東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
魔法の森。
非常に湿潤な環境で、際限なく生育する菌類が放つ胞子の強い毒性故に、ヒトも妖怪もあまり足を踏み入れない。
俺はそのすぐ上を飛んでいる。
「確かに居心地は良くないな…」
インフィニタスは毒がほとんど効かない。手術などで麻酔を射つ時なども、数種類のアルカロイドを混合、そしてそれを何本も射たなければならない。だが、こうして毒ガスなどを吸っていると、なんというか、胸くそ悪くなる。
「少し高度を上げるか」
ブースターの角度を調整し、上昇する。前方には毛布をかけたように広がる原生林と、その向こうの霧に包まれた湖。霧の中にぼんやりした赤いシルエットが浮かんでいる。なるほど、
ふと、視界の隅に目が留まった。
それは箒に乗って飛んでいる。白と黒とが絶妙なバランスで配置された、いわゆる『魔女っ子』――義弟達に教わった――の服装。ウェーブのかかった長い金髪。
「…
正確には金や肌色も混じってはいるのだが、そのシンプルながら強烈な印象を与える容姿が、それ以外の形容詞の存在を許さなかった。
バイオエナジーの流動パターンから、彼女は至って普通のヒトだとわかった。『程度の能力』は妖怪だけの専売特許ではないらしいが、予想していたより早くヒトの能力者に会えた。
飛んでいる方向は丁度俺と同じだったので、恐らくはその少女もまた紅魔館に用があるのだろう。旅は道連れ、とは大分違うかもしれないが、せっかくの機会、声をかけてみることにした。
「ん? 妖怪か? 生憎私は今忙しいんだぜ」
白黒の彼女の第一声はそれだった。
「俺が妖怪に見えるか?」
「見えるさ。黒い翼に真っ赤な目、筒型の訳わからん武器。そういう輩は大抵妖怪だからな」
この少女は、伊達に修羅場をくぐってきた訳ではなさそうだ。その言葉には
「…理解できないことを何でもかんでも妖怪の仕業にするのはどうかと思うがな。俺は四島小櫃。外来人だ」
「へえ、空を飛べる外来人というのも珍しいな」
いや、先程の評価は取り消そう。少女の目は疑いから興味へと変わった。
「俺は今、昨今の『不可視の敵』について調査をしている。この先の紅魔館とやらにも被害者がいるらしいから、聞き込みを行う為に向かっているが…お前もあちらに用があるのか?」
「まあ、むしろ館よりその地下の図書館にな。本をいくつか借りに行くんだ。それと、『お前』じゃなくて、私には『霧雨魔理沙』っていう立派な名前があるんだぜ」
いかにもな三角帽をくいっと動かし、どこか得意げに笑う魔理沙という少女。なかなか面白い奴だ。
俺と魔理沙の二人は、そのまま紅魔館まで同行することになった。湖の霧は濃かったが、すぐ近くを並んで飛ぶ魔理沙が見えないほどではなく、故に会話はそれなりに楽しめた。
「ところで魔理沙、お前は図書館で本を借りると言っていたが、どれくらいの期間借りるんだ?」
「私が死ぬまでだぜ。今まで借りてきた本もな」
「――っ」
一気に体の向きを変え、踵と尾てい骨のブースターで逆噴射、エンジンブレーキを行い、その場に静止する。
「お、おいおい、一体どうした?」
「なるほど、つまりお前は…」
この少女は、全くと言っていい位に罪の意識がないようだ。少しお灸を据えてやらねば。
「――今この場で俺を敵に回したということだな」
ブースターを噴かし、急加速。爆発的な瞬発力で魔理沙に迫り、後ろ襟を掴む。
「ちょっ、何をする?!」
そのまま下の地面に向け急降下。
「うおっ!?」
地面に叩きつけ、
「ぐはっ!?」
アームキャノンを構えて、――
彼女の鳩尾に力一杯振り降ろす。
「が、ふ…」
気絶したのを確認。俺は愚かな犯罪者を背負い、すぐ近くの紅い塀に沿って歩き始めた。
悪は滅びる。正義に勝てぬから。