東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
紅魔館に向かう前に、少し遅い昼食を摂ることにした。
永琳に渡された食事代、そして自分の腹と相談した結果、俺は蕎麦屋を選択した。しかし、入った店はやたら混雑しており、俺は相席を余儀なくされることとなった。
その相手は、
「んー、やっぱりここのお蕎麦はおいしいです!」
今、目の前でとろろ蕎麦をすすっている。
胸の位置程度まである緑のロングヘアー。ただ、髪の長さを別にしても、幽香のものとは大分違う。どこか軽薄な、黄緑に近い緑色だ。左側を一房髪留めでまとめ、前に垂らしている。そこには白い蛇――無論生きている訳ではなかろうが縁起が良さそうだ――が巻き付き、少し上の方にも蛙のようなアクセサリーがある。
身に着けているのは、白と青を基調とした巫女装束。ただ、通常の巫女装束と決定的に異なる点として、腋が露出し、袖がセパレートされていることが挙げられる。神に仕える身である巫女がこのような格好でいいのだろうか。尤も、自分はコーカサスでは無神論者だったが。
東風谷早苗と名乗るこの少女は、妖怪の山の上に建つ神社『守矢神社』の
彼女は同じ外来人という立場からか、俺に少なからず興味を持ったらしく、俺や俺のいた
「…うーん…」
「まだ何かわからないことがあるのか?」
「はい、さっきお話ししていたバイオエナジーというものについてなんですけど、それは霊力とかそういう類いのものとどう違うんですか?」
なるほど、いかにもこの世界の住人が抱きそうな疑問だ。
「ふむ…そうだな、例えば早苗。お前がもし今から俺と弾幕ごっこを始めて、日が沈むまで続けたらどうなる?」
「あー、それは途中で霊力切れしちゃいますね」
「そうだろうな。だが、バイオエナジーの場合はそれは起こらない」
「えっ!?」
「先程も言ったはずだ。バイオエナジーは、生物の思考、行動、生理機能、精神状態や健康状態等に相互に影響し合っている。そんな大切な存在がなくなったりしてみろ、ただの肉の塊に成り果てるぞ。だからバイオエナジーは全ての細胞が一様かつ無限にこれを作り出す」
「無限に…だから
「さあな。俺は歴史は苦手なんだ」
ちなみに、インフィニタスの語源は無限を意味するinfinityからきている。
そんなやりとりをしているうち、
「へいお待ち」
店員がとろろ蕎麦を持ってきて、俺の前に置いた。
「早苗」
「はい、なんですか小櫃さん?」
「お前は…昨今の『目視不可能の敵』についてどう思う? 山の方でも被害があったらしいが」
彼女は妖怪の山に建つ神社に住んでいる。ならば、被害に遭った天狗について知っていてもおかしくはないはずだ。
「…推測するに、私は妖怪化したスカイフィッシュだと思います」
「妖怪化したスカイフィッシュ?」
聞きたい情報ではなかったが、思わず
「スカイフィッシュ実在説の中に、『プラズマ生命体説』というものがあったんです。知っての通り、物質は基本的に固体、液体、気体と相変化していきます。ですが、気体を更に高温にしていくと、物質がイオンと自由電子に別れた状態になり、これを
それについてはビツケンヌカスタムに搭載した超小型シンクロトロンを師匠と作った時に得た知識であるので知っているが、俺は特に何も言わないことにした。
「実は、スカイフィッシュが撮影された場所はイエローストーン国立公園のような地熱帯に集中しているんです。つまりそこは地球の磁場の影響を受けやすい場所なんですね。体組織がプラズマで構成されたスカイフィッシュは、その地磁気を利用して体構造を維持している訳です」
「なるほど、プラズマのように非常に軽ければ、超高速で飛行することも可能で、なおかつ妖怪化してしまえば更なる飛行速度を実現できると」
どういった方法で妖怪化したかはさておき、大体の推論はできた。地熱帯といえば、幽香には妖怪の山の裏に温泉があると聞いている。明日にでも調査に向かうとしよう。
ここで一応はっきりさせておきたいのは、俺が考えているスカイフィッシュが幻想入りした経緯だ。
早苗が言うようにもしスカイフィッシュがプラズマ生命体ならば、モーションブラー現象によるものと説明され、その本来の姿が忘れ去られて幻想入りしても何ら不思議ではない。
どのみち相手の力量は未知数だ。今でこそターゲットは人外に絞られているものの、いつ俺を含めたヒトが襲われるか知れたものではない。その為にも情報収集と可能性の模索は重要だ。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』。よく言ったものだ。
「それじゃ、私は神社の方に帰ります。色々教えて下さってありがとうございました」
「ん、ああ。早苗も気を付けてな」
すみませーん、お勘定お願いしまーすと、店員に呼びかける早苗。現人神である彼女もまた、人外の類いに入る存在。だが、ヒトでなくとも平穏な暮らしを送る権利はある。それを破る輩を許す訳にはいかない。
再び決意を固めながらすすったとろろ蕎麦の中には、まだ小さな山芋の塊が残っていた。