東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
紅魔館の地下にあるという図書館は、度々魔理沙による窃盗の被害に遭ってきたのだろう。それに加えてメイドまで『不可視の敵』に襲撃されて、館の主は大層気が滅入っているはずだ。
「しかし、本当に紅いな」
その色は主の趣味なのだろうか。はたまた吸血鬼が住む館だからだろうか。あるいは、
「館の主自身吸血鬼だからか」
三番目だとすれば、俺がこの時間帯に館を訪れたのは失敗だったかもしれない。こんな立派な洋館に住む位高貴な吸血鬼なら、礼儀正しく――
「いや、無理だな」
バウンティハンターの世界に上下関係など存在しない。確かに依頼を受けて仕事をするが、俺達は政治や誰かの道具ではない。俺自身、戦うことでしか自己の正義を実現できなかったが、いつも自分の意思で戦ってきた。
故に、俺は敬語を使わないし、使えない。
ともかく、俺の用は主ではなく使用人にある。さして気にする必要もないだろう。
「お?」
塀が途切れて現れた門の前に、赤毛の女性が立っている。ガードマン――いわゆる
バイオエナジーの流動パターンからして妖怪であるらしいが、それは中国拳法を扱う者と酷似している。洋館の門番が中国系なのはいかがなものか。というより、高温多湿な日本の環境下に於いて洋館を建てること自体間違っていると思う。そもそも日本と西洋の家の構想が違い過ぎるのだ。
論点のずれた思考を危うく引き戻し、俺はその女性に声をかけた。
「すまん、ここが紅魔館で間違いないな?」
「はい、そうですが…貴方は?」
「俺は四島小櫃。外来人だ。ここ最近の『不可視の敵』について調査を行っている。文々。新聞とやらに、この館の妖精メイドが被害に遭ったと記述されていた。被害者本人にその時の様子を尋ねたいのだが…」
「そういうことですか、ではこちらでしばらくお待ち下さい」
そう言って門をくぐろうとする女性に、
「そうだ、つい先程、ここをよく荒らしにくる強盗を捕まえてきた。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
一つ付け加え、背負っていた魔理沙を放る。
「へぶん!」
着弾時に魔理沙はへんちくりんな声を出したが、意識は戻っていないらしい。
「ありがとうございます。パチュリー様に報告しておきますね」
笑顔で返し、魔理沙を軽々と担いで前庭に入っていく彼女。やはり妖怪の筋力は素晴らしい。
しかし、こうした要所要所で逢う人物が何故女性ばかりなのか不思議でならない。幻想郷の有力者は女性が多いのだろうか。そういえば、
待った時間はさして長くはなかったが、前々からやろうと思っていたことをするには十二分だった。
それはすなわちスペルカードの作成だ。俺は幻想郷にやって来てから二回スペルカードの使用場面を見ている。一度目は迷いの竹林でルーミアに襲われた時。確か『夜符「ナイトバード」』とか宣言していたはずだ。そして二度目は、湖の上を飛行中に水上で弾幕ごっこを行う少女達に出会した時だ。その時彼女達は俺と魔理沙には気付いていなかったが、お陰でいい参考になった。
俺の場合、スペルカードの作成は非常に工程が複雑だ。アームキャノンに元々設定されていたプログラムをコピー、改変したり、新たにプログラムを作成しなければならない。まだほんの数種類しか完成していないが、これからも時間のある時に少しずつ作っていくことにしよう。
そして今、
「まずは魔理沙を捕まえてくれたことに礼を言うわね」
俺は館の地下の図書館にいる。
「後でみっちりしごいてやれ」
「そうするわ」
クスクスと笑う目の前の少女は、パチュリー・ノーレッジ。紅魔館の主、レミリア・スカーレットの友人で、ここヴワル図書館の管理人らしい。
十六夜咲夜なるメイド長に案内され、俺は館に入り、地下へと向かった。内装まで見事に赤で統一されたそれは、余程主が赤を好んでいることを如実に表していた。…トマトでもぶつけてやろうかなどという邪悪な考えが浮かんだのはこの際どうでもよいだろう。
初めて図書館に入った時にまず抱いたのは、ここが本当に幻想郷なのかという懐疑だった。高い
パチュリーは魔女で、既に百年以上を生き、その人生のほとんどをここの本を読んで過ごしてきたという。日に当たらないのならビタミンDの不足が起こるのではと思ったが、恐らくそれは魔法か何かでなんとかしているのだろう。もうこの世界は何でもありなのではないか。
そんな思考はとりあえず闇の彼方に葬り去り、パチュリーの話に耳を傾けた。
「それで本題に入るけれども、被害に遭ったのは妖精メイドではなくて私なのよ」
「何?」
「事を大きくしたくなかったから、ブン屋には偽の情報を流したの。少し怪我もしたけれど、あまり大きい訳でもなかったし、魔法でどうにかできたわ」
「…どういった状況で『奴』と遭遇した?」
「一言で言えば、それこそ『いきなり』よ。妖力は探知できたのだけど、あまりにも移動速度が速いものだから肉眼ではほとんど捉えられなかったわ。気が付けば吹っ飛ばされていたっていう感じね」
「……」
結局、俺が得たい情報はパチュリーの話にはほとんど含まれていなかった。だが、それも仕方ないことだ。相手がプラズマ生命体であるが故にほぼ透明であること以外にも、動体視力の関係でインポッシブル。聞くだけ無駄、とは言わないが、正直なところ情報の再確認でしかなかった。
結局今日の時点で得られた情報は、スカイフィッシュがプラズマ生命体であることのみ。もうすぐ日没だから、すぐに永遠亭に帰らねばならぬ。明日の調査でもっと沢山情報が集まるといいのだが…
「世話になったな」
「これ位は当然ですわ」
前庭からブースターで飛び立たんとする俺を見送るのは、俺を案内した咲夜。
「主に宜しく伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
やはり眠っていたのか、俺が館にいる間に吸血鬼は姿を現さなかった。いつか夜に訪れて、挨拶位はしよう。
「ではな」
ブースターを噴かし、茜色に染まり始めた空へと飛び出す。眼下では湖の水面が揺らめき、西日を反射してキラキラと光っている。
時折、八雲紫は本当にただの気まぐれで俺を助けたのか疑問に思うことがある。まるで俺を中心とした巨大な歯車がゆっくりと回転し、この
「…哲学は難しいな」
後ろを振り返り、紅魔館の方を見てみた。歩く速度からしてまだ庭にいるだろうと踏んでいた咲夜は、もう既に館の窓を中から拭いていた。