ。慧音、紅魔館というのはどこにある?」
「まさか、今から行くのか? 止めておいた方がいいぞ、歩いて行くなら――」
「いや、飛んで行く」
「そうか飛んで行くなら…って飛べるのか!?」
慧音のノリツッコミで、危うく彼女の手元の湯飲みがひっくり返りそうになる。
「…やはり珍しいのか? 外来人が空を飛べるというのは」
「あ、ああ…今までも何度か外から人間がやってきたことはあったが、飛べる者は初めてだな…」
山の上の巫女は
「俺は外来人だが、『外』の生まれじゃないぞ。今より1世紀以上は未来からやってきた。話を戻すが、紅魔館はどこに?」
「ここから北にまっすぐ飛べばいい。森を越えた先の湖の湖畔に建っている。ちょうど今の時間帯は、その辺りで私の教え子達が遊んでいるだろう」
「了解した。感謝する」
一礼し、部屋を出ようとした矢先、
「待ってくれ小櫃」
慧音に呼び止められた。
「一つ言うべきことがあった。紅魔館には吸血鬼が住んでいる。怒らせないよう注意してくれ」
「…了解した」
吸血鬼について詳しい訳ではないが、それが危険な存在だということは、彼女の挙動――バイオエナジーの流動――から理解できた。俺は今後の予定を考えつつ、廊下へ足を踏み出した。
「…が、…りとレ……アが………いた、……の者なのか…」
その時の慧音の言葉は、余りにも微かで聞き取れなかった。